雪のように肌の白い赤ん坊だった。
父親は生まれたてのわたしを見て「ゆき」と名付けた・・・由来を聞かれるたびにそう説明していたが、嘘である。
産院のソファでなかなか生まれないわたしを待っていた父親は、置かれていた女性雑誌を読んでいた。
そこに映っていたモデルの名前が「ゆき」だったらしい。そうか、こういう名前もいいな、そうしてわたしの名前になった。
結婚して苗字は変わった。苗字が変わった名前を最初はネットで使っていた。
そのうちにハンドルネームなるものを作った。
「野雪」という名前は、その頃書いた詩からとった。好きな人に会いに行きたいと思い、真っ白な雪の野原を踏みしめる。ところが決心がつかず行きつ戻りつを繰り返す。そのうちに真っ白い雪が汚れてしまった。そんな感じの詩だったと思う。
しばらくして、漢字の表記に飽きて、ローマ字にしたりひらがなにしたりしながら、この名前は10年以上使った。今も使っている。
最近、ちがう遊び場を見つけて、ちがう名前を使うようになった。好きな人の苗字に自分の名前をくっつけるという、女子中学生の遊びのようなネーミングだったのだが「砂糖雪」と漢字を当ててみたら、おいしそうになった。気に入っている。
ネットの中では嫌いな人と疎遠になるもたやすく、好きな人に近づくのもたやすい。
名前を変えて何度も生まれ変われる。生まれ変わるたびに新しい場所を生き、新しいわたしになって、新しい人に出会える。
あるいは、生まれ変わってもなお、同じ人に出会える。
この場所でわたしはなんども生まれ変われる。
なんどもなんどもあなたに出会える。
世界は多重奏だ。

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