2025年03月30日

佐藤正午「熟柿」発売になりました!

熟柿 (角川書店単行本) - 佐藤 正午
熟柿 (角川書店単行本) - 佐藤 正午
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 最初に「熟柿」が連載作として登場したのは2016年12月号の「小説野生時代」だった。
 前年2015年に「鳩の撃退法」が山田風太郎賞を受賞し、その翌年より「山田風太郎賞の発表の号」に毎年「熟柿」が掲載になったように思う。
 当初は一年に一度の連載だった。一年ごとに拓くんが大きくなっていくのを楽しみにしていた。
 ちょうど最初の連載の頃に、佐藤正午さんの佐世保のサイン会に行ったことがある。「月の満ち欠け」のサイン会だった。
 「熟柿、楽しみにしています」
 と言ったら、佐藤正午先生はこう答えられた。
 「あれはね、完結待ってたら10年かかっちゃうよ」
 一年に一度の連載予定だった。ところがとちゅうで出版の形態が変わり、web出版の「野生時代」だったり特別編集のだったりもした。
 初出から8年で完結したので、結果的には10年はかからなかったが、「いつ出るのかわからずヤキモキしていた時期」もあり、友人のあいだで情報交換したりしながら連載を追いかけ、それで完結したときには、文字通り「柿が熟してポタリと落ちた」ような気持ちだった。
 読者がそうであるように。編集者や出版社、そしてなによりも作家もそういう気持ちだったのではないかと思う。
 よい作品の完成を待つ時間はずっと幸せだった。
 
 主人公の「かおり」は、大雨の中、泥酔した夫を助手席に乗せて運転し、ふらりと道路に飛び出した老女をはねてしまい、そのまま逃げてしまう。
 結果、罪を償うこととなり、獄中で夫との子供を出産する。
 その後、夫の希望により離婚。
 息子と会いたいあまり幼稚園で違う子を連れ去ったり、入学式に小学校に忍び込んだりもするが、息子に会うことは叶わない。
 職を転々とし、苦労をし、騙される「かおり」は思慮に欠けているようにも思えるし、「なにをやってもうまくいかない不運につきまとわれている人」のようにも思える。
 そんな「かおり」にも流転しながら、少しずつ、幸運や、仲間がついてくる。
 息子のために働いてお金を貯めることばかりではなく、自分の将来のキャリアを考えたり、信頼できる人と繋がったりもする。
 
 どこまでいけば大人になれるかわからない。年齢や仕事だけでは計れない「熟成」がどこにあるのかわからない。
 そんな毎日の中で「人が熟す」という場所までには、どういう道のりがあるのだろう?
 あるいはなにごともなければ、「まったく大人にならないまま」で過ごすことだってできるのかもしれない。
 もしくは毎日が洪水のように流れているだけの場所で、わたしたちは少しずつ「熟して」いけてるのかもしれない。
 わたしは。わたしが熟していけてるのかさえもわからない。

 でも、この物語の中には、それを待っていてくれる人がいる。
 そのことを思うと、すごく希望が持てる。
 読んだあとに、ずっと希望を持っていられる。
 そんな傑作でありました!

***

 おまけ。
 連載中には、毎年サブタイトルがついていたような記憶があります。
「チューリップ」「ニッケ」「ふりかけ? ゆかり?」
 あれがけっこう好きでありましたが、残念ながら、もう記憶も薄れています。


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posted by noyuki at 19:52| 福岡 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 佐藤正午系 盛田隆二系 話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年09月22日

100回は読みたい佐藤正午作品について

 岩波書店より、過去のエッセイ集が3巻連続で発売された。
 読むことで、昔の作品のことを思い出したり、かなり心が掻き乱れている。過去と現在が交錯し、頭の中がとても忙しい。

つまらないものですが。 エッセイ・コレクションV──1996−2015 (岩波現代文庫 文芸362) - 佐藤 正午
つまらないものですが。 エッセイ・コレクションV──1996−2015 (岩波現代文庫 文芸362) - 佐藤 正午

佐世保で考えたこと エッセイ・コレクションU 1991−1995 (岩波現代文庫 文芸361) - 佐藤 正午
佐世保で考えたこと エッセイ・コレクションU 1991−1995 (岩波現代文庫 文芸361) - 佐藤 正午

かなりいいかげんな略歴 エッセイ・コレクションT──1984−1990 (岩波現代文庫 文芸360) - 佐藤 正午
かなりいいかげんな略歴 エッセイ・コレクションT──1984−1990 (岩波現代文庫 文芸360) - 佐藤 正午

 「つまらないものですが」は、電子版になるのも待ちきれずに紙の本を買ってしまったものだから、パラパラめくっているうちに、なつかしい文章と出会いドッグイヤーだらけになってしまった。

 読みたかったのは盛田隆二氏の「夜の果てまで」の文庫版の解説現実➖盛田隆二『夜の果てまで』だ。
 待ち合わせのドーナツ屋で「マリ・クレール」に掲載されていた小説を読んでいた女性は、遅れて男性がやってきても小説を止めることができない。そうして結局二人でその小説を読む、という話なのだが、その雰囲気、雑誌の読み方、最後の小説のしまい方、ため息のつき方まですべての描写が映画のように美しく流れていてカッコいい。
 ちなみに「マリ・クレール」に掲載されていたのは「夜の果てまで」の元となった短編、「舞い降りて重なる木の葉」である。
 それから「舞い降りて重なる木の葉」が家にあるはずなので探した。
 「マリ・クレール」掲載の短編のコピー。友人が某所でこの雑誌を見つけ、コピーして送ってくれたものだった。
  のちほど検索して、盛田隆二氏の「きみがつらいのはまだあきらめてないから」という本に載っていることがわかった。あとでそちらを読んでみればいい。



 それにしても。この「夜はての解説」は、これだけで100回読める。
 「佐藤正午100回読めるリスト」に本日追加しました。


 昔から20回も30回も読んだ佐藤正午の短編がいくつかあった。
 この機会に読み返したくなり、書棚に向かっていろんなものを引っ張り出した。
 読みたい本の埃を払い、読みたい箇所を探し出した。
 今日はこれをやっていた1日。
 ええ、幸せでした。

 ちなみに今日読み返したものはこういう作品でした。

1.「水曜日の愛人」・・・携帯メール小説として小学館の「きらら」に連載されていた。月曜日の愛人から順番に話はあるのだけど、水曜日の愛人がわたしは一番好き。これは「佐藤正午教本」である「正午派」(小学館)に掲載されている。さっき読み返した。超超短編。

2.「愛の力を敬え」・・・NHKのドラマでも好評だった「身の上話」の元ネタになった短編。「人の物語」というアンソロジーに掲載されていて、これもやっと見つけ出し、さっき読み返した。おろかで可愛らしく強い女性の主人公がとても好き!
 どこかに再掲されていたはずなのだが、と、またネットをうろうろ。
「ダンスホール」の文庫版に再掲されていることがわかった。

3.「鳩の撃退法」(これは読み返していません)・・・難解で不思議な世界で時系列が複雑で、読み返すたびに驚きがある。連載を含めて5回は読んでいるけれど、また時間がぽかんとあいたら読みたい。これ、上下巻なので長いです。

 読み返してみると「今のわたしの中身をカタチ作っているもの」はかなりの確率で佐藤正午の小説の中にあったもののように思う。
 軽やかさも、思い切りのよさも、それに伴う愚かさも。

 本を読んでいる最中の感触は、降り積もっては溶けていく雪のようで、見えているようで見えていない。なのに、知らないうちにわたしの中にうっすらと積み重なっている。
 
 ええ。なんか、今日は意味もなく興奮しています。
 本ってほんとにすごいです!


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posted by noyuki at 20:21| 福岡 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 佐藤正午系 盛田隆二系 話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年02月12日

佐藤正午「冬に子供が生まれる」 (後半部分にネタバレがあります)





冬に子供が生まれる」感想

表紙にいる2人の子供が「マルセイ」と「マルユウ」です。

丸田誠一郎(まるたせいいちろう)と丸田優(まるたまさる)。
同じ小学校に通う2人は小学生のときに、転校生の佐渡理(さどおさむ)と共にUFOに遭遇し、その事件は新聞にも掲載される。
そして10年後「あのときの子供たち」という取材が行われ、そのときの山道での事故で先導のバイクと取材者の2人が亡くなってしまう。

運命が変わる。

大学入学目前の春休み、事故のあとにマルセイとマルユウには変化が起きる。
まるで「メビウスの輪のように」お互いの人格が入れ替わり、趣味までも変わってしまう。
マルユウと、春休みには近しい距離にいた杉森真秀(すぎもりまほ)は、手紙を書く約束をしたのに、マルユウからの返事はない。東京まで会いに来ても「なぜここにいるのか?」と事もなく言われてしまう。

そこにいるのは、外見はマルユウでも、中身は杉森とは仲の悪かったマルセイなのだから。

入れ替わりのせいで、趣味嗜好が変わるだけでなく、心が繋がっていた相手さえも繋がることができなくなってしまう。

それでも真秀はマルセイの姿をしたマルユウを見つける。
見つけるのに、そこには絡まった糸がいくつもあって、そしてマルセイは、20年の時を経てだんだんとマルセイ自身へと戻ってゆく。

という「入れ替わりの物語」ではあるが、入れ替わることで「その顔のままで、愛しい人が他人になってしまう」真秀の絶望、絶望を超え、自分の心を信じた選択、根拠のない選択をするためのいくつもの葛藤がとてもせつない。

自分を突き進む真秀に賛同できない母親の苦悩や後悔、つがいの相手を失うことの切なさが真秀だけでなく、真秀の母親や同僚の教師を通じて描かれている。
喪うことのせつなさが重厚的に描かれていて、もう最後は号泣しました。

結局、連載を含めて3度読んだけれど。
1度目は「入れ替わりの物語」として楽しみ。
2度目は「入れ替わりから起こる、いろんな人間関係の絶望や選択」に驚き。
そして3度目に、ひとりひとりの心にある「つがいを失なうことの悲しみと、そのあとを人はどう生きるのか」という物語にやっとたどり着けました。

もちろん、佐藤正午らしい、軽やかさや意外性もたくさん楽しみました!





そしてここから先はネタバレです。まだお読みでない方が読んでもおそらく「なんのことだかわからない」的なネタバレが多いかもしれません。異論や解釈の違いについてはコメント欄でお願いします。


この小説の筆者は湊先生・・・湊先生はマルセイ、マルユウ、佐渡くん、真秀の4人が仲がよかった中学時代の教師。奥様を急な病気でなくしている。自分自身も脳疾患で危ない目にあったときに「小説を描きたかった」ことを思い出し、執筆をはじめた。

マルユウについて・・・父親は野球のコーチをしており、自分も高校時代は野球をしていた。高校生の頃、杉森真秀と鈍感ながらもいい感じになる。しかし、UFO取材時の車の事故で、マルセイとほぼ入れ替わり、大学では野球をやめ、真秀と自分がどういう関係だったかも思い出せない。

マルセイについて・・・小学生の頃からマルユウ、佐渡君とは仲がいい。それに真秀まで入れて中学のときは4人組みだった。高校でバンドでベースをやろうと提案し、そのバンドはのちのデビューしてメジャーバンドとなるが、マルセイは大学時代に脱退している。マルユウと入れ替わり、自分がいるべき場所と思えなくなっている。のちにマルユウの父親と出会い、野球のコーチとなる。

真秀について・・・杉本真秀、のちの丸田真秀。母親の杉森先生(マルユウの小学校時代の担任)とともに、マルユウの大ファン。そして。気持ちが伝わったと思ったのもつかのま。マルユウの中身がマルセイとなってしまう。どういう経緯かわからないが、のちにマルセイと結婚して妊娠する。そして、マルセイがだんだんマルセイに戻っていくうちに離婚を決意。

佐渡理について・・・転校生で、マルセイマルユウの名付け親。実際に小学生の頃にUFOを見たが、取材時は病気治療のため入院していた。
マルセイの死後、やめていたタバコを吸うことがある。公園でタバコをポイ捨てし、会社の同僚に窘められる。
この公園のシーン。マルセイの死後のいたずらのようなものが随所に感じられる。
公園の大時計の時間が狂っていたり、上空に透明な膜が降りてきたりしている。

マルセイの持つ力について・・・マルユウの腕にあった痣がマルセイの腕に移ったからなのか、マルセイは不思議な力を発揮している。
・大学時代にバンドを抜けたが、このバンドがメジャーになるように祈って、それが実現している。
・ゴルフ場で二人が行方不明になった事件。これもマルセイがなんらかの力を使って行っている。
・脳疾患で危なかった湊先生のもとへ行き、先生に手当てをして助けている。
・そして、マルセイのボルボを見つけた湊先生に、メッセージを残している。

以上、ネタバレというよりも、随所にあるものを拾いあげたような形になってしまいました。
まだまだ気づきがあったら追加していきたいと思います。





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2022年02月27日

佐藤正午さん「ファンならではのネタ」を私に語らせてください 「月の満ち欠け」映画化記念に「登場人物相関図」を作りました。




佐藤正午ファンなので、何度も何度も読んでいる作品です。
ストリーのおもしろさもさることながら、その文体を追うだけで幸せな気持ちになれます。
正木瑠璃が公園の砂場で佇んでいたり、小山内瑠璃が「黛ジュンの夕月」を口ずさみながら校庭の鉄棒よりかかっていたり。
そのひとつひとつの文章が、まるで映画のスクリーンのよう。
だから自分なりの映画シーンを何度も頭の中に思い浮かべていました。
「シャフトのアニメだったらこんな感じになるだろうな」などとアングルまで考えてみたりしてw
そんな「月の満ち欠け」が本当に映画になりました。
おめでとうございます!!!

https://movies.shochiku.co.jp/tsuki-michikake/

(月の満ち欠け・映画公式サイトはこちら)


「月の満ち欠け」は生まれ変わりの物語。
結婚していながら、大学生の三角哲彦と恋に落ちる正木瑠璃は、ある日列車事故でなくなってしまいます。
そして、小山内家の娘として生まれ変わり、三角哲彦を探し求めはじめる。
会えずに18歳でなくなり、また、生まれ変わる。
何度も生まれ変わりを繰り返す物語です

「あり得ないものを、本当のように見せる作家」の真骨頂の作品です。
あり得なくても楽しめる。あり得なくてもせつなくなる。
百歩ゆずって「あり得た」としても、世間の目や状況から考えると二人が一緒になるというのは「あり得ない」けれど。
それでも、物語の中では、それは「本当のように見える」物語です。

わたしが読んでわたしが想像した映像と、実際の映画が同じように出来上がるわけではないので「それはまた、違う世界の(月の満ち欠け)」になるでしょう。
素晴らしい作品であったらいいなと思っています。
ひとつの素晴らしい作品が、いろんな人の手で何度も生まれ変わる。
そういう「生まれ変わり」を繰り返し、この作品の中にあるものが、伝わり続けるのもまた「月の満ち欠け」なのでしょう。


movie.jpg


正木瑠璃は有村架純、三角哲彦はsonow manの目黒蓮です。小山内堅は大泉洋、その妻小山内梢は柴咲コウ。

生まれ変わりの相関図を作ってみました。ストリーに迷ったら、ご参考にどうぞ。


planner2022_rose-156.jpg


そして、自分自身が「月の満ち欠け」にインスパイアされて描いた「戦場のパーティ」です。
これもまた、生まれ変わりの物語。

http://noyuki.seesaa.net/article/451325166.html




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2021年09月05日

映画「鳩の撃退法」本通り裏を歩いてみる



鳩の撃退法 本通り裏サイト
ネタバレ可の本通裏サイトの謎ときに参加してしました。


考察@ 津田伸が書いた小説はどこまで本当だと考えるか#その質問は受け付けない
考察A 津田伸一はなぜタイトルを「鳩の撃退法」とつけたのか? #鳩を語る
考察B なぜ幸地秀吉は最後に倉田健次郎と一緒にいたのか? #わたしの目撃した結末


考察@ 津田伸が書いた小説はどこまで本当だと考えるか#その質問は受け付けない

まず、全てをフィクションと仮定して、その中で「これだけは本当だろう」というところをピックアップしてみました。

*この町に幸地秀吉という本好きの男がいて、ときどきドーナッツショップで見かける。
*この町の本通り裏に「倉田健次郎」という男がいて、会ったことはないけれど、裏社会をとりしきっているらしい。

それだけ? 

いやいや、それだけなら「書いちゃいけないことを書いてないですか?」という鳥飼なほみの言葉にリアリティがなくなりますよね。
あとふたつ加えてみました。

*ときどき顔を見かける幸地秀吉は、突然家族で忽然と姿を消し「一家失踪事件」として地方新聞に載った。
*ダムの底から、二人の男女の遺体があがる

その4つで十分ではないでしょうか?
直木賞小説家の津田伸一は、この情報をもとに「新聞の3面記事」を材料に物語を描き始める。


考察A 津田伸一はなぜタイトルを「鳩の撃退法」とつけたのか? #鳩を語る

*鳩は偽札。偽札をどう見分けて撃退するかという小説だから。
と最初は思っていました。けれど、とちゅうで考えが変わる。

@の考察で、この4つだけが真実だとすると、偽札関係のエピソードは、「事実の事件を膨らませるためのフィクション」ということになります。
消去法で「鳩を撃退」していくと、ただの「新聞の3面記事だけが残る」?
鳩は妄想、鳩は「書いてはいけないことの嵐」。
撃退法を知っているのは、鳥飼なほみだけ?

この考察はちょっと無理がありますね笑


考察B なぜ幸地秀吉は最後に倉田健次郎と一緒にいたのか? #わたしの目撃した結末

幸地秀吉は「子供を生む能力がない」。
そして「施設で倉田健次郎とともに育った」とわたしは考えています。
「自分に家族ができるなんて、奇跡だ」と思い、他の男の子供を自分で育てようとする秀吉。
冷徹な本通り裏のドンとなった健次郎。
正反対の性格なのに、この二人の絆は深い。

ただ、秀吉が偽札を自分のミスで飛びたたせたこと。その原因が「知らない男の子供を、秀吉の子供と偽って産もうとする奈々美」にあること。
部下を総動員して、この夫婦を追いかけた健次郎にとって、これは「仕方なく許す」というわけにはいかない大事件であります。
それでは追いかけた部下たちにしめしがつきません。

そこで登場するのがピーターパンです。
ティンカーベルはピーターパンに毒を飲ませないために、自分が毒を飲んでしまう。
瀕死のティンカーベルを助けるためにピーターパンは拍手を求める。
ベッドで眠りについている子供たちに、ピーターパンは乞う。
「ティンカーベルを助ける拍手を送ってくれ」と。

秀吉の拍手は、ピーターパンが望んだ「運命を変える拍手」。
思いを込めた拍手。
作者の「祈り」が健次郎と秀吉に届く拍手。
果たしてその結果は?




幸地秀吉は無傷ではいられなかったけれど、どこかの町で暮らしている。
奈々美も、あかねも、そして赤ん坊も一緒に。
家族4人でどこかで幸せに暮らしている。
ええ、そうにちがいありません。

それでは遺体で見つかった男女は?
ひとりは郵便局員の晴山。そして、もうひとりは.....残念ながら加賀まりこではないか?というのがわたしの予想です。




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posted by noyuki at 19:53| 福岡 ☁| Comment(0) | 佐藤正午系 盛田隆二系 話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年08月27日

佐藤正午「鳩の撃退法」の映画を見てきました。

IMG_6250.JPG


好きな作品が映画化されるときの気持ちって、みなさんはどんな感じですか?
「おもしろかったらお得だろうけれど、おもしろくなかったら、ひどくがっかりするにちがいない。だから、最初から期待はしない」。
わたしはそんな感じです。

「こんなものが映画になるのか?」と思われるほど難解な時系列の「鳩の撃退法」。
映画にできるわけがない。
できたとしても期待通りなわけがない。
などと言い聞かせ、自分の期待感に自分でブレーキをかけながら、今日までの日々を過ごしてきました。
たまたま今日は仕事が休み。開演の待ち時間にパンフレットを買ったあたりから「爆ぜる心臓」になってしまいました。
「パンフレットの表紙」はトップの画像です。文庫本的な表紙がとても素敵。 「月の満ち欠け」に続く、文庫本シリーズですね。



さて。内容について、いろいろと語りたいのですが、ここでネタバレするわけにもいきません。

ロケは富山市と、まったくそこは違いますが、ストリーについては「何かを大幅に省略してる」感じがまったくありませんでした。

むしろ「その匂い、その気配は文脈の中にたしかにあったはずなのに、まったくこういう側面から見てなかった」部分がクローズアップされた印象。
この複雑な小説の中に、この光る道筋を見つけ、映画にしたタカハタ秀太監督に大拍手です。

幸地ヒデヨシ最高だった! ヒデヨシ、わたし、泣いてしまいました。セリフがすごく素敵でした。
倉田健次郎めっちゃカッコ良かった! 健次郎ファンのわたしも大納得の演技だった。
鳥飼なほみもよかった。
そして、だいすきな沼本(ぬもと)も最高!
床屋のまえだも、房州老人も、みんなすてき!
ラストに「氷の世界」が流れてきたときはシビレた。

ああ、もう、こんな感想ですみません。

強いて言えば「つがいの鳩の行方」はもともとが複雑な話なのですが、これがうまく伝わるかどうかがちょっと心配ではあります。






ああ、もともとあまり映画見る方じゃないけれど、今日はわたし、おやすみでよかった。いい映画をゆっくり見れて、本当に幸せになれました。

音楽も本当、よかったです。


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2021年02月28日

佐藤正午さん「ファンならではのネタ」をわたしに語らせてください(その3) 驚愕! 鳩の撃退法が映画化されたってよ



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「鳩の撃退法」が映画化された!
え? あんな複雑な小説がどうやって映画になるの? というのが正直な感想。
しかし、わたしの正直な感想なんてすっ飛ばして、公式ツイッターがあれよあれよと更新されている。Time flies like an arrow!

Twitter 映画「鳩の撃退法」公式さんはコチラ

「鳩の撃退法」は2014年11月より小学館より出版された上下巻の長編小説である。





もともとは小学館の「きらら」で連載されていたものだが、毎月読んでも複雑でわからない。
そしてやっと出版されて一気読みしたが、やはり時系列と「現実と虚構」の複雑さは変わらない。
では、なぜに延々と読み続けたかと言われれば、答えはシンプルである。

おもしろいから!
複雑な小説の渦に巻き込まれてゆく快感、どこから読みはじめても読み進められる中毒性の高さ、ただただそれにつきる。

小さい子供を連れた幸地ヒデヨシの家族が忽然と姿を消す場面から始まる。これから朝食をはじめようという瞬間に。家族は消えてしまう。

主人公は作家の津田伸一(映画では藤原竜也)。
登場人物は古本屋の房州老人、不動産屋の慎改美弥子、ドーナッツショップの沼本店員、出版社で働く鳥飼なほみ、そして黒幕の倉田健次郎!その他大勢すぎて書ききれないorz

ある日、あまりにも時系列が複雑なので、整理してみようとノートに書きながらメモをして驚愕の事実を発見した。

ここに描かれているのは、2月28日たった1日だけの出来事である。

それぞれの事件が絡み合った2月28日。それぞれの思いや、それぞれの愛や執着が絡み合う2月28日。
それを思う存分楽しんでください、という作品です。

*     *     *

(付録小ネタ1):きらら のロングインタビューの3月号に編集者オオキさんのこんな書き込みがあったので気になっていました。

そしてこのあと予定していることも、正午さんとの仕事のことですが、予定どおりに進むことを祈って、2021年もよろしくお願いいたします。

このことだったんですね!ああ、予想の上を行くお知らせでした。

(付録小ネタ2):トップの画像は、サイン会で(無理やり)いただいた販促用のコースターです。この物語の要となる「spin」「チキチキ」というふたつのお店のコースターです。


以前に書いた「鳩の撃退法」の感想はこちら

ここを押して

鳩の撃退法 時系列のまとめはこちら

ここを押して




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2020年03月29日

佐藤正午さん「ファンならではのネタ」をわたしに語らせてください(その2)「日宇町の高校生さん」

第二弾です。
昔の佐藤正午HPのことを書いているうちに思い出したことをつれづれと書きます。

日宇町の高校生さん(たぶん女の子)が、HPに書き込みしていたのはいつの頃だっただろう? 
もしかしたら前世紀かもしれないし、あるいは今世紀に入っていたのかもしれない。それくらい昔のことでした。

「日宇町の高校生」さんは「はじめまして!」の書き込みをして、HPのみんさんに暖かく迎えられました。
佐藤正午先生の作品が好きで、全部読んでいるとのこと。すごいねえ〜。地元で佐藤正午本が充実しているとはいえ全部読む情熱はかなりのものです。

とりわけ「日宇町の高校生」さんをあたたかく迎えてくれたのは、他ならぬshogoせんせいでした。
「全部の作品を読んでくれて本当に嬉しい、表彰状を贈りたい」とのことで、その表彰状の文面もHPで見たような記憶があります。
あれは、結局郵送で送られたのでしょうか? 真偽はわからないけれど。きっとあたたかいメッセージとともに届いたのではないかと想像しています。

佐藤正午さんがデビュー前に、「諫早菖蒲日記」の野呂邦暢(くにのぶ)さんに感想を送った話は、ファンの間では有名です。
「君の豊穣(ほうじょう)な未来に期待する」という返信が書かれていたとのこと。
のちのち「日宇町の高校生さん」のエピソードを、わたしはこの話とセットで思い出すようになりました。

本名も知らない「日宇町の高校生さん」の今をときどき想像してみます。
彼女は文筆に関わる仕事をしている。たぶん、まちがいなく。いろんな選択肢がある時代だもの、小説家ではないかもしれないけれど。脚本家、エッセイスト、コピーライター、翻訳家、あるいは企業の広報部で文章を書いているかもしれません。
彼女の書く文章は、夏のここちよい風がさっと吹くように鮮やかです。いったん立ち止まって、その風を味わって、心地よさを記憶しながら元の現実にするりと戻れるような、そんな鮮やかさ。
今もそんなふうに彼女は生きているような気がします。あるいは、実は高名な小説家になっていたりして。

昔々の楽しい記憶が今もわたしの心に続いているように。
彼女の胸の中にも「意識していないけれど続いているもの」があるような気がするのです。
ごめんなさい、あくまで私の願望ですが。

どんどん思い出して、まだまだ続きます。


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佐藤正午さん「ファンならではのネタ」をわたしに語らせてください(その1)

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佐藤正午さんのロングインタビュー。筆がノッていらっしゃるのか、誰かにツッコんで欲しいのか、みたいなネタが最近多くて、ひとこと言わずにいられないんです。こんな世界の片隅で叫んでみても届かないよ、でもここは自分の描きたいことを描く場所なんだからかまやしない。昔のこと、掲示板のこと、サイン会のこと、いろんな「ファンならではのネタ」を私に語らせてください。

きっかけは毎月「きらら」連載中のロングインタビュー。最近は「昔の掲示板の」みたいな話がちらりちらりと出てきて。ああ、なつかしいなあ、わたしも「昔の掲示板」のことを書きたいなあと思いはじめました。

ずっと書いてはいけないと思ってた。それは「昔がよかった、なつかしい、あの頃はすごかった」という言葉とセットになっていたので。
そういう言葉が大嫌いな私は、掲示板のことは縛って放置していました。

もともと佐藤正午ファンページは「shogoさんの誕生日のお祝いに札幌の友人(rainさん)がプレゼントしてくれたもの」と聞いています。
掲示板にはshogoさんがいました。管理人というより、みんなのコメントを茶化したり、なんだかそんな感じだったような。
「夜に掲示板を見ると誰かがすごいおもしろいことを書いてて、それにレスしようと昼間ずっと考えているんですよ。それで夜になってまた掲示板を開くと、自分の想像の斜め上をいくコメントがあって、ああ、すごいなあって思うばかりで、コメントできないままだったことも多かった」(sさん談)

たとえば新刊の発売前。「今度(君は5階に住んでいる)という短編集が発行されます」とshogo先生が言われました。
時間がたつにつれて本当のタイトルは「君は誤解している」だったということがわかって......
ちょっとふざけたり、斜めから見たり、冗談を言ったり、たったそれだけのこと。
なのにそれだけで、毎日が楽しくて仕方なかった時代でした。

寡作な作家の新刊と新刊の間の時間は、掲示板は静かにすぎていくようになりました。
同じテンションのお祭り騒ぎを毎日続けることなんてできません。
rain さんからGTAさんに管理人は変わって。GTAさんが自宅でなくなって一年ちょっと掲示板は「生き続け」、そしてネットから消えていきました。「ぼくが生きているかぎり、この掲示板はぼくが守ります」。
その言葉通りの人生でした。

さて。ここからは、わたしの個人的な話です。
わたしは伊坂幸太郎のファンサイトの「無重力ピエロ」が大好きでした。
新刊情報、メディア情報がもれなく掲載され、ファンがふらりと訪れて新しい情報をすぐに手に入れられる場所。スタイリッシュでデザインも好きでした。残念ながら今はないようです。
佐藤正午さんにもそういう場所があればと思い、でも、自分のイメージをうまく表現できないままに「佐藤正午派」というファンページを作りました。
その後「バチスカーフさん」から「フェイスブックでも佐藤正午ファンの場所をとっておいてよ」と軽く頼まれて、それでできたのがフェイスブックの「佐藤正午ファンページ」でした。
思ったほどスタイリッシュなものにはなりませんでいしたが、直木賞効果もあり、たくさんの方が訪れるサイトになりました。

わたしは意地っ張りなので、昔がよかったなんてけして言いません。
でも。ロングインタビュー読んで少し気持ちがゆるくなりました。
そろそろ、昔の掲示板を知るものとして、少しばかり語ってもいいのかな、と。

まだまだ「まぼろしのサイン会」とか「ほんもののサイン会と坂本さんのちゃんぽん」とか、「日宇町の高校生の話」とか描きたいことがたくさん出てきました。自分でもびっくりするほど溢れすぎています。長くなってしまいそうです。
また続きを書きたいと思っています。


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2018年01月19日

「鳩の撃退法」佐藤正午 (鳩の移動経路について) ネタバレあり(再掲)


「鳩の撃退法」佐藤正午 (鳩の移動経路について) ネタバレあり(再掲)




B 鳩の移動経路


「鳩」という比喩で、飛び出していったものの行方をメモしています。
ネタバレが多く含まれてますので、読了後に読まれることをおすすめします。

ケンジロウ が3万円 の封筒を持っている

︎
↓
スピンの金庫 幸地ヒデヨシに預かってもらう

︎ 
↓
スピンの女性従業員 佐野 前借りのお金とまちがって、持ち出す

︎
↓
遊び人の大学生に渡す

︎
↓
大学生、女優倶楽部で女を買う 高峰秀子に渡す

︎↓

高峰秀子、津田伸一に借金返済 3万円

︎↓

津田伸一、手持ちのピーターパンにはさむ

︎
↓
津田伸一と奥平みなみさん、ガストで会う

︎
↓
奥平みなみさんの子供 ピーターパンを3万円はさんだままで持っていく
↓
︎

奥平さん、房州老人にピーターパンを返す

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↓
房州老人 1万円は ホテルの支払いに 残りはトランクへ
↓
︎

房州老人 のトランクは死後 津田伸一へ

︎
↓
トランクの端数の3万円を津田伸一は生活費へ

︎
↓
うち1万円でとこやのまえだで支払い

︎
↓
それをパチンコ屋で女性が使い、偽札発覚

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本通り裏の追っ手

︎
↓
津田伸一 まりこさんの家に泊まる

︎
↓
大河内よっちゃん lolのチンピラに見つかる
↓
︎

倉田ケンジロウに連絡をとってもらう。

↓︎

ピーターパンの本とトランクの入ったロッカーの鍵をわたす

︎
↓
ケンジロウに3302万円。 網谷ちさ、こっそり100万持ち出し

︎↓

3301万円は堀之内元に寄付

︎↓

1万円だけが偽札





(3万円の偽札のまとめ

)
1万円は房州老人がホテルで支払い

1万円は津田伸一がとこやのまえだで支払い

1万円だけトランクに残っていた。


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posted by noyuki at 13:22| 福岡 ☁| Comment(0) | 佐藤正午系 盛田隆二系 話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

佐藤正午 「鳩の撃退法」 時系列まとめ「それぞれの2/28日」(再掲)

時系列がわかりづらいところを自分用に整理してみました。
ネタバレが含まれていますので、読了後に確認されることをおすすめします。
2/28日はそれぞれ、いろんなことが起こっていて、とても大切な一日のようです。

@ 幸地ヒデヨシの2/28日

午前3時半     読書をしていた幸地ヒデヨシ 、津田伸一と ミスタードーナッツで言葉を交わす
︎ ↓
朝  幸地ヒデヨシ 幼稚園 へ子供を送る  慎改美弥子 が夕方から子供を預かる約束
︎ ↓
(妻)幸地奈々美が  妊娠を告白する
︎︎ ↓
倉田ケンジロウから電話。「スピンで封筒を預かってほしい」 ︎    前借り佐野が勘違いして持ち出す
︎︎ ↓
幸地ヒデヨシ 慌ててスピンへ出勤
︎︎ ↓
幸地奈々美 、晴山青年 とかけおちをくわだてる。
︎ ︎︎↓
追っ手
︎︎ ↓
追手の多々良、岡野につかまる
︎︎ ↓
止めようとして幸地ヒデヨシ 手に怪我
︎ ↓
その後一家 神隠し(冒頭シーン)




A 津田伸一の2/28日

午前3時 幸地ヒデヨシとミスタードーナッツで会う
︎︎ ↓
午後6時 ドライバーのしごと
︎︎ ↓
午後9時 房州老人とハンバーガーショップ
︎︎ ↓
山下、lolのチンピラにやられる。( 慎改の夫のさしがね?)
︎︎ ↓
慎改美弥子に物件を紹介してもらう約束をする。 房州老人とドーナッツショップ
︎︎ ↓
アカプルコからドーナッツショップ へ。網谷もいる 子供連れて、前借りするところ
︎ ︎ ↓
高峰秀子の家
︎ ︎↓
頼まれてそこから晴山青年を送る  方向替えて無人駅に
︎︎ ↓
ベンツのワゴンタイプ 幸地奈々美が晴山と合流するのを見る。
︎︎ ↓
 ガスト 奥平さんの面接  友達に車をとられた網谷ちさがいる
︎︎ ↓
ふたりを送る
︎︎ ↓
網谷ちさの家に泊まる



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posted by noyuki at 13:11| 福岡 ☁| Comment(0) | 佐藤正午系 盛田隆二系 話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月05日

「焼け跡のハイヒール」盛田隆二 祥伝社




焦土と化した東京で、父親と母親が出会う。
母親は赤いハイヒールを履いている。
そんな色鮮やかなシーンを、以前筆者の文章で読んだ。
そして「この話をもっと長い物語で読みたいな」と思ったけれど、予想以上の波乱万丈さと壮大さにびっくり!引き込まれるように読んでしまった。

14歳で看護師になるのを夢見て単身上京した美代子を待っていたものは、爆撃により焼け野原になった東京だった。美代子は、座学を学ぶ時間もろくに取れないままに看護の助手をしながら、強い気持ちで多くの傷病者を助ける。
一方当時の隆作は、通信講習所を卒業したのち通信兵として中国大陸で過酷な日々を送っている。無線通信の業務を行いながら難聴を患い、仲間の死を乗り越えて終戦を迎え復員できる日を待っている。

そんな2人の生い立ちから出会いへと続くファミリーヒストリーが物語の元になっている。
貧乏、苦労、戦時下の恐怖、戦争というもの、たくさんの人が死ぬということ。
そんなファミリーヒストリーがどの家庭にもあるものなのに、経験したものは「多くは語らず」、そして戦争を知らないわたしたちは「あえて尋ねず」というスタンスでなぜかやってきたような気がする。
この本には、ファミリーヒストリーであり、日本の生き生きとした歴史がリアルに描かれていて、ほんとうにおもしろかった。戦争を生きてきた人のタフな「希望」が、ああ、なんかすごいなあと思った。

70年以上のときを経て、あのとき出会ったふたりはもうこの世にはいない。
だけども、そのリアルな「2人の、生きるための道のり」がこの本の中にある。
悲しい出来事と、悲惨なできごとと同じくらいに、希望や驚きや素敵な出来事もたくさんあったんだなあと思う。そうして敗戦後の絶望の中でもそういうものを胸に抱いていきてきた人たちの思いがたくさん書き留められている、宝物のような本だと思う。
ビビッドで力強くて、そして、なかなか出会わない2人がやっと出会うまでの道のりが長くて険しくて、ドキドキしながら読みました。


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posted by noyuki at 15:35| 福岡 ☀| Comment(0) | 佐藤正午系 盛田隆二系 話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月18日

2017年9月17日 くまざわ書店佐世保店 「佐藤正午サイン会」




というわけで、「月の満ち欠け」直木賞受賞記念の「くまざわ書店佐世保店」のサイン会イベントに行ってまいりました。
以下、そのレポートです。

*  *  *

前回のサイン会でも100人くらいは集まったと思うので、書店には前もって予約の電話を入れておいた。
友人たちにもそうアドバイスした。
実際、当日前に、100人の予約は締め切りになったとのこと。

ところが、である。当日は大型台風が九州にやってくるというではないか。
日帰りを予定してたけれど、慌ててホテルを予約し、前日のJRに飛び乗った。
やはり日帰りを予定していた友人は断念した。
そして、当日の飛行機は欠航というので、新幹線と佐世保線を乗り継いで前日入りしたという人もいた!
(新聞によると、長崎メトロ書店には、直木賞受賞を聞いて「いてもたってもいられず」家族の赴任地のフィンランドから駆けつけたという人もいたそうです)

インターネットの普及で、「日本国内のいろんな場所からサイン会に集まってくれる時代になった」と、言われていたが、気づいたら「世界中から集まってくれる時代」になっていた。そう思うと感慨深い。

当日。整理券に受付順に番号シールが貼られる。
その番号順に並ぶように言われる。
そして時間どおりご本人登場!
サインを書き、希望があれば記念撮影にも応じてくださっていた。
年齢層は、小学生のお嬢さんに2ショット写真を撮ってもらっている若いお母さんから、ご年配までいろいろ。
「昔から読んでいた」「一緒に写真を撮りたかったから」と終了まで待たれる年配のご婦人。
ごく自然に地元の小説家をあたたかく愛してくれている。そんな土地なんだと思った。

サイン会は1時間以上に及んだ。
佐藤正午せんせい、とちゅうでジャケットを脱ぎ、半袖の白シャツ姿になる。
ときどき「あっ!」という声が漏れる。
サインの書き間違いがあったらしい。
「書き間違い本っていうのも貴重なんですけどね」と、くまざわ書店の方がにこやかに笑った。

小さい声で言いますが、書き間違いは3冊はあったように思いますw

サイン会終わり、佐藤正午せんせいは膨大な手土産の数々を抱えられる。
持ちきれないほどの量なので、お店の方が大きな袋を持ってきてくださったようだ。

カジュアルなショルダーバッグ。紺色のジャケットにベージュのチノパン、白の半袖シャツ。
「60すぎて、あんなサラサラな髪、かつらじゃないのか?」という声もあるけれど、ほんとにお若いなと思う。
後ろ姿は、地元の県立大学生と言ってもぜんぜん大丈夫な感じ?

先生を見送り、わたしは、帰りのJRも運休だったので、払い戻して高速バスに乗って帰った。

*   *   *

今朝は台風一過の青空を、雲が、遠くの白鯨のようにゆっくりと通り過ぎていった。
「たのしいこと」があると、見える景色まで違ってくるね。

何年か先。
また、新しい作品を携えて、この町にみんなで集まるのかもしれない。
人生はときに退屈だったり単調だったり、悲しかったりムカついたりもするけれど、
それでも大好きな佐藤正午せんせいの「新しい本が出るのを待ちながら」生きていくのは、かなり楽しいものである。


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posted by noyuki at 15:25| 福岡 ☀| Comment(0) | 佐藤正午系 盛田隆二系 話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月26日

「書くインタビュー 3」 佐藤正午 小学館の本気

書くインタビュー 3 (小学館文庫) -

佐藤正午氏と東根ユミさんのメールによるインタビューはもうずいぶん長いこと雑誌「きらら」に掲載されている。
とちゅうで「鳩の撃退法」の連載が「きらら」ではじまって、終了してからまた再開されたと記憶している。

長いよね。

書き下ろし作品「月の満ち欠け」の執筆中が、この「書くインタビュー3」の真っ最中だったわけだ。
今読んでみると、「ああ、最初はこういうアプローチだったんだな」とか、書くことに対する信念やこだわりまでがとてもリアルに感じられる。
あと、真夏のポケモンGO!とか、お父様の葬式の日の憤然!たるエピソードとか、文章という芸で読ませ、笑わせてくれるところも見逃せない。

でも、最大に見逃せないのは、この「書くインタビュー」自体が、全力で、佐藤正午氏の新作書き下ろしを、待ちわびているところだ。
帯を見ていただければわかる(すみません、上手に貼れなくて)

本書の最終章は「タイトルと発売月」が発表されるところまでだ。
いや、もう、雑誌連載中の胸の高鳴りがありありと思い出せた。





他社の作品であるとか、まったく関係ない。
これは、「月の満ち欠け」が傑作であることを信じ、たくさんの人の目に触れ琴線に触れることを信じている人が作った帯だ。

「月の満ち欠け」で胸熱になって、そして、他にも「胸熱な人たち」がたくさんいることにまた胸熱になってしまう。

作品をまちわびる時間も。
作品を読む時間も。
そして、読後の思いを交わす時間も。
ほんとうにどの時間も幸せだよね。


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posted by noyuki at 16:49| 福岡 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 佐藤正午系 盛田隆二系 話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年04月22日

「月の満ち欠け」 佐藤正午 岩波書店 (ネタバレ注意)








若い頃「前世」の夢を見たことがある。
わたしは23歳くらいの女性で、戦時中の空襲で防空壕で亡くなった。
やけに生々しい夢だった。
ただ、わたしの記憶はそれだけ。
彼女はそれ以上のメッセージを託さなかった。

人には二通りの死に方があるという。
樹木のように死んで種子を残す道と、月のように、死んでも何回も生まれ変わる道。

「月の満ち欠け」は、月の満ち欠けのように、生と死を繰り返すことを選んだ「瑠璃」という女性の物語だ。

既婚でありながら、三角アキヒコという男性を好きになり、そして鉄道事故(自殺?)でなくなった瑠璃。
瑠璃は何度も生まれ変わり、アキヒコの元に行こうとする。

「ラブストリーなの?」「ミステリーなの?」「SFなの?」という問いかけには、「その全部!」と答えるしかない。

三角くんの目線で描かれる「瑠璃」は、髪の分け目から、たよりない短い線のような唇、そして会話のひとつひとつまで、とても愛しく美しく描かれていてジンとなってしまうし。
生まれ変わった「瑠璃」たちも、まっすぐに一本の芯を持って、7歳や8歳になると三角くんとの記憶や出会った場所を求めてゆく。
「純愛」という言葉が、わたしのカラダの中の冷えた鉄パイプだとしたら、そこに温かいものが流れはじめ、パイプそのものが温かくなっていくような感じの、あたたかい「純愛」を感じました。

ところがこの「月の満ち欠け」のような生まれ変わりが、一筋縄ではいかないのが佐藤正午作品。

「満ち欠ける」のは瑠璃だけではない。
小山内堅(コヤマウチツヨシ)の妻である梢。
そして瑠璃の夫の「正木」の先輩に当たる人も、「月のように満ち欠ける人」なのだと思う。(先輩は、ちょっと死んでみると言って自殺した)。
そのあたりの顛末はぜひ、本書でたしかめていただきたいもの。

ちなみに「正木の先輩もぜったいどこかで生まれ変わってるはずなんだよね」って言ったわたしに、「あ、ほら、最後東京駅で!」と友人が推理したけれど。それもまた、本書の中で。

🌙 追記 🌑🌓🌔🌕
とりとめもなく書きたいこと、追記にします。

なんだか、ふとした表現に泣いてしまいます。特に初代「瑠璃」とアキヒコくんとの会話。
そして、生意気な緑坂瑠璃の台詞。
強がりとせつなさが表裏する文章の迫力がすごくて、思わず、何度も泣きました。

文章の力がカメラワークのように、1シーン1シーン読ませてくれるのですが、これ、映画で見るならぜったいアニメで!と思う。
幼い瑠璃の、憑依した言葉や記憶する言葉は、ああ、アニメで見たらすごいだろうなあ。
本気で妄想しています。


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posted by noyuki at 14:05| 福岡 | Comment(0) | TrackBack(0) | 佐藤正午系 盛田隆二系 話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月19日

佐藤正午 書き下ろし新作 2017年4/5 岩波書店より発売



月の満ち欠け -
月の満ち欠け -

ひさしぶりの佐藤正午新作です。
嬉しくて嬉しくてリンクを貼りました。

タイトルは「月の満ち欠け」です。





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posted by noyuki at 19:38| 福岡 | Comment(0) | TrackBack(0) | 佐藤正午系 盛田隆二系 話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月31日

「蜜と唾」光文社 盛田隆二


蜜と唾 -
蜜と唾 -


ひとことで言うと怖かった。
誰が悪人なのか、どういう意図でいろんなことが起こるのか、最後までわからない。
原因はわからないけれど、なにかが起こり続けている。
その「怖さ」の正体を知りたくて一気に読んでしまった。

亮平はノンフィクションライター。というと、聞こえはいいが、ほとんどの収入はweb記事や書き起こし原稿。単価の安い仕事を大量にこなし、次の取材費もままならない。
そんな亮平のもとに、昔家庭教師をしていた拓海の母美帆子から「雑誌で名前を見つけた」との電話が入り、そこから、不可解な物語がはじまり、美帆子の夫は謎の死をとげる。

「雪の華」のママ美帆子、手伝いをするシングルマザーの早紀、二人をとりまく男たち。そして亮平。
みんなみんな悪意が見えないのに、なんだか変だ。

この「いびつなカタチで疾走している今」を読むゾワゾワ感がとても楽しかった。

紐解けばそれは「弱者がうけるDV」であったり「お金に対する嗅覚」であったり、華やかな中にいるのに「不況や貧困の匂い」がつきまとってることであったりするのだけど。
その匂いがまさに「今」そのもので、ほんとにリアルな現代が描けてる犯罪ミステリーだと思った。

とくに亮平くん!
「ブラック企業で働いた体験」から、今はライターとして生活しているけれど、その単価の安さと寝る間を惜しむ生活は、今でも十分ブラックではないか。
いつもいつも締め切りと時間に追われ、日常を絡めとられ、大切なものを逃してしまう。
これが、物語の展開の要にもなるのだけど、ほんとに、何度も何度もドキドキさせられため息をついた。

不穏でいびつな匂いのする作品。
その一貫した「匂い」を存分に楽しめました。


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posted by noyuki at 15:24| 福岡 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 佐藤正午系 盛田隆二系 話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年05月07日

「父よ、ロング・グッドバイ 男の介護日誌」盛田隆二 双葉社

父よ、ロング・グッドバイ 男の介護日誌 -
父よ、ロング・グッドバイ 男の介護日誌 -

こう見えても介護職だもの。
ムカつくことだってあるし、愚痴りたいことだっていっぱいある。
傲慢な家族だっているし、お手伝いさんみたいに思ってる人もいるし。
理不尽に怒鳴られることだってある。
個人情報の守秘義務があるから言わないけど。

本書には、母親の死から、父親の認知症、病気の妹を介護していく過程が克明に描かれている。
これから介護をする方にとっては「参考書」になる部分もたくさんあると思う。
(↑ というと、この本に描かれている時代からまったく変わってないのか? と思われるとアレなんですが、改善されている部分ももちろんあります)

ところで、ムカつくこともたくさんあると言いながら、なぜこの仕事を続けているかというと、やっぱり楽しいからだ。
認知症の人が喋る(わたしと違って見えている世界)の話を聞くのが大好きだ。
精神の病のある人の繊細な世界と考え方を聞くのも大好きだ。
わたしとはちがった世界の見える人たちが語る(その世界から発信する話)。
不謹慎かもしれないけれど、それは小説のようにわくわくしておもしろい。
そして、「ああ、こういうふうに世界が見える人たちがふつうに暮らせるにはどうしたらいいんだろう?」とも考える。

そしてこの本の中にも、介護が必要な方々の感性がいきいきと描かれている。

お父さんに煙草をあげたときの反応。
介護職員「乾あかりさん」との心の交流。
戦後、奥様と出会ったころの昔話をするときの表情。
最後の「エピローグ」で判明する、とてもせつない話。
ひとりひとりの人生が「物語のように」いきいきと描かれていて、とても読み応えがある。

本書での家族の介護は「シャレにならないくらいに大変だったんだな」と思うし、まだまだ改善の余地はたくさんあるだろうけれど。
それを含めて「悪いところ」も、「わるくないなと思うところ」も描かれている作品です。




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posted by noyuki at 13:51| 福岡 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 佐藤正午系 盛田隆二系 話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年02月26日

「小説家の四季」 佐藤正午 岩波書店



本日到着して、パラパラとページをめくっただけで興奮が収まらず、こうしてブログに書いている。
いやはや、よくぞここまで、そう思うほどに編集者の「愛」があふれている。

佐藤正午という小説家の書いた文章なら、レシートの裏の走り書きから、ネットの文章、新聞に書いた短い文章まで、なにひとつ漏らさずファイルし、ひとつひとつアイロンをかけて揃えて丁寧に製本したといった印象。

現在は岩波書店のホームページでの連載となっている「小説家の四季」から、直近では伊坂幸太郎氏の「残り全部バケーション」のあとがき、山田風太郎賞受賞のさいに西日本新聞に書かれた文章まで、そして、伝説の名作「盛田隆二氏の(夜の果てまで)のあとがき」まで!
ほんとうに、「全て」が入っているのである。

どんなに好きな文章であれ、わたしたちは読んでは消費していくのだ。
何度も読むのに、それでも「名文」は本棚の片隅や新聞の切れ端として、消費されてしまうのだ。

それを消費されて消えていかないようにと大事に留める人がこの世の中にいる。
おかげで、わたしは、一度消費して、頭のすみっこに追いやった大事なものを思い出せる。

本を手にとった瞬間「作り手の愛」の重さを掌に感じるような、そんな本です。



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posted by noyuki at 16:17| 福岡 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 佐藤正午系 盛田隆二系 話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年01月21日

「幸福な朝食 幸福な就寝」



午前中、仕事までの時間つぶしに本屋に入った。
現場まで近いので5分で動ける、ゆっくりいろんな本を見てまわった。

伊坂幸太郎の「残り全部バケーション」が集英社文庫で出ていた。
読んではいたのだが、なんとなく手に取ってみる。
「ああ、これ、すごく好きだったんだよね」
そう思いながらじっと表紙を見ていたら「解説 佐藤正午」って書いたあった!
慌ててレジでお金を払い、本屋の駐車場で貪り読んだ。

もう、ほんとに、解説で笑いました!



仕事が終わり片付けも終わり夜になって、「残り全部バケーション」をもう一度読もうと思った。
わたしはほどよくストーリーを忘れてしまっているし、これは会話も楽しめる本なので、二度目も十分に楽しめた。

そして、眠る前にもう一度、佐藤正午氏の解説を読み返す。

「伊坂幸太郎氏があるところでこのようなことを書いているのだが」というようなことが第一センテンスで書かれていた。
そして解説の内容は、おおまかに言うとそれに対するリプライだった。

「伊坂幸太郎氏があるところで書いていた文章」に既視感があった。
ここ半年以内に読んだ文章のような気がする。
そう思って慌てて書棚をひっくり返し、佐藤正午氏の「アンダーリポート/ブルー」(小学館文庫)を引っ張りだしたら、ビンゴだった。
「アンダーリポート/ブルー」の解説が伊坂幸太郎氏。
それに対するリプライが「残り全部バケーション」の解説。
なんというステキなやりとり!



ああ、神様ありがとう。
とても幸せな気分で眠れた1日を本当にありがとう。


追記。Twitterでフォローしている「残り全部バケーション」の溝口&岡田のbotもお気に入りです。ここをクリックするとご覧いただけます。





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posted by noyuki at 12:17| 福岡 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 佐藤正午系 盛田隆二系 話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする