京都のホテルにチェックインして、しばらくして清水五条駅のあたりへ向かった。
バスの路線がわからない。目の前にあったおみやげやさんで地図をいただき、バスの行き先と見比べながら乗ってみた。
そして四条でマクドナルドに入り、無線LANで場所チェック。ここからはたぶん京阪電車でひと駅だ。
今年に入り、わたしの家の玄関からは新しくできた新幹線が見えるようになった。
何度も試運転を繰り返す頃から薄いブルーの新幹線を何度も眺めていた。
夜の新幹線はとりわけ美しい。まるで光の矢のようにまっすぐに延びてゆく。
駅舎は新しくなり、ステンドグラスの明るい天井からは柔らかな光が幸せの象徴のように降り注いだ。
開業の日にはたくさんの人がこの駅にも降り立つだろう。駅前のステージでは一日中音楽やダンスが鳴り響き、地元の自慢料理の出店が並ぶ。
その日はもう目前だった。
だけども約束された未来が必ずやってくるとはかぎらない。
前日に311の大震災が起こり、イベントは中止になった。
小さな未来よりも、もっと大きな現実に押しつぶされ、わたしたちは涙し、途方にくれ、そして混乱した。
それでも九州新幹線は静かにダイヤ通りに駅にすべり込んだ。
経験したことのない大きな現実に混乱することなく、いや、混乱の中に一本のまっすぐな線を引くような確固とした意志を持って、九州新幹線は走りだした。
いつかは新幹線に乗って遠くの町に行こう。
それはわたしの、ごく個人的な小さな希望になった。
清水五条の駅を降り、地図で曲がり角のビルの名前をたしかめて、お目当てのお店に入る。
小さなお店のベリーダンスのショー。たまたま京都に行こうと思い立った日に、そこで知り合いの熊澤洋子さんがバイオリンの演奏をすることを知り、お店に電話してチケットを予約したのだ。
妖しくも楽しいベリーダンスを堪能したあとの休憩時間、「バイオリンの方、お知り合いなんですか?」と、隣の女の子が熊澤さんのバイオリンにいたく感激してた様子で話しかけてきた。
九州から出てくるのに、ちょうどイベントで聞けてよかったって言ってたら、「九州から?」って前にいた女の子も振り向いて、休憩時間中4人でわいわい盛り上がる。
誰の知り合いだとか、誰に習っているのだとか、ここに勤めてるのだとか、ガールズトークに混ぜていただいて、わたしは嬉しくて嬉しくて。 その日の後半のショーを楽しむときは、わたしたちはまるで最初からの知り合いのようにいろいろつぶやきながらショーを楽しんだ。
最初に声かけてくれた女の子がホテルのとちゅうまで道が一緒だからと送ってくれることになった。
パン屋さんで働いていること。
もうひとりの人は朝4時半からパンを作っていること。
そんな彼女に、こんな顔があるなんてほんとびっくり、とか。
そんなことをいろいろ話しながら夜の道をえんえんと歩いた。
列車に乗ること、いろんな不可思議なものを見ること、ふらふら道に迷うこと。
どれも好きだけど、ああ、人に会いたかったんだなと思う。
生きて、手に触れられるくらいの距離の人にたくさん会いたかったんだなと思う。
生存にたいする感覚が鋭敏になっている時期なのだろう。
そういうときはきっと、人に会いたくなるものなのだと気づいた。
たくさんの人に出会い、いろんなモノを見ておいしいものをいただき、そして列車の旅を堪能したのち、わたしはまた、これまでに経験したことのない日常を生きている。
被災地のこと。原発のこと。これからのこの国のこと。自分の意志。
誰もがいままでに経験しなかったことを前にして、一丸となったり、優しくなったり、怒ったりする毎日。
これらの日常はこれからわたしたちの未来を形作っていくのだろうけれど、それが形になるまでのあいだ、たくさんの時間を要するのだろう。経験したことのないものを前にして、人は皆、ちがうことを感じ、ときには暗たんとした気持ちになって、誰かを責めないではいられないこともある。未来はそうやって繋がっていくことに、やっと今頃になって気づいた。
そうした中で、九州新幹線のCMが話題になってることを知った。
開業前、特別な新幹線が走るので、みんなで手を振ろうという企画があることは伝え聞いていた。
駅は満員で定員に達していたが近くにも撮影スポットがあるという。地の利からその場所を見つけて、わたしも出かけていったのだ。
50人ほどの人が集まっていた。
カメラを持つ人もいたが、近所の人がわらわらとやってきた感じのその場所で。
みんなで手を振りながら、アイフォンでその新幹線を撮影した。
ダウンロードは🎥こちら
ちょっと手ぶれがあるけれど、これがそのラッピング新幹線。
なんだか不思議な気持ちだ。
いろんなイベントが中止になっても、みんなが手を振ったCMでこんなに感動できるなんて。
手を振って誰かが元気になれるんだったら、いつでも手を振るよ。
もう少し、未来のはっきりとした形が見えるまで。
そしてこちらが、その九州新幹線のCMです。残念ながらわたしは映っていません。
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