2017年12月28日

忙しく、そして幸せだった1年を振り返る



今年の読書予定は、年頭から忙しく、そして幸せで奇跡の連続だった。
「こんな年はめったにないだろう」と言ってしまいそうだが、1年限りのバブルではない可能性もある。
加速度的にもっとすごいが起こるのかもしれない。

* 村上春樹の「騎士団長殺し」上下巻が発売されるというので、年頭から未読の本がたまらないように調整して読んだ。とても楽しめた。騎士団長は魅力的で、重すぎもせず、楽しめた。

* だがしかしゆっくり楽しむわけにもいかない。4月には佐藤正午の「月の満ち欠け」が発売になるのがわかっていたので、またもや調整。「月の満ち欠け」は、あまりのおもしろさに3度読んだ。

* 佐藤正午の文章には中毒性がある。ずるずると何度も読み返し、他の本に移行することができない。それで「えいやっ」と伊坂幸太郎の「AX」に移行したら、けっこうショッキングなどんでん返しでこれもまた名作だった。
そうこうするうちに同氏の「ホワイトラビット」も刊行になり。これには翻弄させられた。

* その間に盛田隆二の「焼け跡のハイヒール」発売される。なかなか出会わないふたりにヤキモキしながらも、戦中戦後の「心の記憶」「町の記憶」が見てきたかのようにビビッドに描かれていて、すごいリアリティに唸った。戦争は悲惨だ、戦争はいろんなものを奪う。そのことを深く感じた。

* なんといっても、長年応援してきた佐藤正午の「直木賞受賞」は感慨深い。候補にあがってのドキドキから発表の瞬間まで、待ち望む幸せを味わった。そして受賞。多くの人が佐藤正午を知って、そして読んでみようと思ってくれた。見たこともない景色が広がった。

* という「最強ラインアップ」で今年の読書は終わるはずだったが、暮れになって、またとんでもなくおもしろい本を読んでしまった。東山彰良「女の子のことばかり考えていたら、1年が経っていた」である。




有象くん無象くんの1年間の大学生活を描く「某、博多の大学」の物語である。
「かわいらしい博多弁を操りながら」好き勝手に男を翻弄する女子大生たち。男もバカだが、女もビッチだ。
もう、大笑い!ビッチちゃんとか、抜け目なっちゃんとか、ほら、あそこの大学におるやん!まさに! 

織田作之助賞を取った「僕が殺した人と僕を殺した人」(文芸春秋)の方を読む予定がうっかりおもしろい回り道をしてしまった。

そして2018年も! のっけから忙しそうだ。

*「月の満ち欠けリボーン」新装幀、岩波書店より著者コメントつきの発売。

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キャンペーンサイトはこちら

* それから、2018年1/4 小学館より「鳩の撃退法」文庫。糸井重里氏の解説で発売。
* 2018年1/6 KADOKAWAより「ダ・ヴィンチ」2月号佐藤正午特集号発売。

またまた楽しい1年がはじまるにちがいない。



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posted by noyuki at 14:32| 福岡 ☁| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年12月17日

伊坂幸太郎の備忘録「ホワイトラビット」 新潮社



今年は伊坂幸太郎の新作を二作(AX)と(ホワイトラビット)を読めた幸運な年だった。
だが、どっちがいいか?と言われたら選ぶのに困るだろうなと思う。
ドンデン返しもあったが、どちらかというとわかりやすい筋だったのが「AX」。
ドンデン返しどころか、時系列返し、空間返し、登場人物返しと、いくつものひねり技があって「あれれ?」の連続だったのが「ホワイトラビット」。
とちゅうで翻弄されすぎて、読み戻ることも何度もあった。

「誘拐業」(誘拐犯の下請け)をなりわいとする兎田孝則は、ボスから妻の「綿子ちゃん」を誘拐され、交換条件として「経理の女をかどわかした裏切り者のコンサルタント、オリオオリオ」を探し出して差し出すことを要求される。
オリオオリオを追っているうちにいつしか、それは「立てこもり事件」へと発展。父母と子供を人質にした立てこもり事件...のはずが。
金庫破りの黒澤グループ、そして警察の夏の目課長、テレビ中継まではじまり、この壮大さの中で、複雑なストーリーの展開に何度も何度も翻弄され...

作者はあとがきにこう書いている。

> 無事に出来上がるかどうか不安で仕方がなく、おそらく無事にはできあがっていないのですが、それでもこうして完成したことにはほっとしています。

要するに作者が不安に思うくらいの仕掛けがたくさんあったっていうことです。
そしてわたしは、その仕掛けに右往左往するのが楽しくてしかたなかった。

読者がすっきりとわかる作品よりも、翻弄され、何度も読んでしまう作品の方が楽しい、と最近は思っている。
ただし「ただ複雑」なだけでは翻弄されないのだ。
立ち止まるべき「台詞」があり、愛着を持たずにはいられない「魅力的な登場人物」がいるから、何度も立ち戻ったり、読み返したりできるのだ。
そういう翻弄文学は奥が深い。「ついれこれるか?」と、言われているようで、ほんとに夢中で読んでしまう。

そう、完成された何かを受け取って評価したいわけではないのだ。
複雑な迷宮を作者といっしょに走り回るのがたまらなく楽しい、これはそんな作品だと思う。


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posted by noyuki at 16:48| 福岡 ☁| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする