2012年06月17日

映画「彼女について知ることのすべて」


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ずっと若い頃から、わたしの心の中に一人の男が住んでいる。
彼は名前を変えたり職業を変えたり住む場所を変えたり年齢を重ねたりもするが、一貫しておなじ男である。
少し痩せ型で背が高い。ひょろりとして猫背ぎみにも見える。朝食にはりんごを好む。賭け事をすることもあるが身を持ち崩すほどではない。むしろ生活はきちんとしている方だと思う。小学校の教諭をしていたこともある。県庁の職員だったこともあり、小説家をしていた時代もあるし、ときには無職、そしてコールガールを送迎するドライバーをしていた時代もある。
生来の破滅的性格ではない。
なのに、彼は大切なところで一歩を踏み外す。
ほんの小さな一歩を踏み外すだけなのに、彼の人生はそのことによって大きく変わってしまうのだ。
ずっと若い頃から、わたしはそんな彼の人生を見てきた。


先日、映画を見ていて、彼が実像で現れたので、とてもびっくりした。
表情も背格好も言葉の選び方も人生の階段の踏み外し方も、まったく、わたしの中に住んでいる彼そのものだったので、本当に本当にびっくりした。

ああ。彼だ。
長年佐藤正午の小説に慣れ親しんできた人で、そう思ったのはわたしだけではないと思う。

映画「彼女について知ることのすべて」で三浦誠己演じる「鵜川先生」。
一挙一投足があまりにも「彼」そのものだった。
遠沢メイのような女を抱いてしまう男は、どこかを間違えてしまう。
とんでもない方向に行って、とんでもない決断をしてしまう。
ずるい計算ができる女ではない。
ずるくない男とずるくない女なのに、どんどん間違えた方向に行ってしまう。
たったひとつのキスから転がるように抱き合って、「人生への誠実さ」と「自分の心への誠実さ」のバランスが逆転していく。
そして、びっくりするような結末...

わたしは彼のおかげで別の人生を知っていられる。
愛していても誠実でいても、それが実らない人生を知っている。
ひとつ踏み外すことの危うさと、エロスノワールな世界が実は好きな自分を知っている。

いい映画だった。
そして「彼」は実像をまとって、今もわたしの心の中にいる。
わたしはたぶん、彼のような人生は送らないし、彼のような男とはリアルには関わらないと思う。
それでも、こんな男がずっと心のなかに住み続けているのは、けっこう楽しいと思っている。



小説「彼女について知ることのすべて」はこちら



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posted by noyuki at 21:18| 福岡 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 見て、読んで、感じたこと | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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