2011年05月31日

「焼け跡のハイヒール」 盛田隆二 「 大人婚 」アシェット婦人画報社より


友人が結婚すると言う。
酸いも甘いも噛み分けた大人同士である。男性も女性の方もひとりで生きていくだけの収入がある。長いことひとり暮らしを続けたせいか、あえて誰かと一緒にいる必要もない。料理をすることにも、ひとりで行きつけの店で好きなものを食べることにも不自由がない。むしろその方が気楽だと思っている。

そんな二人が結婚するという。
若いときの結婚とはちがう。老親の介護や自分らの病気や老後の心配もある。
そして何よりも、そんなに自由な生活を捨ててまでも今、一緒にいたい気持ちだけでやっていけるのか、まわりは余計な心配すらしてしまう。

派手ではなくても、記念になるような式をあげ、お世話になった方々へのご挨拶くらいはしたいと二人は考える。結婚雑誌を買おうと思い「大人婚」と書かれた雑誌を手にとる。
そしてその雑誌の中に、こんな小説が掲載されている。

結婚の準備をノートに書きながら、つい、その小説を読んでしまった女性はどんなことを思うのだろうかと想像し、わたしは笑いをかみ殺した。

その短編は、夫婦の、女性の方がなくなったあとの話である。
息子の視点で描かれている。
縁起でもない、と、まずはじめに、読んでいる女性は思うだろう。
これから結婚するのに、死に別れる話なんて。
そう思いながら読んでいくけれど、描かれている女性の一生が真摯ではつらつとしていて、魅力的だ。
こんなふうに記憶されてゆく女性は幸せだなあと眩しいような気持ちにもなる。
そして、女性の死後に取り残された夫のひとことに、不意に言いようのないものがこみあげてきて、涙があふれる。

どんどんどんどん涙が溢れてきて。
それでも小説を読み終えた女性は思う。

いいことばかりではないかもしれないし。
わたしたちはいつか、こんなふうに死に別れるだろう。
それでもわたしたちは今のこの気持ちがあれば、ずっとそれを抱えて生きられるにちがいない。
今のこの気持は、きっと、これからの一生の糧になるに違いない、と。

わたしとほぼ同年代に近い女性が、そんな気持ちで読む場面を想像して、ああ、ほんとにいい作品だなあと思いました。
彼女が幸せな未来を築けますように。

人気ブログランキング へ
人気ブログランキングへ

posted by noyuki at 22:12| 福岡 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 佐藤正午系 盛田隆二系 話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年05月06日

「偉大なるしゅららぼん」 集英社 万城目学






先日「ぼくらの時代」の対談で、有川浩さん、湊かなえさん、万城目学さんの三人が揃ったのを拝見した。
三人とも関西に縁の深い方ということで、作風がちがうながらも会話がとても楽しくて、その中で万城目学さんは「マキメさんの、ホラが好きなんですよ、また作品で大ボラ吹いてください」と言われていた。
それに対して、いやはやと言った感じの万城目学さんはとても物静かな印象だった。

その万城目学さんの最新作「偉大なるしゅららぼん」。
今度の舞台は琵琶湖に昔から住む一族と、その一族の能力の話。
あまり細かい事言うとすべてネタバレになってしまうのだけど、とにかくおもしろかった。
おもしろかった、としか書けないのももどかしいが、いや、これはやはり読んで味わっていただきたいものだと思う。

ただ、少しばかり周辺部の話をさせていただくなら、後半にさしかかっとき、この先の展開がぜんぜん読めなくて、マジに手に汗握ってしまった。
そして、その展開の意外さに、あぜんと口をあけてしまった。
その部分から先はドキドキの連続。

その背景の心理描写もいいし、心のウチも風景も映画のようにていねいに緻密に描かれているとおもった。

昨今は、ハードカバーが発売された時点よりも、映画化されてから本が脚光をあびることが多いように思う。
どういう売れ方でもいいと思う。
わたしは、いい本がどんなかたちであれ人に読まれるのが嬉しい。

「プリンセストヨトミ」が映画になって、案外こちらの方がこれから読まれる機会が多いのかもしれないけれど。
「偉大なる、しゅららぼん」も読んでいただきたいなあ、ぜったいおもしろいから、とおすすめしたくなりました。


人気ブログランキング へ
人気ブログランキングへ
posted by noyuki at 22:01| 福岡 ☁| Comment(1) | TrackBack(0) | 見て、読んで、感じたこと | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする