2006年01月19日

君のような月

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夜に車を運転してると、左前方に大きな満月がありました。
東に向かうメインストリートの両はじの景色はどんどん変わるけど。
デパートが郵便局になってイタリアンレストランの看板が教会の入り口になろうとも、信号が青に変わって急発進させてみようとも。
ずっと視界のすみっこの満月だけはいっしょに走ってゆくのです。

君のような月だと思いました。

カタチが変わっていろんな印象に見えるところも気分の塞ぐ雨の日にはけっして見えないところもずっとそこにあるはずなのにうっかり存在を忘れてしまうところも。

みんな含めて、君のような月だと思いました。

いつかは消える存在であることは君もわたしも変わりなく、長い年月をのぼってゆけばその月もまた存在しなくなるものかもしれません。
今だって、この信号が変われば今度は右折して、すぐに月は見えなくなってしまうのです。

しかし、君のような月だと思った記憶は。
つぎに月を見る日も何年も先に月を見る夜も月の見えない夜にも。
永遠のように脳細胞の片隅に残ってくれるような気が今はしているのです。


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posted by noyuki at 15:23| 福岡 ☁| Comment(4) | TrackBack(0) | 詩とか短文とか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年01月07日

よしもとばなな「なんくるない」新潮社

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 ともだちのモモコちゃんは何年か前に離婚して、そのあと突然に沖縄のどこか遠くの島に引っ越してしまった。
 どうして沖縄? と思ったけれど、モモコちゃんにはモモコちゃんの思うところがあったのだろうし、何よりも離婚に関してはいろいろとイヤな事があって大変だったと人づてに聞いていたんで、わざわざ連絡もしなかった。
 心配はしてたけれど、心配してたのと話を聞きたいのとは違う。モモコちゃんはすごく頭のいい子で、こういう事は自分の中できっちりケリをつけるまでは話したくないだろうと思ったからだ。

 そんなモモコちゃんから、久しぶりにそっちに行くから会わない?という連絡がきた。
 わたしはモモコちゃんが用事で泊まったホテルまで会いに行って、わたしの車で遠出して、城跡の公園を散歩しながらいろんな話をした。
 沖縄で仕事を見つけて5年になるとモモコちゃんは言った。あんまり給料も高くないんだ、でも物価も安いし、野菜とか青空市場で買って自炊してるから生活していけるの。お昼だってね、いっかいウチに帰ってから食べるんだよ。
 さみしいともすごく楽しいとも言わなかったけれど、モモコちゃんはけっこう大丈夫なんじゃないかと思った。
 だから、ねえ、あんなに仲良かったのにどうして別れてしまったの? とわたしは尋ねた。
 モモコちゃんはそのことについて話してくれた。その人のことを嫌いだったわけじゃなかった。だけど、その人は別の人と愛し合うようになって、それで別れてしまったんだと言った。相手の女の人も知り合いだったの、だから、すごくショックだったんだよって。
 ほんとに大変だったんだなあ、でも、沖縄のずっと南の方の島でひとりで生活してるモモコちゃんは、わたしから見たらすごくしっかりした感じに見えて、月日がたって本当によかったなあって思った。

 島に帰ったモモコちゃんから数日してお礼のメールが届いた。こんなことが書いてあった。
 つきあってくれてありがとう、あの日、のゆきちゃんが帰ったあとホテルの下のお店で大好きなブーブクリコを飲んで寝ました。それでね、次の朝、わたし泣きながら目が覚めてしまったの。びっくりした。あの人と別れてから何度もそんなふうに泣きながら目が覚めたことがあったけど、最近はそういうことなかったから。久しぶりに話したからかもしれないね、もう大丈夫だと思ってたのにね、わたし、まだダメだったんだよね。でも、会えてよかったよ。

 ごめんね、ごめんね、モモコちゃん。
 そんなに長い年月がたっても忘れられないくらいに悲しいことだって気づけなくって。わたしだって誰かと別れて悲しい思いしたことはあったけど、いつも半年くらいで忘れられてたから、モモコちゃんもそうなんだって勝手に思ってた。ほんとに気づけなくってごめんね。
 
 ねえ、モモコちゃん。最近よしもとばななさんの「なんくるない」って短編集を読んだの。
 その中のタイトルにもなってる「なんくるない」って話がすごく好きで、何度読んでも泣いてしまうの。「なんくるない」ってたぶん沖縄の言葉なんだよね、これ、離婚した女の人が沖縄に旅行する話なんだ。
 そんな話なんて読みたくないよね、だって、わたしはこれ読むたびにモモコちゃんを思い出してしまうくらいだから、細かいところは抜きにしてもすごく似た話だろうなって思うの。きっとわたしの何倍も泣いて、何度も泣きながら目を覚ましてしまうよね。
 だから「今すぐ読んでみて!」なんてぜったいに言えないけど、もし、いつか読めるようだったら読んでみて。
 このお話の女の人はすごく悲しい思いをして離婚してしまうけど、でも読んでいるとモモコちゃんの悲しみのもとの部分がわかるような気がするの。けっして憎みあうんじゃなくて、それでも人間の成り立ちとか好きな環境とか、もともとの考え方が違うだけで一緒にいられない人って、たしかにいるんだよね。それは、憎みあうよりかずっと悲しいことかもしれないけど、それでも、そのことがわかるだけでよかったって思えるような気がするの。何っていうか、わからなかった部分がほどけていくみたいな気持ちになれるんだ。
 よしもとばななさんって、ときどき巫女みたいな言葉を持った人だって思えるの。
 その言葉は痛くてつらくって仕方ないくらいのものかもしれないけど、でも今のモモコちゃんに必要な言葉なんだってわたし思ってるの。
 ほんとに。今すぐじゃなくてもいいから、いつかぜったい読んでみて。

 そうそう、大事なこと、忘れてた。
 このお話の主人公も「桃子さん」って言う人なんだよ。

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posted by noyuki at 22:30| 福岡 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 見て、読んで、感じたこと | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする