2004年10月31日

盛田隆二「散る。アウト」熱は冷めない

 浮浪者を主人公にした小説だって犯罪に巻き込まれる小説だって意外な展開に驚かされる小説だって世の中にはヤマほどある。
 なのに、なぜ「散る。アウト」だけ、こんなにも引き込まれるのだろうか?

 舞台は東京からモンゴルへ。主人公は冴えない浮浪者である。彼はミステリー小説に出てくるような頭脳ひとつでいろんな事件を解決してゆくタイプではない。同行のダワの機転に助けられたり、判断を間違えたのではないかと迷ったり。そんな等身大の主人公だからこそ、わたしたちは同時にその細やかな感情の動きに同調できる。
 モンゴルの町の風景が細部にわたって描写される。だが取材したものを羅列するだけではない、かといって過剰な感情も含まれていない。だが、確実にその場所の「空気」が緻密に描かれている。だから、だからわたしたちは、未知の町に迷い込んだひとりの人間となってその場所に立つことができる。

 ダワという女性が美しい。とても力強く物語りを引っ張ってゆく。
 カードがどんどんひっくり返るように、いろんな事が起こる。それに同調して脈拍がどんどん上がってくる。
 これはミステリー小説ではない。日常から、自分を始点としてはじまる心の強さ、悲しみ、動いてゆくものたちを描いた小説だ。同調し、絶望し、悲しみ、そして散る、アウト。
 その中で、すれ違い、繋がってゆく数々の人々がいて。ひとりひとりが自分の人生を生きていて、そして繋がっている。

 ラストを迎えても、まだ、熱は冷めない。
 ひとつの物語が終わっても、ダワのことや、主人公のその後などを想像しないではいられない。
 そしてまた、読み返す。
 筆の細やかさが織りなす世界にいつまでも身をおきたいと思う、これまでにないタイプの小説だと思った。

 ***

 またもしつこく、ケチをつけてみようのコーナーです。
 舞台は2006年。世界情勢を細かく描写したこの小説。チェチェン独立派なども登場するんですが。激動の世界は今後どうなるかわからないもの。
 案外その頃には、チェチェンが独立国になってたりして・・・
 いや、わたしは、そこんとこ詳しくないんでわからないんですが。
 どっか突っ込んでみたかったりして・・・
 
 
 

 
posted by noyuki at 22:48| 福岡 ☀| Comment(4) | TrackBack(1) | 佐藤正午系 盛田隆二系 話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
拝読しました。さすが文筆業w
それにしても、手にすることが出来てよかったね。
Posted by バチスカーフ at 2004年11月01日 09:28
おかげさんでね。

それにしてもレビューが書きづらい小説でした。
すごいそういう意味では新しい、どこにもないものなんだな、と実感。
Posted by noyuki at 2004年11月01日 21:32
無事ゲット&読了おめでとうございます!
この小説、どんどん引き込まれていくのがすごいと思います。
Posted by かてりな at 2004年11月03日 13:22
ほんと、ドキドキするよねー。
でも、レビューにするとうまく書けない。
どうしてだ? ドキドキ引き込まれると正直に書いた方がよかったね。
Posted by noyuki at 2004年11月03日 21:24
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レヴュー:『散る。アウト』
Excerpt:  中国奥地ゴビ砂漠から飛来した黄砂とともに東京・日比谷公園からはじまった旅は、約1ヶ月で東アジアを駆け抜けて終わった。まさに、熱狂と、そのあとにくる冷却。
Weblog: 深海日誌
Tracked: 2004-11-01 09:29