2006年11月05日

トカゲのしっぽ

ああ、そうか、いつも見えているアレは、トカゲのしっぽだったんだなあと、今日やっと気づいた。
青くてテラテラ光っている。
アスファルトの暗がりの中でも、ほんのりとそこにいる。
そこに見えないときも、ずっとずっとそこにある。

トカゲのしっぽが思い出させるのはいつも、わたしが生きているってことだ。
たまたまわたしがこの時間に生きていて、それがずっと続いて、誰かと別れ、誰かと出会い、それを繰り返しながら、いつかこの身体がなくなってしまい、そのあとも、ここにあるわたしの居場所とか月の光をうけて立つ柿の老木とかが、なにもなかったように続いてゆく、というようなことだ。

生きてるってことはもっと当たり前のことなのに。

トカゲのしっぽは、当たり前のことを当たり前と思わせてくれなくて。
わたしとかわたしのいる世界を俯瞰した場所まで・・・
そんな場所になんていたくないのに。

明け方の夢の中ではみんないなくなっていた。
わたしと、遠い場所にいる友だけが生き残って、わたしは家を離れてそこでふたりで暮らすことにした。
待てよ。
ほんとにみんな死んでしまったの? どうしてわたしとあの子だけが残ったの?
どうしてわたしは知らない町で暮らすの?

トカゲのしっぽはいつも、わたしの大切なものたちが、いずれは消えてしまう存在だってことをずっとずっと忘れるなって言うのだ。

わたしはそれが大きらいだ。
もっと当たり前のように、みんなと一緒にいたいのだ。

夢から覚めるとき、トカゲのしっぽが左右に揺れた。
ちょうどバイバイするみたいに。
ああ、やっといなくなってくれた。
トカゲのしっぽが見えるのはいつもこの時期だけだ。
なのに、その時間はいつも永遠のように思えるのだ。

わたしはこれから、トカゲの記憶を洗い流すために血を流すのだ。
子宮をふり絞って。
記憶を洗い流すのだ。

トカゲのしっぽの見えない世界では。
もっとなにもかもが、当たり前のように動いていてくれる。

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2006年10月25日

いつかは砂糖菓子に変わる。

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昔住んでいた町に降りた。
とりあえずふらふらと東口に行くと、いつも乗ってた62番のバスが止まっていた。
すごくさみしい気分になった。
大橋はさみしかった。
あの頃のわたしはまっすぐにさみしさを直視できるくらいに若くかったけれど、逆にいえばさみしさを他のものに転換する方法も知らなかった。
あれだけよく遊んで麻雀して、さみしいはないんじゃないかと思うけど、駅の降りるだけで思い出すくらい、どこか満たされないさみさしさがあったんだと思う。

あれからずいぶんだったけれど、いまだに満たされないさみしさとずっとつきあい続けている。
だけど、それを転換する方法だけは身につけたように思う。
さみしさや切なさは、ずっと噛みしめているうちに、とても甘い砂糖菓子のように口の中に広がってゆくのだ。
切なさを抱えるのは甘く心地よい。
それが広がってゆくのを感じながらあたたかい毛布をかぶる。
砂糖菓子のように口の中で転がしながら、まどろみに落ちてゆく。
むし歯にはならない。
それは、ただ身体が求めている甘味なのだから。

駅を横切る若者たちはみんな、あの頃のわたしみたいな顔をしていた。
誰かと歩いていても、ひとりぼっちでも、変わりなく絶対的なさみしさを抱えているように見えた。
その中にわたしはいないか、と、探してみる。
いたら、教えてあげたい。
抱えて生きよ。と。
それがいつか砂糖菓子のように甘くなって、ある意味心を支えるものになるのだと。
あの頃のわたしがここを通ったら教えてあげたいと思った。
だけども彼女はそれが、ある種の宗教の勧誘かなにかのように耳を塞いで通りすぎるだろう。
きっと、そうするに違いない。

それは、言われてわかることではない。
わたしというひとつの身体とずっとつきあい続けて、その中から生まれてくる感情なのだから。

たくさんの時間が通りすぎるまでは、けっして気づかないのだろう。



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2006年10月14日

ありふれた魔法・β

 みんなで飲みに行った帰り、月乃がまだ時間があるというのでシアトルズベストに寄った。
 川沿いのオープンカフェの夜はすでに肌寒い。月乃はホットコーヒー、茜はちょっと考えてからアイスティーを頼んだ。

「不倫はイカンよ、うん、不倫はイカン」
 先ほどから月乃は誰かに言い聞かせるかのようにそのことを繰り返している。少し酔っぱらっているのかもしれない。
 茜は自分のことを咎められたような気になってしまったが、どうもそうではないらしい。それはアルコールに緊張の糸を緩めた月乃自身の告白だということにそのうちに気が付いた。
「別居してるっていうし、つきあってる人も別にいたのよ。だから、わたしがつけいる隙なんてなかった、だけど、わたしの隙間につけ込まれてしまった。もう昔の話なんだけどね」
「月乃。わたしから見るとあなたは、つけいる隙間なんて1ミリもないような女なんだけどね」
 月乃自身は離婚したあとに、自分の専門の仕事で成功していて人望も厚い。厚く塗り固めた信頼の壁は、加減よく月乃を魅力的に見せていた。
「ふつうはみんなそう言うの。でもね、そういう男はね、直感で隙間を見つけるもんなの。いや、見つけるんじゃない。なにも考えずにそういう部分に入り込んでくるのね」
 そんな中途半端な男とくっついたばかりに、元からつきあっていた女友だちに恨まれ、泣き言を言われ、そうして自身も同様の泣き言を男に繰り返し続けた。ずいぶん苦しくてずいぶん悪いと思ったけれど時間がかかった。そうして最近やっと過去のことだと思えるようになったの。古くさい言い方なんだけどね、人には人の道ってもんがある、それに反しちゃいけないのよ。
 そう言って月乃は川面に向かってメンソールの煙草をふうっと吹いた。
 月乃とは何度か飲んだけど、煙草吸うのを見たのは多分これがはじめてだったように思う。

 昔つきあっていた男のことを茜は思い出した。
 独身の頃の話だ。男はすでに妻子がいて、二回だけ抱かれたことがあった。そのこと自体はすごく幸福な瞬間ではあったけれど、長くは続かなかった。ほんとにいろんな事情が絡みあって、必然のように別れるしかなかったのだけれど、そのことについては今でも思い出したくもないし、ましてや喋りたくもない。

 その後茜は結婚した。しばらくの遠距離のすえの結婚だった。
 待ち望んでいた幸せな生活だったし、もう茜は年の離れた男にまっすぐに惹かれるほど子供ではなかった。二人には築くべき生活があった。仕事の問題、子供をいつ作るか、自分たちの家をいつ買うべきか。それよりももっと単純な、いつまでたってもバリエーションの増えない夕食のこととか。そういうことをひとつひとつ片づけていくパートナーがいて、それは何よりも幸せなことだったし、その生活を愛しいと茜は思っていた。
 
 なのに。なぜ。
 1ミリの隙間にも月の光が差し込むような夜がやってくるのだろう。

 門司港のホテルで待ち合わせをした。
 知りあいの集まるパーティで知りあい、ふとしたきっかけでケイタイメールを交換することになった男が相手だった。古くさいジャズを好むところが茜と似ていて、心地よく押しの強い話し方は、今までつきあっていた誰とも似ていなかった。
 この町は狭すぎるから、ホテルの部屋を予約した。お互いに列車で移動してそこに一泊しよう、と男は言った。
 だけどもその日、男は来なかった。男の妻が夕刻に追突事故に遭い、深刻な状態ではなかったものの病院に向かわなければならなくなったからだ。
 ホテルにチェックインしたあとに知らせが入り、茜は広すぎるダブルベッドの上で、今、どうしてこんなところにいるんだろうとぼんやりと思いながら、浅くまどろんだ。

 数ヶ月後にもう一度、同じ門司港のホテルを今度は茜が予約した。
 だけども茜はそこには行けなかった。特急列車が事故に巻き込まれ、全線不通になってしまったのだ。
 2時間ものあいだ車内に閉じこめられ、結局、門司港に行くことは時間的に不可能になってしまった。代替バスに乗って、自宅のある町に帰るしか方法がなかった。一足先にホテルに到着していた男にメールを打ちながら、茜はバスの中で気づかれないように少し泣いた。

「だからね、一度も何もないのよ。不倫はいかん、って神様に言われたのかもしれない。いや、そんな言い方じゃなくって、人の道に反することをするとね、世界が少しずつズレていって、うまくいかないようになっているのかもしれない。ほんとのことはわからないけれど、何かが少しずつ少しずつ軋んで、そういうことが起こるのかもしれない。だから、月乃の言うことも根拠はないけれど正しいと思うのよ」
「わかるような気がする。人の道なんて信じないけれど、わたしもそういうふうに感じるもの」
「不思議ね。わたしのまわりには、近所の男とばんばん好き放題にやってる不倫のカップルやら、出会い系で遊んでいる女友だちだっていっぱいいるのにね。彼女たちには何も起こってないのに」

「茜は選ばれたのよ」
「罰を受けるように選ばれたってこと?」
 そう言って茜はカラカラと笑った。
「この世の理がわかるように、きちんとそれを感じられるように選ばれた人間だってこと。そういうふうに選ばれてない人が世の中にはやまほどいる。だけど、そのままで生きてゆけるもんなの。茜が不幸なんかじゃない。うまく言えないけれど、選ばれてそういうふうになってるの」

 ずいぶん辛気くさい選ばれ方だな、と茜は苦笑した。
 この前、ランチタイムのスターバックスで男とばったり会った。運良く満席だったので同僚の女の子が、同席を勧めてくれた。
 紹介したり会話をしたりしながら、男の膝がほのかに茜の膝に触れた。
 まるで女子高生のように、茜はありふれた魔法に感謝して、その男の体温を感じ続けた。
 たぶん、それだけ。それ以上は何事もなく、これからの人生は続いてゆくのだろう。

 長い会話のあいだにいつのまにか移動した満月が、カフェの前を流れる小さな川に映った。
 川のさざめきの中のモザイクのように優しく壊れた満月だと思った。


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2006年09月08日

絶対の孤独

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旅の途上にいた。
ホテルのベッドで目覚めた気分で行き先を決めた。
今日は電車に乗って遠出をしよう、すぐにでもカラダが動きそうだ。

一時間弱の電車に揺られて、知らない町についた。
博物館に行くことにする。
ここ数年わたしを惹きつけるものは、偶像神、埋葬のための装飾品、人型、装飾を施した墓、ミイラ、そんなものばかりだ。
今回博物館で最初に惹きつけられたのは掌に入りそうなちいさく光る誕生仏だった。それから大小の神、異国の神々、仏様。説明を丹念に読み、仏の手の置き方ひとつに意味があることを知った。
死後の世界を信じているわけでもないし、手厚い埋葬で来世のシアワセが保証されると思っているわけでもないけれど。人間がそういうものに思いを馳せる存在であることを確認したかったのかもしれない。

死んだあとのことはわからない。
そもそもなぜ、ここに偶然の時間と空間が存在しているかもわからない。
そのことを考えると胸の奥がチリチリと焼けるような不安が襲ってくる。
それなのに誰ひとりとして真実を知らない。
そういう意味で人間は、ひとりひとりがけっして答えの出ない絶対の孤独を抱えているのだと思う。だから真実を求めるのだ。
来世の安らぎを信じる手厚い美術品を見ていると、絶対の孤独を共通の認識に替えてゆく人々の壮大な思いに触れるような気がした。

けっしてわからない人の気持ちやら、けっして埋まらない当面のささやかな寂しさ。
そういったものをいくつも抱えてわたしはひとりとぼとぼと歩いていた。
たくさんの人のあたたかさに囲まれてそのことを忘れている分、せめてひとりで歩いている今日のこの日だけは絶対の孤独と向き合っていよう。
そう思いながら博物館の庭を歩いていると、バッグの中からメールの着信音が聞こえた。
いま、どこ?
何気ない友人からのメールだった。
立ち止まって返信メールを打ちながら、自然と笑いがこぼれた。

ケイタイのある世界には絶対の孤独なんてあり得ないのかもしれないな。
いや、そうじゃないだろう、たぶん。
絶対の孤独は、絶対のものとしてひとりひとりのココロの中にずっとあるままだ。
それを薄める方向に、太古の昔から人間の気持ちは向いているだけなんだろう。

神というカタチを作り上げて来世を作り上げてきた人類の手厚い思いも、この小さくてうるさい電子機器も。
ずっと奥の方では繋がっているんだろうな、きっと。

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2006年07月10日

その空が言った

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一生答えの出ないものを抱えて生きてゆけ と
その空が言った

生きているのは何のため とか
どういうふうに生きればいい とか
この世界には 
おまえのための理由などない

自分の中の混沌を説明できないのと おなじく
他のものたちの混沌を 説明できるわけがない
それを 思い悩むのが 
おまえの傲慢だ と 

その空が言った

季節がめぐり 赤い花が背高く 伸びるのも
雲に覆われて 雨が地面をぬらすのも
見上げている 空が青いのも
ただ そこにあるだけ

当たり前としてあるものに 理由なんてない
偶然としてできあがった世界に 意志なんてない
それを神の意志を呼びたいのなら 勝手にそうすればいい
自分が存在することに感謝したいのなら 勝手にそうすればいい

だけども おまえ自身が存在していることに 理由なんてない
理由を探すのが おまえの傲慢だ

一生答えの出ないものを抱えて生きてゆけ と
その空が言った
なにひとつ答えのない世界を そのまま抱えて生きてゆけ と
その空が言った

空は たしかにそう言った




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2006年06月06日

引っかかりの多い崖

ウツは嫌いだ。
ウツ状態の自分が嫌いなので、なるべくならないように気をつけている。
ウツになったらとことん落ちこんで、それでまた上がればいいじゃないかと思う人もいるかもしれないが、なかなかそういうふうに思えない。

ウツは記憶として残る。
自暴自棄になった記憶。他人を意味もなく憎んでしまった記憶。
どんなにいい状態に戻ったとしても、記憶を消すことはできない。
あのときわたしはあんなふうに思ったんだという記憶が、自分の人間性も揺るがせる。
いい子すぎなのかもしれない。
でも、できれば、意味なく誰かを憎むことなくすごしていたい。

その日は仕事の段取りがうまくいかずにあせっていた。
帰ったらクスリを飲みたいと思ったけれど、まだまだやるべきことが残っていた。
所用で高層ビルの一階に入った。そのときに襲われてしまった。
このビルの屋上から飛び降りるイメージに。
イメージがどんどん頭の中に広がってゆく。
紙のようにふんわりと、そこから身を投げるイメージ。
「そうしなければいけない」というわけではないが、そのイメージにだんだん自分自身が重なっていくのがわかった。
飛び降りてはいけない。
これは、心の中の黒い塊が見せる妄想なんだ。
そう思って、エレベーター脇の手すりを握りしめた。
ぎゅっと握りしめて泣いた。
こわくて泣いた。

かよこさん・・・
かよこさん、助けて、と心の中で呼んだ。
かよこさんは年が少し上の知り合いだ。
わたしが落ちこんだときにやさしい言葉を何度かかけてくれた。
かよこさんに帰ったら、このことをメールしよう。そうしたらきっと、わたしに一番ぴったりの言葉をかけてくれる。
そう言い聞かせて残りの仕事に没頭した。
家に帰ってかよこさんにそのことを話すと、やっぱりいつもどおりに安心させてくれる魔法の言葉を当たり前のようにかよこさんがくれた。
もとの命が戻ってきた。

数日後、また別の知り合いのその日のことを話した。
「踏切や高層ビルでそういうイメージにとらわれることは多いんだよね。珍しいことじゃない」
精神疾患に詳しいその人は言った。
「自己破壊衝動って言うんだよ。ムラカミハルキの小説を読むと僕は、いつもそのことを思い出すよ」
「村上春樹? たとえばどの作品に?」
「うーん、今、どの作品ということは思いつかないけれど。一貫して、そういうものを感じるんだ」
帰ったらムラカミハルキを読み返してみようと思った。
そうだ帰ったらもムラカミハルキを読もう。そう思って読むべき作品をそれからずっと頭の中に並べ続けている。

ある日、ただの平らな野原がとつぜん途切れ、切り立った崖が現れる。
落ちる・・・
そう思っていても、わたしの崖はでこぼこで、けっして真下まで落下できないようになっているのだ。
そうイメージしようと思った。
かよこさん。
ムラカミハルキ。
あと・・家族とか・・・週末の約束とか・・・昔の思い出・・・楽しかった記憶・・・ただ当たり前にやってくる未来が連れてくるもの。

生きて生活しているかぎりわたしには、自分の服をひょいと掴んでくれる、いろんな「ひっかかり」があるんじゃないか?
もちろん、運悪くどこにも引っかからないときもあるかもしれないけれど。
わたしの崖には引っかかりが多い。

これからは、そういうふうにイメージしようと思った。


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2006年05月12日

近況

経営悪化のため失業して、長いお休みを過ごしている。
カキモノ、ときどき職探し、ときどき面接、ときどき断られ、ときどき断り。

このままずっと休んでていいよ、って誰かが言ってくれないかな。
そう思うけれど、経済状態がそう言ってくれない。

新芽が芽吹き、花が咲いた。
少し、あせる。
それでもこのままで、と思う。

ひとつだけ気づいたこと。
ひとりで一日家にいたって平気なくせに。
夕刻に外に出てみると。日差しのあたたかさが身にしみる。
誰かを会って話してみると、人のあたたかさが身にしみる。

孤独は嫌いじゃない。
だけども、ひとりでは生きていけないんだと。
物理的に大丈夫でも、心はひとりじゃ生きていけないんだと。

そんな単純なことに、はじめて気づいた。

長い長い、夏休み。
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2006年04月30日

おいしい水

ペットボトルの水を飲む。
ゆっくりと、冷たすぎないものが。
からだのすみずみに染みわたるように。
わたしをつき動かすための、命の一部になるように。

くつしたを脱ぐ。
裸のままの足を眺める。
わたしの指は、外側に反り返っている。
男はそれを見るたびに笑うから、なんだか今日が心許ない。
明日はペディキュアを塗ってみようか。

ひとつひとつを脱ぎ捨てたとしても。
わたしは命を削りはしない。
また別のものを纏ったとしても。
命を武装したりはしない。

細く、目に見えない、蜘蛛の糸のような、命の芯が。
今、見えなかったとしても。
なにかを忘れてなにかを捨ててなにかを脱いだとしても。
それはたしかにあるのだと、繰り返し言い聞かせる。

変わりゆく季節のために、わたしの外側が変わるだけ。

物語を書き続ける。
長い長い、わたし自身の物語を。
あの「おいしい水」のような物語を。
わたしが、どのように作り上げてゆくのか。

絶望することなく。
飽きもせずに、粘土をこねるようにして。
物語を書き続けていこう。

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2006年03月19日

夢を見た

なにも言わずに唇だけをよせてきた。
5センチほどの至近距離に、その唇が静止していた。
磁力に引かれるように、わたしから合わせた。
唇はざらついていた。
ざらつきのみょうにリアルな触感に躊躇した。
それから、自分の身体の上にわたしを乗せた。
両腕で身体を支えたわたしは、上空10センチのところに浮遊していた。
「やろうよ」
不敵な顔つきがわたしを見つめた。
わたしが自らの意志でベルトをはずしジッパーに手をかけてジーンズを脱がすのを待っているのだ。
ずるい。
そんなふうにしたくてたまらないわたしを、たしかめたいのだ。

時計を見たら11時だった。
夜なのか、朝なのか。明るくなりすぎた春の光が、カーテンの向こうに透けていた。
誰かが気軽にノックしそうな気配。
「だから、ダメ」
とわたしは言った。
わたしの夢の中はいつも白夜だ。
薄明るい夜に、たくさんの人々が窓の外をカーニバルのように歩いている。
この場所には闇がないので、わたしはなにひとつ置いてゆけやしない。

目覚めたのは7時すぎだった。
ああ、まだ、こんな時間だし、日曜日だから。
もっとゆっくりと楽しめばよかった。

淫夢はみんな記憶しておきたいと思っている。
深層心理はほんとうにわたしのものなのか、それが今日の一日のいちばんの問題。


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2006年03月18日

自分に自信のない夜は

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自分に自信のない夜は、どんなにしたら過ぎますか?
理由とか原因を考えたり。
なにもしないでベッドに潜り込んだり。
辛口のワインを飲み過ぎてみたり。
飲み過ぎたいきおいで電話をかけてみたり。
それから。
それから、ただ、自分のためだけに泣いたり。

もうずっと前から気づいてはいるのです。
誰かに愛されたり抱かれたり。
言質をとるみたいに、ささやかな言葉を宝物にできたとしても。
そんなことは、何も解消しないって。

自分のなかの塊は。
わたしに直視され。
わたしの手に触れられることだけを。
待って、いるのに。

エンジンを止めた車の中。
ミラーの雨粒。

その、ずっと向こうなのに・・・

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2006年03月12日

猫の爪

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白い木蓮のつぼみは猫の爪に似ていた。
そう思ったわたしは、だれかに傷つけてほしかったのかもしれない。
肌にやわらかく爪をたてるみたいにして。
その傷あとが深く心の底にまで残ることを望んでいたのかもしれない。

そう思って空を見上げていたら、どんどんあたたかい陽の光が降り注いでいって。
猫の爪は、やわらかく丸めた白い毛糸玉のように膨らんでいった。

お互いを傷つけぬようにと、ようやく丸いやさしさを手に入れたのに。
それでも、傷つきたくなるんだろうな。
むきだしのきもちが。ときにはほしくなるんだろうな。


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2006年02月07日

練習曲

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 列車に乗って何か食べてコーヒー飲んで車窓を眺めてキオスクで買った雑誌読んで、それから少しまどろんで、持ってきた文庫本読んでまた車窓を眺めて。それを長い時間繰り返していくと、だんだん気持ちの高低がなくなっていった。それは平坦というよりも、マーブルのように絵の具が交じった状態に近いと思う。そうして、そのときにいつも、わたしはなにかに出会うのだ。

 その「なにか」に出会うために、わたしは長時間の移動を好んでいるのだと思っている。
 それは邂逅でもなんでもない、いつもは思いもしないような、些細でいて、ただちょっと風変わりなことだ。

 わたしは今、いつか死に旅立つための練習をしているのではないだろうか?

 わたしはそんなことを考えていた。
 短い旅に出ているあいだ、夫も子供たちもわたしがいない日常をこなしていた。
 そもそもわたしは「いないと困る」人間ではない。
 もちろんいないと困るのが日常なのだけど、それが永遠には続かない。
 わたしは永遠にいないと困る人間ではいられないのだ。
 
 一方でわたしはいつか、地図も持たずに知らないところにひとりで行かなければならない。
 そのときに、走る列車あるいは長い川をくだってゆく小舟に身を任せなければならない。
 慌てても泣き叫んでも、そうして身を任せることしかできないのだ。
 旅は、その日のための練習曲を奏でる作業なのような気がしていた。

 それが悲しい作業だとは思わなかった。
 だんだんそういうふうにして、必然である死を少しずつ自分の中に取り込んでゆくことが必要になってきたのだろう。

 おみやげを抱えて家に帰ると、子供たちは無邪気にその包みを開けて、柿の葉でくるんだお寿司の個数を数えながら、小さな口に放り込んでいった。
 夫が作ったおにぎりの具のなかでいちばんおいしかったシーチキンマヨネーズの味を延々を喋り続けていた。
 
 ほら、彼らは、こんなふうに、わたしのいない日常を生きていけるではないか。
 自分を過信しない方がいい。
 いつか取り戻せない喪失のあとでも、彼らがこんなふうに生きていけるようにと、ちいさく願った。
 
 もちろん、わたしはいつまでもこのままでいたいけれど。
 家族の誰ひとりも欠けることを望んでいないけれど。
 それでも、昨日誰にも言わずに、ひとりで練習曲を奏でてみた。

 今日からもうしばらくは、その練習曲は奏でない。


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2005年12月24日

Merry Christmas to All

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 もうイヤだから別の学校に転校させてと花織が宣言した朝から、ずっとわたしの頭の中には黒い雲がたちこめていた。
 小さなトラブルがいくつも起こっている騒がしい教室で、紙のように軽く笑いながらうまくやっていると思っていた。こんなことあったのよ、わたしこんなふうに言い返してやった、バカだよね、あんなことして、そんなふうに喋っていた花織は、ある日そこにすっぱり別れを告げた。いじめとかそんなんじゃない、でも、もう行きたくないの。頑固な花織が決めたことを変更するわけがないのはわかっていのに、わたしだけがいつまでもそれを受け入れられなかった。

 転校の手続きに出向いた。前の学校やら市役所やら新しい学校やら。そのたびに世界を憎んだ。
 花織にそんなことをさせた世界を憎み、誰も責任を取れない世界を憎んだ。(たしかに花織はいじめられてはいなかった。だけど他の子へのいじめや陰湿な仲間はずれやケンカは当たり前だった)
 いや、正確に言った方がいい。花織のために憎んだのではない、それに伴う煩わしさやわたしは憎んだ。
 花織は何ひとつ憎まない。幼くてシンプルすぎる感情の中には、そんな複雑な恨み言は存在しなかったのだ。

「今年は誘う友達がいないんだ、わたしにはほんとうの友達なんていなかったから。お母さん、いっしょに行ってくれない?」
 そんなふうにして花織に教会に誘われた。毎年出かけていた子供向けの教会のクリスマス会だった。でも中学生と母親の組み合わせなんて不似合いではないか。そう言えば長いこと教会なんて行ってなかったな、賛美歌、まだ歌えるだろうか。
 キャンドルサービスが終わり、聖書の一節が朗読される。そうして子供たちに対して、そこに存在することのヨロコビが優しい口調で諭された。なんだか泣きそうになってしまった。
 あたりまえのように存在を喜ぶことができないのはわたしの方だった。
 何かが起こるたびに、その不具合を憎んでいたのはわたしの方だった。

 花織が生まれたとき、夫とわたしはその誕生を喜んだではないか。
 わたしが生まれたときもまた、両親や周りの人は、ただ、この世に生まれたことを喜んでくれたではなかったか。
 たとえば最初の人類が生まれたとき。大地はその誕生を喜んだのではないか?
 宇宙の片隅に地球という星が生まれ、水が流れ空気がとりまいたとき、その星の誕生は祝福されたのではないか?
 ここに存在するための、空気や水や風や木々の呼吸や酸素や二酸化炭素やその他もろもろの元素や結晶や分子たち。そういった目に見えないすべてのものが、わたしたちが生きることを赦してくれているのではないか? 
 神様は大きすぎて見えないし、そして、いろんな小さなところにいるから、だから見えないんですよ。教会の先生が優しい声でそう話された。
 ここのところずっと、いろんなものを憎んでいたのに・・なのに・・・

 クリスマス会が終わると、先生が玄関で見送ってくれた。
「花織ちゃん。新しい毎日がはじまるね。自分で決めたことだから大丈夫、がんばってね」
 事情を知る先生の言葉に、まっすぐに目をあけてうなづく花織の横顔が見えた。

 わたしは。明日また何かにたいして怒っているかもしれない。
 あさってまた、これまでのように世界を憎んでいるかもしれない。
 それでも今日だけは。
 Merry Christmas to All !

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2005年12月01日

「kumonosu」出版しました。

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小説を掲載させていただいているサイトで本を作りました。
わたしは小説を2編掲載しています。「びりり」「雨を待つ」双方とも出版にあたって、加筆しています。
出版社のサイトから申し込みできます。

http://www.yume1.net/library/kumonosu.htm

お値段は840円。よろしくお願いします〜。

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2005年11月21日

天国への階段

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コンサートに行く人たちを見ていると、天国への階段を上っているような気持ちになる。その群れに交じっていっしょにのぼってゆくのはとても幸せな行為だ。

最近、わたしの頭の中に、天国に行くためのショートカットキーが頭の中にインプットされたように思う。
メンバーが歩いてステージの真ん中に登場する。
拍手をしながら誰もが静かに椅子から立ち上がる。
それを予定調和とは思わない。
経験値や期待値から来るショートカットなのだ、たぶん。

コンサートにかぎったことではない。
繰り返し楽しい経験を重ねることによって、いくつものショートカットキーが頭の中に生まれたような気がする。

頭の中はクリームチーズだ。
そこにあなたの指が柔らかく動いてゆく。
泣きたいような気持ちは、姉のようになぐさめられ。
どしゃぶりの雨にどろどろになった夜には、土色の地面にチョコレートコーティング。
虹が海をわたる雨上がりには、寄り添ってそれを見つめている。

何度も何度もそんな心地よさを味わうたびに、クリームチーズからとろとろの脳内物質があふれ出てくる。
ショートカットキーだ。
いくつもの気持ちよさを知るごとに、たどり着くための道のりが生まれる。

電車の中で狂ったようにメールを打っていた。
天国への階段をのぼった夜。

ねえ。わたしがトロトロになっているよ。
そこに指を入れてすくい上げて、それを舐めてみて。
メイプルシロップの味がするから。

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2005年11月15日

湯ぶね

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湯ぶねに足を伸ばして、ゆったりあったまっていたら、涙がでてきていっぱい泣いた。
そっか。わたしはもっと早く泣かなくちゃいけなかったのだ。

自分の書いてるモノがダメダメで落ち込んでいて、それから、友達が書いたものを読んだらすごく素敵で。
悔しかった。
なんであの人の頭の中にはこんなにすごい物語が詰まってるんだろう、そう思ったらすごく悔しかった。
悩んでいる友達が、わたしのケイタイに長いメールを入れてくる。
メールボックスは、どこにも行けない(邪悪)を放り込むためのゴミ箱みたいだ。
わたしはどろどろに濡れた紙くずをそこから取り出して両手で伸ばしてみるけれど、クシャクシャの紙くずは元に戻らない。
小さなケイタイのボタンは、言葉をちっちゃく硬質にしてしまうから。誰かを柔らかく抱きしめたりはしてくれない。
「正直言ってガッカリでした」
とメールが帰ってきた。
自分が放り投げたゴミくずを、誰かに再生して欲しかったの?
論争を挑む人は、わたしを変えたいと思っているのだろうか。
最悪わたしが変わったとしても、真実は変わらないのに。

なのにどうして、電車の座席に座った人たちは一様にケイタイの画面を眺めているのだろう。

お風呂の中で思い出したのは、彼女がくれたメールだった。
わたしを好きだと言ってくれた。子供のようにまっすぐに傷ついてしまうわたしが、好きなのだと言ってくれた。
その言葉を思い出したら、少し涙がでてきて、それから湯ぶねに顔をつけて号泣した。
嗚咽が気泡にかわって、そのまま逃げていった。

悲しかったり悔しかったりしたときに、もっと泣けばよかったんだ。
そのとき泣けなかった分を取り戻すみたいにいっぱい泣いた。

きっと誰もがこういう言葉が欲しかったんだろう。
誰にもあげられなかった言葉を、今日、もらえた。

今度はきっと、誰かにあげよう。
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2005年11月03日

夢をみた


こんな夢を見た。
その男の顔をわたしは見ていた。
哀しそうな顔をしていた。
「この感覚とか感情とかを、僕はうまく言うことができないんだ」
と、男は言った。
わたしは男の手を掴んで、わたしの頬を触らせた。
「一生わからなくていいよ。ずっと、わからないままでいよう。わからなかったら、たぶん、こうしていられるから」
そう言って、男の中指を口に含んで軽く噛んだ。

なのにその朝、指先に痛みを感じて目をさました。
痛かったのはわたしの方だった。
いや。
あの男はわたしだったのかもしれない。


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2005年10月11日

夜の空・夜の道

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 君と夜の道を歩いていると、とつぜんふたりで井戸に落ちてしまった。
 そう思ったくらいに、その日の秋の夕暮れは短かったんだ。
 まあ、いいさ、落ちちまったもんは仕方ない、ハンバーガーでも食べようかと、ふたりで紙の包みをカシャカシャやったのさ。
 望遠鏡のような筒状の井戸の向こうに、月が見えていた。
 少し欠けた半月、上弦の月。ぷくっとしてて、まるで膨れたほっぺみたいだった。
 それからふたりで短い話をいっぱいした。
 いや、話しているのは君ばかりで、ずっとそれに頷いていただけ。
 それからだんだん眠たくなってきた。
 いや、話がつまんなかったんじゃなくって、すごく気持ちがよかったんだ。
 心地よい声のくすぐりが、脳の中をとろとろにして、君の声にはたぶん、わたしを眠たくする脳内物質が含まれてるんだろう。
 移動する月が、井戸の端から逃げていった。足の速いうさぎだ。
 シャツごしに触れる二の腕の感触をこのまま味わっていたいけれど。
 ああ、もう、どうでもいい。気持ち、いい。ねむたいねむたい。
 ここから出られるのかな?
 どうやったら出られるのかな?
 いま、君はそう言っているんだね、たぶん。
 ほんとにそう思ってるかどうかわかんないようにしか聞こえないよ。
 夜が明けるまでの暗い道に戻れば。また夢中で歩くうちに、離ればなれになってゆくんだろう。
 わたしたちはブラウン運動を繰り返すコウモリだから。
 一瞬の井戸の記憶さえも、そのうちに薄れてゆくのだから。
 
 ああ、もう、どうでもいいよ、ねむたいねむたい。
 少しだけ、目をとじて、もたれかかってもいいかな?

 目覚めたときに誰もいなくったって。
 つかのまの、夢の記憶を恨んだりはしないから。


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posted by noyuki at 14:58| 福岡 ☀| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年09月20日

一瞬の夕焼け

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時間があったのでどこかへ行こうという話になった。
「わたし、弓張岳に登ったことがない」
そう言うと、山頂に雲がかかっているから何も見えないのではないか、と言われる。
男女4人のグループで車は一台。まるで大学生の頃のようだと思う。
当時、時間だけはたくさん余っていて、誰かが車を持っていた。わたしたちのグループはよくドライブをした。
だけどそれは、車の中で音楽を聴いたりおしゃべりをしたりするためだったような気がする。

その当時のごとく、幸運な時間がちょうど転がっていた。
少しの晴れ間が見えて、結局登ってみようということになる。

だが、山道の途中から雲がかかってきた。
思いのほか、高い山なのだろう。
頂上の展望台に着いたときは、わたしたちは雲の中だった。

とりあえず、景色の見えない展望台でおしゃべりをする。それだけで十分だった。
空も海も夕日も、いつも変わらずにこの世界にある。
今日、うまいこと出会えなかったとしても、わたしたちはそういうものを失うわけではない。

ところが。
風が吹いて、一瞬の光が海を照らした。
海に浮かぶ島々。それを輝かせる夕日。
慌ててシャッターを押した。
そうして、10秒もしないうちに、また雲に閉ざされていった。

頂上で最初から最後までこの風景を堪能するという至福もあるのかもしれない。
だけど。
一瞬だから至福だった。

たった10秒間の至福。
そんなものがいくつも、この世界にはあるのかもしれない。

これからもっと、もっと、出会おう。


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posted by noyuki at 22:33| 福岡 ☁| Comment(6) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年09月17日

家路

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信号をわたって
ひとつめのかどをまがりしばらくあるいてゆくとこんなふうだ

生い茂る草と
イキモノたちのにおい
スナック菓子の断片を
アリが運んでゆく気配

ああ
わたしの家が近い

誰もが持っているはずのとうめいなコートを
失くしていらい

わたしはいつもずぶぬれだ

おかえりとも言わず
そそくさと逃げるものたちよ

それでも満ち足りる
わたしのことがわかるか?
posted by noyuki at 06:05| 福岡 ☀| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする