2022年06月29日

「何この日本!?」的な「マリアビートル」映画化に頭がついていけない。ブラッドピットってまじですか?



伊坂幸太郎の「マリアビートル」が映画化されるという。

主演はブラッドピット!
いやはや、この予告編だけで頭がくらくらしました。
どういう作品になっているのか、まったく想像できません。

マリアビートル (角川文庫) - 伊坂 幸太郎
マリアビートル (角川文庫) - 伊坂 幸太郎


かなり好きな作品であったことは記憶にあるのけれど、詳細までは覚えていない。そこは「伊坂幸太郎の備忘録」の出番でした。
わたしは伊坂幸太郎の読んだ作品はすべてこのブログに「伊坂幸太郎の備忘録」として記録しているので
調べてみたらあっさりと出てきました。

これは2010年読了後に書いた感想です。

「マリアビートル」

東北新幹線を題材にしたクライムノベル。登場する殺し屋たちは「グラスホッパー」の登場人物と重複。

「トランク」はどんどん移動し、新幹線の中ではどんどん人が死に、そういう意味ではスピード感のある小説なのだけれど、むしろ腰を据えて楽しみたい作品。

蜜柑と檸檬のコンビの殺し屋も「きかんしゃトーマス」の話題などをふりまき秀逸だが、個人的に好きなのは運の悪い殺し屋の七尾である。「ほんとうに運の悪い人間」というのが世の中にはいるのだが、そういった「運の悪い人間のタフさ」や、タフであるための考え方みたいなものが非常に共感できる。そして、その七尾と対照的なのが「王子」。彼はどうなるのだろうか?好きなキャラではないけれど、今後またどこかの伊坂小説に登場するような気もする。

運がいいとか悪いとは関係のない「まっとうさ」。そういうものが貫かれているからこそ、犯罪小説が面白いのだと思う。

まったくの蛇足であるが、なにかのインタビューで「子どもを連れて列車を観に行く」と伊坂幸太郎さんが語られていたのを思い出した。記憶ちがいだったらごめんなさい。


* ちなみに「マリアビートル」は現在「英推理作家協会賞最終候補の5作品に選ばれているとのこと。もう、なにがなんだかびっくりです!

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2022年06月17日

マイクロスパイ・アンサンブル (伊坂幸太郎の備忘録)


幻冬舎の特設サイトより猪苗代湖で2015年から開催されている音楽フェス「オハラ☆ブレイク」のために、伊坂幸太郎さんが毎年書き続けた短編「猪苗代湖の話」。会場でしか手に入らなかった7年分の連作短編が満を持して書籍化!

https://www.gentosha.co.jp/s/microspyensemble/(マイクロスパイ・アンサンブル 幻冬舎特設サイト)



ということで7年分の、ミクロワールドと会社員のワールドを読みました。
読んだ感想は「とてもしあわせだった」です。

コンサート会場って、特別な思いがあふれているような気がします。
「そこに行けば普通のことがすごいことにみえる」みたいな世界。
ワクワク感。
ここに来るために、これまでがんばってきたぜ感。
そして、ああ、幸せだった感。
この思いを胸に抱けばもうしばらくは生きていけるね感。
そんな空気感をまとった猪苗代湖のフェスが舞台です。

その場所でエージェントハルトに拾われた少年の活躍。
失言を後悔しているサラリーマン。
それが1年ごとに描かれている。
裏切ったり裏切られたり、思ってもないひどいことを言ったり、後悔しながらも祈ったり。
そんな日常が軽やかな音楽のフレーズとともに綴られている。
7年プラスアルファの月日が経っている。
「成長した」という言葉だけでは語りきれないものがあります。

7年という期間を切り取ってみて。

わたしはそのあいだにどんな成長をしたのだろう?
書くことは相変わらず好きだし、ずっとずっと何かしらを書き綴っているけれど。
月日はすぎても成長はできない。でも、なにかが少しずつ変わってる。
「少しうまくいって」「少し幸せになる」感じ。

そういうもんじゃないのかな?

7年という月日も。
特別な場所に集う人たちも。

ほら、うまく感想もまとめられないけれど、とにかく「幸せな物語」でした。

引用フレーズも知らない歌ばかり。
と思ったら。特設サイトにプレイリスト見つけました。


https://lnk.to/microspyensemble  

⬆️伊坂幸太郎『マイクロスパイ・アンサンブル』- from オハラ☆ブレイク- プレイリスト


ピーズ、聞いてみたかったんだ!

ほら、やっぱり幸せ!





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「ミシンと金魚」永井みみを読んで、そしてちいさく祈った


ミシンと金魚 (集英社文芸単行本) - 永井みみ
ミシンと金魚 (集英社文芸単行本) - 永井みみ


認知症の老女カケイを描いた物語。

カケイはちょっとおしゃべりで、頭の中の記憶も少しばかり混乱している。
カケイはデイサービスの介護士のことを「みっちゃん」と呼ぶ。「おおきいみっちゃん」「ちいさい方のみっちゃん」
通院介助して、先生の出す抗躁剤に意義を申し立てる、強気な「みっちゃん」だっている。

カケイはあまり裕福でも幸福でもない若い時代を懸命に生きた。

このデイサービスには当時の泥臭い知り合いがいる。
少なくとも新興住宅街ではない、地元の人が長くいるような場所で、若い頃の怨恨や、家族のことを覚えている人だっている。悲しみも、苦しい時代もあったけれどミシンに熱中して仕事をこなし、それで失うものももちろんあった。そのことを知る人ももちろんいる。

だけども今のカケイは、少しばかり記憶もあいまいになり、少なくとも不幸ではないように見える。

なぜに、カケイが介護士たちのことを「みっちゃん」と呼ぶのか。
カケイの見えている世界に気づいたときに鳥肌たった。
そしてカケイの生き方をまるごと受け入れている筆者の世界観に鳥肌がたった。
すごい作品だとおもった!

カケイが大事にしているものを、筆者が同じくらい大事に思ってくれている。
「ここはなんて、しあわせな世界なんだろう」と思った。

わたしもケアマネのハシクレなので、人間は自然の道筋を逆行することはできないことももちろんわかっている。
そういう旅立ちの道の途中にいる人たちと一緒に立ち止まり、一緒に空を見上げることが、わたしたちの仕事のような気もする。
願うのは「この人の今がしあわせでありますように」
ただそれだけだ。

来し方を語るならいつまでも聴いていたい。
行末を思い煩うならば、その人の気持ちが穏やかになる日を待っていたい。
そしてなによりも。
今ここにいるこの人が、思い煩うことなく楽しく生きてくれればいい。

カケイの見えている世界を知っている人がいる。
筆者の見たカケイという世界が鮮やかに記録されている。

あるいはその全てが事実ではないかもしれないし。
そんなにいいことばかりではないのかもしれないけれど。

ちいさな祈りとともに。
カケイの世界はとても鮮やかに描かれていて、拍手喝采だった!




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2022年05月03日

なるだけ短めの物語

以前描いた「なるだけ短い物語」という短編です。
GW
の休みのあいだにまとめてみました。
ひとつひとつが独立した物語です。
自分の中では一貫したテーマがあったのですが「まあ、それはどうでもいいや、今読み返しても好きだな」と思って発表します。
短編は5つあります。4番と5番は少しつながっています。
それでは、どうぞ。


目次

  • なるだけ短めの物語 1・野良猫
  • なるだけ短めの物語 2・「ヨルム」
  • なるだけ短めの物語 3・ノイズ
  • なるだけ短めの物語 4・ライ麦畑
  • なるだけ短めの物語 5・一期一会



なるだけ短めの物語 1・野良猫


あの日のあとから、あの子がいなくなったような気がする。
あの子は、いつもわたしの見えるところにいるわけじゃないんだけど、ふっと家の前の道を見てみると、そこが最初からの居場所であるかのようにちょこんと道路のすみっこに座っていた。
お互いの気分がうまく合う日には、やわらかい指のはらを触らせてくれたり。
気分が合わない日にはちょっと手を差し伸べただけで、遠くをめがけてかけだしていったり。
それでも同じ町に住んでいて、おたがいが「ここにいる」ことを知っていたし、特に言葉を交わさなくても、あたしたちは、かなりお互いをよく知っている知り合い同士だったと思っていた。

なのにあの子はいなくなってしまった。

いつからそうなのか、ずっと気づいてなかったけれど、いつのまにかあの子は、わたしの目の見える場所に姿をあらわすことがなくなっていた。

いや。
正確に言うと、わたしには「あの子」が見えなくなってしまったのだ。

何度か夕暮れの路地を探してみたけれど無駄だった。
夕日はあいかわらずの夕日だったし、夏らしく遠雷の続く夜もあったし、隣のおばさんは時間どおりに帰ってこない飼猫の名前をいつものように呼んでいたけれど、あの子は見えない子になって、最初からそこにいないかのように毎日はすぎていった。

あの子の残像を描いていこうと思った。

わたしは不思議なほどにあの子の記憶が薄れてしまっていて、いつのまにか、あの子の記憶が最初から何もないみたいに自分が生きていけるんじゃないかと思って、それがすごく不安になったりもしたから。

だから、残像を描いてこうと思ったのだ。
すごくあいまいな残像のデッサン。

いなくなってから、すごくよくわかる。
わたしはあの子のことを「物語」と呼んでいて、すごく愛していたのだ。




なるだけ短めの物語 2・「ヨルム」


ヨルムは静かだ。
夜の海を見つめているように遠くをみている。
今ここで起こっていることを20メートル先から見ているような感じで、焦点があってないんじゃないかって心配することもあるけれど、それはたぶん、一定の距離を保ちながら静かに現実世界と対峙しているだけなのだと思う。

わたしはときどき、彼女とふたりっきりになって一日中話していたいなと思う。
そうだとしても、話すのはたぶんわたしがほとんどだ。
彼女はときどき、ああ、そうですねとか、あ、ほんとだとかうなづきながら私の話を聞いてくれる。
海にぽーんと小さな石を投げるような静かな会話。小石が海に沈んでゆく音だけが聞こえているような感じ。

黒目がちのヨルムの目はいつも静かな海を見ているわけではない。
彼女の心にはいつか嵐がやってくる。
それが不定期に起こるのを、わたしもヨルムも知っているし、とりあえずは何種類もの小さな錠剤が彼女を守ってくれているのも知っている。
それでも嵐はやってくる。
低くない確率で「それ」がやってくるのをわたしたちは知っている。

「眠れないんですよ」と、ある日のヨルムがそう言うた。仕事を休んだ次の日のことだった。「すぐに病院に行ったんです。しばらく再発しなかったから大丈夫だと思ってたんだけど、やぱりダメだったみたい。この病気とは一生つきあわなきゃいけないからって先生に言われた」
ヨルムは淡々とした口調だった。不謹慎な言い方をすれば嬉々とした感じにも聞こえた。
わざとではない。ヨルムはそういう病気なのだ。

その日から、静かなヨルムの心に白い波の形が見えるようになってきた。大きな波がざぶんざぶんと揺れている日もあって、そんな日のヨルムは饒舌だった。

つきあっている男の人がいるんです、ほんとは、でも会うことはあっても、なかなかカラダの関係まで行きつけないの。おまけに、今彼は、わたしのチャンネルが変わったことにとまどってる。メールもなかなか返事がこない。毎日送ってるんですけどね。あ、それからわたし、明日は仕事の面接に行こうと思って。ここの仕事ってフルタイムじゃないから、どこかフルタイムのところ探してるんですよね。わたしもほら、いつか、独立して家を出なきゃいけないから。

「大丈夫?落ち着いてから行った方がいいんじゃない?」
「ううん。今だとなにか出来るような気がするんです。てか、今じゃないとできない気がする」
ヨルムは書類を揃えて、仕事の面接に行くがことごとく落ちてしまう。
ヨルムはめげない。
病院の先生もやんわりと止めるようだが、ヨルムは今しかできないと言う。ヨルムの病気がヨルムを動かすのだ。そして、そんなふうに無敵になって動けることがヨルムの原動力になっている。

いっしょに仕事をしている日もヨルムは饒舌だ。
ずっとおしゃべりしたり笑ったりしながら、単純でおもしろくもない仕事をどんどんこなしていく。そしてわたしも、そんなヨルムのエネルギーに乗っかるようにして、いつもよりもよく喋り、よく働く。
楽しい。
静かにいろんなことを受け止めていた彼女の心が今、潮流になって流れだしている。
頭のいい彼女の心の動きがひとつひとつわたしに染みいって、ああ、こんなふうにヨルムは思うんだなってわかるのがとても楽しい。
ときどき引きずられて疲れることもあったけれど、それでもなんだか楽しかった。

それから約1ヶ月のあいだに、わたしとヨルムのチームは膨大な量の仕事をバンバンを片付けていった。
まるで居酒屋の店員みたいに「これ、終わりました〜。つぎ、どんどんいきま〜す」とか言いながら、お互いの仕事をやりとりして、まわりで見ていた人たちも「ここのチームはすごく楽しそうね」とケラケラ笑う。
わたしたちも笑う。
不思議と咎められることはなかった。
わたしたちは「楽しそう」だったし、何よりも常軌を逸したスピードで、すごい量の仕事を片付けていたからだ。

それからしばらくして、大量の薬がやっと効果を発揮してヨルムはまた静かな夜の海に戻った。

暗い海にはもう波は見えなくて、ヨルムはお昼休みにはクスリを飲んで眠った。
「すごいエネルギーを使って、カラダが疲れてるんだろうって。どれだけでも眠れるんですよ。ほんとにわたし、あの1ヶ月のあいだ、ほとんど寝れてなかったし、今体中が疲れきっている感じ」

仕事が終わって駅までの距離を歩くのもつらいらしく、「車で駅とおるなら乗せていってください」って言われることが多くなった。
「いっかいね、すごくヤバかったみたいで、先生がその場で注射したの、そのとき、わたし立っていられなくってその場に座り込んじゃった。すごいショックでしたよ。だってね、なんでもできるような気がしてたのに。たった一本の注射で動けなくなってしまうなんて」
なんでもできるような気がしたんですけどね、そう付け加えてヨルムは笑った。

ああ、眠たい。そう言って車の中であくびをするヨルムの横顔を見てみる。
もう、黒目がちの瞳には何も映っていない。

わたしはとても小さい人間だから、やっぱり原因を考えてしまうのだ。
ヨルムはいつもなにかを我慢してたんじゃないかとか、幼い頃になにかのトラウマがあったのかとか。
そして余計なことだと思いながら結果までも考えてしまうのだ。
これからヨルムはわたしの傍にずっといてくれるだろうかとか。
今の仕事場のスタッフはヨルムの病気を知っていて、それでもいつまでもいていいのだと言ってくれるけれど。
でも、それではヨルムののぞむものは何ひとつ手に入らないのではないかとか。
彼女と同年代のロストジェネレーションの若者たちがそうであるように、ヨルムはなかなか手に入らないものをいっぱい抱えたままなのだろうか?

あくびをしたまま寝入ってしまったヨルムを乗せて、公園脇の大きな道に車を止めて、窓をあけた。

カラダという宇宙のなにかもわからないくせに、そうして理由をつけて片付けようとしてしまうのが愚かなことなのかもしれないなあと最近思うようになってきた。
カラダの中の海に理由はない。
ヨルムを見ているとよくわかる。
それは、ただそこに揺れていて、そしてときに激しく波立つだけ。
きっと、理由なんてなにもないのだ。

台風が近い、夏の突風に髪の毛がゆれて、それでヨルムが目を覚ました。
「あ、あ、ごめんなさい。寝てしまってたんですね」って言いながら。

「ねえ、少し前にふたりですごいテンションで仕事したとき。あれはあれで楽しかったね」
わたしがそう言うと、表情のないヨルムの目が少し涼しげに笑った。
「ほんとそう、あれはあれで楽しかったですね」

今はほんとに疲れててとてもあんなふうにはできないけれど。
でも、またいつか、そんな日が来ると思いますよ。

ヨルムは天気予報の原稿でも読み上げるように、窓の外を見ながら少し笑ってそう言った。




なるだけ短めの物語 3・ノイズ


ネットで知り合ったその人は、楽しい人だった。
会ってみてもその印象は変わらない。思ったとおりのダンガリーのシャツ、よどみないの会話、そして正確にわたしの心の奥底にマリンバのように響く感情の音楽。

なのに、彼といっしょにいるといつも気づかされてしまう。

わたしは音が苦手なのだ。
no music no life」な人と、ちょっと大きめのジャズが流れるお店に入ると、まったく会話が成立しなくなってしまった。音だけに集中している分にはいいのだが、ちょっと会話をしようとすると、マーブルのようにその2つの音が入り交じる。
彼はわたしの混乱に気づかずに、機嫌のいいままでずっと喋り続ける。
わたしはだんだん口数が少なくなる。そして機嫌が悪くなる。気分よくカクテルをおかわりする人はそれには気づかない。
音が会話の妨げになるなんて想像もできないのだ。
となりのテーブルにグループ客がいるだけでもダメだ。そんなときも会話がマーブルになる。一度耐えられなくなって、出ようと言った。
「よくわからないよ。隣の音と身近な音は別の音だろ?それを区分できないってことがあるの?」
そう言われて改めて、自分の感覚が人より劣っていることに改めて気づかされた。

大きなプロジェクターのある彼の家のリビングには、いつも音があふれていた。
バッハだったりビル・エバンスだったり、借りてきたDVDだったり。

彼のことが嫌いだったのではないと思いたい。
彼をとりまく音の洪水につきあうことができなかっただけだ。

わたしは「変化」に弱い子供で「おおきな音」にも弱い子供だった。体育の時間に新しい体操を学ぶことも苦手で、暗記ものも苦手で、そしてもちろん、子供同士のささいな悪意の標的になりやすい子供だった。

なんで無事にオトナになれたのかも不思議だったけど、それなりの努力もしたと思う。
状況が変わるときは、紙に書いて、何度もそれを見るように気をつけたし、それは仕事をするようになってからは病的なほど大量のメモ作りへと変化していった。人の顔を覚えるための特徴とか記号のような似顔絵とか、名前を覚える記憶のキーワードとかも、いつもこっそりと小さなノートに書き留めておくのを忘れなかった。幸いにも国語や英語など「文章で表現すること」だけは得意だった。だからトータルで能力のことを問題にされることもなかったけれど。わたしだけは知っていた。同じことを同じようにやってもわたしにはできないことがたくさんあるのだと。

巧妙に、できないことを避けたり、苦手なことを避けたりしながら生きてきた。

多かれ少なかれ、そういう部分は誰にでもあるのかもしれない。
戦ったり傷ついたりしながら生きることも誰にでもあることなのかもしれない。
他人の事情はわからない。
わたしが知っているのは、わたしがそれと戦ってきた長い歴史のことだけだ。
そして、誰にもそのことを言えずにいたこと。
言ってもそんな些細なことに苦労していたことは誰も問題にしないだろうってこと。
誰も問題にしなくても、自分にとっては、間違いなく弱みあってで引け目であったってこと。

ゆるやかに、現実という場所にいる男を避けるようになった。
わたしはそういうふうにして「巧妙に苦手なことを避ける」のに長い時間をかけて慣れてきたから、こんな感じで自分を守ることは厭わない。

だけど、誘われるたびに使う言い訳は、少し癇に障っただろうか?

ネットの中でだけ、ふたりでいられたらいい。
文字情報だけの、音のない彼とだったら、いつまでも幸せでいられるからだ。

いちばん最初の夜、すごく緊張して音のない闇の中で二人の肌を合わせた。
細い三日月の夜の、身体のこすれあう音だけが響く闇はとても素敵だったことを、今でもずっと覚えている。
一年も前のことが、まるで昨日の夜のことみたいに鮮明だ。
それはもうおそらく、二度とないことだ。そう思うと、少し、というか、かなりさみしい気分になってしまった。

それでもわたしは、こんなふうに、混乱を避けて自分を守っていくんだろうと思う。
誰に対しても、繰り返し繰り返し。

ネットの中にいる、文字情報の彼は。
今でもせつなくなるくらいに好きなんだけど。
それでもわたしは自分を守り続けていくだけだ。





なるだけ短めの物語 4・ライ麦畑


無人島でリョウちゃんとふたりっきりになってしまった。
比喩でもなんでもない。
まがりなりにも本物の無人島だ。
大声で叫んでもふたり。
ああ、空が青いなあ。ちぎった綿あめのような雲が、気づかないくらいにゆっくりに流れている。
冗談みたいな青空。
あたしが砂浜にへなへなと座り込むと、その隣にリョウちゃんがちょこんと下を向いて座った。

「無人島体験ツアー」は今回の旅行のメニューだった。
港から船に乗って無人島を体験。とは言っても20分ほどの乗船で行ける、ゆっくり一周回れるくらいの砂浜だ。小さい東屋だってある。
降りて30分ほど砂浜で貝やヒトデや漂流物を探したり散策したり写真を撮ったりして、また船で帰る。
とても簡単はツアーだ。

あたしの働く福祉施設が、ここのツアーに参加したのは、近隣の施設と合同だし、主催団体がすごくサポートしてくれるっていう評判だったからだ。
実際にそのとおりで、打ち合わせも綿密で、車椅子の人でも自閉症の人でも大勢のスタッフでフォローしてくれた。こんな機会でもなければ、みんなで旅行なんてできない。
無人島ツアーのあとは、リゾートホテルで地元の団体との交流会。ホテルにチェックインしたら海の幸満載のシェフ自慢の料理でパーティの予定だった。
ところが予定どおりにはいかなかった。

「いや、いや! 怖い! 乗らない!
そう言ってリョウちゃんが暴れた。行きの船でも猛烈なエンジン音でパニックだったのだ。あげくに、帰りの船には乗らないと砂浜にひっくり帰る。主催者のスタッフが二人がかりでスレンダーなリョウちゃんを抱えてくれたものの、暴れて暴れて、すごい力で抵抗する。
出発時間が迫って、まわりの障害者の方たちまで顔色が悪くなっていくのがわかり、ああ、どうしようと泣きたくなってしまった。

「これ以上時間を遅らせるわけにもいかないのです。他のお客様もいらっしゃいますし」
ツアーコンダクターの西田さんがすまなそうに言った。
30分あとに、もういっかい船が来るのですが、そのときにお迎えするのは可能でしょうか?」
可能だと思います。直感でそう答えた。いや、それしかないんだろうな。
「わたしどもの別のツアーがこの島に来ます。そのあとのホテルも一緒です。あちらの担当もベテランで、うまく対応できます。申し訳ないのですが、この状態で乗船しても危険なような気がしますし。30分、ここで待たれてなんとか落ち着かれたりはしないでしょうか?」
ピンク色のチークも明るい西田さんはどちらかというと新人さんの部類ではないだろうか。汗で化粧もとれてしまって、困って泣きそうな胸のうちが手に取るようにわかる申し出だった。

「しばらく落ち着くと場面転換ができると思うのです。わたしとふたりで静かに過ごして、つぎの船に乗るように言い聞かせます」
そう言って、出てゆく船を見送った。
今まで2年間リョウちゃんにつきあった経験からして、パニックがおさまれば、できるような気がした。でも、ほんとに大丈夫なんだろうか?
みんなが心配そうにこちらを見ながら、それでも船は出ていった。
あたしは無理に作り笑いをして手を降って見送って、そのあとはへたりこんで、砂浜に腰をついた。

ライ麦畑からいきなり転落したような気分だった。
ライ麦畑。その言葉を今思い出すのもおかしかったけれど、大きな音や知らない場所がこわいリョウちゃんを守ろうとするとき、自分が「ライ麦畑でつかまえて」の主人公みたいなライ麦畑の番人になったような気がしていた。
そういう仕事にやりがいを感じていたといえば嘘になる。むしろ逆で、失業する前みたいにバリバリ何かを販売するような仕事に戻りたくてしかたなくて、でも、せっかく見つけた仕事を辞める勇気もなかっただけだった。
ただ、大きな音や話し声が苦手なリョウちゃんは少しあたしと似ている気がしていた。そんなときたまたま「ライ麦畑でつかまえて」を読んだものだから、ああ、こんな仕事だと思うといいのかな、と思ったくらいだ。
彼女がライ麦畑から転落しないように見守るくらいならできるだろう。
もともと専門外だからいつまでやれるかわからないけれど、それでも「ライ麦畑の番人」という設定は自分の中では悪い感じではなかった。

でも、あっというまに転落してしまったな。
ほんと、見守っていたつもりでも、あっというまだ。

真っ白なカモメが青い空と青い水平線をいったりきたりしながら旋回していた。
「ゆう子さん、ゆう子さん」そう言いながら、リョウちゃんは体操座りの膝であたしの膝でつついていた。
「ゆ・う・こ・さーん」
そう言いながら何度もつつく。

どうやら、パニックはひとまず収まったらしい。
今、リョウちゃんは、「なんだかわるいことをしてしまったな」と思ってるんだろうな。
そういうとき彼女は繕う。
きちっと理論だてて反省したり改善できたりはしない。
だけども、それでも、なんとなく繕う。

「しょーがないなあ。リョウちゃん、つぎの船が来るまでふたりでゴロゴロしていようか。それから、ちょっとしたら船がくるんだよ。今度は、その船に乗って帰るんだよ」
「はいっ」

そういって何ごともなかったように、自分の膝であたしの膝をコンコンとつつく。
おなじリズムでコンコンとあたしもつつき返してみた。
コンコン。コンコン。コンコンコン。コンコンコン。
調子が乗ってきたので、それに合わせて歌を歌ってみた。
「あ〜らし、あらしっ、オーイエー

リョウちゃんが大きな声でケラケラ笑った。
ゆう子さん、もういっかいっ。
何度も何度もそういうので、何度も何度も繰り返して歌った。
あたし、きっと、つぎの船がくるまでに100回くらいこの歌を歌うんだろうな。

今日、ひとつ、気づいたことがある。
ライ麦畑は段々畑になっていて、いっかい落ちたとしても、その下にはまた別のライ麦畑が広がっているってことだ。

うん、だからそんなに絶望しなくていいんだ、たぶん。




なるだけ短めの物語 5・一期一会


結局あたしはライ麦畑の番人をやめた。
そもそもパートタイムの番人だったわけだし、一生ライ麦畑の番人をやるつもりなんてなかった。でも思い返してみると、けっこう楽しんでいたように思う。
日本の狭い社会にありがちな職場のトラブルに疲弊してして、心病んで、あたしはここを離れる。
楽しかったのにな、と心の中でつぶやいてみる、戻れる自信なんてまったくないから、楽しかったなんて言っちゃいけないんだけど。

あの日、りょうちゃんと二人で砂浜で歌った日のことを、あたしは今でもよく思い出した。
太陽のまわりがまぶしいくらいの金色で、波もまた金色にキラキラしていた。
あたしたちは無人島でふたりきりで、次の船が来るのをすごーく心静かに待った。

「ゆうこさん、かわいっ!
そう言いながら、りょうちゃんが膝をつついてくる。「りょうちゃんもかわいっ!」そう言ってあたしも膝をつつき返す。
大きな音が苦手で、先の予測ができないのが苦手なあたしたちだったが、次の船を静かに待つことはまったく苦痛じゃなくって、なぜだかとても幸せな気分に満ち溢れていた。
船は必ずやってくる、そしてこの場所にはかぎりなく静かにゆっくりとした風が吹いていた。

遠くから小さなエンジン音が聞こえて、それがだんだんおおきくなってきて、ひとりの女性がまず降りてきた。
「りょうさん?」
「はいっ」
「待たせてしまってごめんなさいね、さみしかったでしょ?」
「はいっ」そう答えながら、りょうちゃんはとてもニコニコしていた。

同じスーツを着てるからたぶん同じ旅行社の人だろう。年配で、短めのタイトスカートがピチピチな田原さんという女性は、うっすら汗をかいてるのにアイラインはまったくにじんでいない。
「嵐が好きなの?」田原さんはりょうちゃんが腕にしている嵐のリストバンドを見つけてたずねた。「嵐はわたしも好き。りょうちゃんは誰が好き?」
「にのくん」
「そう、わたしは松潤が大好きなのよ!

それから次々に降りてきた初老の女性や男性がりょうちゃんのまわりを取り囲んだ。腰が曲がった分だけ小柄に見える、笑ったカタチのままに皺が刻まれていったような人ばかりだった。
「まあ、こんなかわいいお嬢さんを、置いてったのね。こわくなかった?」
「かわいいねえ。ウチのひ孫よりかちょっとおねえさんなのかねえ」
「暑くなかったかい?」
みんながりょうちゃんの手を握ったり肩を叩いたりしながら、取り囲む。
またパニックにならないかとどぎまぎしたけれど、りょうちゃんはあたしの心配をよそにニコニコしていた。
近隣の町の老人会の団体の方で、これからみんなでホテルに行って一泊するらしい。
「わたしたちといっしょに船に乗るけんね、ぜんぜんこわくないよ。船からバスに乗ったら、すぐにホテルたい」
30
人ほどの団体は、ちょっとおざなりにまわりを散歩したりしながら、喉かわいてない?ってりょうちゃんにペットボトルの水をくれたりしている。なにしろかわいくて仕方ないって感じだった。
りょうちゃんはずっとニコニコしてた。初対面の人は苦手なはずなのに。

時間がくるとりょうちゃんは、団体の中の比較的がっしりした男性の背中におんぶされて船に乗った。
「ぐらぐら揺れるとこわいだろうから、おんぶで行くね?」って言われて、そのままカラダを預けたのだ。
そして船の一番まえの席に座って、田原さんの説明にひとつひとつ返事する。
りょうちゃんはまったくこわがってなかった。
「はいっ」「はいっ」そして時には「へええええ〜」って。
誰もがニコニコしていた。りょうちゃんの言葉を聞いて笑ったりしながら。
バスに乗る頃には、もうみんなに打ち解けていて、りょうちゃんは得意の嵐の歌のサビを口ずさんだりして、そのたびに誰かが拍手をしたり笑ったりしてくれた。

これはいったい何の魔法なんだろう?初対面の人は苦手なはずなのに。

大きなリゾートホテルが見えてきて、ゆっくりと車寄せにバスが入ってくる。
心配そうに待っているスタッフの顔が玄関に見えた。

「さあ、お待ちかねのホテルにつきました」田原さんが言った。「日頃は、移動時間はみなさんゆったりされていて、わたしの説明を子守唄にお昼寝される方も多いのです。だけど今日はりょうさんが元気よく返事してくれて、説明する方もとても楽しかったです。そして短い時間でしたが、笑い声がいっぱいの移動時間でした。これもりょうさんのおかげでした。ほんとにりょうさん、ありがとう、またどこかでお会いしましょうね」
みんなが拍手をしてくれた。
そうそう、りょうちゃん、楽しかったよ、という声がたくさん聞こえた。
「ありがとうございました〜」りょうちゃんがすごく大きな声でお礼を言った。

ああ。
自分だけがライ麦畑の番人をしていて、いろんな人やモノから彼女を守りたいと思ったいた自分はただの傲慢なヤツだ。
りょうちゃんの世界はそんなふうにはできてはいなかったのだ。
りょうちゃんの心はずっと外に出たがっていた。

あの日をさかいにりょうちゃんは変わった。
先の予定がわからないとパニックになったり、知らない場所でへたりこんでしまうのは相変わらずだったけれど、それでも、何かわからないけれど何かが変わった。
「いつか、わたしはこわくなくなるんだ」って心の中で思っているような気がした。
そして実際、パニックが落ち着くと、誰の前でも天真爛漫にふるまうのだ。
彼女のふるまいは、いつも笑いを誘ったり拍手をもらったりした。そんなとき彼女は、とてもうれしそうに笑った。

あれは一期一会っていうんだろうな。
たった一回会うだけの人たち。その、一度きりの優しさ。

だけどもみんな、その一度の中で、自分の胸の中にある光る石を手渡してくれるんだ。
自分たちがその場所から消えても、けして色褪せない光る石。
そしてりょうちゃんも。自分の中の光る石をお返しに手渡せるってことを、彼女は心のどこかでちゃんと知ってたんだ。

長いスパンだったけれど、あたしとりょうちゃんだって一期一会だったんだろう。
あたしはりょうちゃんに、たくさんの光る石をもらったような気がする。
それは、宝物にしてぜんぶ並べておきたいくらいの綺麗な光る石ばかりだった。
あたしはりょうちゃんに、あたしの胸の中の光る石をちゃんと渡せただろうか?

さよなら、りょうちゃん。
今度はまた、今はまだ出会ってない誰かが、あたしとは違う石を手渡してくれるはずだよ。



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2022年03月31日

本をめぐる、わたしのAdvance Care Planning

大事な本だけを本棚に入れていた。
1年に1〜2冊ずつ。
死ぬ前に一度読み返したくなるであろう本だけを厳選していた。

残りの本は階段に積んでいた。これは「階段本」と呼ばれていて、友人たちが遊びに来たら、好きに持ち帰っていった。
コミックはほとんどが「階段本」となっていって「のだめカンタービレ」も「3月のライオン」も友人の家の本棚にもらわれていった。
あと「おもしろかった本」も「でも読み返さないだろうな」という本は階段本になってどこかへもらわれていった。

わたしの本棚には、片岡義男と佐藤正午と村上春樹がだいたい1メートルずつくらいあって。伊坂幸太郎は母親が好きで分けてあげたので、少し少なめだ。
あとは、アゴタ・クリストフとかカート・ヴォネガットとか、そうそうピートハミルや川上弘美も大事にしていた。講談社の「インポケット」や昔の「宝島」もある。

ときどき定期的に本の埃を払っていて、ある日気づいた。
わたしは、死ぬ間際にこの埃っぽい本を取り出すことはないだろう。
埃っぽいし、昔の小さな活字を持ち運ぶことはもうないだろう。

「断捨離のやましたひでこさん」の顔が浮かんだ。
「本の断捨離」なんでできないと思っていたけれど、かなり減らして、いちおうそれでも「本棚はここまで」とした。
これからも本は読む。だけど、家のあちこちに本を積む生活はやめる。
わたしは視力もだんだん衰えていたし、バックライトのKindleの方が圧倒的に読みやすくなっていた。


今のわたしの本棚はこれである。


今のところアマゾンだけだけど、本はどこで買ってもいいと思っている。
町の本屋で本を手に取ってみて「ダウンロードでお願いします」なんて言えたらいいだろうな。

昔は旅行に行くにも、本をたくさん持っていってたけれど、今はKindleのみ。
軽くていい。

あと「買いすぎ」を躊躇しなくなった。
以前は無駄な本を買うと「置き場所が」と思っていたけれど、無駄に買ってもスペースの無駄にならないし、整理整頓も大変ではない。

願わくば願わくば。わたしのACPAdvance Care Planning)を覚えておいてほしい。

家で死ねなくてもいい。
オットに心配かけたり、オットが悲しむのを見るのはきっと悲しい。
さいごのさいごは「病院か施設」に行きたい。

そして、そこはwifiの強いところがいい。

わたしはもう、本の活字を追い求める気力はないかもしれないけれど、このたくさんの本の表紙を、さいごのさいごまで大事に抱えていたいと思っている。



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posted by noyuki at 18:57| 福岡 ☁| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年02月27日

佐藤正午さん「ファンならではのネタ」を私に語らせてください 「月の満ち欠け」映画化記念に「登場人物相関図」を作りました。




佐藤正午ファンなので、何度も何度も読んでいる作品です。
ストリーのおもしろさもさることながら、その文体を追うだけで幸せな気持ちになれます。
正木瑠璃が公園の砂場で佇んでいたり、小山内瑠璃が「黛ジュンの夕月」を口ずさみながら校庭の鉄棒よりかかっていたり。
そのひとつひとつの文章が、まるで映画のスクリーンのよう。
だから自分なりの映画シーンを何度も頭の中に思い浮かべていました。
「シャフトのアニメだったらこんな感じになるだろうな」などとアングルまで考えてみたりしてw
そんな「月の満ち欠け」が本当に映画になりました。
おめでとうございます!!!

https://movies.shochiku.co.jp/tsuki-michikake/

(月の満ち欠け・映画公式サイトはこちら)


「月の満ち欠け」は生まれ変わりの物語。
結婚していながら、大学生の三角哲彦と恋に落ちる正木瑠璃は、ある日列車事故でなくなってしまいます。
そして、小山内家の娘として生まれ変わり、三角哲彦を探し求めはじめる。
会えずに18歳でなくなり、また、生まれ変わる。
何度も生まれ変わりを繰り返す物語です

「あり得ないものを、本当のように見せる作家」の真骨頂の作品です。
あり得なくても楽しめる。あり得なくてもせつなくなる。
百歩ゆずって「あり得た」としても、世間の目や状況から考えると二人が一緒になるというのは「あり得ない」けれど。
それでも、物語の中では、それは「本当のように見える」物語です。

わたしが読んでわたしが想像した映像と、実際の映画が同じように出来上がるわけではないので「それはまた、違う世界の(月の満ち欠け)」になるでしょう。
素晴らしい作品であったらいいなと思っています。
ひとつの素晴らしい作品が、いろんな人の手で何度も生まれ変わる。
そういう「生まれ変わり」を繰り返し、この作品の中にあるものが、伝わり続けるのもまた「月の満ち欠け」なのでしょう。


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正木瑠璃は有村架純、三角哲彦はsonow manの目黒蓮です。小山内堅は大泉洋、その妻小山内梢は柴咲コウ。

生まれ変わりの相関図を作ってみました。ストリーに迷ったら、ご参考にどうぞ。


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そして、自分自身が「月の満ち欠け」にインスパイアされて描いた「戦場のパーティ」です。
これもまた、生まれ変わりの物語。

http://noyuki.seesaa.net/article/451325166.html




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posted by noyuki at 17:40| 福岡 | Comment(0) | 佐藤正午系 盛田隆二系 話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年01月21日

「やれたかも委員会」でおなじみの吉田貴司さんに、「新刊発売記念!インタビュー」を敢行しました!

* ラストに「笹塚高校コスメ部」第1巻第1話を掲載しています!


「やれたかも委員会」が好きで、どうしてこんなに「思いの機微が溢れる作品を描けるんだろう」と、ネットで見つけては読んでいました。
ネットの中には「はきだめの友!」的な友人が数人おります。そういった友人が、この本を「めっちゃおもしろいよ!」と教えてくれたのです。
ネットは巨大な井戸端会議の社交場。人づて、口コミこそが信頼できる世界。
そこで、このような作品に出会えたことを、心底感謝しました。

今回、112日発売の「中高一貫笹塚高校コスメ部」、1月発売の「やれたかも委員会4巻」「やれたかも委員会5巻」そして私生活について、メールにて作者の吉田貴司さんにインタビューをさせていただきました。
どの質問にもとても丁寧に答えていただきました。

それでは行きます!


中高一貫笹塚高校コスメ部」について

今回まったくの先入観なしに、「笹塚高校コスメ部」を読ませていただきました。
正直言って最初は、吉田貴司さんと「コスメ」のイメージが一致しませんでした。そして読み進めながら、そこにある一貫した恋愛観に「なるほどなー」と思った次第です。


Q1:男女の恋愛の機微、勝負については「やれたかも」と一貫したものを感じるのですが、そもそもなぜに「コスメ」なんでしょうか?「服」でも「演技」でも「知識」でも「美容」でも良い中で「コスメ」というところにこだわった経緯を教えてください。

A1:→1問目からこの漫画のアキレス腱とも言える部分への質問です。ヒヤリとしました。
まず読切で「コスメ部」という漫画を17P描いていました。それが第1話の17Pまでで、本当、はそこで終わりの読切だったんです。第1話を読んでもらうと分かるのですが、17Pで終わると結構投げっぱなしです。そういう投げっぱなしのギャグが面白いなと思っていたのですが、それを編集者に見てもらったところ、「これで終わりですか?続き描いて連載にしませんか?」とのことで、残り数ページ描き加えたのが「コスメ部第1話」です。
なので2話目を描いた時点で「早くもコスメが関係なくなっちゃってる!」と思いました。
タイトルを変えた方がいいのでは?という話し合いもありましたが、「ファッション部」「美容部」「化粧部」全くしっくりきません。そこはやはり「コスメ」なのです。

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そもそも「コスメ」って何なんでしょうか。「イエベ」「ブルベ」とは何なんでしょうか。「クリスマスコフレ」とは一体何なんでしょうか。「儚げチーク」とは一体何なんでしょうか。
SNS
での交流が主になって、今ほど「見た目」が重視される世の中はないと思います。だからこそ「コスメ」という言葉も生まれたのでしょう。今の若い世代の人たちはそういう世の中で育っていきます。
でも見た目はあくまで見た目であり、人は実際生きていますので、匂いがあったり、毛が生えたり、体液が出てきたりします。例えば僕は汗っかきなので、よくニキビのようなものに悩まされます。もしかしてあのアイドルもそういう悩みがあるのかもしれないと考えます。
その「ヴァーチャル的な価値観」に振り回される「アナログ的な肉体」というのに人間の哀愁がある気がするので、その辺りに興味があります。

「ヴァーチャル的な価値観」に振り回される「アナログ的な肉体」、なるほどな〜と思いました。
アナログな肉体はなかなか言うことを聞いてくれません。だからおしゃれには「求道」が必要なのですね。
ちなみにわたしは「イエベ」で、クリスマスコフレは一生懸命探したわりには「ネット限定ちふれのコスメセット」でした。コスパのわりにはかなり優秀でした。コスメ部、読むだけで気分があがります!

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Q2: 1.2.3.コスメ!」の掛け声をかけながらのランニング。
コスメ部、まったく体育系ですよね。このコスメ部、笹塚高校の中ではどういう位置にあるのでしょうか? 部室にマシントレーニングまで見えるのはなぜ?人気の憧れの部? なかなか入れない審査の厳しい部活動なのでしょうか?


A2:
その辺りの設定はまだ一切秘密とされています。現在公開可能な情報としては「中高一貫校」である。ということです。それ以外のことは今後少しずつ明かされると思います。


Q: エチュード、ロクシタンやディオールグロスマキシマイザーなど「勝負時のアイテム」が秀逸ですが、とちゅうから「あれ? ニッチすぎてついて知らない」というものも出てきます。 もしかしてアイテム作ってます? そして鎖骨、肩甲骨、肌水分、もう、おしゃれのポイントがすごすぎます。この「リップグロスなどのアイテムに関するこだわり」「美しさのたいするこだわり」についての吉田貴司さんの「愛」を語っていただけますか?


A3:
最初は「ロクシタン」などと描いていたのですが、やはり編集部の方から商品名なので「ロク○タン」みたいに伏字にするよう、ご指摘を受けました。伏字にすると何か白けるなーと思って、伏字にしなくてもいいように色々工夫するようになりました。
僕はメイクする習慣がないので、アイテムに関するこだわりはないのですが、一応取材と称して、編集者と一緒に某大手化粧品会社の方と焼肉を食べに行きました。とても美しい女性の方でした。でもその時伺ったことを全然描いてないので、読んだら怒られるかもしれません。焼肉は美味しかったです。

アイシャドーの「モンマルトルのエクストラスイートシャドウSSRクロノワールブラウン」がかなりなツボでした。なぜかコメダ珈琲を思い出してしまいました。


Q4:個人的には烏丸さつこが好きですが、読者は「好きな考え方」「好きなキャラ」それぞれお持ちだと思います。現在5人(らしい)部活のメンバー。これから増えてゆくのでしょうか?

A4:顧問の先生がいることは明らかになっています。その他メンバーなどはまだ秘密とされています。
現在公開可能な情報はここまでです。

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Q5:それでは最後に「中高一貫笹塚高校」の概要について教えてください。偏差値、校風、部活動の条件など。あと、もちろんここ女子校ですよね?

A5: 偏差値は比較的高いです。昨年は68だったと思います。女子校ではなく共学校です。
現在公開可能な情報はここまでです。
少しずつ明らかになると思います。というわけで新作「中高一貫!!笹塚高校コスメ部」よろしくお願いします。


*まだまだ謎の部分が多い「笹塚高校コスメ部」ですね。偏差値68の共学校で、なにが起こるのか、今後が楽しみです。そして、こんなコスメフェチのみなさんを見ると「わたしも追い込みたいなあ」と思ってしまいます。
片付けをする前に「断捨離の本」を読むように。ガチコスメ勝負する前に読んだらとても「あがる」本だと思いました。

*ラストに「中高一貫笹塚高校コスメ部」第1話を掲載しています。
ご覧ください!


「やれたかも委員会」について


Q1:まず「やれたかも委員会」について。
いつも疑問に思っているのは「なぜこの3人なのか?」ということです。
ミュージシャン パラディソ
犠星塾塾長 能島明財団法人 
ミックステープ代表 月満子
もう少し、この3人について、詳しく説明していただけますか?

A1:この3人。いいと思うんですけど。どうですか。
なぜこの3人なのかは極めて難しい問題です。実は他の人を据えたこともあるんですよね。ネーム段階で。でもうまく行きませんでした。
やはりこの3人にしかない何かがあるのだろうと思います。

バランスいいですよね! あと犠星塾塾長 能島明氏の顔のインパクトが強すぎて夢に出てきそうで好きです。3人に共通するのは「年齢不詳」な感じだと思っています。


「やれたかも委員会」第4巻について

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Q1: 第4巻「童貞からの長い手紙」長い!そして、ひとりひとりがまったくタイプの違う人生を歩む時間を経た物語がせつなくもありました。
月満子の判定が秀逸です。
しかも、かなりの真剣勝負で、彼女は語っています。
こんなに完膚なきまで叩きのめすのはめずらしいように思いますが、やはり理由は「童貞賛歌が嫌い」だったからですか?

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A1: この判定については描いた当初は「いい感じだな」と思っていたのですが、今読み返すと、「そこまで言わなくても」という気もします。やはり話が長すぎたからではないかと思います。

一気に読むと、じわじわくるエピソードが多くて、かなりせつなくなります。「そこまで言わなくても」の領域に踏み込む月満子の爽快さ、真剣さには、胸を打たれるものがありました。


「やれたかも委員会」第5巻について

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やれたかも委員会第5巻


  Q1: 女性からの「やれたかも」がとても好きです。「TACTICS」大好きでした。女性からの「やれたかも」。もう「ええ!こんなことが!」みたいな赤裸々な告白がけっこうあるのですが、これってもしかして「そんなびっくりな投稿が多い」ってことですか?


 A1:
男性からの投稿も女性からの投稿もびっくりすることが多いです。やはり男女が2人きりでいるってだけで面白いことが起きやすいんでしょうね。
今描いてるやつは男性からの投稿ですが、それもとてもびっくりしましたし、いい話です。

 
事実は本当におもしろいんでしょうね。びっくりな投稿! ナマで読んでみたくなります。


やれたかもの意義について


Q1:吉田貴司さんが「やれたかも委員会の委員」だったとしたら、3人のうちの誰に近いでしょうか? それともまったく違うスタンスですか?
吉田貴司さんが4人めの委員としてメッセージを送るとすれば、どんな感じになりますか?


A1:
能島塾長に近いんじゃないでしょうか。普段はパラディソっぽく振る舞ってますけど、本質的には塾長だと思います。
4
人目の委員になったら。色々詳細を聞いちゃうかもしれないですね。その時どう思ったとか? 実際に投稿してくれた人にも色々聞いてしまいます。

羨ましい! 私もめっちゃ聞きたくなると思います。
「そのときどう思ったか」。不幸なときほど聞きたくなるかもしれません笑。


  今後の「やれたかも委員会」とその参加方法について。


Q1: 今後もかたちを変えながらも、やれたかも委員会は継続すると考えてよろしいですか? そして、これを読んでいて思い出す甘酸っぱい思い出がある方はまだまだ「投稿」は可能なのでしょうか?

A1: 投稿可能です。思い出したらいつでも送ってください。
宛先は yoshida.takashig@gmail.com まで。必ず返信いたします。
今金銭的事情から「コスメ部」の連載を始めてしまいましたが、やれたかもは10巻くらいまで描く予定です。あと3年以内に。
2025
年完成予定。よろしくお願いいたします。

はい! いつかは送ってみたい「やれたかも」です。


*     *


【私生活について】

(アシスタントさんやお金のことなど)ある程度はネットで、公開されている吉田貴司さんの私生活ですが、公開されてない(と思う)部分をお聞きしたいと思います。



さしつかえのない範囲での家族構成を教えてください。ペットとかいらっしゃったら、ペットの名前を教えてください。

妻と子供2人と義母の5人暮らしです。娘がうさぎを飼っています。ネザーランドと白うさぎのMIXで名前はムギです。いちごのヘタが好物です。


 ※ 朝、昼、夕ご飯の内容、そして、好きな食事の仕方について教えてください。

最近3食きちんと食べるのが一番体重管理によいことに気がつきました。なのできちんと食べて間食を全くしないようにしています。
一時期はキットカットとかカントリーマアムを作画中にぼりぼり食べてたんですが、あれがよくなかったことにようやく気がつきました。朝昼晩ともに自炊です。そばとうどんとチャーハンが多いです。


 ※ 1日の流れについて教えてください。

今はネーム期間なので、朝起きてご飯を食べたら、ブログを1本描いて、近くのシェアオフィスに行きます。
そこでネームして、昼は1階の富士そばで紅生姜天蕎麦を食べて、またシェアオフィスに戻ります。そのシェアオフィスが最高です。何が最高かというと、そこのWi-Fiを使うとエッチなサイトに繋がらないのです。とても集中できて助かっています。
夕方になったら帰ってご飯を作ります。ネームができなかったらそこから夕食後街を徘徊します。歩くとアイデアが出ることが多いです。
作画期間は朝起きて自室で夕方まで作画します。ご飯を作って食べて、ジョギングしたらまた作画です。12月ごろまで朝6時から散歩してたんですが1月は寒くて起きれなくなってしまいました。


 ※ 漫画以外に時間を費やしていることはどんなことでしょうか?

ジョギングをたまにしてます。3月のマラソン大会エントリーしたので、がんばります。コロナでなくならなければいいですが。


 ※ 今後の野望について教えてください。

おかげさまで今年は何だか仕事が増えそうな予感がします。仕事がある時ばかり仕事がきます。仕事がある時に言われても無理です。仕事がなくなった時こそみなさん僕に仕事をください!
仕事がない時でも仕事が来るような漫画家になりたいです。


【インタビューを終えて】


創作される方の私生活にとても興味がありました。
ストイックで健康的という印象でした。
紅生姜天蕎麦とか、エッチなサイトにつながらないシェアオフィスとか。
そういえば、うちの事務所のwifiはどうだろう?エッチサイトにつながるのかな?と思いましたが、誰か入ってきたらと思うとこわくて繋げませんでした。
かわりに机の2番目の引き出しを開けたら、カントリーマームはじめ、溢れるほどのお菓子が入っていました。
引き出しのお菓子を食べたあとは「補充しない」ところからはじめたいと思います。

これからも「そこんとこもっと聞きたい」と思うような、ぶっとんだ「やれたかも」や、そして「コスメのやる気」をひきだしてくれる「中高一貫笹塚高校コスメ部」を楽しみしています。

長いインタビューにていねいにおつきあいいただきありがとうございました!


ここから「笹塚高校コスメ部第1巻・第1話」「やれたかも委員会第4巻・第1話」「やれたかも委員会第5巻・第一話」の掲載です。 (special thanks! 吉田貴司様)


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続きはこちらからどうぞ!



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「やれたかも委員会」4・5巻はこちらからどうぞ。





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2021年12月30日

山本文緒の「ばにらさま」の凄みに呆然となった



6編の短編からなる単行本「ばにらさま」。

初出を見てみると意外に古く「ばにらさま」は2008年、いちばん新しい「20✖️20」が2016年。

これまで長編のイメージしかなかったので、こんなに凄みのある短編を描く人だなんて思ってもなかった。

表題作「ばにらさま」で背筋が凍った。

手足の冷たいきれいな女の子の話。

僕は、派遣社員の彼女は恋人だと思っていたけれど、だんだんその中身を知るうちに愛情を感じられなくなってしまう。

「ばにらさま」はどこにでもいる。
きれいな顔で笑っている。ときどき優しい言葉もかけてくれる。
でもその深い闇はどうしようもない。

個人的に好きだったのは「バヨリン心中」。

東北大震災で壊れたひとつの恋を年月をかけて語ってくれている。

災害は建物や人命を奪うだけではない、「災害とは、こういうところに壊れた歴史を置いてゆくんだ」と思った。

ラスト「こどもおばさん」。
47歳でなくなった友人の遺言について書かれた掌編。

2011年に描かれた「東日本大震災復興支援チャリティ同人誌「文芸あねもね」が初出である。


短編集の最後にこれ、持ってくるかなあああああ。


彼岸への予感、予告、そして作者の中にある意思。

10年前の作品に、死の予感と覚悟が描かれているような気がして。

描かれたままの気持ちも変わらず山本文緒さんは消えてしまい、そして肉体が消えたあともこう語ってくれているような気がした。

短編はどれも凄みがあった。
じっくりと長編を読ませる作家というイメージだったので意外だった。

どれもすごい。
傑作。


*     *     *

「彼女」と「自転しながら公転する」について話したことを思い出した。

プライドの高い彼女は「あれは専業主婦の話だから」と言った。
「専業主婦の話だったけれどおもしろかったですよね」

BSの番組で山本文緒について知り「読んでみたい」と彼女が言い「好きな作家さんです、新作をわたしも読んでみたい」と言って、ほぼ同時に読み終えたように記憶している。

彼女は緩和ケアに行く時期だったが「まだ大丈夫だと思う」と言いながら自宅でがんばっていた。

山本文緒さんの方が同じ病気で先に逝ってしまった。

そのことは彼女に伝えることはなかった。



その後、入院先の緩和ケアの病棟のベッドでわたしたちは会話した。

「肺転移したのはとても悔しかった。でも、家にいたあいだにできたこともあった。お正月も迎えられたし、目標にしていた自分の誕生日を迎えることもできた。でも子供の卒業は見届けられないと思う」
そう言って彼女は目を閉じた。「ここにいるといつまでもゆっくり寝ていられます」。


理系の男社会で生きてきた彼女にとって、わたしはなにもしらない「こどもおばさん」だったのかもしれない。

小説という共通の話題がなかったら、わたしたちは事務的な話以外なにもできなかった。
彼女のからだは「いっぱいいっぱい」だったし、彼女はそのことを誰かに伝えることもなかった。

仕事柄、病状やこれからのことについて聞きたいことはやまほどあったけれど。



小説の話しかしませんでしたね。

でも小説の話がなかったら、なにも話すこともなかった。

だから小説には感謝しています。

R.I.P    「ばにらさま」の感想も聞きたかったです。



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2021年11月21日

「ペッパーズゴースト」伊坂幸太郎は、ゴーストだらけ?




公式サイトはこちらです。
伊坂幸太郎「ペッパーズゴースト」公式サイト

* ペッパーズ・ゴースト(英語:Pepper's ghost)は、劇場などで使用される視覚トリックである。板ガラスと特殊な照明技術により、実像と板ガラスに写った「幽霊」を重ねて見せることで、効果を発揮する(ウィキペディアより)。

伊坂幸太郎の作家生活20周年記念作品とのこと。
おもしろくないわけがありません。
キャラの濃いネコジゴハンターの二人組や成美彪子(なるみひょうこ)に引っ張られながら、ぐいぐいと物語を楽しんでいきました。

それでもわたしには、このストリー全体が「実像でないペッパーズゴースト」で、本当のストリーが見えないところで動いているように思えてしかたありませんでした。

それで3回読んで、自分で想像して組み立てた部分もあったけれど、最後まで疑問に思っていることもあって。

裏で動いている物語は、案外読者ひとりひとりの頭の中だけのお楽しみ!なのかもしれません。



あらすじ

中学校の先生をしている檀千郷(だんちさと)には「他人の飛沫で」未来のハイライトシーンを見る能力があります。

その能力で、生徒の里美大地と祖母が「事故にあう可能性」を伝え、事なきを得る。

それに疑問を持ったのは、大地の父親である里美八賢(さとみはっけん)でした。

内閣府に勤める里美八賢は、檀千里をテロ犯人と疑う反面、その能力にも頼ります。

彼が関わっている「サロン」(カフェダイヤモンド事件の被害者の会)は、テロリストに犠牲になった家族を持つ会で、お互いを慰め合う反面「復讐の方向」へ向かう者もいるちょっと複雑な団体。
そうしてここから事件があらたなテロ事件がはじまります。

同時進行で登場するネコジゴハンターの「アメショー」と「ロシアンブルー」の二人のコンビがまた、素敵なキャラクターです。

この二人はyoutubeでネコを虐待した者やそれを煽った者を成敗するコンビ。

いきなり小説の中から飛び出した二人組!ですが、この伏線にも唸りました。
そしてもちろん、この二人組も物語りに深く絡んできます。

こうして書いてみると、登場人物も多いですね!
本当にいろんなことが起こるのですが、そこは伊坂幸太郎の筆致で軽やかなテンポで、楽しく読める作品であります。



ネタバレだけど書きたいこと

ネタバレだけど、書きたいことを書きます。

そもそも里美八賢がカフェ・ダイヤモンド事件の遺族の会にいたのは、偶然ではないと思います。

八賢は「恩師をこの事件でなくし」「たまたまかかりつけ医が事件の遺族夫婦であったこと」から、この会に関わることになります。
いや、偶然じゃないですよね? その後、美術館で一般人を巻き込んだテロ事件が起こり、警察関係の「ピラミッドのとっぺんあたりにいた人」がいきなり家族を失ってしまう。
彼はけしてこのことを公表せずに、テロの撲滅に尽力している。

この「名前の出てこない、とっぺんあたりの人」。
かなり裏で動いてますよね?

そしてネコジゴハンターの二人組は?

やはりこの「名前の出てこない、とっぺんあたりの人」と関わっているのかな?
どうなんでしょう?

この二人組を雇ったのは「偶然にも大金を手に入れた愛猫家」とのこと。
ここにはまったく繋がりはないんでしょうか?

ラストの見せ場「クリニック立てこもり事件」。
ここで本当に自爆テロが起きたのか? 本当は起きてないのか? これもまた謎といえば謎だと思います。
八賢と「名前の出てこない、とっぺんあたりの人」はここに関わっていいないのでしょうか?

いやはや。
頭の中の妄想物語が多すぎます。
いつか文庫化のおりには、少し書き足していただけると助かります。


そして、こんなところにあの人が!




成美彪子(なるみひょうこ)がサークルのメンバーの紹介をしているくだりで、意外な人物の名前をみつけました。
(以下引用)

*四人とは、そうです、野口さん、哲夫さん、沙央莉さん、それから将五さん、あの時飛び出していった四人です。野口さん意外はみんな苗字が同じで ー全国でもかなり多い苗字でしたから、驚くほどの偶然ではありませんがー だからわたしたちは下の名前で呼んでいました。

3人が同じ苗字なんですね。多い苗字といえば、鈴木さん、田中さん、佐藤さん。
佐藤さん? え! 佐藤将五さん!!!
佐藤正午ファンのわたしがこんな隠れキャラを見逃すわけがありません!!!
ああ、幸せでした。

わかりやすく楽しめる小説ももちろん好きですが、こんな謎だらけ小説も大好きです。
いつか、どなたかわたしと「いや、自分はこういうふうに思っているよ!」的なネタバレ戦を挑んでいただければ、幸せだろうなと思っています。


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2021年10月29日

「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」2 ブレイディみかこ




「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」の第2巻にして完結篇!


イギリスっていろいろ問題があって大変だろうなあ、プレグジットとか移民とか人種問題とか格差社会とかほんとにいろいろ!

でも実はこれ、日本も同じような問題に直面していることも多いんですよね、たぶん。
問題は「直視するか」「オブラートにつつむか」くらいの違いのような気がします。

カトリックの名門小学校から、近くの「ちょっと昔は荒れていた」公立中学校に入学した日本人と英国人のハーフの息子の目でみたイギリス社会。

正直「え〜!大変そうだな」と思います。
実は、我がムスメは、上品な小学校から、学区の関係で「悪評高い公立の中学校」に入学するはめになり、カルチャーショックと危険な環境に対応できずに、早々と別の中学校に転校してしまいました。

荒れた中学で最後まで過ごした同級生の母親たちが「いい経験になった」「一生の友達にめぐまれた」なんて言ってる人たちを見て「けっ」なんて思うことも、そりゃ、もちろんありました。

でも、人間だもの。
学校くらい自分の好き嫌いで選んでいいと思うよ。

ロック好きの母ちゃんの息子は、本当にこの公立中学でいろんなことを学んできました。
自分自身がホワイトではないこと、そしてターバンをつけた黒人の転校生が音楽のコンサートでびっくりするような歌声を披露すること。

多様性の格差社会で起こっていることをまっすぐな目で見ていて、すごいなあと思ってしまう。
そして息子の視野はだんだん広くなり、公正なものになってゆく。
それが読んでいてとてもわくわくしました。

「君たちは社会を信じられるか」という章が好きです。

息子の視点は多様性と「社会を信じる力」に満ちています。

社会を信じるとは、どういうことか?
社会はもう少し複雑かもしれないけれど、彼が「社会を信じる」というテーマを掲げたときの視点の素晴らしさには本当に唸りました。
いい子に育ちました。

「再び、母ちゃんの国にて」の章。

ここでの「帰国のさいに日本の由布院温泉に、祖父母と犬と行く話」はやさしさと思いやりに満ちていました。

家族のやさしさ、その要となっている息子自身のやさしさ。

最期の空港での別れのシーンまで、本当に何度も何度も心を揺さぶらて大泣きしてしまいました。

「一生モノの課題図書」というキャッチコピーに偽りはないけれど、もっとラフな感じにいろんなことを語ってくれている本であります。
ふらっと読めて、そして「ああ、読んでよかったなあ」と思える一冊です。



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posted by noyuki at 20:06| 福岡 ☀| Comment(0) | 見て、読んで、感じたこと | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする