小さなパソコンを買ってドラゴンと名前をつけた。
名前のわりには野太いところがなく、どちらかといえばひ弱な感じである。
キーボードが軽くていきなり画面が移動したり、まだまだ扱いづらかったりもする。
公衆無線ランを使ってみようと、ドラゴン片手にマクドナルドに移動し、一店めはうまくいかなかったものの、二店めでやっと接続に成功した。
雑踏の中にいると、自然とキーボードが軽やかになった。
となりの大学生は試験前らしきノートをめくっているし、お向かいの女の子の二人連れはケイタイのスケジュールを見ながらランチの日にちを決めている。さっきまでは二歳くらいの男の子が片言のおしゃべりをしながら母親とポテトを食べていた。向こうの席の女の子はヨーロッパ旅行を計画しているのだという。飛行機は高いけどねって。
人のささやき声は重なり合うオーケストラみたいだ。
そうだ、最初に音楽を聴きながら電車に乗ったときもこうだった。
揺れる川面も電車のアナウンスも子供の泣き声もみんな交じり合い、音楽がいきなり立体になって踊りだした。
あの感じにすごく似ていた。
当たり前すぎてとりたてて愛することもなくなった市井のものたちが、歌いだす感じがすごくてたまらないけれど。
ああ、バッテリーが少なくなってきた。
雨がひどくならないうちに家に帰らなくちゃ。