第167回芥川賞受賞作品。
文芸春秋9月号で読んでみた。
理由は「タイトルがやわらかくて、読みやすいんじゃないか」と思ったから。
ところがところが。
毒と呪いだらけの内容だった。
うわあああああ。
おもしろくてたまりませんでした。
簡単に言ってしまうと、会社員小説。
上司がいて、転勤してきた二谷さんがいて、あまり仕事のできない芦川さんがいて、パートの原田さんがいて、私(押尾さん)がいる。
仕事だからきちんとやろうよ、忙しいときは残業だってしようよ、という人と。
「わたし、自分で責任持って何かをするのは苦手で」というオーラを出しまくって気分が悪くなって、やんわり早引きする人。
なのに早引きする人が、なぜだか守られてしまう。
こういう人たちが二極化しているわけではなく、会社っていうのは「いろんな価値観のまぜもの」なんだと思う。
まざってまざって、嫌いと好きもまざっている。その理不尽さがおもしろい。
その価値観の違いを「食べる」という行為を通して炙り出していくのが、もう、やわらかい文章の中のホラーに見えるし。
「おいしいごはんを食べられますように」なんていう言葉こそ、そもそも呪いの言葉なんじゃないかと思えてくる。
どこの会社だって、大なり小なり「芦川さん」がいるような気がする。
食べたくないタイミングで配られる食べ物は迷惑だし。
こっそり捨てたい気持ちに駆られることもないことはないけれど。
ああ、でも、気持ちはわかる。
この憎み方、わかりみが深い、と思う。
作者は「小説を書いている時、わたしは自分がなにを書きたいのかわからない。書き終えて読み返した時に、小説の方から教えられる。今回の小説もそうだった、わたしはこれからも書き続け、小説に、わたしにとってのうそやほんとうを教えてもらう」と語っている。 (*文藝春秋9月号受賞のことばより抜粋)
本当に文章を書くことを愛してる人なんだな。
自分の心にある小さいかけらをひとつひとつ書き写すことを愛してる人なんだなと思う。
愛されている文章がそれに呼応して、作者のカオスを浮かび上がらせる。
こわくて呪いにみちた、幸せな小説だと思う。
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