2014年06月01日

「女のいない男たち」 村上春樹 文芸春秋社





一時期村上春樹の短編は、書きたりない(意図的に書きおとした?)部分が気になって消化不良のように感じていた時期があった。
そして、9年ぶりのこの短編も、ある意味書きすぎてなくて、あまり壮大ではなくって、雨だれとか、古いビートルズのアルバムとか、せつない恋をうたうジャズとかそういう感じの本だと思った。

文藝春秋連載中よりも、文字の大きさや紙質やレイアウトの状態のせいか、上質な仕上がりに感じた。現金なものである。

好きな短編集のため、備忘録として各編の感想を書いておきます。ネタバレを好まれない方はご遠慮ください。

「ドライブマイカー」

免停になった俳優が、運転手の女性に、なくなった妻について話す。
妻の、どうしても理解できない部分。それを運転手のみさきが聞き、そして簡単な言葉で処理する。言い方が悪いけれど、彼女の世界の理の中で処理する感じ。水滴のようにそのひとことが染みる物語。

「イエスタディ」

まったく話の内容は違うのだが「午後の最後の芝生」を思い出した。
若い大学生世代の僕を含めた3人の物語。夢の中にでてくるという「氷の月」のエピソードが泣きそうに好きだった。

「独立機関」

52歳にしてはじめて本当の恋に落ちた整形外科医の話。
恋のやっかいさと同時に、女性の「独立機関」について語られている。
語り手としての医師の秘書のスタンスが完璧に美しく、ここにある別の物語が浮き立ってみえる。

「シェェラザード」

性交して話をして帰っていく女性をシェエラザードと名付け、千夜一夜物語のように彼女から聞いた話が描かれている。
ところが、なぜに彼女が来るようになったのか描かれてないし、彼女が、のちの別の物語としてちらりと語ったことの詳細も描かれてない。
千夜一夜物語の語り手との濃密な時間が、恋とは言えないものの男女の結びつきの根元のようなものを語っていて。その雰囲気はこの短編の一貫したテーマのように思える。

「木野」

仕事をやめてバーをはじめた男の話。
おとぎ話のように不思議なことがたくさん起こる。
濃密な男女に関係とは別に、男を裏切る女や身体の関係を求める女もたくさん短編に登場するが、そういう女たちはまた、別のものをもたらす。

「女のいない男たち」

書き下ろし。
女のいない男たちというものがどういう過程でできあがるか描かれている。
訃報からもたらされるいろんな感情が一編の詩のよう。
しかし、短編のラストとしてうまく機能している。

 
男と女についての短編集として、「一貫して上質の音楽が流れている」印象。
ときどき思い出してひとつ、という感じに読み返したい作品集だけど、やはり今いちばん気に入っているのは「イエスタディ」の氷の月の話。何が自分のお気に入りになるかは人それぞれだろうけれど、この美しい描写に出会えて本当に嬉しかった。
好きな音楽の好きなフレーズのように千回くらい口ずさんでいたい。



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posted by noyuki at 21:24| 福岡 | Comment(0) | TrackBack(0) | 見て、読んで、感じたこと | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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