2010年02月14日

佐藤正午「5」角川文庫

41oF-y4CUeL._SL210_.jpg



好きな本は何度も読み返す。
結末がわかっていようと読み返す。
ハードカヴァーで読んでも文庫で読み返す。
読み返しても飽きないし、こちらの心の状態で感じることもくるくる変わる。

だから、読み返しても飽きない本は大事にしている。
佐藤正午の「5」は、わたしのそんなコレクションのなかの大事な一冊だ。

感想は一度ここで書いているので、文庫化にあたって感じたことを追加しておこうと思う。

(佐藤正午「5」、以前に書いた感想はこちら)


* 改行の少ない、読み応えのある文章だが、文庫のフォントや段組が読みやすい。

* 村上春樹の作品のなかで好きなのは「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」と言う人はけっこう多いけれど、佐藤正午の作品で「5」が一番好きというのは、そういう位置にあるのではないか?
 テイストが似ているというわけではない。本人の書きたいものを混沌のなかからゼロから描いていくという点で。
 だから、カテゴライズされづらい小説とも言える。

* 何度読んでも飽きないのは、ラストの章の高揚感が素晴らしいからということに気づく。
  なぜ高揚するかというと、そこに希望の灯を感じられるから。
  生きていくなかでの希望は人それぞれである。おまけに津田伸一の「かたくなさ」というものは、非常に共感しづらい。共感しづらい主人公に共感する必要もないけれど、そこに描かれている断片には理解できる部分が多々あることに気づく。
 どこにも描かれてなかったタイプの主人公。その主人公だからこそ広がっていく物語。
 だから、何度も読みたくなるのだと思う。

* 最後に、やはり感謝したい。
  どこにもない感動がここにあることや。
  どんなに生きづらい人生であっても、未来を思う強さが人を生かしてくれることを、何度も感じさせてくれることや。
  こういうふうに誰かを愛してみたいと、読後に強く思うことにたいして。


人気ブログランキング へ
人気ブログランキングへ


posted by noyuki at 21:36| 福岡 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 佐藤正午系 盛田隆二系 話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年02月01日

それはたぶんたいしたことじゃない 6

「 タミー」 1

 小さい頃、近所のおねえさんにもらった着せ替え人形の名前がタミーだ。
「リカちゃんよりもずっとお姉さんの人形なんだけど、すごく大事にしてたから、よかったら使ってね」と言われ、素直に愛用していた。
 ほっぺがふっくらしていて口が尖っていて気が強そうだ。ちょっぴり外国人のような風貌をしている。
 手足の色はよく見たら薄汚れているようにも見えたけれど、真希はその人形がすごく好きだった。

 真希は自分の名前があまり好きじゃない。
 悪い名前ではないとは思うのだが、中学校時代同じ名前の同級生がいて、それ以来嫌いになった。髪を明るく染めているようなタイプ。学校にはくるけれど、裏庭でグループで煙草を吸っているようなタイプ。強がりを言うけれど姑息さだけが目立っている同級生と、同じ名前であることがイヤだったのだ。

 学生時代「マッキー」って友達に呼ばれるたびに「マッキーよりもタミーがいいな」とずっと思っていた。
 思っていただけで、そうは言えなかった。

 名前のことを考えるとき、オトナになってよかったなあと思う。
 女性服のショップである仕事先で呼ばれる苗字は「記号」のようなものだし、幸いそちらのほうは嫌いではない。

 パソコンで使うハンドルネームはずっと「タミー」だ。
 どこのサイトでもタミー。たぶん、タミー以外の名前を使っても誰も自分だとは気づかないだろう。

 そう思って、ある日、ちょっとしたイタズラを思いついた。
 あまり書き込まないでだろうSMSにとりあえず登録したときに、名前を「タミオ」にしてみたのだ。
 奥田民生が好きだから、こういう名前でもいいんじゃないだろうか。
 あとは生年月日や居住地など、まったくのデタラメを入力していく。
 性別は、最初は保留にしておいた。
 最後までどうしようかと悩んで、それから男性の方のボタンを押した。

 幸いここには知り合いもいない。
 コミュニティの情報が読みたかっただけなので、書き込みをすることもないだろう。

 プロフィールの確認画面を見て、心が踊った。
 名前 タミオ。
 年齢 27歳。
 居住地 横浜市。
 仕事 営業。
 不動産関係の営業をやっています。

 まったく知らない男のプロフィールが画面に現われた。
 そうか。
 わたしの中に知らない男がいるのだ。

 それはなんて楽しいことなんだろう。


 人気ブログランキング へ
人気ブログランキングへ

posted by noyuki at 15:02| 福岡 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | それはたぶんたいしたことじゃない | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

佐藤正午ファンサイト「佐藤正午派」

佐藤正午HPのリニューアルに伴ない、佐藤正午ファンサイトを作ってリンクを貼っていただいた。

「自己満足」から発展したものであることは否めない。
しかし「こういうサイトがあればいいな」と思っているときは、自分が作るのがやはり一番近道なのだと思う。

HPでお世話になっていたセージュさんとメールをやりとりして共同管理にしてもらったり、ナガネギさんのアドバイスを受けたりして、最近だんだん形になってきた。
二ヶ月近くかかっている。

自己満足かもしれないけれど、いつか、誰かの役に立つ日がくればいいなと心底願っている。



* 新作や文庫の出版情報、メディア情報などをブログ形式で掲載し、最新の情報が見れるようにした。

* アマゾンとのリンクをふんだんに駆使して、ファンサイトから直接本が購入できるようにした。

* 更新情報に関しては、誰にも負けないナガネギさんの「僕たちの好きな佐藤正午」にリンクを貼らせていただいた。

* 2ちゃんねるのように、いろんなスレッドを一覧で見れる読書掲示板をつけて、ひとこと感想などを書けるようにした。



佐藤正午派はここをクリック!

↑ こちらがそのページです。一度覗いてみてください。



人気ブログランキング へ
人気ブログランキングへ
posted by noyuki at 13:02| 福岡 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 佐藤正午系 盛田隆二系 話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする