2008年03月26日

侮ることなく世間を渡れ

滞納の多い店子さんがいよいよ半年分も家賃をためてしまった。
そのつど請求はしているし、保証人にも電話してるのに口ばっかりだ。

簡易裁判か少額訴訟をしようと思って裁判所に行ったら、まずは「内容証明郵便」をと勧められた。ところがその内容証明を受け取らない。留守(または居留守)で不在通知も無視されて、とうとう我が家に返送されてしまった。

滞納者の人たちは、こういう場合の乗り切り方の知識はとても豊富なようだ。
この調子だと裁判にしても出廷しないのではないか、とかいろいろ考えて結局「取り立て屋」を雇うことにした。

仕事で取引のあるところに紹介してもらったが、「あくまでコンサルティングであって、強制的な取り立てはしない」という。
その物腰の柔らかさが逆に威圧的にさえ思えた。

一週間もたたぬうちに、家賃の精算と、月末退去を約束させた。
その早さにはびっくりだった。

家賃のトラブルは「退去までしてもらう」か「家賃の精算だけをのぞむ」かで対応が違う。
「それを一番にきめなければいけない」と言われれて困ってしまったが、今回は、もう退去してもらおうと決めていた。

先月の請求に「なんらかの返答がない場合は退去をお願いします」と書いていたのだ。
書いたことは実行する。

「私どもが今まで相手にしてきた方たちに比べれば、ずっと常識もあり、ちゃんとした方でした」と、取り立て屋は言った。「数日中に必ず払う、たぶん保証人の方が出すんですようが、そう約束してもらいました」
それから「退去だけは勘弁してもらえないだろうか」と何度も何度もお願いされたのだと言う。
しかし、そういう約束なので、出てもらわなければ困ると言ったら、「分かりました、こういう状態だったのに、長いこと居させていただいてありがとうございましたと伝えてください」と言われたのだそうだ。

生活が傾くまでは、とてもちゃんとした人だった。
よく共用部分の掃除をしてくれていた。お礼を言うと、「ずっときれいにしておけば誰もよごさないから」と言ってくれていた。
だから、少々苦しい時があっても、がんばって払ってくれると信じて待っていたい部分もあった。

ひとりの人間の生活の場を自分の判断で取り上げるということで、ほんとに昨晩はいろんなことを考えた。

たとえば、請求書に書いた番号に電話して、あやまってくれたらどうだったろう?
今月は1万円しか払えないからそれだけでも、とか言ってくれたらどうだったろう?
交差点で会ったときコートのフードで顔を隠して逃げなかったらどうだったろう?
今月中にはと言われて待っていて結局払わなかった月がなかったらどうだったろう?

「そういうこともあるんで、ほんとに払うのか、退去するのか最後まで気が抜けないんですよ」と取り立て屋は言った。

とりあえず、わたしはひとりの人の生活の場を取り上げたけれど、それはやはり、世間とかわたし自身を侮っていたのだから仕方ないことなのだと思いたい。
その人自身を恨む気持ちももうないし。
これからは「侮ることなく世間をわたっていってください」と思っている。

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posted by noyuki at 21:31| 福岡 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする