2005年06月28日

「私という運命について」白石一文・角川書店

 白石一文さん、どれを読んでもけっこうおもしろい。結果、文庫で買う作家さんだったのがハードカバーで読む作家さんに昇格していった。
 この「わたしという運命について」はたぶん最新版。
 最初の恋人と別れたのちに、恋人の母親の「あなたへと繋がる運命の糸が見えていましたのに」という手紙の存在を知った主人公の亜紀。その亜紀のその後の運命についての物語だ。

 恋人とつきあうとき、どの人も運命のように思えてしまうのはわたしだけだろうか?
 他方で、運命の糸が繋がっているという他者の表現はオカルトじみたもののようにも思っているのも否定できない。
 だけども、物語の中では複雑にいろんな運命が絡み合っている。亜紀を慕う明日香はその要のような少女で、彼女をきっかけにまわりの人間の運命がいろいろと変わってゆく。そうして亜紀自身も、「煙草」をキーワードにしてまた元の運命の恋人に戻っていくことになる。
 それは、「これが運命だ」という一本の明確な筋というものではなく、複雑に絡み合って、悪い結果と考えていたものが好転したり好転したはずのものが暗転したりで。そういう絡み合った長い物語を読んで、「やはり運命というものに司られたわたし」というものを感じずにはいられなくなる。
 その淡い感触を、しっかりと胸の中に置いていってくれる作品だと思った。

***

 さて。それでもケチつけてみようのコーナーです。
 本書のすばらしさにも関わらず少々長くなりますが、ご容赦ください。

 リアリズムについて考えてみました。「半島を出よ」はリアリズムが生きている小説です。あれは固有名詞なしではおもしろさも半減することでしょう。
 だけど本書の中では、早稲田、慶応、NTT、東京電力、そういう冠を登場人物につけることによって限定されるものもあるのではないかと、ちらっと考えてしまったのです。歴史的なニュースと絡みながら物語は進んでいきます。若き頃の田中角栄さんのエピソードもでてきます。そうすることで、自分の年代と物語を重ね合わせることだってできます。

 とちゅうで、登場人物たちは久留米にラーメンを食べに行きました。
 ここで、おや、という違和感が。

> 白竜軒は久留米市街から十分ほど大牟田方面に走ったところにあった。近くには九州最大の一級河川である筑後川が流れ、店は大きな橋のたもとにたっている。(本文より引用)

 久留米から大牟田方面に走って十分で筑後川は? 福岡方面から来ると、久留米の十分手前で筑後川を渡り、そこから久留米市内に入るのです。

> (その筑後川の土手の描写で)、中略・・・太い川筋が、遠く阿蘇の山々の連なりまで大きくうねりながら伸びていくのが見えた。

 久留米市内の川から山々の連なりが見えても、それは、みのう連山で、阿蘇の山々とは別のものではなかと思われます。もし、阿蘇の山々が見えるとすれば、そこはもう大分県ではないでしょうか?


 昔、リアリズムについてこういう話を聞いたことがあります。
「たとえば、村上春樹がフォルクスワーゲンの運転席について描写したとする。その計器の位置が実際のものと違っている。それを指摘する人もいるのかもしれない。だけども、そのことが小説の質を損なうだろうか? 村上春樹の物語というフィクションの中では、フォルクスワーゲンの計器はそのように並んでいるのだから、それを指摘するのは愚かなことなのだ」と。

 その説にはいまだもって異論はありません。小説はフィクションなのだから、筑後川が久留米と反対方向に流れてたって、小説の質を損なうことはもちろんありません。むしろ、久留米という旧知の町がここに登場したことは嬉しくもあります。

 しかし、リアリズムから、ひとつの世界を描こうとした作者の意図は。
 少々損なわれたのではないかと思わないではいられません。
 そのことに関しては非常に残念だと思っています。

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posted by noyuki at 12:16| 福岡 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 見て、読んで、感じたこと | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月26日

秘密

 日曜の夜にケイタイ電話が鳴る。着信に見覚えがある。知り合いの一人だ。

「こんばんわ、今、いいですか?」
 あまり親しく話すほどに友達ではないが、彼女のこういうところが好きだ。若いのにきちんとした言葉遣いときちんとした考え方。良家に嫁ぎ両親と同居している人特有の気遣いを持っている人というのが彼女の印象だ。

「あの、アパート、いま、空いてますか?」
 それだけ言うと、彼女はとても静かに電話口で泣きはじめる。
「空いてますよ、すぐに入居できる部屋があります」
 そう言うと、すぐにでも見たいという。
 明日、幼稚園に子供を送ったら、その足で来るというので、その時間にカギを開ける約束をして電話を切った。
 いつも挨拶してくれる人なつっこいご主人と、元気のいい子供、そして上品なご両親の顔を順番に思い浮かべた。
 その中に深刻な秘密が隠されている、というふうには考えないようにする。おそらくどこの家庭でもそうだ。普通の生活の中で普通のやり場のない軋みが生まれる。
 問題は。そのやり場のなさを持っていくための場所があるかってことだ。

 義父母が残した4階だてのアパートには、ひとり暮らしの大学生や離婚した女性などが入居している。
「そんなところを、隠れ家に一部屋持っていたらいいんだけどね」なんて冗談まじりに言う友達もいるし、わたしだってそう思うことがある。
 そうして、これまで何度か、知り合いからそういう類の相談も受けてきた。
 そのたびに、いつでもいいよ、と言うのだが、それで入居した人はひとりもいない。
 彼等、あるいは彼女たちは、もっと深刻な状況になったらここに来ればいい、と思うことで安心するのだ。

 即入居できるようにわたしの名前で電気料を契約している部屋がひとつだけある。水道も流れているし、簡単なガスコンロさえあれば、ガスも開通する。
 契約をあとでするようにすれば、明日の午後から生活することだってできるはずだ。
 そう説明して、彼女にカギを貸してみよう。

 だけど、たぶん彼女は契約しない。
 それでいい。
 そういうふうにして、どこか別の場所で生きていくかもしれない自分を何度も想像して、そのつらさと家族を天秤にかけて、それで戻っていてくれれば、それで十分だと思うことにする。

 そうしてわたしは彼女の秘密を忘れ、また今までどおりに接していくのだ。

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posted by noyuki at 22:48| 福岡 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月21日

Musical Baton

cd.jpg

よくはわからないけれど、流行っているらしい。
MUSICAL BATON
意外に音楽とかに対する思い入れが薄い人間だと思う。これをずっと聞いていれば幸せという感覚もあまりない。
だけどそれは比較の問題で、活字ほど繊細に気をつけて接していないが、嫌いということではないと思う。
逆に、思い入れのない人間の心にひっかかるという作品は大変な傑作とも言えるんじゃないだろうか。
というわけで、いただいたBATONを有益に使えるかそうかは 別として、とりあえず書いてみます。

* Total volume of music files on my computer (コンピュータに入ってる音楽ファイルの容量)
 ITUNEを見てみましたが、わかりません。30曲くらいは入っていると思います。主に友人がメールで送ってくれたもの。あと、家族が勝手に入れたもの。安室奈美恵のCDがまるごと入っていたのには驚いた。

* Song playing right now (今聞いている曲)
 スピッツの「リサイクル」。ベストアルバムを「再生利用」と命名する感覚がおもしろかった。仕事で車を運転する際に聞いている。スピッツの歌はのんびりしてるんで、仕事がタイトでもあんまりきりきりしない。

* The last CD I bought (最後に買ったCD)
 あまり買わないけど、井上陽水の「歌にさそわれて」というシングルCDを買った。
 これは地方の西鉄バスのCMソングに使われているもの。福岡駅でよく流れているので、つい買ってしまった。西鉄の売店で500円。

* Five songs(tunes) I listen to a lot, or that mean a lot to me (よく聞く、または特別な思い入れのある5曲)

1・しげとくまのロマのうた --- 最近ライブで聞いた熊澤洋子さんのバイオリンのCD。東欧・バルカン音楽って言うんだろうか、走るようなバイオリンと深い湖のような音色に感激。
だが、うっかりCDを買うのを忘れてしまい後悔している一枚。よってまだ、聞いたことがない。(写真のCD)

2・ カルミナブラーナ --- これは歌曲? オペラ? オフで会った友人からプレゼントされた曲。雨が降るとなぜかこの曲を聴きたくなった。もう何年も前のことで、今は手元にない。梅雨なので、また聞きたくなってきた。探してみようか。

3・「奥歯をくいしばれ」サザンオールスターズ --- かなり初期の作品。昔、同じタイトルの詩を作ったことがあったが、なぜか保存場所が見つからない。恋を失ったその日に作った詩だった。悲しくてピアノを弾きながら、その詩を思いついた。この曲を聴くと、たぶんすべてが重なり合うに違いない。

4・「長い夢」YUKI --- じっくり聞いていない。聞くと泣きそうだから。好きな曲ってそんな感じだ。聞く必要がない。頭の中のイメージだけで保存して、ときどき頭の中でその世界に浸りこむ。

5・「スローバラード」RCサクセション --- 満月の夜に男はボトル1本のワインを飲みほした。それでキーを渡され、わたしが車の運転をすることになった。
 他人の車は運転しづらい、微妙な要領がわからない。おまけにそこは、わたしの行ったことのない遠方の店だった。
「ね、お願い、音楽のボリュームを落として。運転に集中できないから」
 というわたしの言葉に最初男は従っていたものの、気持ちのよい酔いにまかせて音量はしだいに大きくなる。しまいには、窓全開の大音量のまま車は国道を走り抜けた。
 だんだん気分が乗ってきて、「スローバラード」がかかったとき、わたしたちは大声で歌いはじめた。ほろ酔いの非日常に、川面の菜の花が揺れた。
 わたしたちは、車の中で毛布にくるまったりはしなかった。ふたりっきりの密室で、一晩中切なく見つめあいながら眠ったりもしなかった。
 終電の時間を気にしながら、駅で運転を交代して別れただけだ。
 だけどもあの瞬間、たしかにわたしたちは市営グラウンドの駐車場にいた。
 朝がくるまでの短い時間、たしかにわたしたちは小さな車の中でまどろんでいた。
 そうして、その時間は間違いなく、(現実に)わたしたちの至福の瞬間だった。

* Five people to whom I'm passing the baton (バトンを渡す5人)

メールで送ります。メールが来た方はよろしく〜。

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posted by noyuki at 11:59| 福岡 | Comment(4) | TrackBack(4) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月18日

もうひとつのフォーカス

image/noyuki-2005-06-18T15:40:48-1.jpgもうひとつのフォーカスが、自分の中にあると知る。
それは裏切りでも矛盾でもなく、等しくわたしの中にある。
わたしよ、一枚の写真のように、もっともっと平らかになれ。
乱れた風に枯れることなく、見えない焦点を抱けるように。
posted by noyuki at 15:40| 福岡 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月14日

撮り忘れ

歩いてきた道のとちゅう
大切なものはみんな撮り忘れてきた。
たまたま誰かが写真に残してくれたものは
みんなどこかへ行ってしまった。
大事にしてないわけではないのに。
神様が隠したみたいに消えてしまう。
もう、いいでしょ? って。

ふたりで見つけた、地面のつなぎ目。
ほら、ここまでがわたしの過去。ここから先が未来。
そのつなぎ目を、ふたりで用心深く渡ったつもりなのに。
海をわたるバスに乗ったあと、道がふたつに分かれてたなんて気づかなかった。

ライカが撮ったモノクロのわたしたち。
あの微笑みを永遠にしまいこまなくてよかった。
あなたにあげたあの写真は、新しいあの人がもう処分してくれた?
それともまだ、懐かしい部屋の片隅で埃かぶっている?

テーブルの目の前、わたしの携帯電話を弄ぶ君。
着信に並ぶ君の名は、すぐに消えてしまう宝物。
いま、ここでふざけて一枚撮ることだってできるし。
現像しない気安さで、フェラしてる自分の顔を残すことだってできるのに。

そのときはいつも忘れてしまうんだ。
この空気を、両手ですくい上げることに夢中で。
何ひとつ、とどめてはおけない。

だけど。
写真だって記憶だって、たぶん、いっしょ。

ゆるやかに希釈する水槽を眺め。
潰れる泡のような、いくつもの小さな死を。
確認し続けるという意味において。

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posted by noyuki at 15:49| 福岡 | Comment(0) | TrackBack(0) | 詩とか短文とか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

この場所を好きになるための小さな方法

「明日、学校に行ったら、ハルナに教えてあげるんだ。学校を好きになれる方法を」
 洗い髪をバスタオルで拭きながらナツミがそう言った。
 
 日曜日の夜、わたしたちは大人も子供も集まって大騒ぎをしていた。大人は水びたしになるくらいのビールを飲み干し、子供たちはみんなで公園に出かけ花火に興じた。
 いつのまにかすっかり暗くなってしまったので、あと片づけをして家路に向かった。その時に、靴を履きながらハルナがぽつんと呟いた。
「ああ、もう日曜日の夜なんだね。日曜の夜がいちばん嫌い。明日、月曜なんだなあって思うから」

 ハルナは不登校予備軍だ。休みながらもなんとか学校に行くが、授業中にひとりで泣いたりしているらしい。現在カウンセリングに行くための病院を母親が探しているところだ。

「大人もね、日曜の夜が大嫌いなんだよ。ああ〜、明日から仕事だって思うから、ハルナもおんなじなんだね」
 わたしは少し身を固くしてそう言う。
「そうそう、大人だって一緒。ハルナだけじゃないんだよ」
 ハルナの母親もそう言うが、ハルナは大きな目を足元に落としたまま、けっして顔を上げようとしなかった。

「ねえ、ナツ。学校を好きになる方法ってどんなの?」
 洗い髪を櫛で解きはじめたナツミに尋ねてみた。
「あのね、好きな人を作るの。学校の中に、ひとりでもいいんだよ。そうしたら、その人と話したくなったりするでしょ。学校に行けばその人と会えるの。そうしたら、他にイヤなことがあっても学校に行くのが楽しくなるの」
 男の子を好きになってもいいし。すごく気の合う友達を見つけてもいい。休み時間にその人と話せると思ったら、案外学校って楽しいもんなんだよ、ってナツミはつけ加えた。

 ほんとにイヤな時は、カラダ全体がこわばって何もかもシャットアウトしてしまう。
 イヤということを自分で認めることも大変だけど、認めてしまった時点でどうにもならない状態になることだって多い。
 それを解きほぐすのは、ほんとうに時間のかかるものなのだ。

 そのことを知っている分、それは単なる気休めにしかならないかもしれないとも思うけれど。
 きっとナツミ自身も、こう思うことで馴れない学校を好きになろうとしてきたのかもしれない。

 経験から発せられる言葉はいつも、硬質でまっすぐに輝いている。
 その言葉の輝きに触れて、今夜はちょっと泣きそうになった。

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posted by noyuki at 14:22| 福岡 ☀| Comment(3) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月08日

投稿

image/noyuki-2005-06-08T14:23:30-1.jpg今日はメール投稿の練習です。
昔、こんな実でジュース作っておままごとしていたな。
posted by noyuki at 14:23| 福岡 ☁| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月05日

携帯から

やっとここまできた。写真入れるにはどうしたらいいんだろう
posted by noyuki at 14:22| 福岡 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月04日

映画「電車男」初日に見てしまった

 待ち遠しくて初日に駆けつけたというほどではない、本が気に入っていつか見たいと思っていたら、たまたま今日行けた、というくらいだった。

 はからずも泣いてしまった。隣の女の人なんか後半ほとんど泣きっぱなしだった。反対の隣の人も泣いてた。電気がついて出てきた二人連れも「なんか、泣いちゃったね〜」と言っていた。
 泣ける映画だったのだ。

 あまりにも有名な話なんで、ストーリーを書く必要もないけれど。
 オタクの感じがいい、すごくいい。2チャンネルの書き込みも最初は数人なんだけど、ひとりひとりの人生が垣間見える。

 前に本を貸したとき、「で、この話のどこが泣けるっていうの?」って聞かれた。
「最初のね。(めし、どこかたのむ)んとこでウッとなって、告白したときなんかAAの嵐でしょ? あれでまた感動するのよ」
 と言ったら、不思議そうな顔された。

 この世界に生きている人にはわかりやすく、そうでない人にはわかりづらい世界なのかもしれない。
 だけど、たとえネットになじみのない人でも、この映画で感動してくれると嬉しい。現実では会ったこともない人と繋がりあいたいというのは、幻想とか現実逃避も含んでいるかもしれないが、それでも魂の繋がりなのだ。
 ネット界の人々は、往々にして現実に弱い。
 (電車)もまたそういう男だし、現実をうまくクリアできない。
 応援するネット友も現実をクリアできない者ばかりだ。
 だけど、(電車)が現実をクリアすることを真摯に誰もが望んでいる。まるで運動会の声援のようにまっすぐに「ガンバレ」の言葉が届く。
 そうして、ガンバレが(電車)に届いたとき、その声援のあたたかさが、すべての人に還ってくる。
 おとぎ話のようなシンプルな話だ。

 ネット依存症のひとりとして、自分の居場所のにおいが伝わってくるのも嬉しい。
 この映画を見た人には、ネットもオタクも、ぜんぜん悪いばかりのものには見えないと思う。
 犯罪という側面で見られがちだったものが、ガラリと変わる1作。
 今日はひさびさに2ちゃんねるを見てみたくなった。

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posted by noyuki at 22:36| 福岡 ☁| Comment(8) | TrackBack(0) | 見て、読んで、感じたこと | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする