「イケヤが退院できてよかったよ」
明るい茶色い髪をひとつに結んだアキが病室で荷物をまとめながらそう言った。
「おまえもイケヤじゃないの?」
「ちがうよ。わたしは池谷あき。イケヤの姪っ子のアキだよ」
「おじさんって呼ばないのか?」
「何言ってんの。小さいころから、イケヤの友達に遊んでもらってて、その頃からイケヤはイケヤじゃん。みんなイケヤって言ってて。わたしもイケヤって言ってたの。忘れたの?」
「うん。正直いろいろ忘れてる」
「ま、少々忘れてても、わたしはイケヤがいてくれれば心強いから」
なんで俺がいたら心強いんだろう、とイケヤは記憶を辿った。
アキの父親は、10歳年の離れたおれのにいちゃんで。ああ、そういえば、アキが小さい頃、離婚して家を出たんだった。それでアキはおれにくっついてたんだ。
俺の母親と、嫁であるアキの母親は仲がよかったけど。アキはおれになついて。おれの友達が仕事帰りに遊びにくると、いっつもおれの部屋に一緒にいたんだ。みんなでゲームしたよな。アキはみんなの妹って感じで、誰かの膝の上にちょこんと座っていた。
「悪いな、アキ。おれ、しばらくしたら死ぬんだよ。だからおれが死んだ後始末だけ。まかせていいかな?」
「うん。病院の人にざっくりは聞いた。ふたりで藤屋医院の藤屋先生を尋ねてくれって」
「そっか、悪いな」
「まあ、お互い家族に恵まれてない家族だから。わたしにとってはイケヤだけが家族みたいなもんだよ」
えっと。それはなんだっけ?
おれもアキも、一人暮らししてるし。
まあ、それでもアキはおれを家族だって今でも思ってくれてるんだ。
それでいいかな?
それからおれたちは、アキの軽自動車に荷物を積んで、藤屋医院へ行った。
フジヤは相変わらずちょっと無愛想な感じだったけれど、アキはフジヤのことを気に入ってるようだった。
アキは「隣の市で仕事をしているからすぐには来れないかもしれないけれど」と、フジヤに携帯番号を渡していた。

