2005年01月30日

キャッツ探偵事務所3「カリントウ」14

 
 白いステンカラーのコートを手に持った、スーツ姿の男だった。
「あら、野田さん」
 と、スギが声をかけた。
「・・・ご迷惑を、おかけして、すみません」
「いえいえ、ご迷惑だなんて、ちゃんとした依頼ですもの、鋭意努力中ですよ」
 野田と呼ばれた男は、品のいいダークスーツにレモン色のレジメンタルタイをつけている。き
ちんとしたサラリーマンといった風体だが、心なしか疲れているようにも見えた。

「ちょうどよかった、野田さん。カリンのこと、もっと詳しく教えていただきたいんです。何よ
りも情報が少なくって。まだこちらから報告できる状態でもないもんで。あ、こちらの男性が今
回の専任スタッフの峻です」
 いつのまに専任スタッフになったんだ、心の中で毒づきながら峻はにこやかに挨拶した。
「はじめまして、野田さん。さっそくですが、カリンが食いついてくるようなキーワードってあ
りますか?」
「いえ・・・もう、いいんです・・・」
「え、もういいって?」
 椅子に座ると野田はふうっとため息をついた。
「K.F.C,つまりカリンのファンクラブのHPに依頼したことが漏れています。キャッツに依頼した
人物がいるらしい、という書き込みでした」
「そんな、依頼内容が漏れるなんて・・・」
 キャッツ探偵事務所のスタッフから漏れることはまずない。盗聴器が仕掛けてあるのか? と、
スギは身を固くした。
「最初、僕もこちらから漏れたんだと思いました。でも、よくよく考えてみると、おそらく僕サ
イドからです。キャッツの連絡先を友人に尋ねた。しかも彼は僕がカリンのファンであることを
知っていた」
「その人も、カリンのファンだった?」
「そうですね、友人と思っていたから、すごくショックでした。もし彼が発信元だとすれば、依
頼者が僕だとわかるのも時間の問題です。その前に依頼を取り下げたい・・・」

 その話を聞きながら、峻ががっかりしてゆくのがわかった。なんのかんの言っても、峻はこの
捜査を楽しんでいたのだ。

「僕はいつもそうなんです」野田は下を向いてそう言った。「どこまで人を信じていいかわから
ない、うまく友達とやっていけない。人との距離の取り方がわからない」
 
posted by noyuki at 22:23| 福岡 ☀| Comment(2) | TrackBack(0) | キャッツ探偵事務所3 「カリントウ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年01月27日

ジェーンさんのミートボール

 ジェーンさんのミートボールがまた食べたいな、と、ふっと思った。
 ミンチの中に細切れの野菜がたくさん入っていて、それを揚げただけのもの。塩コショウと小麦粉混ぜるだけよ、と簡単そうにジェーンさんは言うのだが、何度真似してみても同じ味は作れなかった。

 ジェーンさんは、以前住んでいたアパートのお向かいのおうちに住む中国系フィリピン人。とてもお料理が上手だった。
 ジェーンさんのお得意は「肉まん」だった。お昼ごろ「おしょうゆが足りないから貸して」と言って我が家にやってくる。「肉まんを作っていて足りなくなったから」と彼女が言う。そうするとわたしは、暗くなるまでずっと、出来上がった肉まんを持ってきてくれるのを楽しみに待っているのだった。生地から肉まんを作るにはまるまる1日かかるものなのだ、とはじめて知った。その肉まんは市販のどの肉まんよりも味が濃くてジューシーで、ほんとうにおいしかった。
 そうだ。ジェーンさんが肉まんを作る日は、ちょうど今日みたいに寒くて天気の悪い日だった。

 フィリピンでは医師免許を持っていたのだという。
 日本でもそういう仕事をしたいがなかなか試験に受からない、処置の方法や薬の名前を英語で知っていても日本語に置き換えられないのよ、とジェーンさんは言った。
 春には毎年東京まで試験を受けに行っていた。よく事情はわからないが、外国人は東京でしか受けられなかったらしい。
 頼まれて、医学用語の翻訳のアルバイトもしていた。そのときも、日本語でどういうのかわからないから困ると言っていた。手伝いにいったこともあるが、わたしにはよけいにチンプンカンプンだった。
 ジェーンさんはとてもいい医者になれると思った。おかあさんのように優しくて、判断力もあり、頼りになる女性だったからだ。彼女なら、フィリピンからきている女性たちの素晴らしい味方になれるに違いない、ずっと、そう思っていた。

 引っ越してから、ずっと音信不通だったのが、今日ふとジェーンさんのことを思い出した。
 韓国人国籍の女性が管理職の試験を拒否され、裁判でもそれが妥当であると判断されたというニュースを見たからだと思う。インタビューを受けていた韓国国籍の女性は日本語が堪能だった。
 日本には日本の事情があるだろうし、東京都には東京都の事情があるだろうし、それについてコメントしようとは思わないけれど。
 ジェーンさんはその後、試験に受かったのだろうかと、ふっと思った。

 彼女のミートボール、彼女の人柄、彼女の才能、それからそんなものをどんどん思い出していった。
「あなたはきっといい医者になれると思う、フィリピンの女性たちをたくさん助けられると思う」
 そうわたしが言ったとき、自分は間違えてなかったという自信に満ちたまなざしでジェーンさんは笑った。
 その目の輝きまで、今日はありありと思い出してしまった。

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posted by noyuki at 13:20| 福岡 | Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

キャッツ探偵事務所3「カリントウ」13

 最近、峻はキャッツ探偵事務所に入り浸りだ。
 と言ってもクリーニング屋の仕事をさぼるわけにはいかないので、だいたい夕方から夜にかけ
てだ。妻のすみ子には、コンピューターの情報が必要なので捜査の手伝いに行っていると伝えて
ある。ふーん、がんばって、お役に立ってね、とすみ子は言う。
 女性ばかりの職場はいいお得意様なので、とやかく言われることはない。だけど。一体どんな
ことしてるかなんてとても言えないよな、と、峻は思う。毎日毎日、2ショットチャットをやって
るなんて、ほんと、妻が知ったら何て言うか・・・

 峻とスギは、夕方から夜にかけて毎日コンピューターだ。スタッフの雅子がコーヒーを煎れて
くれることもあるし、ミケ子が画面をのぞき込んで、ふーん、なんて言うこともあるのだが、二
人はけっしてチャットはしない。
 潔癖性の雅子にも、マシンに疎いミケ子にも、こういう仕事には不向きなのだ。

「ああ。もう、疲れましたよー、毎日毎日」峻が言う。
「ほんと、男の立場って、意外と弱いんだね。てゆうか、こっちが話題を振っても、気に入らな
いとすぐにオチられるし、けっこう高飛車にされるし。少し話題がでても全然おもしろくもない
し。わたし、ナンパする男の人って、すごい忍耐力あるなーって思うわ」
「おねだりにも、もううんざりですよー」

 待ち合わせ掲示板というヤツも利用してみた。
 ここには「カリンさん、待ってます」というメッセージも少なからず並んでいる。同様のメッ
セージを残してみたが、それにも何の反応もない。
 第一、カリンが出没しているチャットは複数なのだ。膨大な数のチャット板に、膨大な男女が
ひしめきあっている。こんなところで、本当に見つかるのだろうか。

「もう、この依頼、断ろうっか」
「そうですねー。もう1週間もやってるのにダメなんて・・・僕、正直言ってキャッツの皆さんを
見ながら、自分も探偵やってみたいなあなんて思ってたんですが。自分には無理、と、今回はっ
きりと思いました」
「まあまあ、二人とも。糸口っていうのはいつも偶然から見つかるものなのよ、もうちょっとが
んばってみて」
 横からミケ子所長がそう口を挟む。ミケ子には、この作業がどれだけ消耗するかわからないん
だ。プライドだってズタズタだし・・・最近はカリンじゃないとわかると、すぐにこっちからオ
チるという技も覚えたが、それだって、後味の悪さは拭えない。

 やってみないとわからないよなあ、それにしてもずいぶん疲れたなあ・・・と心の中で毒づい
ていると、ドアをノックする音が聞こえた。
 雅子がドアを開けると、そこには依頼者の男が立っていた。

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2005年01月25日

SWITCHです

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昨夜のヤフオクでは100人入札、900円の雑誌が8000円で落札されたという「雑誌。SWITCH」
いやー、伝説のイベントの黒板直筆マンガ「あれから10日後」が読めるなんて!
かんどーしました。嬉しかったです。

週末は必ず本屋に行くんですが、見つけて即買いでした。
それが土曜日。
日曜にはもう、ヤフオクに出てたらしいです。
ラッキーとしか言い様がありません。

「こりゃ、ウチもヤフオクに!」なんて色気だしてみましたが、増刷されるんではないでしょうか、たぶん。
それに、せっかく買ったの、譲りたくないしね。
posted by noyuki at 12:50| 福岡 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 見て、読んで、感じたこと | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

キャッツ探偵事務所3「カリントウ」12

mitebasuto.JPG

「ありがとう、タカシさん、とっても楽しかった」
 空白の終わりにカリンがそう打ってきた。まるで今すぐにでも落ちそうな書き方だった。
「待って。よかったらメルアド教えて。友達になりたいから」
 友達という言葉はYUKIの本心から出た言葉だった。恋人でもセフレでもない、同性の友達。だ
けどもカリンにとっては、YUKIは身も知らぬ男性でしかない。
「ここにはよく来るから、また会えるといいね。この場所以外には、わたしはいないから」
 そう言うと同時にカリンは落ちた。
 (この場所以外にはわたしはいない・・・)
 暗示に満ちたメッセージだった。

 シャワーを浴びて下着を替えたい、とYUKIは思う。
 自分が男性なら・・・もしくは、自分で自分の性器を弄ぶ余裕があったなら、きっと自分は激
しくイッていたはずだ。無我夢中でそんな余裕さえもなかった。
 だけども、下半身の居心地の悪さを感じないではいられない。おそらく下着までぐっしょりと
濡れているはずだ。それを証明する芳香さえ自分が発しているのがわかる。
 なんてことだ。
 ただの文字なのに。それはきちんとしつらえた小説でもなんでもない、ただの文字なのに。
 こんな気分にさせられてしまうなんて・・・

 YUKIはそのまますべてを脱ぎ捨てて、熱いシャワーを浴びた。どうしていいかわからずに、髪
まで洗い流してしまった。
 それから自分の柔らかい部分にゆっくりと指を這わせてみる。やはり、というか、予想以上に
そこにはまろやかな液体が溢れていた。
 それを熱いシャワーでゆっくりと洗い流す。
 それからYUKIは、ぼんやりと思った。
 おそらくカリンは。同じ場所で「タカシ」という名前を見かけても、けっして声をかけてみた
りはしないだろう。
 まだ一度も話したこともない男を見つけて、同じようなことをするに違いない。特定の男性に
馴れてゆくのがイヤなのではない。顔も嗜好性も知らない男性にだけにしか、彼女は自分を出せ
ないのだ。
 YUKIの保守的な思考が導いた結論ではあったが、熱いシャワーでだんだんと自分がクリアにな
ってゆくうちに、それは確信へと変わっていった。


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posted by noyuki at 12:40| 福岡 ☁| Comment(8) | TrackBack(0) | キャッツ探偵事務所3 「カリントウ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年01月24日

キャッツ探偵事務所3「カリントウ」11

 YUKIがそう書いたあと、カリンはなにも書いてこなかった。
 まずかったのか・・・急に語調が変わったことに抵抗があったのか・・・そう思って不安にな
る。しばらくの沈黙。
 そうして、しばらくの空白のあとに、カリンは一気にキーボードを滑らせていった。

「いま。脱ぎました。スカートも、下着も、みんな脱ぎました。タカシさんに言われて、足をい
っぱいに広げています。見てくださいますか? 自分の指で・・・クリトリスが、見えるように広
げています。白くとがっています。ずきんずきんてしています。ああ・・・触ってくださいます
か?  お願い・・」
 カリンはほんとうに全部脱いでしまったのだ。この空白の時間が、YUKIをもっと深いところま
で突き落とした。こんなふうにキーボードを操りながら、彼女はバーチャルではない本物の自分
を見せようとしている・・・

「だめだ。自分で触りなさい。触っているところを、ちゃんと見せるんだ」
「・・・はい・・・」
 だんだんとカリンのキーボードの間隔が開いてゆく。
「感じてます。濡れてるとこ」それからまた沈黙。「濡れてるの、見てくれてますか」
「もっと、足を広げて、指を入れて」
「DKGっRHTDN」
 何かを伝えようとして、それでキーボードが乱れたのだろう。もう、止まらない。と、YUKIは
思った。
「指を、2本入れて、ぐちゃぐちゃに中をかきまわしてあげよう。ほら」
「ああ・・・・タカシさんの・・・・」
「カリンはいやらしいな。ほんとにすごく濡れている。指を中で折り曲げたよ。気持ちいいとこ
ろのあたる? ほら、内側のひだがざらざらしてる・・ここ、感じる?」
「ああ・・あ  あ・  」
「ちゃんと言葉でいいなさい。そんなんじゃわからない」
「すごく いい イキそう     です」
「まだダメだ。僕のをしっかりくわえて、奥までくわえて、口でイカせなさい」
「んんN  」
 たとえばリアルな世界では、わたしたちは今いったいどんな格好をしてるんだろう・・・など
と考えるのが自分のダメなところだとYUKIは思った。
 カリンの中には整合性もストーリーもない。思いつきの欲望があるだけだ。
 あれだけ滑らかにキーボードを操っていたのに、間隔がだんだん長くなっていく。右手で自分
を弄びながら、おそらく左手だけでキーボードを打っているのだろう。

「イキそう・・イキそう。カリン、もっと、激しく動いて」
「口の中に  」
「口の中に? 出してほしい?」
「あああああああ わたしも イキ 」
「イキなさい。思いっきりイキなさい」
「HY;L。:ああああああ  イクーーーー」
「ああ・・イク・・・・僕も・・・」

 それから長い空白が訪れた。
 場違いでもなんでもない、必然の空白。
 この時間の中で、起こっていることがすべて、手に取るようにわかる空白だった。


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posted by noyuki at 21:47| 福岡 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | キャッツ探偵事務所3 「カリントウ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年01月21日

バージョンアップしました。

 シーサー、バージョンアップしましたね。美容院exclamation×2犬演劇爆弾
 なんてのが入るようになったみたいです。カラーで!
おおきい文字も!
ちいさい文字も
濃いめのあなたにも
こんなことだって
こんなことだってできます

 ごめんなさい、意味ないです。何ができるかの実験でした。目銀行ATMコンビニ眼鏡雨ガソリンスタンド携帯電話バースデー

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ハートたち(複数ハート)ハートたち(複数ハート)
posted by noyuki at 21:54| 福岡 ☀| Comment(11) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年01月20日

「37才、春」盛田隆二さん、きららにて

 その年の春、わたしたちは西新宿の高層ビル街を歩いていた。
 都庁に登って新宿中央公園を眺め、「テロリストのパラソル」の話をして、それから公園まで行った。
 フリーマーケットが開かれていた。いろんなお店をからかって、わたしたちは夫婦と間違われ苦笑いをした。
 高層ビルの隙間から柔らかな春の日差しを見て、もうこの瞬間は二度とないだろうと思った。
 それから長い地下道を歩き、蕎麦を2種、分け合って食した。

 こうして書いてみるととても長い時間のようだが、思い出してみるのはいつも短い瞬間だ。
 その年は特別だった。なんていうか、線香花火の最後の大きな赤い光が、落ちる寸前に一番大きく輝くような、そんな一瞬なのだとわたしは思っていた。
 どうしてそう思っていたのかも思い出せないが、とにかくそういう年だったのだ。

 きららの携帯メール小説、盛田隆二さんの「37才、春」を読んでそんなことを思い出した。
 誰にでも特別な年がある。
 ずっと続いていたものが、そこから変わる年だ。
 短編の主人公は中学生の頃のガールフレンドと再会する。その頃のちょっとした会話が思い出され、もう一度その状況をなぞりたいと思う。胸は高鳴る。だけど、それは違う種類のときめきである。
 違う、と気づいたときの男はすでにあの頃とは違う自信を持っている。
 だけどそこに、線香花火のラストの輝きのようなものを、わたしは勝手に移入してしまう。

 そう。たしかに、そんな年があった。
 大切なことを、またいつか続きがあるのかもしれないと思いながら抱きしめてあたためている場合ではない。
 そう思いながら、なめらかに、自分があふれ出す年が、たしかにあった。
 そんな、あの年の春を思い出して、とても胸が痛くなった。

 それから夏がやってきて、見知らぬ女がやってきた。
 彼女は礼儀正しく、夕方から夜にかけて大量のワインを飲み、そしてその男が欲しいのだと告白した。
 もうすでに別の物語がはじまっていた。
 
 それから手ひどい不眠症にかかり、わたしははじめて、薬に頼って眠ることを覚えた。
posted by noyuki at 22:27| 福岡 ☁| Comment(2) | TrackBack(0) | 佐藤正午系 盛田隆二系 話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

キャッツ探偵事務所3「カリントウ」10

「カリンさん、はじめまして」
 カリンを知っていることも探していたことも、とりあえずは言わない方がいいだろう、とにか
く何も知らない初心者になりきろう、ほんとに初心者なのだし・・・YUKIは思った。
「タカシさんは学生?」
「いえ。フリーター。夕方から仕事です」
「なんの仕事?」
 応答が早い。こっちのスピードとは断然違う、それだけで気後れしそうだ。
「キーボード、打つの遅くてすいません」
「いえいえ、全然そんなことない」
「コンビニの夜勤です」
「じゃあ、夜が大変なんだ。ねえ。恋人とかいる?」
「今、いません」
「じゃあ、エッチなこととかしたくなる?」
 なんと答えたらいいんだろう、逡巡の末に答えようとしたら、カリンが続けて打ってきた。
「フェラとか、好き?」
 いや、正直言ってそれほど好きじゃない。と言っても自分がする方がだ。もちろんカリンが言
ってるのはそういう意味ではない。
「あまり、してもらったことなくって」
「わたし、フェラしてるのを見られるのが好きなんです。じっと上から見られるのが・・・ねえ、
いま、どんな格好?」
「パソコンの前の椅子に座ってます」
「じゃ、その椅子の前にわたし、しゃがみこんでみる。ズボンを脱がせちゃおうかな? いい?」
「はい」
「ついでにパンツも脱がせちゃった。タカシさんのが目の前にある・・大きくなって、すごく上
向いてる。すてき。くわえてもいい?」
 なんてことだ。本当に自分が男で、目の前の女の子が上目遣いに言っているような気分になっ
てきた。
「わたし、髪、長いから邪魔? わたしの髪をかきあげて。ちゃんとくわえてるのを見て」
「見てます。すごい。気持ちいい」
「ゆっくり舌を這わせてるよ。上の方に向かって。くすぐったい? もっといっぱいしてほしい?」
「もっと。奥まで」
「いっぱい動いているよ。なんどもなんども口、動かしている。見ててくれてる? わたしの口の
中に、タカシさんのがめいっぱい入ってる。喉も奥まで入っていきそう・・」
「気持ちいい」
 淡々とした気持ちで書いたわけではない。少し甘ったるい文章の中に、カリンのエロティック
な部分が溢れていた。これを拒否するなんて、おそらく不可能ではないだろうか。

 それからカリンは、襟ぐりの大きなTシャツを脱がせて胸を触ってほしいと懇願してきた。お
願いではない、懇願だ。そんなに大きくはないけれど、触ってください。痛いくらいに掴んでく
ださい。そうされると、頭の中がぐるぐるになるくらいに気持ちいいんです。
 たとえば手慣れた男ならば、ここで少しばかりじらしたりするんだろうか? だがすでにYUKI
にはそんな余裕さえも残っていなかった。言われるままに反応するしかない。もう自分はすでに
カリンが仕組んだジェットコースターの中に乗せられているのだ。

「もう・・・ダメ・・・すごく濡れてます。下着がびちょびちょ・・・ねえ。脱いでもいいです
か?  脱がせてくれますか」
「自分で脱いで。僕の前に大きく足を開きなさい」
 自分が発した言葉にYUKIは驚いた。いや、この言葉は自分の言葉ではない。
 カリンが言わせたのだ。カリンのリードで、カリンの望む言葉を、自分は知らぬうちに言わせ
られてしまったのだ。
posted by noyuki at 11:37| 福岡 ☁| Comment(3) | TrackBack(0) | キャッツ探偵事務所3 「カリントウ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年01月18日

キャッツ探偵事務所3「カリントウ」9

 出会い系のサイトを探すのは簡単だった。一度検索をかければ、いろんなサイトが山のように
並んでいる。そこをクリックして、またクリックして。目がまわりそうだった。ライブで画像を
掲載している女性もいれば、商業的な有料サイトもある。画像にも釘付けになった。だが、そん
なところにカリンの写真はもちろん、ない。
 写真を出したいのならばパソコンにすればいいのに、どうして雑誌を選んだのだろう。
 あるいは、カリンの画像という名目で出したくなかったのかもしれない。コピーや貼り付けで
流通するのを嫌ったのかもしれない。

 会員登録のいらないチャット、メールアドレスの必要のないチャットを選び、入室することに
する。
 男性ばかりが待ち状態になっている。
 女性としてチャットをしてみたい気持ちもあったが、いやらしい会話なんて自信がない。そこ
がSARAと違うところだ。怪盗という職業柄、特定の男性との性交渉というものをついぞしたこ
とがない。自分が溺れてしまうのがこわいのか。信頼できる数少ない友人も、最近は女性ばかり
だ。

 結局、男性名で入室する。なにかメッセージを書かなければならない。なんと書いたらいいの
か?  そもそも、誰かがやってきたらどうすればいいのか?  などと考えあぐね、「チャット、
はじめてです」という正直きわまりないメッセージを入れてしまった。
 ストップウォッチのように時間が流れる。待ち時間はあと2453秒・・・それがどれくらいの時
間なのか瞬時に計算できない。冷や汗が出てきた。
 もっと気の利いたメッセージがやまほどある。言葉嬲りしてほしい人、とか、甘い気持ちにさ
せて・・とか。そんなアピール満点のメッセージの中で、自分は埋もれ、無視され、そのうちに
タイムアウトになってしまうのかもしれない。
 それならばそれでいい、むしろその方がほっとするような気がした。

「こんにちは」
 そこにいきなりメッセージがあらわれた。な、なんと答えたらいいのだろう。そもそもキーボ
ードを打つのもおぼつかないのに、こういう時、なんと答えればいい・・・
「こんにちは、はじめまして、タカシです」
「タカシさん、はじめまして。チャット初体験って、ほんとう?」
「ほんとうです」
「嬉しい・・・はじめての方のお相手ができるなんて!」
 相手の文字がなめらかに流れ出てくる。まるでマシンそのものを相手にしているみたいだ。
「ひまなの・・・少しおしゃべりしてもいい?」
「歓迎です」
「あ、自己紹介します、わたし、カリンって言います」

 運がいいのか!
 それともダミーなのか?
 もし本物だとしたら、これほどの幸運があるだろうか! 汗がでてキーボードを打つ手がべとべ
とになりそうだった。時計を見た。お昼の12時15分。
 カリンは仕事をしていない女性か? 会社で昼休みにこんなことするのは危険すぎる。いずれに
しろ、この時間帯もいつかはキーワードになるのかもしれない。
 YUKIは気持ちを集中させた。
 とりあえず、はじめてチャットに足を踏み入れた男になりきらなければならない。
 
 
posted by noyuki at 14:18| 福岡 ☀| Comment(9) | TrackBack(0) | キャッツ探偵事務所3 「カリントウ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

キャッツ探偵事務所3「カリントウ」8

mienai


 YUKIは、SARAが置いていった雑誌をめくってみた。同じ部屋から撮ったらしい連作のモノクロの写真。どちらかというと、投稿写真にしては地味な方だと思う。
 だけども、カリントウとカリンが同じ語感だとしても、誰がそういう仮説を立てたのだろうか?
 あるいはチャット中にカリンが告白したのかもしれない。

 わたしは関係ない、と言ったあと、妙な後味の悪さが残った。そう。なにかをやるのに目的なんていらない、ただ知りたいだけ、それでいいのだ。
 写真を見て、やはり知りたい気持ちが募り、さっそくYUKIはパソコンを起動した。
posted by noyuki at 13:51| 福岡 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | キャッツ探偵事務所3 「カリントウ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

報告、キャッツ探偵事務所に写真がはいりました。

 キャッツ7に写真を入れました。
 ストーリー上、欲しかった写真です。モデル、撮影者の名前も必要ですか?

 とりあえず、とてもよくできていまあす。スクロールしてご覧ください。
posted by noyuki at 13:03| 福岡 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年01月17日

村上春樹「地震のあとで」

 阪神淡路大震災から今日で10年。
 朝日新聞に村上春樹さんの小文が掲載される。題して「地震のあとで」だ。

 天災というものが人の心にどういう影響を与えるのか、わたしにはわからない。わからないから想像するが、おそらく想像は現実には及ばないものだろうと思う。
 その無力さにすごすごと引き下がることはたやすい。反して、想像力と体験を駆使して共感することはむつかしい。

 だが、春樹さんという方はそれをやろうとしたのだと思う。
「神の子どもたちはみな踊る」は好きな作品群だった。天災がどういう影響を人に及ぼすのか、そしてその体験はその後の人生にどう影響するのか。それを声に出して発する人もいるだろうが、それを分かち合える人に出会うのはむつかしい。真摯に共感できる物語があって、それが橋渡しとなった功績は大きい。
 テロ以降のアメリカで、この作品に共感する人も多いのだと言う。

 中越地震、スマトラ沖地震。天災は、人類の発展をせき止めるようにやってくる。
 無力になることはたやすい。
 自分を見つめ自分を描くことは、たやすくはないが、自分以外の人の為には行われない。結果として誰かに共感され、癒すことはできるかもしれないけれど。
 春樹さんはけっして他者を癒そうと思ったわけではないだろうけれど、それでもすごいエネルギーと想像力を駆使して共感しようとしたのだろうと思う。
 それが物語の力だ。

 物語の力もまた無力かもしれない。
 だけどわたしたちもまた無力な想像力で、物語を感じようとする。
 その無力なやりとりの繰り返しが、経済的な援助と変わらず、被災者の人々の心を復興させてくれることを願ってやまない。
 
posted by noyuki at 22:37| 福岡 ☀| Comment(2) | TrackBack(0) | 見て、読んで、感じたこと | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年01月16日

キャッツ探偵事務所3「カリントウ」7

yorrunomado


「でもね、ねーさん。わたしならカリンの家、見つけられるって言ったらどうする?」
 そう言ってSARAは不敵に笑った。
「どうして、これだけでわかるのよ」
「ほら、このBBSで話題になってるこの雑誌、ためしに買ってみてカリントウの写真を見てみた
わけ。ほら、カリントウって、カリンじゃないかって話でしょ。で、この写真、見ただけでビン
ゴ!」
「どういうこと?」
「後ろに映っているビル。この背景にこのビルなら、目黒通りと山手通り(環状6号)の交差点の
近くのはずだわ」
「そんな・・いくらあんたが天才的でも、こんな平凡なビルはどこにでもあるはずよ」
「大鳥神社の交差点。あそこはいつも渋滞してるの知ってるでしょ?」
 そういえば交通情報で大鳥神社の名前は聞いたことがある。大鳥神社付近、5キロの渋滞とか・
・・そういう感じだ。
「癖みたいなもんよね。渋滞で退屈したら、わたしはいろんな家や建物を見ているの。ああ、こ
こどんな構造になってるかな、とか、このあたりの建ぺい率はどれくらいかな、とか。どんどん
車が進んでいるときはそこまでないけど、渋滞してるあたりなら都内はだいたいわかるもんなの
よ」

 おそるべし、SARA。本業のスタッフにしていないのが惜しいくらいだ。
 こんな背景ひとつで場所が割れるなんて。おそらくカリンだって想像だにしていないだろう。
「でも。わたしはこのK.F.Cの手助けをしようなんて思っていない。名前を売る気もないし、見返
りも何もないわ。それに、カリン=カリントウはあくまで仮説で、まだ決まったわけじゃない」
「仮説をまずたてて、それを証明していく、数学の基本だわ。ねえ。ねーさんの名前は出さない
から。わたし、カリンのこと調べてみてもいい?」
「いいけど・・・どうして?」
「わたしと変わらないくらいのナイスバディ、それにこのコスチュームの趣味。正体をぜったい
に明かさないなんて。おもしろいじゃない? なにかをやるのに目的なんていらない。ただ、知り
たいだけ、それでいいじゃない!」

 それがSARAの豊かさなのだとYUKIは思う。
 時間が有り余っているという意味ではない。意味もなく知りたいこと、やってみたいことが彼
女の中にはやまほどあるのだ。
 そのまっすぐな好奇心に、いつもわくわくさせられるのをYUKIは否定できない。その好奇心が
いつも新たな世界を連れてくることも、YUKIはすでに知っている。

「やってみたら? SARA。探偵ごっこね。キャッツの鼻を明かしてやりなさい。だけど、わたし
は関係ないわ。あんたがひとりでやること。もちろん、興味はあるからいろいろ報告してほしい
けど。あくまでわたしの名前は出さない。それでいいんだったら、応援するわ」
「やったー、さすが、ねーさん」

 それじゃ、さっそく・・・そう言ってSARAは羽ばたく鳥のように玄関を飛び出していった。
posted by noyuki at 22:47| 福岡 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | キャッツ探偵事務所3 「カリントウ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年01月15日

キャッツ探偵事務所3「カリントウ」6

タイトル「事件発生!」
本文 ; みなさん、大変です。誰かがカリンcの正体の調査を依頼したという噂。都内のキャッツ
探偵事務所が捜査するようです。

返信; 許せないっす。K.F.Cの規約違反です。カリン様が自分から言わないかぎり、その正体を
探さないって誓ったじゃないっすか。(〜=〜#)

返信 ; てゆか、誰? そんなことすんの(怒)

返信 ; ここのメンバーじゃないかも。メンバーだったらお仕置き。

返信 ; メンバー以外の馬の骨にカリンcのこと拉致されるなんて耐えられない・・・どうしたら
いいのよ〜。

返信 ; 怪盗YUKIなら邪魔してくれるかも。

返信 ; あのー。怪盗YUKIって?

返信; 怪盗YUKIはキャッツ探偵事務所の天敵だよー。いろんなとこでキャッツ対決してるってい
うし。そ、あの人なら邪魔してくれるかも。

返信 ; 邪魔するより、そいつより先にカリンcを探してもらった方がいいよぉーーー。

返信 ; それはダメ! 正体を知られたくないって意志を尊重するって言ったぢゃないか! ・・・い
や。でも、非常事態だからなあ・・・

返信 ; とにかく。怪盗YUKIさん。もしこのスレ読んでたなら、ぜひとも力を貸してください。
よろしくお願いします。(管理人より) 

 YUKIは頭が痛くなってきた。
 よくわからない日本語。なんなんだ、これは・・・
「SARAぁ。あんた、まさかこれを仕事の依頼って言ってるんじゃないでしょうね!」
「ああ・・まあ・・・依頼って言えば依頼みたいなぁ・・」
「馬鹿! バカバカバカ! わたしは探偵じゃないから、誰かを捜したりはしないの! それに、ギ
ャランティの話なんてこれっぽっちも出てないじゃない。お金にならない仕事なんて、するわけ
じゃでしょ!」

 そうか。SARAすら本当のわたしの仕事の中身は知らないんだ、とYUKIは思った。
 実際SARAに窃盗を手伝ってもらったこともあった。だけどあれは個人的に欲しかったボンテ
ージのコスチュームが欲しかったとき・・・
 わたしが仕事で盗むのは宝石。それもお金を洗うために利用された、被害届の出しようもない
ような宝石だ。外国人マフィアが無法な盗みをしている昨今、大店やデパートなんかターゲット
にしていられない。だけど、ここには依頼する組織があり、売り捌く組織もあるのだ。彼らのこ
とをSARAは知らない。 
 もっとも彼女には、そんなことなんか知ってほしくもなのだが。
posted by noyuki at 22:33| 福岡 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | キャッツ探偵事務所3 「カリントウ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年01月11日

キャッツ探偵事務所3 「カリントウ」5

「ねえさーん、ねえさーん、わたしよー」
 怪盗YUKIはチャイムの音に反応しない。新聞の勧誘もセールスにもけっして出ない。そういう
ふうにして自分の居場所を認識されるのを極力避けているのだ。
 宅配便が届くのもイヤなので通販でものを頼んだりはしない。郵便物もほとんど届かない。年
賀状というものはを最近見てないな、と、ふっとなつかしくなったりもする。

 チャイムに反応しないから声を上げているのはSARAだ。
 できれば声も遠慮してほしいのだが、まあ、そこまで神経質になることもないだろう、と思い
ながら、YUKIは扉を開けた。
「ふー、やっぱりいたのね。ひっさしぶりー」
「あんた、彼のとこに行ってたんじゃないの?」
「うん、今日はちょっと用があってね」
 SARA はYUKIのことをねーさんと呼ぶ。手下なんて作る気もないのだが、勝手に慕ってくれて
いる。それだけではない、建築関係の仕事をしていたSARAは場所を読むのがうまい。地図や外
見だけで状況をすべて把握できる。何よりこの住まいも、SARAはいろんなデータから自分で探
し当てたのだ。そんなSARAが仕事で役に立たないわけがない。
 だからムゲにはできないのだ。いや、そういう言い方は的確ではないだろう。ひとりでいるの
に慣れているようでも、自分はSARAを頼りにしているのだ。

「それがさあ、ネットで、ねえさんを探している人がいてね」
「仕事の依頼?」
「まあ、そんなもんかなあ」
「でも。ネットなんてわたし最近全然ご無沙汰だし、なんで、そんなの見つけられるのよ?」
「・・・彼が仕事行ってるとき、ヒマだったからさ。検索かけてみたのよ。それで知ったの。まあ、このサイト、見てみて」
 SARAがパソコンを立ち上げる。そしてたどり着いたBBSをYUKIに見せてくれた。
「K.F.C ?、何よ、これ」
「まあ、読んでみて」

 K.F.Cとは? --- 簡単に言うと、カリンさんのファンクラブです。
 カリンさんとは? --- ぼくたちの憧れのチャット界の女王。自由奔放でありながら、繊細な
一面を持つ女性。勝手気ままに振舞っているようで、ぼくたちの欲望の世話を最後までしてくれ
る優しさをも持っている女性です。
 
「このカリンって女の子のファンクラブがわたしに何の用なのよ?」
「まあ、ゆっくり読んでみて」

 BBSをスクロールしながら状況を読むというのは案外つらいものだ、とYUKIは思いながら、そ
のページを読み進めていった。
posted by noyuki at 21:22| 福岡 ☀| Comment(6) | TrackBack(0) | キャッツ探偵事務所3 「カリントウ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年01月10日

ジュ パンセ ドンク ジュ シ (綴りが思い出せんとです!)

 わたしが持っているおもちゃの中で、一番さいこーのおもちゃはわたしの脳みそだ、と、思うことがある。
 本は読んでしまったら終わるし、映画も見てしまったら終わる。
 そのあとに、その世界でいつまでも遊ぶのは脳だ。
 悲しいことがある、絶望したいことがある。それを言葉に変えたり、もっと楽しいことに変えたり、そういうふうに変化させるのも脳だ。
 
 なんのために生きるか、なんて久しく考えてなかった。
 もっと些細なことに囚われて、囚われることから逃れようとして、ある日、そういうふうにしながらも、ああ、こういうふうにとりとめもなくいろんな事が去来して「感じていること」が生きている意味なんだなと、ふっと思った。
 それがどこか別の結果とか、解脱とかに行くこともあるかもしれないが、とりあえずは、ずっと繰り返しいろんなことを考え、そして感じてゆくのだろう。

 我思う、ゆえに我あり、ってのは、思っていることが自分が存在している証だ、と単純に考えていた。
 思うことは深い、深くておもしろくて悲しくて、そして変化しながら自分を別の場所まで移動させる。
 そういう作業をしている自分の脳みそが、たまらなく愛しくなるときがある。
 
 それが、生きている意味だとも思わないし、もっとも意味なんてないのかもしれないけど。
 それでも、さいこーのおもちゃは、尽きることなくいろんな場所にわたしを連れてゆくのだ。

 杞憂も、答えのない不安感も。
 みんな、何かに変わるために、わたしの脳の中で変化し続ける。
 そういうふうに考えると、非生産的な日常も、わたしの中ではとても生産的なもののように思えてくるから不思議だ。
posted by noyuki at 21:16| 福岡 ☁| Comment(4) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年01月08日

パセリ

 パセリの好きな男だった。わたしもパセリが好きだった。
 みんなで何かを食べるとき、男は付け合わせのパセリを好んで食し、わたしもその隙間をぬうように、大皿のパセリを口に入れた。
 あんなにパセリを食べた時期はなかった。
 男の真似をしたかったのではない。男が何かをすべて手に入れるのがイヤだったのだと思う。
 だって、わたしが気づかなければ、パセリはすべて男のモノだったのだから。

 わたしたちは少しばかり見栄っ張りで。
 友達と集まるときは、びっくりするようなおしゃれなバーに行くのだった。
 いつも知らない人がきていた小さなパーティ。そういう場所でわたしたちは雄弁になり、いつもよりか無敵になる。
 酒の強い男はウォッカを好み、わたしはその隣で、その匂いだけで気持ちよくなり。
 男はカラダに針を刺すのが得意で。わたしの首筋や指のあいだに細い針をつきたてた。
 照明の暗いバーの中で。わたしたちはそんな遊びに興じては、笑い声をあげるのだった。
 笑いすぎた夜には、何の痛みもなかった。

 ゆらめくウォッカの匂いの中では、わたしは何も欲しなかった。
 誓ってもいい。
 欲しかったのは、男がすべて占領しようとする、おそらく使い回しの乾燥したパセリだけ。
 アルコールの海の中には重力がなかったから。
 わたしは「重たいもの」を持たなくてすんだから。

 男と一緒にいるときは、いつも海の中にいるべきだったのだ。

 アスファルトの道をふたりで歩いたとき、重力に耐えられなくなったわたしは声を上げて泣いた。
 ここは重たすぎる。この場所は。この男は。わたしの欲するものは、みんなみんな。重たすぎて。耐えられない。

 男と一緒にいるときは、いつも海の中にいるべきだったのだ。

 そうしてわたしは。
 乾燥したパセリ以上のものを、男から搾取しようなんて思うべきではなかったのだ。
 
posted by noyuki at 22:51| 福岡 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩とか短文とか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年01月07日

キャッツ探偵事務所「カリントウ」4

「確証はないけど、そういう噂ですね。カリン=カリントウ。でもカリンは、カリンの名前でネッ
ト上に写真を投稿したこともないし、カリントウもネットにはいない。だから、あくまで噂なん
です」
 そっか、ほんとうのことなんて誰も知らないんだ。
 スギはそう思うと、とても不思議な感覚に襲われた。ファンサイトができるほどにいろんな人
に愛されている女性。なのに誰も彼女の実像を知らない。
 ふつう、それだけ有名になったら、もっと自分を誇示したいと思うのではないだろうか? だけ
ど彼女にはそういう気持ちすら持ち合わせていない。知られたくないのだろうか?
 
「とにかく。その2ショットチャットというところがどんなとこなのか知りたいわ。スギ。依頼人
から教えてもらったところを、わたしにも見せてくれない?」
「いいよ、いくつかあるけど。実はわたしもそういうとこ、行ったことなくってね。わたしは実
物の人間にしか興味がないタチだから。峻ちゃん、アドバイスお願いね」
「いいですよ」
 スギがメモした用紙から、ひとつのURLを選んで入力した。薄いピンク色の背景にいろんな文
字が書かれた画面が現れた。女性の顔写真が並んでいるが、特に毒々しい印象というわけではな
い。地域を選択してください、というメッセージがある。
「依頼人は東京近郊で入ったって」
「たとえば、北海道の人が東京近郊を選ぶこともできるわけ?」
「できますよ。ふつうは出会いが目的だから自分のいる地域を選ぶんです・・・あっ、そうか・
・・」峻はちょっと考えてから言った。「カリンは出会いが目的ではないから、別の地域を選ん
でいる可能性もあるんですね。まあ、とにかく東京で・・・」
「よし、入るわよ。峻ちゃん、名前貸してね。28才、渋谷区、ネットカフェからです、近くにい
る人いませんか? なんてメッセージ、どう?」
 横で見ていた雅子が頭を抱えた。まったく、どうしてこんなにすらすらとウソ八百を並べられ
るんだろう・・・
「あとは誰かが入ってくるのを待つんです。いま、男性の入室待ちがけっこういますよね。僕た
ちも入室待ちになっているけど、すぐには女性が入室しないかもしれない」

 みんなで画面を見つめて待った。
 なかなか女性が入ってこない。そっか。男の人って、こんなふうにじっと待ってるんだな、と
思った。
 そのうちスギは、峻の名前の横に、プロバイダ名やらいろんな数字が並んでいることに気づく。
「ああ、ウチはyahooBBだから、そう出るのね。そのあとに記号や数字があるわ。この数字から
相手を特定できたりはしないのかしら?」
「ハッカーとかだったらできるかも。でも僕はできません。たとえば、地方限定のケーブル局と
かを利用していたら地方くらいはわかるだろうけど、全国規模だったら無理ですね」
「カリンはどうなのか、わかんないの? 」
「ごめん、そこまで聞いてなかった。でも、聞いててもどうしようもないだろうけど」
「僕もそう思います、もっともちょっと変わったプロバイダ名とかだったら、依頼者も覚えてい
たと思いますよ」

 などと言ってるうちに、いきなりメッセージが入った。
「渋谷から30分くらいのとこにいるよ」
「こんにちは・・ヒマですよ」と、峻ちゃんが打つ。
「会っていいよ、誰に似てる?」
 う・・・峻の手が止まる。貸してごらん、と、スギが横から打つ。
「香取慎吾が少し痩せたかんじ」
「お金ないんだ、援助してくれる?」
「ごめんなさい」
 そこで女の子は退出した。

「え・・・何、これ? 挨拶もなしに消えちゃうわけ?」
「こんなもんですよ、お互い会ったこともないし。向こうにしてみれば、早くオチて次を探した
方が早いし」

 こんな場所で・・
 カリンは、こんな場所で、自分の存在を鮮やかに主張してるんだ。
 いったい、カリンって何者なんだ?

 とんでもない世界に来てしまった、と、スギは思った。
 
posted by noyuki at 22:18| 福岡 ☀| Comment(10) | TrackBack(0) | キャッツ探偵事務所3 「カリントウ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年01月05日

キャッツ探偵事務所「カリントウ」3

「お待たせしましたー、毎度ですー」
 クリーニング屋の峻ちゃんがやってきたのはその10分後だった。あいかわらず地味なカーキ色
のジャンバーを着ている。ちょうど近くを回っていたのだと言って、ちょっと汗も滲んでいる。
 ああ、労働とは、このように額に汗して働くものなのだなあ、とミケコはしみじみと思った。

「それで、クリーニングはどれを?」
 そうだった、急いでクリーニングして欲しいものがあるからとスギが呼びつけたのだ。
「ああ、今、雅子が着てるセーター、ほら、猫の毛がいっぱいでしょ、あれをね、脱がせてすぐ
に・・・」
「こらこら!」
 などと言っているうちに猫のダイがすばやく峻ちゃんに飛び乗る。そのダイを抱いた峻ちゃん
を、ミケコが椅子に座らせる。
「まあまあ、ちょうどコーヒーが入ったのよ、おいしいコナコーヒーなのよ」
「あ、でも、すみこが・・・」
 と言いながらも、峻ちゃんはミケコの出したコーヒーを口にした。断り切れない性格なのだ。

「話はだいたいわかりました」話を聞き終え、コーヒーを飲み干してから峻ちゃんはそう言った。
「それで、もしかしたら、その女性の名前はカリンって言うんじゃないですか?」
「どうしてわかるの!」
 スギが驚く。
「有名なんですよ、チャットのカリン。入室待ちはしない。誰か男性が待っているところに入っ
てくる。けっこう積極的にエッチなことを喋って、うまくいけばテレフォンセックスみたいにし
てすごいことになるんだけど、連絡先は教えない。誰とも会おうとしない。彼女が利用している
サイトはいくつかあって、そこで待っているファンも多いんですよ。カリンさん、待ってます、
なんて書く男も最近は数人いるけど。そういう指名をする男性よりも、知らないところにふらっ
と入ることが多いみたいですね」
「じゃあ、もしかして、峻ちゃんもカリンとチャットしたことがあるの?」
「いや・・・僕はそういうことはしないから・・・」
「だったらなんで知ってるのよ!」
「ああ。どっかのBBSで話題になったんですよ。たしか、ファンサイトがあるって話も聞いたけ
ど・・・調べてみましょうか?」
 素晴らしい! 蛇の道はヘビっていうヤツだわ、とミケコは思った。自分にはまったく縁のない
世界なのに、こんなに有名な人がいるなんて、インターネットって侮れない。

「ね、峻ちゃん。この写真、ちょっと見て」
 スギはさっきまで読んでいた投稿写真を差し出した。下着姿の女性が顔を隠して映っている。
写真を通してまでも、その肌の透き通る白さが伝わるようだ。
「カリントウ、ですね」
「依頼者が置いていったものなの。カリントウって、カリンだっていう噂らしいんだけど、本当
なのかしら」

***

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posted by noyuki at 22:28| 福岡 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | キャッツ探偵事務所3 「カリントウ」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする