2012年08月17日

伊坂幸太郎の備忘録「夜の国のクーパー 」 東京創元社





国が戦争に負けて占領される。
「猫」の目線で、それが描かれ、それと別に「僕」という主人公が登場する。
「僕」はおもに「クーパーを倒すために毎年派遣されていた兵士」の話をする。
そして、猫の話を聞いている「私」も登場する。「私」は仙台港から小舟に乗ったところに漂流して、「猫」の話を聞いている。

個人的にはこういう、多重奏のようなストリーが好きだ。
いくつかの話が同時進行でいて、そしてつながる、そういう手法を読むのは少々根気のいる作業だが、繋がったときの達成感が大きい。

そして実際に、その達成感と小気味のいい裏切りがすごかった。

あとがきに「大江健三郎氏さんの同世代ゲームを読んだときの、振り落とされないようにしがみつくようにして必死に読み進めた読書体験」という表現が出てくるけれど、まさにラストは夢中になってしがみついて読み進めた感じだった。

そして以下は少しネタバレもある、本編の感想です。

国が占拠されることによって、人々は不安になる。
信じていたものを失った。大事な人を殺された。それは大変なことだ。
そして、その中から別のストリーがでてきて、それは、いままでの「国のカタチ」とはまったくちがうもので、それをすぐに信じることなんてできない。それでもすべてが変わる。

自分の疑問を抱え、自分の信念を通す者のみが、その中で「ふりおとされずに」それを変えられる。
この小説の中では、それは「複眼隊長」。むっちゃカッコよかったです。
お伽話のような話の中に既視感があった。架空の話なのに、現実の「見えるもの」とすごく繋がっているように見えた。

伊坂幸太郎の小説の体幹には誠実さと正義がまっすぐに通っている。
そして、誰かの心にそれが染みこんでいく様を想像するだけで、わたしは毎回すごく幸せな気持ちになれます。


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posted by noyuki at 22:07| 福岡 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 伊坂幸太郎の備忘録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする