外食のことばかり考えている。
ずっとずっと外食をしていない。
自宅時間が長いので、家では時間をかけたものを食べることもできる。
今日はアヒージョを作った。でも、それとこれとは別。外食が恋しくてたまらない。いつも「そろそろおいしいものを食べたいなあ」という頃合いで「彼女」が電話やショートメッセージをくれたのだが。
なんで、彼女は最近誘ってくれないんだろう?
「彼女」は語学スクールの先生をしていて、第5週は授業が休みになった。
わたしは金曜日が定休日なので、第5週の金曜日がある月にわたしたちは集まるのだ。「5金(ゴキンの会)」と名付け、数人の友人を誘って、ゆったりしたレストランを彼女が選んだ。
坂と木に囲まれたイタリア料理だったり、隠れ家のような古いマンションの一室にのお店だったり、石窯のあるピザ店だったり。
どこからこんなおいしいお店見つけてくるんだろう?というような素敵な店を見つける才覚は、わたしたちのグループの中には彼女にしかなかった。
不要不急の外出はできないとはいえ「落ち着いたら○○にご一緒しませんか?」的なメールが来ればいいなとずっとずっと思っている。
4種類のチーズの上に蜂蜜をかけるピザ「クアトロフォルマッジ」がずっと頭から離れない。
その店は、駅から降りて10分ほど歩いたところにあった。
生ハムやオリーブの実やサラダやローストしたお肉、数種類のピザをさんざん食べつくす。
そして最後注文するのがクアトロフォルマッジだった。
焼き上がるとわたしたちは歓声をあげる。
本当に!夢のように素敵な味!とろけたチーズに甘いはちみつが絡まる。
石窯で焼いたばかりの生地はほかほかしてて、本当に幸せな気分にさせてくれた。
お互いの仕事の愚痴をほどよく吐きながら、政治的なスタンスをほどよく告白しながら、わたしたちの外食は、完璧に完璧で、まるで夢のようだった。
たくさん笑って、たくさんおいしいものを食べて。
人生の折り目折り目に、そういう時間はぜったいに必要なのだとわたしは信じていた。
なのに。Googlemapを探してみても、あのピザ店の名前が思い出せない。
少し複雑な路地だった。彼女が先導してくれて、わたしは場所もはっきり覚えてなくて。もう一度行こうと思っても、どうしても思い出せなくなってしまっていた。
彼女がピザのお店まであちらに持っていってしまったのだろうか?
彼女はもういない。
旅行中の不慮の事故でなくなった。妹さんがバタバタで手続きして、すべてが終わったあとに、最後にメールを交わした友人のところに連絡が入った。
私はつい、そのことを忘れてしまう。
あまりにも現実感のない話。
本当にあった話じゃなくて、何らかの事情で嘘をつかれてるんじゃないかとさえ思ってしまう。
それでも彼女はやはりもういないのだ。
ショートメッセージは二度と来ない。
いつまでも彼女が瀟洒なお店を教えてくれるわけじゃない。
楽しい時間を過ごしたければ、わたしが自分で探して、自分で計画しなければいけなくなってしまったのだ。
菜の花の黄色一色に染まった、河沿いの道を車で走りながら、向こう岸にいる彼女のことを思い出す。
彼女はいつも言ってってくれる。
「元気? いつかまた会えたら、おいしいものをごいっしょしましょう」

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