友人が結婚すると言う。
酸いも甘いも噛み分けた大人同士である。男性も女性の方もひとりで生きていくだけの収入がある。長いことひとり暮らしを続けたせいか、あえて誰かと一緒にいる必要もない。料理をすることにも、ひとりで行きつけの店で好きなものを食べることにも不自由がない。むしろその方が気楽だと思っている。
そんな二人が結婚するという。
若いときの結婚とはちがう。老親の介護や自分らの病気や老後の心配もある。
そして何よりも、そんなに自由な生活を捨ててまでも今、一緒にいたい気持ちだけでやっていけるのか、まわりは余計な心配すらしてしまう。
派手ではなくても、記念になるような式をあげ、お世話になった方々へのご挨拶くらいはしたいと二人は考える。結婚雑誌を買おうと思い「大人婚」と書かれた雑誌を手にとる。
そしてその雑誌の中に、こんな小説が掲載されている。
結婚の準備をノートに書きながら、つい、その小説を読んでしまった女性はどんなことを思うのだろうかと想像し、わたしは笑いをかみ殺した。
その短編は、夫婦の、女性の方がなくなったあとの話である。
息子の視点で描かれている。
縁起でもない、と、まずはじめに、読んでいる女性は思うだろう。
これから結婚するのに、死に別れる話なんて。
そう思いながら読んでいくけれど、描かれている女性の一生が真摯ではつらつとしていて、魅力的だ。
こんなふうに記憶されてゆく女性は幸せだなあと眩しいような気持ちにもなる。
そして、女性の死後に取り残された夫のひとことに、不意に言いようのないものがこみあげてきて、涙があふれる。
どんどんどんどん涙が溢れてきて。
それでも小説を読み終えた女性は思う。
いいことばかりではないかもしれないし。
わたしたちはいつか、こんなふうに死に別れるだろう。
それでもわたしたちは今のこの気持ちがあれば、ずっとそれを抱えて生きられるにちがいない。
今のこの気持は、きっと、これからの一生の糧になるに違いない、と。
わたしとほぼ同年代に近い女性が、そんな気持ちで読む場面を想像して、ああ、ほんとにいい作品だなあと思いました。
彼女が幸せな未来を築けますように。
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