お知らせ
「Four dishes story」を左バーの「まとめ読み」のコーナーに追加しました。
短編ですが、とても気に入っている作品です。
また、自分自身の転機になった記念すべき作品でもあります。
Four dishes story
↑ こちらからもどうぞ!
2009年02月24日
2009年02月10日
海の深さを知らない者は

「 母親を殺したのはわたし? 拉致されてる?」
琶子から恋人への一通のメールから事件がはじまる。
自分自身の記憶もあやふやで、口も聞けなくなってしまい、別の犯罪に荷担していく琶子。
若くてエキセントリックで激しい性格の彼女は「海の深さを知らず浅瀬でばちゃばちゃと自惚れている者」と言われるが、そこからまっすぐにいろんなものを感じて成長するというわけではない。
人間はそんなふうには出来てないし、彼女自身のバックグラウンドもそんなにシンプルではない。
ひとつのものを受け入れるために苦しむ。過去のトラウマと向き合う。そうして突き破る。
だけどもスポイルされた母親との関係やそれにまつわる事故の記憶から、それは大変なことなんじゃないかと思う。
(個人的にはこの、母親のキャラクターがすごく好きです。愛してる、とかじゃなくて、気持のゆがめ方がよく描けてるっていう意味で)
それでも、内なる自分との対話、まわりの人のあたたかさで、だんだん琶子の海はだんだん深くなるように見える。
だけど。
息をもつかず最後まで読み続けるうちに、不思議な感覚に包まれてしまった。
「海の深さを知らない者」とは琶子のことを指しているんじゃないのではないか?
いくつもの意外な結末へ向かって、彼女自身の深さを感じていく反面、読者が本当の海の深さというものに引き込まれてゆく感覚。
作者自身が足も届かない深い海の底へ向かっていくのを感じながらも、それよりももっと深い「生」の深さ、そこに繋がる「生の反対の世界の深さ」に放り出されるような感覚のラスト。
クライムノベルとしてのストーリーのおもしろさと同時に、とんでもない「海の深さ」をつきつけられるような作品。
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