そしてまたすぐに次を読むので、だんだんどれがどれだかわからなくなる。
歌うような文章にずっと浸っていたくて、またも次の作品に手を出してしまう。
困った。
これではどれがどれだかわからない。
そういうわけでこれは、記憶も感想も追いつかないスピードで読んでしまう自分のための備忘録。
* 人物のイメージ
文章がとてつもなくうまい。少しシニカル。だけど音楽が流れている。
時系列とストリーが複雑、重層のなかから何かが生まれるような感覚。
ハンディキャップト、何らかの障害、出生の問題、トラウマのある人が好き。そんな人たちの感覚の鋭さと特殊な能力、わたしたちと違う世界の見え方を愛している。
反面、悪を憎んでいる。なのに、あまりに巨大な悪、悪意は物語を叩きつぶそうとする。
立ち向かう、無力、立ち向かう、傷つく、それでも立ち向かう。その中になにかが生まれたり壊れたりする。
ひとことで言えば、おもしろくて魅力的。
* 重力ピエロ

レイプされた母親から生まれた弟の春と、その家族の物語。
母親はすでに亡くなっているが、家族の絆は強い。
それでも、遺伝子の違いというのは家族に深い影を落としている。春の巧妙な復讐。それに荷担させられる兄。予感しながらも心配することしかできない末期癌の父親。
平穏な毎日を送るのが困難なくらいに重たいものを背負って生まれる者たちが生きている。
その世界にはもちろん絶望が漂っている。
だけども伊坂作品では、絶望が強ければ強いほど、登場人物は強い絆を人と結びあっている。(これはどの作品にも共通しているように思う)
* アヒルと鴨のコインロッカー

あらすじだけ思い返してみると絶望するしかないくらいに、主要な人物は死んでいる。
巧妙な時系列の変化と、おどけた文章とあたたかいやりとりに救われているが、救いようがないくらいに暗い死の影が見える作品。
ブータンからの留学生、HIVキャリア、ペット殺し、そして犯罪に巻き込まれる女子大生。
どうしてこんな重荷をみんな背負っているのかと思ってしまうが、その中で、淡い恋をしたり愛すべき人物であったりすることの「当たり前であることのすごさ」がにじみ出ている。
現代が巨大な悪意でしかないならば、わたしたちは「伊坂の物語の人物のように」生きることを指針にしてもいいかもしれない。
* ゴールデンスランバー

ケネディ大統領の暗殺をモチーフにした、日本の首相暗殺事件。その「犯人」の濡れ衣を着せられた青年の逃亡劇。
昔の友人も同僚も、誰を信じていいか分からない、どこにトラップがあるかわからない状況の中を逃げる。
そのとちゅうで知り合った人々を信用し、ときには偽の情報をつかまされ、それでも逃げる。
それでも誰かを信じ、それでも誰かを頼り、青柳雅春は逃げる。
いくつもの伏線やどんでん返し以外にも楽しめる要素はたくさんある。
すごくおもしろいエンタティメント。だけど、痛快さだけではない。
どんなに無力になるしかない状況であっても、現代という世界がそういうふうにしか見えなくても、登場人物たちは「すごくまとも」だ。「狂うしかない状況でも、すごくまともに生きてゆく」伊坂幸太郎のファンは、そういうまっすぐに通った芯を、同時代の自分に重ね合わせる幸せを共有しているように思う。
(伊坂幸太郎の備忘録その2につづく・someday)
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