
好きな本は何度も読み返す。
結末がわかっていようと読み返す。
ハードカヴァーで読んでも文庫で読み返す。
読み返しても飽きないし、こちらの心の状態で感じることもくるくる変わる。
だから、読み返しても飽きない本は大事にしている。
佐藤正午の「5」は、わたしのそんなコレクションのなかの大事な一冊だ。
感想は一度ここで書いているので、文庫化にあたって感じたことを追加しておこうと思う。
(佐藤正午「5」、以前に書いた感想はこちら)
* 改行の少ない、読み応えのある文章だが、文庫のフォントや段組が読みやすい。
* 村上春樹の作品のなかで好きなのは「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」と言う人はけっこう多いけれど、佐藤正午の作品で「5」が一番好きというのは、そういう位置にあるのではないか?
テイストが似ているというわけではない。本人の書きたいものを混沌のなかからゼロから描いていくという点で。
だから、カテゴライズされづらい小説とも言える。
* 何度読んでも飽きないのは、ラストの章の高揚感が素晴らしいからということに気づく。
なぜ高揚するかというと、そこに希望の灯を感じられるから。
生きていくなかでの希望は人それぞれである。おまけに津田伸一の「かたくなさ」というものは、非常に共感しづらい。共感しづらい主人公に共感する必要もないけれど、そこに描かれている断片には理解できる部分が多々あることに気づく。
どこにも描かれてなかったタイプの主人公。その主人公だからこそ広がっていく物語。
だから、何度も読みたくなるのだと思う。
* 最後に、やはり感謝したい。
どこにもない感動がここにあることや。
どんなに生きづらい人生であっても、未来を思う強さが人を生かしてくれることを、何度も感じさせてくれることや。
こういうふうに誰かを愛してみたいと、読後に強く思うことにたいして。
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