2012年01月17日

隠れ家 「Chacha」

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「Chacha」


雑談の中で「隠れ家のように使っているカフェがあってね...」って友達に喋ったところ、「自分の隠れ家だなんて思えるお店があるっていいね」と返され、それで改めて、ああ、そうなんだ、この町の中に私は小さな世界をいっぱい持っているんだ、と思った次第。

日曜日の昼下がり、ふらりと歩いて紅茶を飲みに行った。
「近くまできてるんだけど」と電話してきた女友達の誘いに、ふらりと会いに行った。
遠くから里帰りした人とゆっくりと話したくて、何時間もここで近況を報告しあった。
ポットで入れてくれる紅茶がお気に入りだけど、けしてそれだけでは終わらない。

ケーキがすごくおいしいから。

パスタのデザートつきのランチを食べても、それと別に必ずシュークリーム(130円)を頼んで、その場でクリームをいれてもらうし、ケーキだって一種類じゃ終わらなくて、いくつも頼んでシェアしてみたり。大好きなモンブランは見つけたら必ず頼んでしまうし。
ここに来た瞬間に、いつも気にしているカロリー計算とかがふっとんでしまって、何を食べてもいい自分と何を話してもいい自分が現れてしまう。
日常の「縛り」を一瞬にして「なきもの」にしてしまう、その開放感が、とても隠れ家っぽい感じ。

お店の方と話すこともあるし、知らないお客さんと長々と話し込んでしまうこともある。
帰りにはテイクアウトも...

隠れ家だけど、誰にも秘密ってわけじゃない。
いろんな人の隠れ家になって、そこでいろんなことをシェアできればいいなと思っているお店です。
そうそう、大事なことを言い忘れてました。
ここのケーキが私、いちばん好きです。

「Chacha 」久留米市荘島町1-13 明治通りの縄手の交差点あたり、ガソリンスタンドの真ん前。
夜は9時くらいまで開いてます。
駐車場はないけれど、テイクアウトだったら、路上駐車も大丈夫?

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posted by noyuki at 17:06| 福岡 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 荘島物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年12月21日

荘島物語「みんな」

 アキは日曜の夜になると必ず行方不明になる。学校の寮に帰るのがイヤだからだ。
 そのたびに両親は、いろんなところに電話をかけてアキを探す。
「でも、辞めないんだよね、せっかく高いお金払っていい学校に行かせてもらってんだから」と言うと。
「うん、それはわかってるから辞めない。ただ・・寮はおもしろくないんだ」とアキは言う。
 停学にもなって、それでも続けてがんばるって決めている、だけども、いまだに行方不明になってしまう。

「もう、何度学校に呼び出されたことか・・・」
 ミツの両親も嘆いている。最近ピアスをあけたらしい。教職をやっている父親は仕事を辞めることも考えたという噂だ。
「お父さんもお母さんもいい人じゃない」と言うと。
「うん、いい人だよ。ちょっとズレてるだけで」とミツは言う。

 龍とはいちど、バイク事故で死んだ少年について話した。飛び出した脳みそをお母さんが泣きながらすくい上げたという話。
「どうして、そんなことするんだろ」と龍が言う。
「親ってね、悲しくて悲しくて、それで元に戻してあげたいって思うんだよ」と言うと。
「おれ、ノーヘルでバイクに乗ったりしない」と、神妙な顔をして彼は言った。
 なのに、このまえなんか、ノーヘルで3人バイクしていた。
 龍のお母さんは、もう全然行かなくなったダンスの月謝を払い続けている。行きたくなったらいつでもいかせてあげたいからだと言う。

 みんな素直でまっすぐな子ばかりで、中3の今の時期になんでこんななんだろうと思う。
 両親は心を痛め、会うと「迷惑かけてごめんね」と言う。
 なのに。自分が何をしたいのかわからない。ここがほんとうの場所なのかわからない。だから、やってることはめちゃくちゃで。心配かけてもそれが辞められない。
 こんなに苦しんで大人になろうとしてるんだもの。きっと、誰よりも優しい大人になるに違いない。
 そう思っているけれど。見ていると、彼等は痛々しいほど傷だらけだ。

 荘島公園も夜は冷えきってしまう。
 秋には毎日遅くまでたむろしていた少年たちも、今はここにはいない。
 どこか別の場所で、いまだに痛みを抱えているのだろう。


***

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posted by noyuki at 22:44| 福岡 ☀| Comment(2) | TrackBack(0) | 荘島物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年12月08日

猫が死んだ夜

 所用があって、夜、家の外に出たら、目の前で猫が死んでいた。
 サバトラの成猫で、近所で何度も見かけたヤツだ。口から真っ赤な血が流れていた。

 どうしたらいいかわからない・・・隣の坂下さんの猫だったら・・彼女は悲しむだろう、と思いながら家をピンポンした。
「ああ、これはウチの猫じゃない。野良ちゃんよね」と坂下さんが言う。「ダンボールに入れて、わたしが明日持って行くわ」
 手伝おうと思ったけれど、どうすればいいかわからない。それでオドオドしていると、わたしがやるから大丈夫と言って、わたしは家に帰されてしまった。

 今日はサバトラの子猫の方が、口から血を吐きながらフラフラしていた。
 昨日の野良の子供だろう。また、どうしたらいいかわからずに坂下さんを呼んだ。
「風邪が流行っているの、別に危ない病気じゃないと思う、ウチの猫も一匹病院に行ってるのよ」
 坂下さんは落ち着いてそう言う。死ぬという現象を前に動揺しているわたしを静めるように。

 人間にだって風邪が流行っている。だけども、わたしは病院で貰った薬を飲むし、あたたかい布団に入って休むことだってできる。
 だけども猫にとっては、風邪すらも「死に至る病」なのだ。

 同年代ばかりの集合住宅からここに引っ越してきて、年長者とのつきあい方がわからずさみしい思いをした。
 今、そんなに親密ではないけれど、わたしは坂下さんを頼りにしているんだなと思った。
 この町を自由に歩き回る猫たちが好きなのに、彼等の死をわたしは抱え込むことができない。彼女は、それを一人で抱え込む。
 ごめんなさい、何も手伝えなくて。と、心の中で言う。

 遠い死も、近い死も。わたしは上手に抱えられずに生きている。
 それはだんだんと、近しい存在になりつつあるはずなのに。

***

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2004年11月21日

荘島物語「イメルダの街」

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 祭りのパレードがはじまる。子供たちがラッパやトロンボーンを鳴らし、町中を練り歩く。小さな町には華やかすぎるほどの光景だ。
 それから大人たちは靴を買いに行く。
 ここに住む人々の85パーセントは靴マニアだ。足はひとつしかなくても、靴は何足あってもいいと思っている。
 靴工場の売店の扉が開くと、自分のサイズの場所に向かい、5,6足の靴を抱えてくる。ほんとは10足くらい抱えたいのだが、靴は案外かさむものなのでそういう訳にもいかない。
「ねえ、これとこれ、どっちがいい?」
「うーん、どっちもいいねえ」
「どっちにしようかなあ」
「迷ったときは両方買う、これが鉄則よ!」
 結局すべて買うことになる。荘島の住人にとって靴とはそういうものなのだ。

 安い価格で大量の靴を提供してきた靴工場には感謝しないではいられない。おかげでここはイメルダの街になってしまった。
 靴とはシーズンごとにまとめて買うものだと思っている。
 学校に履いていけないブーツや厚底靴を子供たちは何足も買ってもらうことになる。幸せである。ささやかだけど、同じ指向性を持った住人たちがたくさんいる。家に帰ると、買った靴をすべて並べて、見せ合って喜ぶ。

 本日買ったのは、夫のスニーカー、ショウのニューバランス、ナツのピンクのスニーカーと赤のヒロミチナカノ、わたしはベージュのブーツとコンバースのハイカット裏ボアつきであった。
 ロングブーツはワンシーズンに2足は邪魔になるんで、カナミに譲った。
 コンバースはあたたかかった。すぐにそれに履き替え、もう一度お祭りに戻った。
 PAの係をしている靴工場の若者にすぐに自慢する。
「これ、今日買ったんですよ」
「お、ありがとうございます。おお、これは限定品のようですねー」
 ふふふと満足げにわたしは笑う。
 限定品といっても市販のめずらしいものではない、試作品または見本品であって、ほとんど売られていないってことだ、たぶん。

***

 写真は、わたしが買ったコンバースのハイカット。白いボアがとってもあったかいです。
 
posted by noyuki at 22:12| 福岡 ☁| Comment(6) | TrackBack(0) | 荘島物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年11月13日

荘島物語「犯人逃走中」

「***さんが亡くなったんで今日の通夜に行きなさい」
 と叔父から電話があって出かける。叔父と言っても夫の叔父である。夫の両親はとうに亡くなっているので、この叔父夫婦がわたしたちの親代わりだ。
 夫は仕事で都合がつかず、わたしが叔父に連れられて通夜に行った。遺影の顔には見覚えがあった。法事などで何度か見かけた方だった。
「ひさちゃんの奥さん」と紹介されて頭を下げる。何度か見かけたことのある夫の親戚にも挨拶をする。
 本来ならば父母が出るべき場所に顔を出すのは苦痛であったが、最近はこういうことがそつなくできるようになった。わたしも大人になったもんだな、と思った。

 喪服のままTSUTAYAに立ち寄り、週末に読むべき本を買う。「野性時代」がまだ出てなかったので「小説現代」を買い、それから緊張したせいか甘いものが食べたくなってセブンイレブンにも立ち寄った。
 店員の金城(金城武に似ているので勝手にこう呼んでいる)が話しかけてきた。(きゃーハートたち(複数ハート))
「大牟田の殺人事件の犯人が脱走してるらしいんです。久留米にいるらしいんで気をつけてくださいね」
 と、ホスト顔負けの美しい笑顔で言う。(この顔を見ると、わたしもとたんに心優しい人になる)
「わたしはもう、これから帰るから大丈夫だけど。店にいるあなたたちが大変ねー、何もないといいけど、気をつけてね」
 立地のいいセブンイレブンは以前、暴走族の抗争に巻き込まれて機動隊に道路封鎖されたという経緯がある。夜勤も週末は並大抵ではない。
 それにしても、こういう心遣いのできる金城は大人だ。そしてこういう返事ができるわたしも大人になったもんだと思った。案外喪服を着てると大人になれるのかもしれない。

 家に帰ると先に帰っていた夫が言った。
「犯人がさ、福岡地検から脱走したらしいよ、近くだからこわいよなあ」
「知ってる。さっきコンビニで金城から聞いた」
「なんでコンビニの店員がわざわざおまえに言うんだよ」
「そりゃ、わたしに惚れてるからに決まっているじゃない」
 えー、何を勘違いしてるんだ、おまえなんか相手にするわけないのに、ちょっと声かけられたくらいで・・・ぶつぶつぶつぶつ・・・
 と、夫は長いことムキになって反論した。・・・冗談で言っただけなのに・・・ちょっと願望入ってただけなのに・・・みんな大人なのに・・・あんただけ、大人じゃない・・と言ってやりたかった。

 テレビではずっと速報テロップが流れていた。ニュースで状況を把握して、だんだんこわくなってきた。
 福岡地検久留米支部って・・・TSUTAYAとは目と鼻の先じゃないか。
 しかもコンビニも歩いていける距離。わたしって、すごいとこ、ひとりでウロウロしてたんだなあ・・・恐ろしいことだ。

 犯人はさきほど大牟田市内でつかまったとYAHOOのニュースに出ていた。
 一家とその友人4人を殺害した犯人は、一度ふるさとの帰りたいと思ったんだろうか。タクシーにでも乗ったんだろうか。
 いずれにしろ、不穏な空気漂う週末にならなくて済んだ。
 文化街はまだまだ酔客でにぎあうだろう。コンビニも朝まで客足が途切れることがないだろう。
 わたしは「エンタの神様」を見て、それから本を読んで寝るだけだ。
posted by noyuki at 22:41| 福岡 ☀| Comment(2) | TrackBack(0) | 荘島物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年11月10日

荘島物語「処女の顔をした魔女の木」

  majo

 奥に見えるこの柿の木を「処女の顔をした魔女の木」と密かに呼んでいる。
 左側が荘島公園、右の金網は月極駐車場(ここは以前は豊田勝秋さんという鋳造家のお宅だったらしい)、そして柿の木があるのは近隣の工場の従業員専用駐車場である。
 犬の散歩にこのあたりをひとまわりして、この木を見上げる。
 
 かなりの老木なのに、それなりの華やかさのある枝振りだと、その度に思う。
 春には小さな新芽が輝くようにこの木を飾りつける。処女の顔をした魔女がウェディングドレスを着て笑っているようだ。
 秋には柿の葉は落ちてしまうが、渋柿がたわわに実をつける。明るい頬紅で顔を染めた魔女のようだ。
 枝の感じは老獪な魔女そのものだ。なのに、初々しい処女のように季節ごとに自分を飾り立てる。

 きっと、わたしが生まれる前からこの場所で、そんな顔をしていたのだろう。
 そんな魔女と友達になりたいとも思わないし、そんなふうに生きたいとも思わないのだが。
「処女の顔をした魔女の木」を見ていると、時の移り変わりって、そんなにたいしたことじゃないんだなと思うようになる。

***

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2004年11月09日

荘島物語「ブス猫とにらめっこ」

busuneko

 天気もいいし、家の修理をしていて仕事も休んだんで、近所をブラブラして写真を撮ってまわった。
 荘島公園とかわたしの好きな木の写真とか撮ってきたのだけれど、今日の最大の収穫はこれ。
 見てください! この不細工な猫!

 動物写真を撮る方ならわかると思うが、慣れてない猫の写真を撮るのはむつかしい。
 レンズを向けた瞬間に、ぷいっとどこかへ行ってしまうのが常なのだ。
 この黒に白ブチの猫は近所に多い。おそらく、半年ごとに繁殖を繰り返してきたのだろう。みんなこんな顔をして、こんな感じの性格だ。
 ふてぶてしく、何がきても怖れない。そんなブス猫が最初は嫌いだったけれど、最近、こんなやつらと一緒に生きているのがなんだか頼もしくなってきた。
 
 毎朝、丁寧にアイラインを引く。どぎつくならない程度にリップグロスをつける。
 嫌われるよりか、いい印象を持ってほしい。自分だって、きれいにしてる方が気分がいい。

 だけども、心のままにこんな顔して睨みつけたら、いい感じだろうな。
 未知の人物も怖れず、レンズに自分を収められたら、違った生き方もできたかもしれない。
 いや、そんなふうに自分を蔑みたかったのではない。
 
 ふてぶてしいブス猫が、こっちをじっと見てくれたのが、実は嬉しかったのだ。

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2004年11月04日

荘島物語「事件」

 朝、目覚めてカーテンを開けたら、警察車両が目の前に止まっていた。
 公衆電話のボックスで何やら事件が起こったらしい。
 派出所のおまわりさんとは明らかに違う服装の人々が、ものものしく動いている。黒いビニルを道路に敷き、金属探知器のようなものでなにかを探している。電話ボックスの中の指紋も採取している。

「殺人事件じゃないのか?」
 と、夫が言った。なんかそれくらいの緊張感が漂っていたのだ。
「最初は中年の男女が公衆電話の方を見てた、それから警察が来たんだ」
 よほど気になったのだろう、夫は窓から何度も覗いていたらしい。
 その後、夫は会社に出かけ、続きはわたしが窓から覗くようになった。だんだん警察の緊張感もほぐれ、小1時間もしたら、座り込んで休憩をしていた。
 
 ほんとにいったい何だったんだろう?
 よくよく考えて見れば、何かの事件ならばサイレンを鳴らしてくるはずだ。人が死んでいるとしたら救急車だって来るだろう。
 だが、それもなかった。ただ捜査はひと味違った。指紋を採っているとこなんてはじめて見たし、あの金属探知器のようなものは一体何だったんだろう。

 2時間ほどで警察が帰ったので、それからボックスを覗いてみた。
 電話機の下の両替機が使用禁止になっている。
 そうだったのか! 両替機壊して、小銭を盗ってったんだ。
 だから金属探知器なのか。

 公園の脇、体育館の前にある公衆電話ボックスはけっこう利用が多い。一方、このあたりは一般の野外生活者だけではなく、若者とかも雨宿りして夜を明かしたりする。体育館には屋根もあるし自販機もあるから、遅くまでたむろしているグループも多い。
 全国でも有数のシンナー利用者の多い市だと言われているが、とりあえずこのあたりでシンナーを吸う者はいない。
 治安が悪い、というよりか、野外に人が集えるオープンな町というのがわたしの印象だ。
 まあ、でも、小銭泥棒くらいは出現するんだろうなあ・・・

 それにしても。ここに両替機までついてたなんて知らなかった。
 この電話ボックスはISDNとかで、仕組みはよくわからないがモジュラージャックまでついている。つまり、パソコンまで繋げるようになっているのだ。
 繁華街でもない静かな町に、どうしてこんな豪華な電話ボックスがあるのか。
 そっちの方をしみじみと考えてしまった事件であった。

 とりあえず人が死んでなくてよかった。
 もうこの町で路上の花束なんて、わたしはもう二度と見たくなかった。
posted by noyuki at 22:20| 福岡 ☀| Comment(2) | TrackBack(0) | 荘島物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年10月16日

荘島物語「キング」

 人を惹きつける人間だけがキングになれるのではない。
 キングになることができるのは、自分の王国を持っている人間だ。

 荘島町に美容室ができたという話を何ヶ月か前にしたけれど。最近はここの美容室に通っている。
 凝った内装で、男性とその奥さん、それともうひとりの女性でやっている。3人とも若くてとてもきれいだ。
 女性週刊誌もなく、室内は美容室にしては暗い。今日は矢沢永吉のDVD がかかっていた。その前はレコードプレーヤーから見知らぬ音楽が流れていた。美容室というよりも洒落たカフェという印象。ハワイのコナ・コーヒーなどを出してくれる。なかなかおいしい。
 それに最近は2匹の小犬が加わった。犬は大体2階の自宅にいるけれど、ときどき抱っこして見せてくれる。

 なんだか変な店だな、といつも思う。
「完全予約制」と書かれていて、重たい木のドアは気軽に開けられる雰囲気ではない。近所でなかったらちょっと入れないだろう。

 それでも行くのは、カットがうまいのと、スタッフの雰囲気が好きだからだ。
 予約がないときは、男の子がハリガネで手作りのランプシェードを作ったり、バイクで出かけていったり。ときには女性ふたりで犬の散歩をしたり。仕事がないときはいつも遊んでいる。いや、ずっと遊んでいながら、ときどき仕事をするって感じか?

 できれば遊んで暮らしたいと思っている人は多いだろうが、実践できる人間はなかなかいない。
 それは遊ぶためのコンテンツが頭の中にないからだ。ずっと遊んでいると不安になる、人間が壊れる、そんな人は案外多いのではないだろうか。
 
 わたしはここに来ると、彼等の頭の中の王国にいるような気分になる。
 きちんと整頓されて壮大で、いろいろな楽しさが次々にカタチになってゆく王国。そんな場所でひとときを過ごすのはもちろん楽しい。

 生まれて3ヶ月ほどの小さなビーグル犬がゆったりと外を走る車を眺めている。だが、ここではないどこかを夢見ている風ではない。ここがすべてであって、この場所は満たされているからだ。
 
 ビーグルの名前はキング。王国に住むにふさわしい名前だ。
 
posted by noyuki at 22:54| 福岡 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 荘島物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年09月27日

荘島物語「基地」

 道路をはさんで向こう側は教会である。
 家族が2階に住んでいらっしゃる、小さな教会だ。メガネをかけた「先生」はとても優しいお人柄だ。
 信者でもないわたしが毎週教会に行くのは、そこが生協の分け合いの場所だからだ。班の名前は「教会班」。まったくそのままの名前だ。続きを読む
posted by noyuki at 22:46| 福岡 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 荘島物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年09月15日

「荘島物語」バザー

 町の小学校でバザーがある。
 一日だけは手伝いに行かなければいけない。
 ボランティアは嫌い・・・という言い方はよくない・・・苦手であるとしておこう。
 知らない人が多いし、なんだかあまり楽しいと思えない。
 だが、前日の品物並べだけは手伝うと言っておいたので、しぶしぶ体育館に出かけた。 
 やるべき仕事が多いのが救いだった。
 ひとつひとつの品物を並べてゆく。荷物運びは、かなりの量を持てるので効率もいい(仕事でいつも膨大な荷物を運んでいるからだ)。
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posted by noyuki at 22:10| 福岡 ☔| Comment(6) | TrackBack(0) | 荘島物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年09月12日

荘島物語 「名前のない古本屋」

 道路を渡った隣町に名前のない古本屋がある。
 処分したい本がたまると、紙袋につめてそこに持っていく。
 大手の古本屋ではない、小さな店をわたしと同年代くらいの男性がひとりでやっている。
「あそこはあんな小商いでどうして潰れないんだろう」
 と、近所でしばしば話題になる。
 安いコミックはあまり儲からないが、奥の方のエロ系の雑誌やビデオなどがおもな収入源であるらしい。妖しげなローションとかおもちゃらしきものもある。だが、近所すぎて、そこまでじっくりと覗けないのが難点である。
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posted by noyuki at 22:12| 福岡 ☀| Comment(7) | TrackBack(0) | 荘島物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年09月07日

荘島物語 「台風」

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 昨夜は一晩中凪いだ様子だったので、今回もそうひどくないのだなとタカをくくっていたのが大きな間違いだった。
 午前11時をすぎ、途端に風が強くなる。夫が網戸を一枚ずつはずし、部屋の中にしまってゆく。瓦もずれたようだ。浴室に雨が染みこむ。
 窓の真下は、児童センターの職員駐車場だ。律儀にも今日もたくさんの人が出勤しているらしい。
 瓦が車を直撃したらどうなる? 慌てて火災保険の証書を出してみるが、自然災害には無効のようだ。そうこうしているウチに、何やらパラパラ落ちる音までしてきた。
 仕方がないので、レインコートを着込んで、車の移動をお願いしに児童センターまで行った。傘は10メートルも持たなかった。

 顔見知りの責任者らしき人に、ことの次第を話した。
「ウチも危ないとは思ってるんだけど。今、移動はできないだろし、気をつけておきますよ」と言ってくださる。
 まあ、警告はしたからこれで良いだろうと、その人と一緒に我が家の方を見た。幸い瓦はまだ無事。
 ただ。隣のスレート瓦は見事に飛んでいた。
 まるでカラスが一斉に飛び立つように、雨の中を鮮やかに舞いあがっていた。ヒッチコックの「鳥」みたいな、おびただしい数のカラス、カラス。
 恐ろしくなって、そのままソッコー家に帰った。

 風の音が鳴り続ける。
 2階の窓から、ときおり見てみる。
 木が折れた。(写真のヤツです) 公園の大木が折れて、道路をふさいでいた。
 隙間から入り込む風を塞ぎ、浴室の雨漏りにバケツを置き、廊下を拭き、コンセントを保護し。・・・ああ、台風ってなんてすることが多いんだろう。

 義理の妹からメールが入る。停電中の歯科医院で留守番をしているという。患者は来ないが電話は入るので、まだ帰れないらしい。
 電気の消えた歯科医院を想像してみた。がんばれ、と思った。

 昼過ぎに台風は去っていった。
「とりあえずは、あの木を動かそう」
 と言う夫と一緒に、折れた木を持ち上げたが、重くてまったく動かなかった。
 木は、のちほどどこかの職員の人々が、切り刻んで片づけてくれた。
 ああ、やっと、道路開通だ。

 そんな台風余波の中、近所の江藤さんのおじさんは、ひとり公園のぎんなんを拾っていた。
 風でこちらも、たくさん落ちていたのであるう。

 さすが、荘島人。あっぱれである。

 ***

 幸い、今こうして、わたしはネットを繋いでいますが、いまだ停電中のところが多いそうです。
 またそれ意外にも膨大な被害があるようで。
 みなさんにお見舞い申し上げます。
posted by noyuki at 22:19| 福岡 ☔| Comment(4) | TrackBack(0) | 荘島物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年09月02日

荘島物語「変人」

 公園で犬の散歩をしていると、ザクロの実を取っている女性がいる。
 もっと大きくなったら食べようと楽しみにしていたので、不快に思って近づいてみる。(荘島公園はわたしの庭のようなもの、だからこの木はわたしの木だと勝手に思っているのだ)

 近づくと、近所の坂下さんだった。同居の男性と一緒に小さなザクロをたくさん取っていた。
「ああ、草木染め?」
「そう、きれいな色になるのよ」
 坂下さんならいい、と思った。彼女の草木染めは素晴らしい。服やのれん、今年は着物の帯のようなものまである。わたしは彼女が庭に染め物を干すたびにいろんなことを尋ねてみるのが大好きなのだ。

 年に一回自宅で展示会、他にもデパートや市の展示場でいろんな作品を発表している。
 そんな坂下さんなのに、なぜか近所では変人扱いだ。

「あそこの家とはつきあいがないんだよ」
 と、ここに住み始めてすぐ、夫が言った。
「独身で、誰かの愛人をやってる人だしね。猫をやまほど飼っていて、みんなが迷惑しているんだ」
 その後、坂下さんは、会社を退職して、愛人らしき人と一緒に暮らしはじめた。ふたりとも、いい年である。入籍はしてないから、表札にはふたつの名前が書かれている。
 男の人はくわえ煙草で、庭木に水をやる飄々とした人だ。
 飼い猫が外で糞をする、野良猫も出入りしている。
 それが嫌われている原因だ。

 迷惑も多いが、坂下さんのことは実は好きだ。
 染め物の模様をセブンイレブンでコピーしてたりすると、わざわざその模様を見せてもらったりもする。
 家を訪れると、廊下まで本が高く積み上げられている。ハヤカワのものが多く、読みたいものもないけど、そういう暮らしぶりがいいな、と思う。

 秋が深くなると、坂下さんは染め物の展示会の案内状をくれる。
 ああもうすぐ、そんな季節になるんだなあ。

 変人と扱われていることをうすうす感じ。年を取ってから、好きな男と暮らし。そうして好きな染め物にいちにちを費やす。

 そういうのって、なかなかかっこいいではないか。
posted by noyuki at 22:43| 福岡 ☀| Comment(4) | TrackBack(0) | 荘島物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年08月17日

ガソリンスタンドはホストクラブに似ている

 荘島からメインストリートに出て、角にあるガソリンスタンドをいつも使っている。
 セルフならもっと安いのだろうが、少しのめんどうよりも若い男の子の笑顔の方がいい。(まったく、最近オヤヂ化してるなー)
 顔を覚えてくれて、「どうもいつもありがとうございます」なんて言われるのが嬉しい。言われるままに、空気圧計ったり、オイル交換したり。チケット使って洗車したり。

 当然、夫はそれが気にくわない。
 一緒にいっても顔見知りのわたしの方に親しげだし・・

 先日「そろそろバッテリー交換した方がいいですよ」と言われた。
 それで夫に相談すると、「おまえ、おんなで何もわからないから、高い金使わせられるんや」と言われた。むかっ。
 まあ、とりあえず不便はないんでそのままにしておいたら、今日、夜になってバッテリーが死んだ。
 何度かけてもまったくエンジンがかからない。
 エアコンを切って、窓をあけて、何度もやってみるが、音のでないトランペットのように小さく唸るだけ。
 ほんと、泣きたくなった。

 半時間ほどしてなんとかかかった。
 そのままそのスタンドまでエンジンを切らぬように走る。遅くまでやってるから、こういうときは便利なのだ。
「ああ、大変でしたねー」と、すぐに同種のバッテリーに交換してくれる。
「ついでにオイル見ておきましょう」とかそのまま点検してくれる。
 もう9時も近いのに、なんて親切なんだ。修理工場では、こんな時間では無理だ。

 それでオイル交換とかもしてもらって、値段みてびっくり!
 ああ、お金足りない・・・
 家まで帰ってお金払った。

 あの親切な笑顔にダマされてしまう。
 熱心な点検にダマされてしまう。
 そうして、困っていた分感謝の気持ちも増大して、いつのまにか・・ああ・・・

「お気をつけてお帰りくださいね」
 と、何人かの笑顔に見送られる。
 正当な労働の対価なのだからしようがないのだが。なんか気が大きくなってしまってたなあ・・・

 一生懸命やってくれるのがいい。
 いつも笑顔なのがいい。
 また散財してしまったけど。
 
 まあ、ホストクラブに行ったと思えば、まあ、いいか。
 そもそも、ホストクラブなんて一回も行ったことないのだし。
 
 
posted by noyuki at 22:26| 福岡 ☀| Comment(0) | TrackBack(1) | 荘島物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年07月31日

荘島物語 荘島物語 「プロ野球チップス」

 コンビニと言えば金城の話ばっかなんで、今回は昼バイトの岩崎くんの話。
 岩崎くんはバイトと言っても学生じゃなくてほぼフルタイム、いちおう店長がいないときの責任者という立場らしい。> 年齢不詳。

 岩崎くんは「プロ野球チップス」が好きだ。休み時間に2袋買ったりする。
 わたしもプロ野球チップスを毎日買う。だけどなかなか当たらない。
 そうこうするうちに、岩崎くんに疑惑の目を向けるようになった。
 外側からサーチすると当たりカードは案外わかるものなのだという。岩崎くん、店頭に並べるときにサーチして、当たりを抜き取っているのではないかと。

 今日、プロ野球チップスその他もろもろの買い物をしてコンビニを出ると、岩崎くんが外回りを掃除していた。
「ねえ、プロ野球チップス、当たる?」
 疑惑満々でわたしが尋ねる。
「いやー、なかなか当たらないですねー」
 岩崎くんは笑いながら答えた。嘘ついてる感じじゃないな、と、瞬間思った。

 帰ってカードを開けると、はじめてのラッキーカードだった。
 これを送るとプロ野球カードファイルがもらえるのだという。
 
 やっぱり、サーチしてなかったんだな・・
 岩崎君よ、すまなかった。

 岩崎くんに、心で謝ってから、わたしは当たりのカードをはがきにはっつけた。
posted by noyuki at 22:26| 福岡 ☁| Comment(5) | TrackBack(0) | 荘島物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

荘島物語 「クリーニング屋でひまつぶし」

 台風が来るというのに、ゴミの収集日は来週しかないというのに、ウチのアパートの前に堂々と生ゴミが出してある。
 ああ、きっと台風でめちゃくちゃになって、近所の人からクレームが来るんだ・・・
 わたしは仕方なく、ゴミの片づけに出かけた。

 生ゴミもビールの缶もいっしょ・・・ウチのアパートにはゴミの分別もできないヤツがいるんかいっ!!!
「収集日以外は出さないでください」の紙を貼り付けて、アパートの自転車置き場に戻して置いた。
 
「何やってんのー?」クリーニング屋のミホちゃんが声かけてくる。
 それで、お店の中に入って涼んでいった。
 ここはアパートの一階の店子さんだ。仕上がりがきれいでなかなか評判もいい。だいたいアパートの一階がクリーニング屋だなんていいではないか。単身者の多いアパートなんでみんなが重宝してる。

「そっかー、ゴミかあ。むかつくよねー。わたしが見かけたら怒っとくよ」
「大家が怒ってたって言っておいてー」
「わかったよー」
 ミホちゃんは若いのに、しっかりしてて働き者だ。ランチタイムのファミレスで働き、その後8時までここで留守番のバイトだ。ひとりで長い時間の留守番は大変に違いない。だが、生来の明るい性格でいろんな人が話し込んでゆく。
 お店にはキャンディーもあって、それをつまみながら無駄話。
 わたしもひとりでアパートの雑用をするのはイヤだったが、ここで話す楽しみができて、まじめに管理できるようになってきた。
 ひとりでやる仕事って、気楽に見えるけど、ちょっとさみしい。
 ひとり仲間がいると、ちょっと嬉しい。

 この前、クリーニングを出しに行ったとき、ミホちゃんは男性の客に長い時間口説かれていた。ちょっと心配になって、もう一度寄ったら、その人はそそくさと出ていった。
「困るんだよねー、ずっと誘われてさー」
 ミホちゃんは言った。
「ほら、あそこの保険会社の人。ウチで働かないかって、しつこいんだよねー」
 よくよく聞いてみると、もうひとりのバイトの子も口説かれたんだという。

 こるぁ、○○ラルタ生命!
 いくら人材不足だからって、ウチの可愛いお嬢さんたちに手出すなよ!
 ひとりでお店にいると逃げ場がないんだよ。それを店内でヘッドハンティングなんて、お客さん困りますよー。

 今度、誘惑したら、営業妨害で怒鳴り込んでやる!
 
posted by noyuki at 22:11| 福岡 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 荘島物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年07月09日

荘島物語 病床のルークを見舞う

 ルークは、モモと同い年の男の子。
 とてもハンサムなラブラドールレトリバーだ。臆病だが頭もいい。モモとの相性も最高で、朝の散歩のときは荘島公園でひとしきり2匹はたわむれる。

 そのルークが病気になった。
 ぐったりしていて散歩にも来ない。最初は夏バテだと思ったが、どうも血液の状態がよくないらしい。
 数日前に見に行ったら留守だった。
 今日もまたルークの家に行った。「モモ、ルークちゃんとこ行こう」と言うと、言葉を理解してか、さっさとルーク宅まで走っていった。

 玄関が開いている。在宅中のようだ。
 庭でおばあちゃんに会ってルークを呼んでくれた。
「まあ、モモちゃん、今、モモちゃんの話をしてたのよ、ルーク、モモちゃんが来てくれたよー」
 ふらつきながらルーク、出てくる。ずいぶん痩せた。顔が半分くらいになっている。
 ルークは柵ごしにモモとの再会を喜び、鼻をこすりあわせていた。
「さっきまで横になっていたのにねー、モモちゃんに会えてよかったねー」
 それからルークは庭先に放尿して、そのまま横になった。

「顔は痩せてるけど、おなかはパンパンなのよ、利尿剤を飲んでいるの」
 娘の和子さんが出てきて、そう言った。
「それから、おしっこするととても疲れるみたい」
 ルークは、そのあとは一度も立ち上がらなかった。

 あまり長居すると疲れるだろうから、早々に別れを告げる。
 ルークは、早く家に戻りたかったんだろうが、最後までモモを見送ってくれた。
「モモちゃんが来てくれたから、庭まで歩けた、よかったよ」
 と、おばあちゃんは言ってくれた。

 もう、恐らく長くはないのだろう。
 憔悴しきった和子さんの顔がそう語っていた。
 同じくらいの子供の頃にやってきて、今が7才。子供の頃から仲良しだった。
 帰りながら、少しだけ泣いた。

 同じ町にずっと住み続けるというのはこういうことだ。
 去ってゆく者を見送らなければいけない。
 犬だけではないだろう、これからも、いろんな親しい人を見送って。

 そうしてわたしも、こんなふうに見送られてゆくのだろう。
 

 
posted by noyuki at 21:57| 福岡 ☔| Comment(1) | TrackBack(0) | 荘島物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年07月07日

荘島物語 救急車

 救命救急センターと救急病院のあいだにある町なので、住人はとても救急車馴れしている。
 すみやかに道路脇によける、その所作がとてもスムーズで自然だ。どんなに渋滞していてもそれは変わらない。

 逆に言えば、救急車のサイレンに鈍感でもある。
 昨夜、近くで止まったような気がしたが、「あ、止まったね」なんて会話して、そのままだった。

 朝、近所の人と、道ですれちがって話をした。
「このあたりに、血がべっとりって聞いたよ」
「えー、そんな、知らないよー」と言いながらふっと道路を見たら、アスファルトが真っ赤に染まっていた。その部分は白いチョークで囲まれていた。

「死んだのかな・・・」
なんて噂しあっていると、担架に乗せられて行ったのを見た、と別の人が言った。
 この前少年が交差点でぶつかって死んだばかりだ。もう、誰もこんな死に方はしてほしくなかった。
 そうこうしているうちに、警察がやってきて実況見分しだした。
 片側ずつ道路が通行止めになって、写真なんかが撮られている。

「ほーう、今日は片側でいいのね」
「この前は全面通行止めで、動けなかったもんねー」
「あー、あれは大変だったねー」

 いろんな町にいろんな特徴があって、だんだん、みんなそれに馴れていくんだろう。
 この町の住人は、救急車と交通事故にはみょーに馴れている。
 
posted by noyuki at 21:53| 福岡 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 荘島物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年07月05日

荘島物語 (YA-YA-YA-! 美容室がやってきた)

 荘島西地区には美容室がない。
 床屋が一軒あるだけである。おばちゃんがひとりでやっている床屋で、料金が安いからけっこう客は多い。チェッカーズのふみやくんの古びた色紙が飾ってある。ふみやくんもここで切ってたんだろうか? とってもレトロなお店なんだけど。

 そんな荘島西のメインストリートに美容室ができた。
 福岡で8年ほど修行した美容師さんがふたりで共同経営をするのだという。
 床も壁も渋めの木目でとってもかっこいい。ぴかぴかのバイクまでお店の中にあってこれまたかっこいい。中では簡単なドリンクも飲めるのだという。スタッフはみんな若者で、もう、気後れしてしまうくらいナウすぎる(死語)。
 鏡と黒い椅子が店の中に並べられ、最後に入り口に大きな木のドアがついた。
 それで中がのぞけなくなってしまった。

「おーい、ドンドンドン」と、そのドアを思いっきりノックしたくなる。「せめて値段表くらい表に出しておいてくれよー。どれくらい高いかわかんなくって、こわくて入れないじゃないかーー、それでなくても荘島町に似合わないような店で、こっちは気後れしているのにー」

 それでも、今度髪が伸びたら、ちょっと行ってみようと思う。
 気後れしながら入っていって、こわごわカットでもしてみよう。あ、ついでにカラーリングもしたいなあ。
「ウチの店には似合わない、ダサダサの人だわ」なんて思われるだろうか? でも、近所だから許してくれるかもしれない。

 このビルは、その前は一時託児の保育所で、その前は整体をやっていた。
 どちらも長くは続かなかった。
 町はにぎやかな方がいので、もちろん長く栄えてほしいのだが。
 道路は立派なものの人口が少ない町ゆえに、いろんな店が入れ替わってゆくのを、これまでずっと見てきた。

「あれ、いつのまにかなくなっちゃったねえ」なんて後悔しないように。
 今度きっと、このおしゃれな店で髪を切ってみよう。
posted by noyuki at 21:14| 福岡 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 荘島物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする