2025年11月29日

004 Gardenia

 その香りにふたたび出会って思った。
 「ああ、わたしは生まれ変わっても、どこかで道を間違えても、きっとこの人と一緒になるのだ」

 デパートの片隅にあるボディソープコーナー。
 そのブランドの液体ボディソープをいつか買おうと思っていたわたしは、暇にまかせてゆっくりといくつもの香りを味わっていた。
 どれも淡い香りで、なかなか見分けがつかない。
 ショップスタッフも不在で、遮る人もいないものだから、時間に任せて何度も何度も香りを味わい、そして最終的にひとつのボディソープを選んだ。

 落ち着く香りだ。
 若いときはも柑橘系やウッド系の香りを選んでいたのに、最近はとても甘い香りを選んでしまう。
 どうしても甘い香りを選んでしまうのはなぜだろう?
 甘やかしてほしいのか?
 
 ボディソープの香りは他のどれも、よい香りだった。
 きっと他の香りも同じようにわたしに合うにちがいない。
 次回はまた別の香りを選ぼうと思った。

 そして次にデパートに行ったとき、コンディショナーが切れそうなことを思い出した。
 使いつけをそろそろ変えていいタイミングなのかもしれない。
 ボディソープと同じシリーズから選ぼうと思った。

 今度はショップスタッフが応対してくれた。
 「どれも良い香りです、自分もいろいろ愛用している」
 と話してくれた。
 わたしと同じくらいの年代の、清潔な陶器のような肌の女性だ。
 前にどれを買ったのか覚えていない。けれど、他の香りも試してみたいと言うと「ゆっくりと、存分に選んでくださいね」と言って、いったん下がってくれた。
 おそらく、わたし同様、じっくりと選ぶ人も多いのかもしれない。

 コンディショナーの香りを、またも時間をかけて選んだ。

 最終的に2つほどに絞り込んで、何度も2つを味わったが、最後のひとつの方が「なんとなくいい香り」に思えて、そちらに決めた。
 「お決まりになりましたか?」
 ショップスタッフが、他の製品など紹介しながら簡単に包装してくれた。

 家に帰り、バスルームにコンディショナーを置く。
 その日の夜にさっそく髪を洗う。
 いい香りだ。親しみのあるいい香り。
 と。ここで、ボディソープの瓶を確認し驚いた。
 選んだのはまったく同じ香りだったのだ!!!

 同じ過程でなんども全てを試す。
 そして同じ過程で丁寧にひとつのものを選ぶ。
 そういう行程を経て。
 ちがうものを選ぼうと思っているのに。
 わたしはそれでも同じものを選ぶのだ。

 きっときっと。わたしは生まれ変わってもこの人を選ぶのだろう。
 日常の些細な習慣をどれだけたっても同化できなくて、毎朝歯ブラシホルダーの場所をずらしたとしても。
 休日のランチのチョイスが毎回気に食わなくて、ときにはひとりで外食したとしても。
 性格のすり合わせができなくて、微妙な食い違いを罵り合っても。
 罵り合って、いやになって、他の人に気持ちを揺らしても。
 ときには嘘をつき、ときには裏切って放置しても。
 それがお互いさまだったとしても。
 
 それでもわたしはこの人を選ぶだ。

 Gardeniaの香りが教えてくれた。

 それでもわたしは無意識に。きっとかならずこの人を選ぶのだ。




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posted by noyuki at 19:58| 福岡 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩とか短文とか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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