2015年07月22日

「長いお別れ」 中島京子 文藝春秋



認知症について扱った小説だと聞いた。「でも中島京子さんの作品だから読んでみようかな?」と思った。

スタイリッシュな題名どおり、主人公の「お父さん」のプライドはおおまか損なわれず、「お母さん」も大変だけど明るくてなんだかほっとした。

主人公「東昇平」は元国語教師で校長先生。認知症を発症し、少しずつできないことが多くなっている。
長女は夫の仕事の関係でサンフランシスコ在住。次女は結婚して近くに住み、三女は独身のフードコーディネーター。
現在は妻の曜子さんと二人暮らしをしている。

短編のオムニバス仕立ての中で「東先生」はだんだんできないことが多くなっていく。それでも、昔のことを覚えていたり、サンフランシスコまで行ったり、孫に「漢字名人」と尊敬されたり。
これは、そういう毎日を過ごしながら現世にゆっくりとお別れしていく東先生の「ロング・グッドバイ」なお話。

もちろん、今、日本の各地に東先生は存在している。
わたしの防災メールには毎日のように「東先生が◯◯で行方不明になりました」と連絡が入るし、スーパーのレジでは東先生は小銭を揃えるのに苦労して、うしろに長い列を作らせている。
東先生は何十回と同じ昔話をしてくれるけれど、さっきクスリを飲んだかだけはどうしても思い出せない。

物語の中では、やさしく賢明な家族の力によって、東先生のプライドは損なわれない。
物語の中では、小さな女の子の冒険を助けてくれるし、どんなに困った事件が起きても作者と登場人物の力でユーモラスに乗り越えられてゆく。たとえそれが「いまわのきわ」であっても。
現実にはもっと大変なこともたくさんあるだろうし、東先生のプライドはいろんなかたちで損なわれるのかもしれない。
だけどもこれは物語。

物語は「社会を変えるもの」ではなくて、「人の心に静かに染みこんでいくもの」だと思っています。
この「お別れの物語」の感触がいろんなところに染みこんでいけばいいなと思いました。



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posted by noyuki at 21:18| 福岡 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 見て、読んで、感じたこと | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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