焦土と化した東京で、父親と母親が出会う。
母親は赤いハイヒールを履いている。
そんな色鮮やかなシーンを、以前筆者の文章で読んだ。
そして「この話をもっと長い物語で読みたいな」と思ったけれど、予想以上の波乱万丈さと壮大さにびっくり!引き込まれるように読んでしまった。
14歳で看護師になるのを夢見て単身上京した美代子を待っていたものは、爆撃により焼け野原になった東京だった。美代子は、座学を学ぶ時間もろくに取れないままに看護の助手をしながら、強い気持ちで多くの傷病者を助ける。
一方当時の隆作は、通信講習所を卒業したのち通信兵として中国大陸で過酷な日々を送っている。無線通信の業務を行いながら難聴を患い、仲間の死を乗り越えて終戦を迎え復員できる日を待っている。
そんな2人の生い立ちから出会いへと続くファミリーヒストリーが物語の元になっている。
貧乏、苦労、戦時下の恐怖、戦争というもの、たくさんの人が死ぬということ。
そんなファミリーヒストリーがどの家庭にもあるものなのに、経験したものは「多くは語らず」、そして戦争を知らないわたしたちは「あえて尋ねず」というスタンスでなぜかやってきたような気がする。
この本には、ファミリーヒストリーであり、日本の生き生きとした歴史がリアルに描かれていて、ほんとうにおもしろかった。戦争を生きてきた人のタフな「希望」が、ああ、なんかすごいなあと思った。
70年以上のときを経て、あのとき出会ったふたりはもうこの世にはいない。
だけども、そのリアルな「2人の、生きるための道のり」がこの本の中にある。
悲しい出来事と、悲惨なできごとと同じくらいに、希望や驚きや素敵な出来事もたくさんあったんだなあと思う。そうして敗戦後の絶望の中でもそういうものを胸に抱いていきてきた人たちの思いがたくさん書き留められている、宝物のような本だと思う。
ビビッドで力強くて、そして、なかなか出会わない2人がやっと出会うまでの道のりが長くて険しくて、ドキドキしながら読みました。

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