2026年01月24日

藤屋先生とイケヤ(6)

(6)

 要介護2が出た。負担割合は1割。
 元気そうに見えるけど、イケヤは要介護2だ。

 そして、少しずつだが確実に活動量は低下していた。
 ほとんどの時間をベッドでゴロゴロ、テレビを見て過ごす。
 食事のことを聞くと「みかんならある」とか「ごはんは昨日炊いた」と言う日もあった。
 ごはんに焼肉のタレをたらしてフライパンで炒めて食べたりもする。
 「これ、おいしいんだよな」
 そういう食事なら作れるらしい。

 週に2度ほど、買い物をヘルパーさんに頼んではどうでしょう? スーパーで買ってきてくれますよ、と言うと、「おう! 寿司食べたいよ」と言う。
 馴染みのヘルパーステーションにお願いして買い物のヘルパーさんを週2回位置付けた。
 にぎり寿司、みかん、おにぎり、それにアジフライと4個セットのコロッケ。
 毎回同じものばかりを頼む。栄養バランスもよくない。
 お昼は「配食弁当」も持ってきてもらうようにした。
 これで少しは栄養バランスもよくなるだろう。
 
 なのに。
 そうそうはうまくいかなかった。

 「ヘルパーの行く日なのに、いない。鍵がしまっている」
 そういう電話がヘルパーの事業所からかかってきた。
 イケヤは在宅している日は鍵を開けたままなので、外出に間違いないだろう。
 どうして? どこに行ってるんだ?
 スマホに電話しても出ないし。
 「あとで安否確認しておくから、とりあえずはキャンセルで」
 と、キヨはヘルパー事業所の電話に頭を下げた。

 大丈夫かな? 倒れてないのかな? キヨは不安になる。
 いや、不安になってもしょうがない。
 そういう日のイケヤは、たまたま調子がよくて、パチンコに行ったり、買い物に行ったりしてるはずなんだ。
 自転車に乗ったり自転車を押したりすると少しの距離は歩けるらしい。そうやってふらっと出ていって、夕方には何事もなかったように家でみかんを食べてるんだ。 

 「そもそも自分で買い物に行ける人なのに、ヘルパーの買い物を位置付ける必要性はあるのか?っていう話になっちゃうんですよね」
 ヘルパーのサービス提供責任者さんは細かいところにうるさい。でも、介護保険上はまったくそのとおりだ。ヘルパーってほんと位置付けむつかしいし、う〜ん、これってNGだよね。
 「基本は池谷さんは室外歩行はむつかしい方なんです。主治医からも転倒のリスクが高く要注意って言われてるし。でも、本人は認知機能に問題があって、その認識なく外出しちゃうんですね。徘徊に近い状況かも。危険ですよね。はい......サービス時間はきちんと家にいるように再度伝えます」
 電話を切って、キヨはため息をついた。
 そんなこと言ったって無理なんだよね〜。イケヤは何言っても自分のやりたいことやるだけなんだよ。

 「キヨさん、サ責さんはああ言うけれど、気にしないで」
 メインで入っている小林ヘルパーさんが、イケヤの家のドアの前で会った時にそう言ってくれた。
 「実はわたし、この団地に住んでてほら、登録ヘルパーだし。別にキャンセルだったら部屋に帰ればいいだけなんだよ。池谷さんはなんか憎めなくってさ。仕事も気楽。だから、このままで大丈夫だよ。それに、ほら、言い方悪いけど、いつまでも外に出れるわけでもないからさ。それくらい、好きにしてほしいんだよね」
 目がくりんとして、恰幅のよい小林ヘルパーさん。
 この、近所のおばちゃん感覚、ほんとありがたや、である。

 と。
 そういうわけには行かないことにキヨは気づいた。
 今日は 13時半に藤屋先生の訪問診療のはずだ!
 イケヤ、今外出中となると、その時間に帰ってこれるのか?




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2026年01月16日

藤屋先生とイケヤ(5)

(5)

 キヨは、訪看の杉茉莉子と一緒にイケアの部屋を訪問した。
 部屋は団地の1階だが、3段は階段を上る。団地らしい重たい鉄の扉を開け、茉莉子が「こんにちは〜。訪看ひろたです」と言って入ってゆくと、スエットの上下のままベッドに横になったイケヤは、無言のままこちらを見た。怖そうな顔に見える。

 「池谷さん。前回も伺いました。わたしのこと、覚えてますか?」
 イケヤはあいまいに頷く。あまり覚えていないのかも。
 「ほら、ひろた訪問看護の.....」
 「茉莉子だろ」
 そう言ってニヤっと笑う。
 「まあ、茉莉子なんですけど〜。できれば杉と読んでください。下の名前で呼ぶと、いまどきはハラスメントになるので」
 「もうひとりは誰?」
 「はじめまして。ひろたケアプランセンターの水野キヨといいます。藤屋先生のご紹介で参りました」
 「キヨ」
 イケヤは名前を反復してから言った。
 「なんの用?」

 ほら。調子が狂う。なんていうか。この感じ。調子が狂うんだよね。

 キヨは手すり設置について説明した。藤屋先生から、室内での転倒防止と言われている。レンタルの手すりを設置できるし、介護保険でヘルパーをお願いすることができる。
 「たとえば、外出がむつかしいようであれば、ヘルパーが買い物してくれますし」
 「外くらい出れるよ。手すりもいらねー。あとは何ができんの?」
 「デイケアでリハビリしたりもできますよ」
 「よけいいらねー」
 
 「池谷さん〜」
 茉莉子が言った。
 「藤屋先生のところの診察室で椅子に座ろうとして、座りそこなって後ろひっくり返って頭打ってCT撮ったって聞きました〜」
 「え? そうだっけ?」
 「だから、家でもけっこう転んでるだろう。なるべく転ばないように生活した方がいいって先生が言われたんです〜」
 「とりあえず、室内を見せてください。どこに手すりがあった方がいいのか、見せていただいていいですか?」
 「いいよ〜」
 
 キヨは手早く室内を観察した。玄関の段差は8センチくらいだけど支える場所がないので転倒リスクはある。トイレも立ち上がり用の手すり欲しい。風呂は...バスタブが深い。あ、でも意外と広いのでシャワーチェアが置けるかも、とドアを開け閉めしてスペースを確認した。
 
 「手すりはすぐに置けます、そしてシャワーチェアがあるといいと思う」
 というとイケヤは、なにそれ?と言った。
 キヨはスマホを操作して、シャワーチェアの写真を見せた。
 「あ、これは知ってる。病院の風呂にあったやつだ。これ、あったらいいな、いくらくらい?」
 「負担割合でちょっと違うんですが、1割負担ですとこれくらい」
 「じゃあ、それくれよ」
 イケアはベッドの横の財布から1万円札を出して言った。
 ・・・こういうところだ。こういうところが調子狂うんだ、とキヨは思う。

 介護度や負担割合がまだわからないけれど、シャワーチェアを持ってくることはできるというと、イケヤは「じゃあ、すぐ欲しい」と言った。
 なるべく早く手配すると、キヨは答えた。
 
 玄関を出ると、杉茉莉子はキヨに言った。
 「ね、なんか、調子狂うでしょ?」
 「狂うよね〜」
 「でも、憎めないっていうかなんていうか。独居だけど、最期までひとりで家にいたい人だからって藤屋先生が言うのよ」
 「せんせい、そういうの、好きだからねえ」
 「そうなのよ。 藤屋先生、そういうの好きよね〜」
 茉莉子は、それまで踏んでいた靴のかかとを入れながら、そう言って笑った。




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2026年01月03日

藤屋先生とイケヤ (4)

(4)

 広田町は市の東南部に位置する。
 大きなバイパスを東へ進むと高速道路のインター。バイパスは広くて交通量は多いけれど、けっして賑わっているとは言い難い。
 バイパス沿いには、大きな郊外型のパチンコ店があって、お向かいにはスーパーがある。休日に渋滞するのはそのあたりだけだ。
 スーパーの裏手には大きな団地がある。40年ほど前に建ったらしい。当然高齢化が進んでいる。南側に大きな川。眺めはいいけれど、風が強い町だ。

 団地と道を挟んだ一角に「ひろたケアプランセンター」がある。
 小さな2階建賃貸ビルの1階が「訪問看護ステーションひろた」で、「ひろたケアプランセンター」が2階だ。

 2階にいる3人のケアマネジャーの中で「イケヤ」を担当したのは水野キヨだった。
 藤屋先生が「訪看ひろた」に依頼し、「訪看ひろた」の杉茉莉子がキヨに依頼した。
 「団地の一階に住んでいる50代の男性なのよ。​​外傷性くも膜下血腫の既往があって、室内でも外でもよくふらっと転ぶの。それで藤屋先生が、室内の環境整備をしてくれって。わたしたち訪看は医療で入るから、福祉用具だけを介護保険でお願いしたいって」。
 「楽な仕事」だと思った。
 入院中に認定調査も終わっていて、暫定で福祉用具の手すりだけを位置付ければいい。訪問看護は医療保険で入るので、単位数の計算もいらない。
 玄関の段差や風呂やトイレを福祉用具店の石井さんとチェックして、必要なところに手すりを置いていけばいい。利用料だって月1000円かかるかかからないくらいだろう。
 あとは、必要になった時にヘルパーとか配食弁当とか手配することになるだろうけど、今のところはそこまではないと思う。

 ところが。
 イケアこと「池谷惣一郎」は、キヨのイメージしている要介護の高齢者とはぜんぜん違っていて、びっくりすることだらけだった。



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2025年12月29日

藤屋先生とイケヤ (3)

(3)

 「イケヤが退院できてよかったよ」
 明るい茶色い髪をひとつに結んだアキが病室で荷物をまとめながらそう言った。
 「おまえもイケヤじゃないの?」
 「ちがうよ。わたしは池谷あき。イケヤの姪っ子のアキだよ」
 「おじさんって呼ばないのか?」
 「何言ってんの。小さいころから、イケヤの友達に遊んでもらってて、その頃からイケヤはイケヤじゃん。みんなイケヤって言ってて。わたしもイケヤって言ってたの。忘れたの?」
 「うん。正直いろいろ忘れてる」
 「ま、少々忘れてても、わたしはイケヤがいてくれれば心強いから」
 なんで俺がいたら心強いんだろう、とイケヤは記憶を辿った。
 
 アキの父親は、10歳年の離れたおれのにいちゃんで。ああ、そういえば、アキが小さい頃、離婚して家を出たんだった。それでアキはおれにくっついてたんだ。
 俺の母親と、嫁であるアキの母親は仲がよかったけど。アキはおれになついて。おれの友達が仕事帰りに遊びにくると、いっつもおれの部屋に一緒にいたんだ。みんなでゲームしたよな。アキはみんなの妹って感じで、誰かの膝の上にちょこんと座っていた。

 「悪いな、アキ。おれ、しばらくしたら死ぬんだよ。だからおれが死んだ後始末だけ。まかせていいかな?」
 「うん。病院の人にざっくりは聞いた。ふたりで藤屋医院の藤屋先生を尋ねてくれって」
 「そっか、悪いな」
 「まあ、お互い家族に恵まれてない家族だから。わたしにとってはイケヤだけが家族みたいなもんだよ」
 えっと。それはなんだっけ?
 おれもアキも、一人暮らししてるし。
 まあ、それでもアキはおれを家族だって今でも思ってくれてるんだ。
 それでいいかな?

 それからおれたちは、アキの軽自動車に荷物を積んで、藤屋医院へ行った。
 フジヤは相変わらずちょっと無愛想な感じだったけれど、アキはフジヤのことを気に入ってるようだった。
 アキは「隣の市で仕事をしているからすぐには来れないかもしれないけれど」と、フジヤに携帯番号を渡していた。




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2025年12月26日

藤屋先生とイケヤ(2)

(2)


 病院のなんとか室に呼ばれた。
 「退院したあとに見てくれる先生がいるから。その人と会ってください」
 若くてきれいだけど声がでかいソーシャルさんにそう言われた。
 「もう、おれは大丈夫だよ。治ったから。病院なんていかないよ」
 「まあまあ、そう言わずに。いい先生だし、なにかのときに頼りになりますよ」

 なんとか室には、メガネをかけてる星野源みたいな男がいて、書類を呼んでいた。
 こっちを見て、少し笑う。笑い方が下手だ。
 「はじめまして。藤屋といいます」
 「フジヤ? ケーキ屋か?」
 「お名前をお願いします」
 えっと。なんだっけ? そうそう、みんな俺のことをイケヤって呼んでたな。
 「イケヤ」
 フジヤはしばらく書類を見てじっとしていて、それからぼそっとこう言った。
 「北欧家具か...」
 「なんだよ、それ!」

 フジヤはメガネのつるに手を当ててから言った。
 「失礼。カルテの名前と違う名前を言われたものですから。イケヤさん? 本名をお願いします」
 ソーシャルさんが先生に小さい声で何事か耳打ちした。
 「あなたの名前は、池谷惣一郎さん、ではないですか?」
 イケタニ? イケタニソウイチロウ? そういえば、そんな名前だった気もする。イケヤとかソウちゃんとか、みんなそういうふうに勝手に呼んでたけど。そうだ、おれの名前は、イケタニソウイチロウだ。
 「そうです、たしかにそういう名前でした」
 おれがそう言ったら、フジヤはプッと吹き出した。

 「ところで。イケタニさんは、自分の病気についてどう思っています?」
 「どうって?」
 「このまま治る、とか。いや、けっこう大変な病気かも、とか」
 「おれはな、どっちでもいいんだよ。でも、病院では治療治療って言われるからさ。治療はいやだよな」
 「じゃあ、治療しないで家に帰って、病気が悪くなったら?」
 「それは仕方ないよな。病気なんだから。人間はいつか死ぬんだろ。まだ動けるのに、ベッドでじっとしとくのがいやなんだよ」
 「で、帰ったらパチンコするんですね」
 う・・・ここまで話は伝わってるんだ。
 「パチンコは強いんですか?」
 「パチンコは強くても負けるし、運がよければ勝つんだよ。勝ったら嬉しいよな」
 「スロットもやるんです?」
 「気が向いたらな。スロットもやる。でも、おれは基本はパチンコだ」
 「広田町のパチンコ店のお向かいのスーパーのお寿司っておいしいんです?」
 「せんせい、スーパーのにぎり寿司は、できたてならどこでもおいしいんだよ。だから、かっとなって時間かけすぎないように、ちょっと早めに休憩するのにちょうどいいんだ。今粘ると寿司がまずくなる、とか、そうやって気持ち落ち着けるのさ。これがおれの勝負の仕方だ」

 「・・・しりませんでした」
 フジヤは少しうつむいて言った。
 「わたしは、仕事が遅くなると、スーパーで割引になった寿司を買って帰ってました。にぎり寿司はパサパサしてた。あれがスーパーの寿司の味で、わたしの残業した日の味、そう思ってて申し訳なかった。これからは、お昼にできたての寿司を買うことにします」
 
 フジヤ。おまえ、素直だな。悪いやつじゃないんだな。

 「それで池谷さん、自分にどれくらいの時間が残されていると思いますか?」
 「うーん。誰もそんなこと言わないし、考えたこともなかったな。でも、フジヤ先生は知ってるんだろ? 知ってるんなら、教えてくれよ」
 「半年くらいだと思ってます。その前に悪くなるかもしれないし。もっと長く生きられるかもしれない。でも、半年と思って好きなことをしてください。パチンコでも。寿司でも。旅行でも。会いたい人に会うでも、なんでもかんでも」

 「教えてくれてありがとうな。今が6月だから、今年いっぱいかもな。うん。なんか教えてもらえてすっきりした。そういうこと誰も言ってくれないもんな。でも、なんかいろんなことがわかって、それでいいのかなって思えたよ」

 それからイケヤはフジヤ先生とふたつ約束をした。
 退院したら、その日に藤屋医院に行ってフジヤの診察を受けること。
 そのときは家族と一緒に行くこと。
 このふたつだ。

 「ひとり暮らしと聞いてますが、一緒にきてくれる家族は近くにいますか?」
 「アキがいる」
 「アキさんとは?」
 「おれのにいちゃんの子供だ。子供ったって、ひとりでアパート借りて隣町で仕事してる。おれのかあちゃんは年でヨボヨボだし、にいちゃんは死んでる。アキは頼めばきてくれる。仕事あるからしょっちゅうは休めないけど。一回くらいなら、頼めばきてくれる、はずだ」
 
 じゃあ、ぜひお願いします。とフジヤが言った。
 この約束もブッチしてもよかったんだけど。フジヤ、なんかちょっといいやつだし。ほんとに何かのときに頼りになるやつかもしれない。

 ソーシャルさんに紙を一枚もらって「退院したらフジヤに行く」とおれはメモ書きして、ベッドの横に置いた。




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posted by noyuki at 13:19| 福岡 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 藤屋先生とイケヤ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年12月21日

藤屋先生とイケヤ



(1)

 病院に薬もらいに行って、スクーターで帰ろうとしたら駐輪場でふわっと倒れて、頭打ってそのまま入院になった。
「病院の敷地内だったからよかったですね」
 って看護師が言ったけれど、ちっともよくねーよ!!!
 入院したって、やることないし。
 だいたい今日だって帰りにパチンコに行こうと思って急いでたのにさ。
 
 トラックの運転手してたとき、あの日も道端でふわっと後ろに倒れた。
 そう、あのときは、車のドアで頭打ってしこたま流血して入院したんだった。ドア閉めるの忘れてたんだよ。
 頭打ったからなのか、元からなのか、あんまりいろんなこと覚えていられない。まあ、覚えてなくったって、そんなに困らないんだけどさ。
 
 入院して調べたら悪いとこもいろいろ見つかった。
 肝臓が悪くって治療を勧められた。でも薬ブッチしてゴミ箱捨てたり、絶食忘れてコンビニのおにぎり食べたりしてたら、なんかみんなあきらめモードになっちゃった。 
 仕方ないよな。
 やっぱり、あんまりいろんなこと覚えていられないんだよ。

 「家に帰りたいですか?」
 ある日のソーシャルさんって言われてる女の人がやってきて俺に聞いた。
 「そりゃ帰りたいよ! 治療なんてまっぴらだ。早く帰りたいよ」
 「でも。肝臓の癌の治療もしないでそのままになっちゃうんですよね。それもしないで家に帰る方がいいんです?」
 「どうせ長くないうちに死ぬんだよ。それならこんなところにいるのはいやだ。家で好きにしたい」
 「好きにって、何をしたいんです?」
 う! 正直パチンコしか思いうかばなかった。パチンコして、目の前のスーパーでパックの寿司買って、外でそれを食べるんだよ。あの寿司がまたうまいんだよ。わさびだってたっぷりつけてさ。天気がよくて空が真っ青で。パチンコして寿司食いたいんだよ。
 「家に帰ってパチンコしてお寿司を食べたいんですね」
 ソーシャルさんはにっこり笑った。
 「それじゃあ、おうちに帰れるようにしましょうね」

 え? いいの? パチンコでいいの?
 言ってよかった!

 そうして俺は退院できることになった。



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posted by noyuki at 12:53| 福岡 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 藤屋先生とイケヤ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする