注・ この文章には少々のネタバレが含まれていますので、これから読まれる方はご注意ください。
最近の佐藤正午さんの文章は複雑な構成が多い、と、書こうとしたけれど、コレは最近のではなくて1997年に「バニシングポイント」の題名で発表された作品だった。
大昔に読んだ記憶を紐解いてみると、短編が不思議なつながり方をしていて、その雰囲気が好きだった作品。
今、読んでみると、おおまかに言えば「ダンスホール」に繋がっているような、登場人物のつながりが物語を作り上げている独特の手法。
構造の話をすればきりがないが、町のうわさ話のように人の物語が流れてゆく感じがとても佐藤正午さんらしい作品だと思う。
たとえば飛び降り自殺をした女性の話。
彼女は脇役としてしか登場しない。タクシーに乗り込んできて財布を忘れた女性。近所の放火事件を心配する妻の口から発せられる「犯人」。そして、主人公のひとりと曖昧な恋愛関係にあった女性。
三方面の「語り」の中に、生きているひとりの女性の姿が浮かび上がる。
どの顔もまったく別の顔だ。
そして、いくつもの別の顔の中から、彼女という物語が浮かび上がってくる。
また、どうしてもわからなかった男の過去が、この短編の別の物語で語られていたり。
一見関連のないように見える物語が、人物を通して繋がっていったり。
本当の話と噂話が組み合わさってできあがったものは、外面と内面と両方から突き詰められていくような重厚さと緻密さを兼ね備えているように思える。
ひとつひとつの短編をとっても佐藤正午さんらしい物語を楽しめるが、時間をかけて連作の中に出てくる人物を追ってみても夢中になれる作品。
描かれている事だけではない何かが、圧倒的な筆力の中で浮かび上がってくるとき、読みながらぱっと脈があがり興奮していくのが自分でもわかる。
それが最近の佐藤正午さんの醍醐味だ。
余談 1。
解説の東根ユミさんは、小学館の「きらら」にて佐藤正午さんのロングインタビューをメールのやりとりで行った女性。彼女の解説は素晴らしいけれど、実は東根ユミさん、謎の女性のように思います。
彼女の名前を検索すると「ロングインタビュー」に関わる記事以外に何も出てこないし、フェイスブックにもTwitterにもいらっしゃらない。ライターという職業上、それもまた不思議。偽名か、あるいはまったく予想もしていない方がインタビューされてるんじゃないかと思っています。
余談2。
個人的に「事の次第」の人物相関図を書いてみています。
まちがいもあるかもしれません。
http://shogofan.bbs.fc2.com/?act=reply&tid=3571830
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