
熟柿 (角川書店単行本) - 佐藤 正午
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最初に「熟柿」が連載作として登場したのは2016年12月号の「小説野生時代」だった。
前年2015年に「鳩の撃退法」が山田風太郎賞を受賞し、その翌年より「山田風太郎賞の発表の号」に毎年「熟柿」が掲載になったように思う。
当初は一年に一度の連載だった。一年ごとに拓くんが大きくなっていくのを楽しみにしていた。
ちょうど最初の連載の頃に、佐藤正午さんの佐世保のサイン会に行ったことがある。「月の満ち欠け」のサイン会だった。
「熟柿、楽しみにしています」
と言ったら、佐藤正午先生はこう答えられた。
「あれはね、完結待ってたら10年かかっちゃうよ」
一年に一度の連載予定だった。ところがとちゅうで出版の形態が変わり、web出版の「野生時代」だったり特別編集のだったりもした。
初出から8年で完結したので、結果的には10年はかからなかったが、「いつ出るのかわからずヤキモキしていた時期」もあり、友人のあいだで情報交換したりしながら連載を追いかけ、それで完結したときには、文字通り「柿が熟してポタリと落ちた」ような気持ちだった。
読者がそうであるように。編集者や出版社、そしてなによりも作家もそういう気持ちだったのではないかと思う。
よい作品の完成を待つ時間はずっと幸せだった。
主人公の「かおり」は、大雨の中、泥酔した夫を助手席に乗せて運転し、ふらりと道路に飛び出した老女をはねてしまい、そのまま逃げてしまう。
結果、罪を償うこととなり、獄中で夫との子供を出産する。
その後、夫の希望により離婚。
息子と会いたいあまり幼稚園で違う子を連れ去ったり、入学式に小学校に忍び込んだりもするが、息子に会うことは叶わない。
職を転々とし、苦労をし、騙される「かおり」は思慮に欠けているようにも思えるし、「なにをやってもうまくいかない不運につきまとわれている人」のようにも思える。
そんな「かおり」にも流転しながら、少しずつ、幸運や、仲間がついてくる。
息子のために働いてお金を貯めることばかりではなく、自分の将来のキャリアを考えたり、信頼できる人と繋がったりもする。
どこまでいけば大人になれるかわからない。年齢や仕事だけでは計れない「熟成」がどこにあるのかわからない。
そんな毎日の中で「人が熟す」という場所までには、どういう道のりがあるのだろう?
あるいはなにごともなければ、「まったく大人にならないまま」で過ごすことだってできるのかもしれない。
もしくは毎日が洪水のように流れているだけの場所で、わたしたちは少しずつ「熟して」いけてるのかもしれない。
わたしは。わたしが熟していけてるのかさえもわからない。
でも、この物語の中には、それを待っていてくれる人がいる。
そのことを思うと、すごく希望が持てる。
読んだあとに、ずっと希望を持っていられる。
そんな傑作でありました!
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おまけ。
連載中には、毎年サブタイトルがついていたような記憶があります。
「チューリップ」「ニッケ」「ふりかけ? ゆかり?」
あれがけっこう好きでありましたが、残念ながら、もう記憶も薄れています。














