2009年08月31日

ごあいさつ

長々と時間がかかってしまいましたが、「タピオカ」はこれにて完結です。
ご愛読ありがとうござました。

これから加筆修正して、まとめ読みに追加したいと思います。

どうぞ、また、よろしくお願いします。


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posted by noyuki at 21:51| 福岡 ☀| Comment(8) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年08月30日

タピオカ 23

「タピオカ」23 雪乃


 まったく、カナミには叶わないなあ。

 そうだね、カナミの言うとおりだよ。
 太郎に感謝してることはいっぱいあるのに、わたしはあいかわらず、そういうことさえもいまだに上手に伝えられないんだ。

 わたしに、こんな友達がたくさんいてほんとによかったよ。
 わたしが言わなくちゃいけないことは、他のみんなが全部伝えてくれたよ。

「やっちまったことは仕方ない」んだけど、それでも、ほんとは何度も後悔したんだ。
 それで、泣きそうになったこともあったけど、もう、いいよ。 
 わたしは続いている。
 みんなの中で続いている。
 もう、それだけで十分だよ。

 ああ、そういえば、忘れてた。

 ココナッツミルク味のタピオカデザートを食べたいって太郎が言ってたから、前に、輸入食品の店で見つけて買ってたんだよ。
 缶詰のココナッツミルクと、乾燥したタピオカ。
 いつか、休みの日に作ってあげようって思って。
 でも、結局作ってあげれなかったね。

 食器棚あけて、すぐ右側のはしっこに置いてたんだけど。
 いつか気付いてくれるかな?
 大丈夫、賞味期限は長いし、パソコンからプリントアウトしたレシピも折りたたんで一緒に置いてるから。

 いつの日か。
 見つけたら、自分で作ってみてね。




                          Fin




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posted by noyuki at 21:34| 福岡 ☁| Comment(1) | TrackBack(0) | タピオカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年08月27日

タピオカ 22

「タピオカ」22 太郎


 新しくて小さな仏壇に手を合わせたカナミに小さなクッキーを差し出すと、その顔がほころんだように見えた。

「ずいぶん遠くまで行ってきたのね、旅行?」
 カナミが尋ねる。
 観光地の名前入りのクッキーだ。そうか、これを差し出すと説明が省けるわけなんだな、と僕は思う。

「雪乃の友達がSNSにメッセージをくれたんだ。それで、結局会いに行ってしまった」
 本当はそれまでのやりとりがいろいろあったんだけど、とりあえず説明は省いてみる。カナミは一体どこまで知っているんだろうか?

「カヲルという男性とクルミという女性。カナミはこの二人のことは知ってる?」
 カナミは首をかしげてしばらく考える。
「カヲルというHNの人は、雪乃のSNSで見かけたことがあるような気がする。でも、クルミって名前は覚えがない。雪乃はいろんなページにいろんな知りあいがいたみたいだから、そっちの方じゃないのかな? わたしは、他のページのことはよくは知らないの。とにかく、いろんなところに顔だしてたみたいだし」
「正解」
 僕はそう言って、心の中で少しだけ微笑む。

 だってさ、雪乃。僕だけが知らなくてカナミが知ってたら、僕は自分だけが仲間はずれにされたみたいで、ちょっと落ち込んでしまうじゃないか。だから、カナミは納得いかなくても、知らなくて正解。きみの「ひみつのシュミ」はほんとにほんとに秘密だったんだな。

「ブログとかよそのページの繋がりで、雪乃が知り合った友達らしいんだ。それで、迷惑だと思いながら、つい、遠出してしまった」
「いろんなことがわかった?」
「わかったこともあれば、わからないことも。でも、僕にとっては新鮮だったよ。インターネットの世界でどこを切り取っても、雪乃はどこまでも嘘のない雪乃だった。そうして、そんな雪乃を好きでいてくれた人がいたことも。ごめん、たいしたことじゃないんだ。ただ、僕の中ではいろんな驚きの繰り返しで。でも、ほんとに、会いに行けてよかったと思っている」
「そう。なんだか安心した。太郎さんが、そう思える人に出会えて、ほんとによかったなあと思うよ、わたし」

 上品な白檀の香りが部屋中に充満していく。
 僕たちは薄手の半袖姿だが、それでも汗ばむほどではない。
 エアコンを入れるほどではない。今年は夏が遅いのかもしれない。

「ねえ、カナミ」僕は最後にひとつだけ疑問に思っていたことをカナミに尋ねようと思った。
「どうして雪乃は僕と結婚したんだろうね? 僕たちは、ケンカもよくしたけれど、そんなに仲の悪い夫婦じゃなかった。でも、僕と雪乃はぜんぜん違う。性格も行動もいろんなシュミも。夫婦であること以外に接点はないんじゃないかと思うくらいに接点と呼べるものがないんだ。振り返ってみて、もっと別の人でもよかったんじゃないかと思うこともあるし。あるいは、そうだったら違う人生だったのかもって......」

「人間は自分にはない遺伝子を本能で求めるものなの。太郎さんは、雪乃が持っていないものを持っていた。そういうものを人間は求めるものなの。同じような人間ばかりで群れてたって、同じように間違えて同じように滅びてしまうかもしれない。だけど、自分と違うアプローチができる人間と一緒にいれば危険回避できることだってある」
 カナミがまる暗記したかのようにスラスラとそう答える。
 そうして、そう答えたあとに、カナミは目を見開き沈黙する。まるで怒っているような顔だ。
 それから、カナミは天井の方を見上げて、こう叫んだ。

「雪乃! いちばん大切なことを、いつもそうやって適当にはぐらかすの、あんたの悪い癖だよ。もう、いいかげんに、そういう言い方やめようよ。昔、わたしに話してくれたじゃない。太郎さんは、自分が持ってないものを持っているところが好きだって。それがすごく羨ましくて、安心するって。あんなふうにはなれないだろうけれど、ときどき、それを真似てみようと思うって、そういうのってちゃんと言わないと伝わらないものなんだよ!」

「ありがとう、十分に伝わったよ」
 
 僕はそう言うので精一杯だった。
 白檀のお線香の煙が、ふわりと方向を変えて、僕の耳のうしろあたりをするりと撫でた。


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posted by noyuki at 21:41| 福岡 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | タピオカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年08月25日

「タピオカ」21

「タピオカ」21 カナミ


 
 泣きながら目覚めることが何度かあった。
 
 わたしはそれだけ後悔しても後悔ばかりで、ああ、あの夜、無理矢理にでも雪乃を泊めていればこんなことにならなかったって思うばかりで。
 チエもフミも「それはカナミのせいじゃないよ」と言ってくれるけれど、それでもなにひとつ慰めにならなくって。
 なのに、その日、夢の中で雪乃はこう言ってくれたのだ。
「カナミ、約束を守ってくれてありがとう。ほんと、助かったわ」って。
 
 雪乃、ほんとにそう思ってくれてるの?
 ほんとにそう思ってくれてるんだったら、もう一度お参りに行かせてもらってもいい?
 太郎さんのことも心配なんだ。
 顔合わせるのも申し訳ないんだけど。
 雪乃がそう言ってくれてるのだとしたら、雪乃が好きだと言っていた白檀の香りのお線香をあげさせてもらっていいかな?
 
 雪乃が、ラベンダーとかジャスミンとかじゃなくて白檀の香りが好きなんだって言ったとき、「渋すぎ〜、それってお線香の香りなんだよね〜」って言ってしまったことあったよね。
 今頃、そんなつまらないことばかり、いっぱい思い出すんだよ。
 グリーンカレーが大好物だったとか、ちょっと真面目なことを言ったあとにはビリージョエルの「honesty」のサビのところを歌ってごまかす癖とか。
 わたしが古すぎだよその歌、って言ったら「何言ってんのよ、ビヨンセだって歌ってるんだから! 名作だよ」って言い返したよね。
 あれからわたし、テレビでビヨンセの歌まねするタレントが出てくるたびに雪乃を思い出すようになってしまったんだよ。

 昨日、太郎さんがメールくれた。
 旅行に行ってたんだって。わたしにおみやげ買ってきてくれたんだって。
 太郎さん、どこに行ってたんだろうね?
 
 なんとなくわかったんだ。
 わたしが行きづらいと思って気をつかってくれてるんだって。
 
 雪乃が生きてたら、きっとこう言うんだろうね。
「そうなんだよね〜。太郎ってそういうヤツなんだよね〜」って。
 わたしもフミもチエも、そしてもちろん太郎さんも。
 雪乃はこういうときになんて言うのか、今でもよくわかっているから。

 このまま雪乃のケイタイにメールで送ってみたら、返信してくれるんじゃないかって気分になってしまうんだ。


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posted by noyuki at 12:00| 福岡 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | タピオカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年08月16日

投票を作ってみました。

当ブログの書評記事を読んでくださっている方、いつもありがとうございます。
前々から思っていた、投票ツールを、お盆休みなので作ってみました。
好きな作家さんの名前があった方、また、書評を気に入ってくださった方など、気軽に投票をよろしくお願いします。



コメント欄にはとくに好きな作品なども書いていただけると嬉しいです。
「その他」を選ばれた方もどうぞ、あなたのおすすめを教えてください。




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posted by noyuki at 15:37| 福岡 ☁| Comment(2) | TrackBack(0) | 見て、読んで、感じたこと | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年08月12日

「タピオカ」 20

「タピオカ」20 太郎



 帰りの新幹線は空いていた。
 早くに目覚めて、駅のみやげものコーナーをうろうろしたけれど、名産品のおみやげを買う相手も理由もないことに気付いて、早い列車に乗ったせいだ。

 朝方、傍らで静かな寝息をたてているカヲルに短い挨拶のメモを残し、昨夜チェックインしたまま一度も足を踏み入れていなかった自分の部屋でシャワーを浴びて歯を磨いた。
 本物の朝のようだと思った。もっとも偽物の朝なんてないのだけど、ずっと朝らしい新しさを忘れていた気がする。
 そう、それをひとしきり味わうと、あとは何もすることがなかった。
 
 それがむなしかったわけではない。
 やるべきことも予定外のことも、すべてやり終えてしまって、もうそれでよかった、ただ、それだけのことだ。

 車窓からは、トンネルを抜けるごとに目のくらむような青葉に覆われた山々が、強い太陽の光を受けて輝いて見えた。
 夏がはじまりつつあった。

 そんなことさえも今まで気づかなかったんだよ、雪乃。

 ねえ、雪乃。
 人間はいつの時点で死んでしまうんだろうね?
 カラダがなくなってしまうのが「死」にはちがいないのだけれど。
 僕の記憶の中にも、クルミの中にも、カヲルの中にも、カナミの中にも、雪乃はずっと生きているじゃないか。
 誰かが記憶してくれるかぎり、死はけっして、君をゼロにはしない。
 ゼロにはならないんだ。
 生きていたことは、誰かの記憶の中でずっと続いてゆくんだ。

 車内販売のワゴンが通り、僕はホットコーヒーを注文した。
 咲きたての花のように目のくりんとした女の子が「あとはよろしいですか?」と、尋ねてくれた。
 僕は、目の前にある、小さなクッキーの詰め合わせを指さす。その地の名産らしい、かわいらしい名前のついたクッキーだ。
 
 忘れていた。
 来週、カナミがお参りに来たいって言ってたんだ。
 そのときに、これをおみやげにあげよう。
 
 さてさて。これまでのことをどんなふうに説明しようか?
 それとも説明なんていらないか?


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posted by noyuki at 21:55| 福岡 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | タピオカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする