単行本版の感想はこちら
中江有里さんの解説がすばらしいと聞いて再読。解説も必読です。
仕事柄、いろんな高齢者の方に接し、「ああ、幸せじゃないんだなあ」と思うことがよくある。
できることができなくなったり。
健康でなくなったり。
自分の記憶があやふやになったり。
それを「不幸なこと」と言う方はとても多い。
長く生きることは不自由なことだとすれば、高齢化社会は不幸の吹き溜まりではないのか?
そして私はそれを打ち消す言葉を持たない。わたしには想像不可能な「不自由さ」だからだ。
絵画教室をきっかけに出会った、礼次郎と幸子は、愛を育んでゆく。
幸子は若い頃の後遺症から持病があり、礼次郎は脳梗塞で2度倒れる。
今年の桜をふたりで見たいと思うこと、車椅子を幸子に押してもらっての散歩。
いつ、死に別れるかもしれない二人が、お互いのために生きようと思う姿を見ると、ああ、老後は不幸なことばかりではないのだ。気の持ちようかもしれないけれど、幸せなことだってきっとあるはずなんだ、と思いたくなる。
そして、「自分は不幸だ」と訴える高齢者のみなさんに「きっと素敵なこともありますよ」と言いたくなってしまう。おそらく「実のないはげまし」は何の役にもたたないだろうけれど。
それでも「きっといいこともありますように」と、心の声を投げかけてくる。
恋じゃなくてもいいから。
そして自分はどうだ?
最近集中力も若いほどではなくなり、できない事が増えてきた自分をどんどん許してる。
そのくせそれを「ふがいない」と感じている。
いつかそれを「ふがいない」じゃなくて、「自由になっている」と考えられるようになれればいいのかもしれない。
そういう気持にさせてくれる「身も心も」という物語を心に持って、わたしはこれから先を生きていければいいな。
これは、そう思わせてくれる作品。
