君のことを忘れないようにちゃんと書き留めておきたいと思うのに、思い出すのがつらくて先へ先へと延ばしてしまうよ。
だけども、あまり伸ばしすぎるわけにもいかない。わたしの記憶力にはかぎりがあって、大切なことやかけがえのないまでもどんどん色あせてしまうからだ。
たくさんのことを、君はわたしたちにくれたはずなのに。
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2010年10月25日
2010年10月18日
伊坂幸太郎の備忘録 7「マリアビートル」「バイバイブラックバード」「オー!ファーザー]
「マリアビートル」
東北新幹線を題材にしたクライムノベル。登場する殺し屋たちは「グラスホッパー」の登場人物と重複。
「トランク」はどんどん移動し、新幹線の中ではどんどん人が死に、そういう意味ではスピード感のある小説なのだけれど、むしろ腰を据えて楽しみたい作品。
蜜柑と檸檬のコンビの殺し屋も「きかんしゃトーマス」の話題などをふりまき秀逸だが、個人的に好きなのは運の悪い殺し屋の七尾である。「ほんとうに運の悪い人間」というのが世の中にはいるのだが、そういった「運の悪い人間のタフさ」や、タフであるための考え方みたいなものが非常に共感できる。そして、その七尾と対照的なのが「王子」。彼はどうなるのだろうか? 好きなキャラではないけれど、今後またどこかの伊坂小説に登場するような気もする。
運がいいとか悪いとは関係のない「まっとうさ」。そういうものが貫かれているからこそ、犯罪小説が面白いのだと思う。
まったくの蛇足であるが、なにかのインタビューで「子どもを連れて列車を観に行く」と伊坂幸太郎さんが語られていたのを思い出した。記憶ちがいだったらごめんなさい。
「バイバイブラックバード」
読者に郵便で小説が届く「ゆうびん小説」として描かれた作品。大勢を相手にする小説と少人数の読者を相手にする小説では、語る人物の高さや通さが違うように思える。そういう意味では、近くで小説家が語っているような印象の作品。
星野は「あのバス」に乗せられる前に、今までつきあっていた女とすべて別れなければならない。黙っていなくなってもいいのだけれど、それはつらすぎるのでお別れをひとりひとりに言うという設定。巨漢の繭美が監視役として星野についてきて、一話ごとに「ひとりの女」と別れ、最終的には5人と別れる。
この小説はひとつひとつの話が「ゆうびん」にふさわしく楽しいのだが、その設定とラストがすばらしい。
たぶん郵便で短編として楽しんだ読者も全体像を見て満足するだろうと思う作品。
「オー!ファーザー」
2006年に新聞掲載された小説。作者本人の過渡期だった時代「何かが足りないのではないか」と思いずっと単行本化されてなかったと、作者あとがきに書かれている。
由紀夫には4人の父親がいる。誰が本当の父親かわからないが、父親は全員同居して、由紀夫をわが子のようにかわいがってくれている。そうして、やっかいな事件に由紀夫が巻き込まれたときも彼らは協力を惜しまない。
伊坂幸太郎の小説にはときに、こういう常識では考えられない設定がでてくるのだが、登場人物だちは設定を軽く越えている。
それは読者に対する大切なメッセージのように聞こえる。
自分自身の中の「設定」なんて、軽く越えて生きていけばいいんじゃないか?
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