2011年11月13日

「きみがつらいのは、まだあきらめてないから 」角川文庫 盛田隆二




1991年から2011年までにわたる7つの物語からなる短篇集。
登場人物も、かけおちする大学生、フィリピン人の娼婦、恋人へDVを繰り返す女性、うつ病を患う銀行員と多岐にわたる。

「舞い降りて重なる木の葉」が収録されていたことが嬉しかった。
「夜の果てまで」の原型となる短編で、マリクレールに掲載されていたものの、その後20年間「まぼろしの名作」となっていたものである。(夜の果てまでの文庫あとがきで、その存在が明かされています)
「夜の果てまで」が映画ならば、「舞い降りて重なる木の葉」は一枚の写真のような作品だと思う。どこにもいけない「今」がぎゅっと凝縮されていて、その密度の濃さに息を飲んでしまう。「その瞬間」とか「その衝動」が、二十年後の今も炎を放っていた。

表題である「きみがつらいのは、まだあきらめてないから」。
人は風邪を引くように鬱を患うことがある。だけど人は、そのときのことを「振り返りたくもない」と思うかもしれない。あるいは断片的にそのときの状況を思い出して語るかもしれない。ここには、物語というかたちで、その心理状況が克明に記録されている。読む人によっては苦しい作品かもしれない。描くことはもっと苦しい行為だったかもしれない。それでも、この作品にすがりつきたくなる瞬間を持つ人も多いと思う。上質の物語であると同時に、これは患った人間にしか描けない「心の記録」だと思う。

作者が年齢を重ねるにつれて「ダイブ小説」と評された時代から、「市井の人の暮らしを克明に描く時代」へと作風は変わっていったように思っていた。
だけど、こうして年代を追って読んでいくと、「変わっていない一本の線」がしっかりと見えてきた。
そのことについては、解説の中江有里さんの文章があまりにも的確で素晴らしいので、ぜひ解説で読んでいただきたいと思う。まるで解説までふくめて、短編の連なりがひとつの物語になってるような気がした。

人は弱い。弱いくせに、自分を守ることだけを考えることはできない。弱いくせに、もっと弱い誰かを守りたいと思ってしまう。
現実世界は、ときどき正論でそんなわたしを叱咤激励してしまったりもするけれど。
少なくともこの短編集の中の人々は、それでもそんなふうに生きているんだと思って、なんだかとても嬉しくなってしまった。

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posted by noyuki at 22:22| 福岡 ☀| Comment(2) | TrackBack(0) | 佐藤正午系 盛田隆二系 話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
短編はいいですよね!
こちらもチェックしてみます!
Posted by みみ〜 at 2011年11月28日 12:27
みみ〜さん、書き込みありがとうございます。
ほんとにいろんな時代がてんこもりの短編な気がします。
よかったら読んでみてくださいね!
Posted by のゆき at 2011年12月01日 17:51
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