2007年11月07日

「幸福日和」角川 盛田隆二

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どうにもこうにも不安定で、ワインを飲み過ぎて酔っぱらってしまったり、男ともだちにわけのわからないメールを送ってみたり、ちょっとしたことで涙ぐんでしまったり、そういうふうに一日をすごしてしまってから気づいた。
 
そっか。わたしは別の人生を経験してしまったから混乱しているんだ。

良質の小説は読者に「もうひとつの人生」を経験させ、そのことによって読者は混乱した読後を送ってしまう。
「幸福日和」はまさにそんな小説だ。

出版社に勤める花織とその上司との恋の物語。
あらすじを言うとネタバレになるし、ああ、そういう話か、と思われるのもアレなので、びっくりするような展開をご自分で味わってほしい。
そうしてそのひとつひとつを真摯に捉えてゆく主人公たちの台詞が胸にせまってくるのを感じてほしい。

ふたりの恋はストイックだ。
誰かを傷つけることを怖れ、家庭を壊すことを嫌い、いくつかのルールを自分に課して、その恋は継続してゆく
そういう意味ではすべてを投げすてて恋を突き進む「夜の果てまで」の対極にこの物語はある。
ストイックとは抑えることではない。強い意志を持って自分の気持ちが散逸しないように維持してゆくことだ。二人の言葉のやりとりに、その強い意志と思いやりが溢れているのが、この物語りの一番の魅力だ。

しかし、どんなにストイックに「ゴールを望まないから、終わりのない恋」を望んだとしても、月日がたつにつれ、二人の状況は変わっていく。
どうにもならない状況の中で「人を傷つける選択」もしなければならない。
無常も弱さも傷つけざる得ない人生もすべて受け入れて、それでもいかなる打算にも逃げずに恋は最後まで貫かれてゆく。

ラストの展開に読者は救いを感じるが、はたして、すべてが終わった後にやってくるのが「幸福日和」なのかとふと考えた。
「わたしの恋にはゴールがありません、ゴールがないから終わりがないのです」という決意を、どんな物質的なゴールにも逃げずに強い意志で貫いた日々こそが、二人にとって幸福日和だったのではないのだろうか。

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posted by noyuki at 22:11| 福岡 | Comment(0) | TrackBack(0) | 佐藤正午系 盛田隆二系 話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする