2017年04月30日

月尾島(ゲツビトウ)のさくら




ソメイヨシノはまだ。



「さくらはやっぱり月尾島(ゲツビトウ)よ。島のぐるりにさくらが植えてあってとてもきれいなのよ」
ベッドの上で麻子さんが言った。

「そこは仁川(ジンセン)から近いのですか?」
わたしは尋ねる。
わたしにとっては仁川は(インチョン)なんだけど、麻子さんは日本語風に(ジンセン)という。

「近いね。島だけど、歩いて渡っていける。その島のぐるりに桜を植えてあって、すごくきれいよ。みんなでそこに行って花見をするのよ」
「日本人も韓国人も?」
「そう。うちにいた韓国人もみんな。韓国人のお菓子とか持ってきてた」
「トックとか? 」
「名前はわからないけど、どれもおいしかったよ」

麻子さんの家は商売をやっていて、いろんな人が働いていた。
主人である麻子さんの父親に褒められるよう、雨が降ると小学校まで迎えにきてくれた。
チョンシギとかカクチョギとかそういう名前だったと思う。
ひとりは傘を持ち、もうひとりがおんぶしてくれた。
麻子さんは満鉄の駅の名前を順番に言える。
仁川、京城、とそらで。

わたしはスマホでウィキペディアを見る。

軍の基地があったようですね。そしてロシアもいて領土争いもあった。
もしかして桜は、日本であることを主張していたのかもしれないですね。

そうかもしれないけれど。それでも花見は楽しかったよ。

わたしは慰安婦問題まで持ち出す。そんなことはないよ、と麻子さんはきっぱりと言う。
どこかではあったのかもしれないけれど。

終戦になり、麻子さん近所の人の船で慌しく帰国する。
そのあたりで話はだんだん、もうあいまいになる。

大正生まれの麻子さんの記憶は、どこまでもクリアというわけではない。
だけど、わたしは、麻子さんから聞く韓国の話が好きだ。

仁川にあった柳の木や、可愛がられた記憶。
時代を見てきた人の話が好きだ。
資料や主張の中にある事実と違うかもしれないけれど。
幸せな記憶を麻子さんが何度も繰り返す、その話がとても好きだ。


ちなみに現在の月尾島(ウォルミド)のようすはこちらです(soulnaviより)



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posted by noyuki at 08:03| 福岡 | Comment(0) | TrackBack(0) | 詩とか短文とか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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