2012年12月12日

ミドリの森 2

ミドリ

目覚めたら、天井の色がいつもとちがってた。
私の部屋の木目の天井ではない、白いクロス貼りではないか。どうして私はこんなところにいるんだろう?
つぎに、誰かの気配で自分が目覚めたことに気づいた。

カラダの中からクチュクチュって音がする。私の水音だ。知らない指先が、その水音を確かめているのだ。
そして、確かめ終えると、今度は私をこじあけていった。
自分でも意外なくらいスルスルと、ヘビが私の中に滑り込んでいくのがわかる。
薄暗いトンネルをスルスルスルスル。トンネルの壁が気持ちいい。

と、ここでようやく目を開いてみる。
私が目を開いたのも気づかずに、私の上で動いている男がいる。
しばらくしてやっと気づいて、首すじと耳たぶのあいだくらいの場所にキスをしてくる。

誰だっけ?
どうしてこんな所にいるんだっけ?

トンネルの探検が続くあいだ中、私は記憶をたぐっている。
快感は鈍く、目覚めないままで、長くは続かない。
だけど、嫌ではない。
ひさしぶりに私が欲しがっていたのが自分でもわかる。

そうだ。
ショットバーでしこたま酔っ払って、この男の部屋にいっしょに帰ってきたんだ。
「やろうよ」って、たぶん、私だ。そうだ。それだけは覚えている。

男の部屋にふたりで倒れこんで泥酔して寝てしまって、明け方に私たちはこんなことをしてるわけだ。
そこまで記憶が戻ったところで、ああ、そうか、と思っていると、男の動きが激しくなってそれからピタリと止んだ。荒い息遣い。
顔は覚えている。好みの顔だ。けれど名前を知らない。性格もなにも知らない。この男と出会ったときは、わたしはもうしこたま酔っ払っていて、それでも家に帰る気がなくて、誰かと一緒に夜をすごすことばかりを考えていたからだ。

男が、シャワーを先に使うといいと私に言う。デッドラインは8時だから、あと2時間。コーヒーでも煎れるよ、と。

つまりは、男はこのあと仕事に出るわけで、その時間にここから追い出されるという意味だ。土曜日だけど、休日出勤なんだって。
家に帰るのもおっくうだし、バッグのポーチでありあわせの化粧をして、そのまま仕事に行くことにした。
外に出てみると、職場のあるショッピングセンターがものすごく近かったことに気づいた。
かなり早い出勤になるけれど、それは仕方ない。

ああ、またやってしまった。
ほんとはセックスなんて大嫌いだって思っているくせに、月に1、2度、なにかの拍子に誰かとやりたくて仕方なくなる。、この男とははじめて。そもそも、昨日はじめて会って、はじめて口聞いたくらいなんだから。

誰にも一生言わないって決めたことがある。
私は一生、そのことを喋らない。
そして、あの男はもう、この世にはいない。
もう誰もそのことに触れることはできないのだ。
たしかにあった事でさえも、そんなふうにして、なかったことにしてしまえるだろうか?
してしまえればいいと、心底思う。だけど実際にあったことを、なかったことになんてできやしない。誰にも言わなくったって、私は自分がそれで幸せになれるなんて思えない。
人生はおもしろくない。むしろ、つらい。いつ死んだって、いい。その瞬間私は、ああ、やっと終わったって思うにちがいない。

そうして私は、月に一度くらい、誰でもいいから抱かれたくなってしまう。
一体私のカラダは何を望んでいるのだろう?

私が早く着いたのでサトミが少し驚いた顔をした。
その他は、日常は何も変わらない。
わたしはまだキレイだし、若い時のままのプロポーションを維持している。夜ごとの酒まみれにしてはいい成績だ。わたしは客にも男友達にも羨望の目で見られる。

歓楽街に向かう男たちは、駅の構内よりも近道になるという理由でショッピングセンターの二階通路を横切ってゆく。
そして目の端で、顔見知りの男たちは。私がネイルサロンに座っていることを確かめる。
ときには、自分のいる店を耳打ちしてゆく。

この場所にいるかぎり、飲み友達に事欠かない。
だからわたしは、本店よりもこちらの店の方が好きなのだ。

(まだ続くかもしれない)


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posted by noyuki at 20:58| 福岡 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | ミドリの森 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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