ざっくり言うと、消えた偽札の行方と、消えた家族の行方を追う小説。
小説家津田伸一は、そのどちらにも浅からぬ関わりを持っていて、絡まった複雑な人間模様が描かれている。
3年間「きらら」での連載で読んでて、とちゅうわからなくなってしまったことも多かったので、単行本の発売が待ち遠しくってしかたなかった。
で、最初っから通しで読んでみたら、全体も見渡せて、やっぱりすごく面白かった。
だから、あなたがこの分厚い小説を読もうかどうしようか迷ってるとしたら、「おもしろいからぜひ、読んでみたらいい」と言いたいです

なんにちもなんにちも、どんなブックレビュー書いたら伝わるかなと悩んでたんだけど、やっぱり言いたいことはただひとつ。
「鳩の撃退法」おもしろいです。こんなにおもしろい小説を読めて幸せ、そう思える小説です。
さて。
以下はネタバレもあります、ご注意ください。
津田伸一は、今はデリヘルの送迎ドライバー。
小説の世界から完全に干された彼は、パソコンもないままに、ノートに鉛筆で小説を書いている。
その小説の虚構と、事実が絶妙に入り混じる。
それは、多重で少し複雑なセカイではあるけれど、登場人物がみんな魅力的で、映画に例えるなら「いい役者が揃っていて、いい雰囲気のフィルムがまわっている」感じ。
本通りの裏の倉田ケンジロウの言葉少なく比喩に富んだセリフは、大物らしくて重厚。
ドーナツ屋の女性店員ぬもとは憎まれ口ばかりなのに、津田伸一を見捨てておけなくなっている。
「一回くらいぬもとと呼べ」という、彼女のセリフは、愛の告白にも聞こえる。カッコよすぎて、ジンジンきてしまった。
チキチキのまりこさんのなげやりな奔放さも、ラストシーンの網谷千沙の困ってもひとりで踏ん張る健気さも、みんなみんな、人生がリアルで、生きている言葉で描かれていて、どんどん動いている。
てか、どんだけ登場人物がいて、どこでどれだけ繋がってるんだ?
そしてわたしは、出版社に勤める鳥飼なほみが一番好き。
出版業界から追放された状態の津田伸一の、この小説を、ただ出版したいがために、彼女はオリビアに通い続ける。
なのに生身の津田伸一のさそいを断り、「津田伸一の書いた小説の方にわたしは惹かれる」という。
で。この本が無事に出版されたのは、この小説によると鳥飼なほみのおかげということになるわけだから、鳥飼の大ファンのわたしとしては、ラストちらっとでもそこに触れてほしかった。
だけどそんなことはひとことも書かれてなかった!
そのことだけが不満といえば不満なんだけれど。
でも津田伸一だったら、ぜったいこう言うだろう。
「それはTMIだ」って。
TMI?
too much information。
これだけのボリュームなのに、読み終えたら、また読み返したくなる。
わたしの知らない謎やしかけが、まだ、この本にはたくさんあるような気がします。
http://shogofan.bbs.fc2.com/佐藤正午派の掲示板でいろいろな謎解きやってます。
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posted by noyuki at 21:54| 福岡 ☁|
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