2017年03月13日

「騎士団長殺し」 新潮社 村上春樹 (ネタバレあり)

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編 -
騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編 -

「騎士団長殺し」のテーマは何なんだろう? 隠されたメッセージは何なんだろう? など、読んでいるうちに考えなくなってしまった。
とてもひとことでは語れない。むしろ考えずに「楽しめる作品」だったと思う。素晴らしいことでした。

画家である「私」は妻に離婚を言い渡され、友人の父(画家・雨田具彦)のかつてのアトリエに住むことになる。
「私」はその家の天井裏に「騎士団長殺し」という日本画を見つけ、鈴の音をたよりに身長60センチほどの実物の「騎士団長」と出会う。
隣家の大金持ち免色渉(メンシキワタル)、その向こうに住む少女秋川まりえ(このふたりは親子かもしれない)との人間関係。
絵画塾の教え子である人妻のガールフレンド。
認知症で施設に入り判断力をなくしてしまった画家雨田具彦。
絵の姿を借りた「騎士団長」そして「顔なが」。
「ひとつのイデアを殺す」ということ。
色々なことが絡み合って、なかなか本が置けない。気分よく、楽しめる作品だったと思う。

以下、断片的な感想を書いていきます。

* 「私」は人妻とかゆきずりの人妻とか、いろんな人をセックスするなあ。アトリエにやってくる人妻は、会話が小洒落てて楽しそうだ。

* 「騎士団長」かわいい!話し方もかわいい! キャラクターグッズになってもいいくらいだと思う(ついでに「顔なが」も)。

* ちなみに「騎士団長」の言葉でいちばん笑ったのは「クリトリスというのは、さわっていておもしろいものなのかね?」のくだりだったw

* バストサイズに関する談義が繰り広げられてますが、最終的には65のCというのが作者の理想形では? と思った。

* 画家である私も、もとIT関連の「免色渉」も、時間がいっぱいあって、金持ちすぎて、クラシックばかり聞いてた。個人的には免色渉は、もっとすごい悪人でもよかったのに、と思った。

* 人間を崩壊させる「戦争」というものはけっこう村上春樹作品に出てくるけれど、これ読んで「村上春樹は作品の中で南京虐殺があったことを認めている」なんて記事が出るのはげんなり。不倫とか戦争とか殺人とか、物語の中で出てくることを否定する人間はシネバイイノニ 読まなければいいのに。

* 作品のファンタジー的な部分が好き!

* 「騎士団長」が殺されるところを読んで、びっくりして本を閉じて「もう、このまま寝よう」と思って寝室に向かったんだけど、そのとき、ぐらりと現実世界が変わっているような気がした。文章の力ってほんとうにこわい。

* ラストは、これまでの村上春樹らしからぬラスト。意外だけど、好きだった。そして「らしからぬ」というのは「イデアを殺す」のと似ているのかな? とも思った。

* 追記。映画で見てみたい!


以上。思いついたら、また編集して加えていきます。


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2017年02月17日

Kindle効果

本を読むのは好きだけど、溜まっていくのは少々憂鬱。
そういう理由でコミックスを買うことがあまりなかった私にとって、Kindleは福音でした。

もちろん、好きな本は「紙で保存」がマスト。
だけど「おもしろいかどうかわからないけれど、とりあえず読んで見る」という選択を、知らないうちに狭めていたのも否めません。

そんな私ですが、最近はKindleのおかげで「とりあえず読んで見る本」が増えていきました。

さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ -
さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ -

「さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ」。

うん、気になってたけれど、すごくおもしろかった。
ただし、これまたエロ要素は少ないと思います。

自己肯定感のないまま大人になってしまい、自己肯定ができるものを模索する。
わたしの20代はまさにそういう時代でした。
その苦さを持っている人に、どんな言葉が届くのだろうか?
などと思うのは、自分の経験からただの傲慢でしかないのですが、「なにかをつかむ」ための言葉がここには描かれているような気がするのです。

好きな本でした。


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2017年02月04日

「夫の***が入らない」  こだま  扶桑社

夫のちんぽが入らない -
夫のちんぽが入らない -

冒頭の部分を読んでみたら、淀みのない文章にあっという間に引きずり込まれてしまい「これは題名に臆している場合ではない」と思い、一気に読んだ。

え〜エロではないです。
「夫の***は入らない」けれど、エロではありません。

***  以下ネタバレ  ***

主人公をひとことで言ってしまうと「自分に自信のないタイプ」。
そして、多くの夫婦がいくつもの隠し事を持っているのと同じく、この夫婦にも「相手に言えないこと」がいくつかあって、主人公は「教師として勤めていて学級崩壊を起こしたこと」を、同業者の夫に相談することさえもできない。
そしてこの夫婦は「***が入らない」ことももちろん誰にも相談せずに隠し持っている。

それにまつわること、それにまつわらないことがいくつもこの夫婦に降りかかる。
一歩間違えれば救いようのない話だと思う。
子供のできない夫婦は否応無しに世間の「悪意のない期待」に晒され続けるし、もっともっと「救いようもないこと」がたくさん降りかかる。

だけど、読後感は悪くない。
彼女の夫の言葉を借りてその理由を言うなら、彼女が(こんな心の純粋な人、見たことない)と思えるくらい素直な人だからだ、とわたしは思う。

恨み言、コンプレックス、人格否定。
すべてを受け入れ「夫の***が入らないのだからしかたない」と言い訳している彼女が、すごくどろどろした心の中を「純粋な気持ちで」描いている。

本当におもしろかった!

* 追伸 一度ブログが消されてしまいましたので、Amazonのリンク以外は字を伏せてみました。



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2016年12月25日

文庫本X


文庫本X
止まらなくて一晩で読んじゃった


盛岡の「さわや書店」発の「文庫本X」なるものがあるのは知っていた。
「こんなのが近くの本屋さんにあったら買ってみたいなあ」と思っていたら、あった!
時間つぶしに入った近くの本屋に平積みだったのだ。
すでに「文庫本開き」のあとらしく、見てみれば「何の本」だかくらいはわかるのだが、とりあえず、先入観なしに買ってみた。

昨夜、ふっと読んでみたら止まらなくなり、とちゅうで仮眠したけれど「やっぱり気になって途中覚醒」して、500ページ一気読みしてしまった。

ああ〜おもしろかった!

本を買うときはつい「情報」に頼ってしまう。
好きな作家であるとか、評価がいいとか。
手にとって見られるときは、パラ見して文体を見る。
文章が空気のようにふわっとカラダの中に入っていく本がやはり気持ちいいのである。

「とにかくおもしろいから読んで」って言われて、「ああ、じゃあ読んでみようか」とおもしろかったなんて経験はめったにないから、自分でもびっくりした。

一晩止まらない本なんて、ほんとひさしぶりでした。

もう、文庫本開きのあとらしいので、題名だけ入れておきます。


「殺人犯はそこにいる」 清水潔 著 新潮文庫です。


そしてやっぱり、「先入観なしで読む衝撃」を味わってほしいので、ネタバレはなしですw



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2016年01月10日

つれづれ

ご挨拶が遅れました。あけましておめでとうございます。
本年もいい年になりますように。

新年のドラマで「二宮和也」の「坊っちゃん」を観た。
あまりにも痛快な話だったので、びっくりした。
こんな話だったんだ!
もちろん「坊っちゃん」は読んでいる。ただ、わたしの印象は「田舎の閉塞した社会」と「山嵐が実はいい人」くらいのものだった。「坊っちゃん」の気概も、「きよ」の優しさの深さもまったく覚えてなかったのだ。

理由は簡単だ。
わたしは人生の経験値が浅すぎて、中身の評価がまったくできてなかったのである。

実はこういうことがとてもたくさん起こる。
大きくなって「赤毛のアン」をテレビで観たときもそうだった。人の悪意や意志の深さを経験していない小学生の私には、それは単なる「元気な女の子」の話にしか見えなかったのに。成人して観たアンは、ほんとに「まっすぐでまぶしいくらい自由な女の子」だった。

小学校の高学年で「アンナ・カレーニナ」や「若きウェルテルの悩み」「古い文語体で書かれた詩集」などを読んでいたのは、今でいう「活字中毒」だったからだ。
家に置いてある古い書物の文字を追うだけで、とても気持は落ち着いたし、それがあったからこそ、現実世界をなんとか乗り切れた。
たぶん、今でいう発達障害のようなもので、もう、タイムマシンで遡ってそれを精査することもできないのだけど。そういうふうにして乗り切っていったものは、たしかにあると思う。

オトナになった。
心の機微もだいぶんわかるようになった。
もっともそれも「本」に教えてもらった部分が多いのだが。
ずいぶん普通にやっていけるようになった。

こうして人生の経験値があがっていくと、また違ったおもしろさに出会えるのかもしれない。
そういうものを、いろいろと味わってゆくのが今年のテーマです。

そうして、今読んでいるのは「掟上今日子の退職願」であります。




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2015年12月30日

【2015 年を振り返って】 読んだ本とその他のこと

変化の年だった。
ぽかんと空っぽな気持ちになったり、不安な気持にもなった。
変化はいつだって不安だ。「変わるのを楽しめる」ほどの経験値はまだない。

だけども、一年がたつと、誰も扶養しない生活は自由で気軽だと思えるようになった。

シゴトが終わる時間も遅くなった。
それから、ふらっとコンビニに寄ったりする幸せ。
夕飯を一人でテレビもかけずに食べる幸せ。
そういうことができるようになって、年をとって子供が巣立っていくのも悪くないもんだなと思った。

一年が終わって少し落ち着いて、また、来年もいっぱい本を読んで、好きにいろんなことを描きたいなと思った。
というわけで、今年一年の読書録の中から、いくつか「記憶に残しておきたい本」をあげておきます。

「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」伊坂幸太郎

伊坂幸太郎が出れば買う、というのはもう、変わらないスタンスだが、いろんな幅のある作品の中でこれが1番好きだった。
「ベリーベリーストロング」からはじまるいろんな物語が、複雑につながっていた。
陽気なギャングシリーズもよかったんですが。

「残りの人生で今日がいちばん若い日」盛田隆二

はじめから持って生まれる人。
最初は持ってなくて、とちゅうで持つことができる人。
そして、まわりの過酷な状況から、いつしか見失ってしまう人。
いろんな人がいるとおもう。
と、感想を書いていた。
関係や家族の中でなにかを獲得していく物語。
色彩がどんどん豊かになっていくような小説でした。

「流」東山彰良

まさかのノーマークでなにげなく買って読んで、おもしろくてびっくりした。
力強くて、大陸のパワーにあふれていて、そして、繊細。
この方の作品はこれからも読んでいきたいなあと思った。

「アンダーリポート/ブルー」佐藤正午

アンダーリポートとスピンオフな短編「ブルー」が一冊の文庫となって刊行されたのはファンにとっては「大事件」でした。
ふたつ一緒に読まないとわからない「驚き」をじっくりと味わえました。
来年は「小説家の四季」が岩波書店から刊行されるとのこと。
こちらも楽しみ。

「長いお別れ」中島京子

認知症小説とひとことで片付けることもできないことはないのだが、ほんとに、にぎやかでしんとしていて、ひとりの身体がゆっくりと死を受け入れていくような物語。
たとえば、あなたやあなたの家族が認知症というものに絶望していたら、やっぱり読んで欲しいなと思う作品。

「ラオスにはいったいなにがあるというんですか?」村上春樹

ロングインタビューもおもしろかったけれど、頭をからっぽにして読んで楽しいのはこちら。「ラオス編」「くまもと、くまもん編」なんかおすすめ。そして、村上春樹さんだもの、ジャズを語るくだりはどこも秀逸で幸せになります。

「東京タラレバ娘」東村アキコ

漫画だけど、あえてあげたい。怖い。30すぎた女子の「身に覚えのある楽しくて怖い日常」がありありと描かれていた。
ああ、ほんとに怖くて泣きそうでした。傑作です。

そういうわけで来年はもう少し自由になれそうな気がします。またよろしくお願いします。


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2015年10月18日

みちくさ日記  道草晴子(リイド社)

みちくさ日記 -
みちくさ日記 -



朝日新聞の読書欄を見ていたら、この本の書評があり、その「熱さ」に思わず読んで見たくなり、Amazonで検索してみるとkindle版があって、その場でダウンロードして読んだ。

いやはや、すごい世の中になったものだ。
読みたいと思ってから読めるまで10分以内。

13歳でちばてつや賞を取った著者。14歳で発症し、精神病棟に入院する。
それから30歳までの人生を、淡々と四コマで描いてゆく。

すごくヘビーなものなのに淡々としているように見える。
そして、ときどき本気のヘビーがあったり、恋するときの気持ちやその時々の判断があったり。
わたしには「描くこと」によって、彼女の言いたいことが少しずつまとまっていってるように思える。

だから、ときには同じような繰り返しもあるのだが、それでも少しずつ移動している。

だんだん、自分のいる「穴の深さ」も等身大に描けているように見える。
そして、その中で自分が思っていることにたどりつく。

胸にせまった。
ほんとにガンっと迫った。

すごいなあ。

これをネタバレするとヨロコビ半減するので、残念ですが言えるのはここまで。
いやはや、おもしろかったです。


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2015年07月22日

「長いお別れ」 中島京子 文藝春秋



認知症について扱った小説だと聞いた。「でも中島京子さんの作品だから読んでみようかな?」と思った。

スタイリッシュな題名どおり、主人公の「お父さん」のプライドはおおまか損なわれず、「お母さん」も大変だけど明るくてなんだかほっとした。

主人公「東昇平」は元国語教師で校長先生。認知症を発症し、少しずつできないことが多くなっている。
長女は夫の仕事の関係でサンフランシスコ在住。次女は結婚して近くに住み、三女は独身のフードコーディネーター。
現在は妻の曜子さんと二人暮らしをしている。

短編のオムニバス仕立ての中で「東先生」はだんだんできないことが多くなっていく。それでも、昔のことを覚えていたり、サンフランシスコまで行ったり、孫に「漢字名人」と尊敬されたり。
これは、そういう毎日を過ごしながら現世にゆっくりとお別れしていく東先生の「ロング・グッドバイ」なお話。

もちろん、今、日本の各地に東先生は存在している。
わたしの防災メールには毎日のように「東先生が◯◯で行方不明になりました」と連絡が入るし、スーパーのレジでは東先生は小銭を揃えるのに苦労して、うしろに長い列を作らせている。
東先生は何十回と同じ昔話をしてくれるけれど、さっきクスリを飲んだかだけはどうしても思い出せない。

物語の中では、やさしく賢明な家族の力によって、東先生のプライドは損なわれない。
物語の中では、小さな女の子の冒険を助けてくれるし、どんなに困った事件が起きても作者と登場人物の力でユーモラスに乗り越えられてゆく。たとえそれが「いまわのきわ」であっても。
現実にはもっと大変なこともたくさんあるだろうし、東先生のプライドはいろんなかたちで損なわれるのかもしれない。
だけどもこれは物語。

物語は「社会を変えるもの」ではなくて、「人の心に静かに染みこんでいくもの」だと思っています。
この「お別れの物語」の感触がいろんなところに染みこんでいけばいいなと思いました。



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2015年03月25日

九年前の祈り  小野正嗣



心にひっかかった本は記録しておこうとは思っているのだが、ズルズルと遅れてしまうこともある、困ったもんです。

芥川賞受賞作。大分出身の友人のすすめで読んでみた。
旅行して気に入っていた佐伯、蒲江町の風景がなつかしく、シングルマザーと金髪の子供が、その町でどういうふうに映るのか想像しながら楽しんでいた。

が、後半にさしかかり、なにかがちがう、ゾワゾワ感に襲われてしまった。
なんなんだ、これは?

漁村の女性の強く明るい会話の中に、彼女たちの、心の中の純粋さや切迫した静かな祈りが見え隠れする。

そしてなによりも、最後に「現実と物語」のズレのようなもの残ってしまう。
その「居心地の悪さ」のようなものが見事だと思った。

(以下ネタバレになります・ご注意ください)

子供の希敏(ケビン)が千切れたミミズになる時、シングルマザーであるさなえは、困り果て、それを沈めようとする。
そして公的機関の女性から「なにか困ったことがあったらご相談ください」と言われ、さなえは「虐待を疑われているのでは」と思う。
それは「なんんらかの発達障害のある子どもへの支援のための声掛け」だと思うのだが、さなえは、「自分の虐待が疑われてる」と思う。さなえの世界の「ズレ」の中では、千切れたミミズの話なのだ。それは「障害の受容」の話ではないのだ。
美しい描写と、力強い漁村の人々の感性の中で、いろんなものが変わり、受容されていくのだが、この「ズレ」は変わらない。

現実と物語はズレている。
気づこうと気づくまいと。
そして、作り上げられた世界の美しさゆえに、そのことに「はっ!」と気づいたときの居心地の悪さが見事に残る作品でした。
あ、この居心地の悪さというのはけして悪い意味ではないです。
物語は多幸感が残るものばかりであっても困るので。



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2014年08月29日

「ホットロード」映画「人生は彼女の腹筋」駒沢敏器「シャバはつらいよ」大野更紗

ここのところ観たり読んだりしたものに対してノーリアクションだったので、この夏の記録として。

ホットロード 1 (集英社文庫―コミック版) -
ホットロード 1 (集英社文庫―コミック版) -

「ホットロード」紡木たく そして映画

記憶しているだけで3回はコミックスを買っている。
今回は能年玲奈の表紙ということで、記念に買って、そして映画もみた。

恥ずかしながらたくさん泣きました。

能年玲奈というのは、生粋の芸術家肌か、かなり頭のいい女優さんなのだと思う。
見つめる顔ひとつに、いろんな思いと込めることを知っている。そしてそれがずんずん伝わってくる。

ホットロードは簡単に言ってしまうと、「厨二病のよるべなさ」「大人や親のだらしなく真摯な事情」「愛する人の死をおそれる気持」みたいな感じだ。
大人になってからは「和希のおかあさん」に対するシンパシーが強くなった。
そして、木村佳乃の「おかあさん」はわたしのシンパシーの素みたいなものをよく表現していたように思う。



人生は彼女の腹筋 -
人生は彼女の腹筋 -

「人生は彼女の腹筋」駒沢敏器

何の先入観もなく読んでいって、だんだんと引きこまれていった本。
「旅先」のような場所設定が多いのだけど、最初は「ストレンジャー」的な立ち位置だったのが、とちゅうで文章の空気が変わる感じ。
その「風が吹いてかわる感じ」がすごく気持ちよかった。
最初は片岡義男的なものを感じていたけれど、そこまで乾いてはいない。

短編の中で「バリ島の犬」がとても雰囲気がおもしろくて、そこから引き込まれていった。
「ルイジアナ大脱走」もとてもステキなストリー。



シャバはつらいよ (一般書) -
シャバはつらいよ (一般書) -

「シャバはつらいよ」大野更紗

「困っている人」の大野更紗さんの新作。
病気のある人がすべて入院して過ごせるというわけではない社会の中で、更紗さんは「シャバ」に出ることを選択する。

その中でのおさいふ事情、福祉の事情、ツイッターなどで人と知り合いが増えていく過程、そして恋愛問題などが盛り込まれている。

そもそもかかる人が少ないのが「難病」なんだから、なかなか理解しづらいのだけど、その中での制度や不便感、そしてそれでも、社会で生きていきたいという欲求がリアルに軽快に描かれている。

難病ゆえに理解されず、治療や薬の研究予算が少ないなど、いろいろの問題もあるだろう。
(ALSもそうですね)
その中で、当事者の方の発信する声に、とてもリアルにうなずけることが多々ありました。



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2014年06月01日

「女のいない男たち」 村上春樹 文芸春秋社





一時期村上春樹の短編は、書きたりない(意図的に書きおとした?)部分が気になって消化不良のように感じていた時期があった。
そして、9年ぶりのこの短編も、ある意味書きすぎてなくて、あまり壮大ではなくって、雨だれとか、古いビートルズのアルバムとか、せつない恋をうたうジャズとかそういう感じの本だと思った。

文藝春秋連載中よりも、文字の大きさや紙質やレイアウトの状態のせいか、上質な仕上がりに感じた。現金なものである。

好きな短編集のため、備忘録として各編の感想を書いておきます。ネタバレを好まれない方はご遠慮ください。

「ドライブマイカー」

免停になった俳優が、運転手の女性に、なくなった妻について話す。
妻の、どうしても理解できない部分。それを運転手のみさきが聞き、そして簡単な言葉で処理する。言い方が悪いけれど、彼女の世界の理の中で処理する感じ。水滴のようにそのひとことが染みる物語。

「イエスタディ」

まったく話の内容は違うのだが「午後の最後の芝生」を思い出した。
若い大学生世代の僕を含めた3人の物語。夢の中にでてくるという「氷の月」のエピソードが泣きそうに好きだった。

「独立機関」

52歳にしてはじめて本当の恋に落ちた整形外科医の話。
恋のやっかいさと同時に、女性の「独立機関」について語られている。
語り手としての医師の秘書のスタンスが完璧に美しく、ここにある別の物語が浮き立ってみえる。

「シェェラザード」

性交して話をして帰っていく女性をシェエラザードと名付け、千夜一夜物語のように彼女から聞いた話が描かれている。
ところが、なぜに彼女が来るようになったのか描かれてないし、彼女が、のちの別の物語としてちらりと語ったことの詳細も描かれてない。
千夜一夜物語の語り手との濃密な時間が、恋とは言えないものの男女の結びつきの根元のようなものを語っていて。その雰囲気はこの短編の一貫したテーマのように思える。

「木野」

仕事をやめてバーをはじめた男の話。
おとぎ話のように不思議なことがたくさん起こる。
濃密な男女に関係とは別に、男を裏切る女や身体の関係を求める女もたくさん短編に登場するが、そういう女たちはまた、別のものをもたらす。

「女のいない男たち」

書き下ろし。
女のいない男たちというものがどういう過程でできあがるか描かれている。
訃報からもたらされるいろんな感情が一編の詩のよう。
しかし、短編のラストとしてうまく機能している。

 
男と女についての短編集として、「一貫して上質の音楽が流れている」印象。
ときどき思い出してひとつ、という感じに読み返したい作品集だけど、やはり今いちばん気に入っているのは「イエスタディ」の氷の月の話。何が自分のお気に入りになるかは人それぞれだろうけれど、この美しい描写に出会えて本当に嬉しかった。
好きな音楽の好きなフレーズのように千回くらい口ずさんでいたい。



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2014年03月26日

奥様は愛国 北原みのり 朴順梨 河田書房新社






友人から、これ読んでみるといいよってこの本をもらった。
読んでみてびっくりした。
そこに、愛国心に満ち溢れた奥様がいっぱいいたからだ。

自虐史観もどうかと思うけれど、こんなに国を愛してるのもどうかと思う。

どうしてこんなに日本が大好きな人が増えたんだろう? といろいろ考えた。
自信をなくしたときに人は、いや、自分は優れているのだという保障がほしいのかもしれない。
貧富の差が激しく、自分が本来の姿でないと思うときに人は何か強い属性を持ちたいのかもしれない。
たとえば、共働きで働くのが当たり前の時代に、家庭を守る女性も姿を理想化してみたり。
理由はいろいろあるかもしれないけれど、なにかそれとはちがう大きな力が動いているのも感じた。

いや、国を愛するには自由だ。

だがそのことによって他者を排除したり、ヘイトスピーチをしたり、これが正しいと決めつけるのはまた別だ。

日本にはいろいろな民族が住んでいるし、考え方もいろいろだ。

だけど、他国の考え方を否定する本が、本屋にはずらりと並んでいる。ほんとにびっくりするくらいに並んでいる。
ビジネスパートナーとして相手を知る手段としては有効かもしれないけれど。
いったいこれはどういうことなんだ?と思う。

自分がマジョリティなのだとどこで決めるんだ?

考え方がひとつではないというのは、極端な言い方をすればみんながマイノリティの部分を持っているということだとわたしは思う。
そういう括りを民族の優劣にまで持っていくのはどうだ?

どんなに話してもわからないことを、たくさん抱え、それは少しずつ埋まるものかもしれないし、ずっと埋まらないかもしれない。
それでもそのことを発信し続けること自体は悪いことではない。

道は長い。
一括りなどない。
そして普遍の結論などない。

だけどもそういうものに目をそむけたプロパガンダは案外心地いいものなのかもしれない。

この本を読んだときの衝撃的な居心地の悪さは、いろいろ考えてみたけれどうまく表現できない。

だから、とにかく読んでみてください、これは、そうとしか言えない良書。


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2014年01月05日

2013年に心に残った本


2014年あけましておめでとうございます。
今頃になってしまいましたが、 2013 年 心に残った本をリストアップしたいと思います。
ひさしぶりの村上春樹の新刊に心躍り「これが今年のベスト」だろうと思っていたのはあっさり破られました。
次から次に良い本ばかりで幸せな一年だったと思います。
思えば2011年の東北大震災から、なかなか本を読めない日が続きました。そしてだんだん想像の世界に遊ぶ余裕ができた頃、たくさんの作家さんがたくさんの本を用意してくれていたのです。
もちろん本は一朝一夕でできあがるものではありません。わたしがまだ混沌の中に佇んでいた頃、同じ混沌の中からひとつひとつの世界を紡いでくださった方がたくさんいらっしゃったわけです。
本当にそのことに感謝し、そして、ああ、やはり本の世界はいろんな所に連れてってくれるんだなあと堪能した年でした。
今回はベストテン形式ではなく、おもいつくままに10冊挙げていきました。

 ●「死神の浮力 」 伊坂幸太郎
「ガソリン生活」も2013年の出版だった。そして大好きな「残り全部バケーション」も昨年12月の出版。その3冊の中から「死神の浮力」をあげたい。
「とつぜん、幼い自分の子供を殺され、復讐を考えている」」というとても重たいテーマを、死神とともにかろやかに泳ぎ切った作品だと思う。

●「政と源 」 三浦しをん
三浦しをんさんは「神去なあなあ夜話」「まほろ駅前協奏曲」と合わせて2013年に3冊の出版。
「まほろ」にも行天の過去や思い深く涙したけれど、ここでは「政と源」をあげたい。
ひとりぼっちの高齢者(じじい)二人の話である。人情あり、交流あり、「つまみかんざし」の業界話あり、若者あり。そんな中で浮き立つ二人の人生がとてもいい。
これはドラマで、見てみたいと思う。

●「色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年」 村上春樹
賛否両論耳にしますが、とにかく好きです。オトナになるのに何年も時間をかけて、30すぎてもなかなか自分の「おとしどころ」が見つからない。そんなリアルさがとても自分に近いし。人間の若い頃の「傷ついた魂の行方」をきちんと描いている作品だと思う。

●「いつの日も泉は湧いている」 盛田隆二
「時代が生んだ奇跡の一冊」とツイッターで評した方がいて、ほんとにその通りだなと思う。
現代と、高校生の政治活動の熱気がリンクしている。
あの頃の高校生とその後のオトナの人生がリンクしている。
「茫然自失」とわたしは最初に感想を書いたが、これもまた本音。
「生きて動いている人間の熱気」と、「そこからストンと誰かがいなくなってしまうこと」が同時に、すごくリアルに描かれている。

●「ホテルローヤル 」桜木紫乃
この人の作品はもっともっと読んでみたいと思った。
短編で、冷徹な文章に見えるが、どこかユーモアというか、くずれたところがいい。
個人的には「えっち屋」とかがすごく好きです。

●「想像ラジオ」 いとうせいこう
これもまた、この時代の中に生まれた奇跡。軽く軽く軽く、やわらかく、少し悲しく、それでもだんだん押し寄せてくるものがある。すごい作品だと思う。

●文庫版 「ダンスホール」佐藤正午
「歌のタイトルにちなんだ短編で揃えた」という、ちょっと凝った短編集。
 わたしの大好きな「愛の力を敬え」がいきなり文庫で登場で、声をあげて驚いた。
 作った方の情熱と愛情に感謝。難解な「ダンスホール」も装丁がちがうとまた再読してしまう。

●「テルマエロマエ VI (完結)」 ヤマザキマリ
 個人的なブームでヤマザキマリさんの本をいろいろ読んだ年であったけれど、やはり、大きなブームにきちんと終止符がうたれたことが喜ばしいと思う。
賛否両論あるが、すばらしいラストだと思う。

●「あまちゃんメモリーズ 」 文芸春秋社
2013年は「あま絵」「あまちゃん本」がたくさん出た年でもあった。これもまたファンブックや電子本のマンガにも手を出してしまったが、文藝春秋社のこの本のクォリティと記録の高さはすごかったと思う。





● 追記「11/22/63 」スティーブンキング 、「なぎさ」山本文緒 、 「雨の名前」 窪美澄
読みかけである。この中からリストアップしたいものもあるが、読了していないため断念。
本年度の読書録に続きます。
それでは今年もよろしくお願いします。



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2013年10月09日

三浦しをん 「政と源」 集英社





「まほろ駅前多田便利軒」が若い男たちの話なら「政と源」は年老いた男たちの話である。
え〜〜。何が言いたいかと言うと、「まほろ駅」レベルの期待満々で読んでいただいてぜんぜんオーケーだってことです。

主人公のひとり有田国政は定年後、妻に熟年別居されたさみしい一人暮らし。四角四面で甘え下手でプライド高い紳士。
もうひとりの主人公堀源二郎は家族にとうに先立たれた「つまみ簪職人」。禿頭の横に残った髪を赤や染めてしまうファンキーじじいである。

二人の住むのは江戸川区Y町。水路を舟で行き来しながら交流をあたためる二人であるが、これがまた一筋縄ではいかない短編ばかり。

そこに源二郎の弟子の徹平や、徹平の彼女のマミちゃん(髪を染めた張本人)、国政の妻、などを交えた人間模様が描かれているのだけど、三浦しをんさんのリアリティ、心の奥底まで見てきたような「はっきりとした描写」には本当に驚かされる。

戦災にあうということ。
ひとりぼっちで年を取るということ。
老齢で家族にさえも疎まれること。

それがどういうことなのか、ひとつひとつ身につまされ、そして、わたしたちは、また、ひとつひとつに救いを見出すことができる、これはそういう物語である。

いずれ年を取ることをおそれ、そこに何の希望も見いだせないならば、こういうふうに生きてみるのもいいかもしれない。
不自由、不都合もどんどん増えてくる世界でも、なんか、楽しそうではないか!わたしの老後!
と思える作品であります。

これ。映画よりか、テンポよくドラマで見てみたいですね。
キャストは誰? なんて考えるとほんとわくわくします。

あと、本編の挿絵のマンガも素晴らしい! これはどなたの作品でしょう?


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2013年06月10日

「神去なあなあ夜話 」 三浦しをん 徳間書店



三浦しをんさんの小説の「ベスト3」を挙げるとすれば、この作品は残念ながら自分の中では選外。
(こういうのはシュミの問題で、どうしたって「まほろ駅前多田便利軒」とか「仏果を得ず」とか、そういう所に行ってしまうものです)。

三浦しをんさんの小説の「幸せになれる小説ベスト3」を挙げるとすれば、この小説はかなり上位。わたしの中ではそんな小説です。

「神去なあなあ日常」の 続編。
横浜の高卒無職の勇気くんが、ひょんなことから林業の村「神去(かむさり)」に住んで仕事をさせられることになり、そこでの人間関係が、小さな事件や恋をおりまぜて語られていく。
自然の厳しさ、そして自然に対するおそれ、小さな村の人間関係。
と、ここまで書くと「それはノリとしては(北の国から)的なものではないのか?」とおもわれるかもしれないけれど、なんていうか、違う。

勇気くんはふつうな感じの若者で、もちろん村は退屈だし、林業は少しは慣れたもののまだまだで、自然に対するおそれもイマイチ。軟派なところだってある。そして、この村で育った子供とも違う。
素直なところもあって、等身大の若者(ゆとり)って感じ。
そういう彼が「伝えるべきものがある場所」や「伝えるべき文化のある人々」の中にいると、こういうふうに感じるのか、と思えるのが楽しい。
代々受け継がれてつながるものの中で人間はいろんなものを獲得していくのだなあと改めて思う。

後半の軸となる直紀さんとの恋の話はほんとうに微笑ましく楽しい。
そして、嫉妬やかけひきを持て余したり、怒ったりしながら...
彼の感じていったことを読んでいくと、ああほんとにいいものを読んだなあという「多幸感」が溢れていく。
そんな感じの小説だった。


「神去なあなあ日常」の映画化のニュースがとびこんできて、勇気くん役をぐぐってみました。
染谷将太さんのブログ
この人かあ.. ああ、なんかぴったりなイメージで嬉しいです!



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2013年04月21日

多崎つくるについて語りたいことのすべて







そろそろ内容について語りたくなってきた。
ネタバレ多し、想像のみの発言多し。ご了承ください。

* まず、惹きつけられたのは、登場人物たちが「生を獲得していく」過程だった。
わたしたちは実は「最初からなにもかも持って」生まれてきたわけではない。
生まれながら持っている人だっているのに。
自己肯定感も、愛する自信もなく、オトナになってしまっている。
つくるがいい例だ。
傷つきながらいろんなものを獲得していくのに、36才という年齢までかかってしまっている。
わたしも友人たちも、多かれ少なかれ、早かれ遅かれ、そういうふうにオトナになってきたものだから。そのことについては共感せずにはいられなかった。

* 沙羅やクロもまた、つくるとは違うものの、最初から持っていなかったものを、獲得して経験値をあげてオトナになっていった女性だと思う。
沙羅の「わたしとつきあうなら、そういう何かに間に入ってほしくない」という宣言は、とてもセックスや愛に対して誠実で美しい。
クロとの再会のシーンも、クロの優しさで満ち溢れている。
この二人の女性の「生の強さ」が物語の中でとても輝いていた。

* アオはどちらかと言えばこの中では正統にオトナになってきた人のように思う。
アオもまた、スタンダードの確固さを体現している。

というようなことを考えながら読んで、次に、この物語のもつ闇のようなものに惹かれていった。

* シロに代表される闇だ。
ただ、シロについては「外側」から描かれる部分が多い分、闇の深さが計り知れないという印象。計り知れない分怖くもあった。

* そこに灰田と緑川がシンクロしていった。
緑川の持っていた「死のトークン」というものは、めぐりめぐってシロに渡っていたのではないか?
ピアノ、あるいは音楽というものが橋渡ししていたのかもしれない。

灰田は父親が手に入れられなかったソレを欲しいと思っていたような気がする。
シロのオーラを受けてもなお、色彩をもたない「田崎つくる」。
つくるが「死のトークン」に近い場所にいたことを灰田は知っている。

奇妙な淫夢のやりとりが、実はこの「トークン」のやりとりなのだと思う。
シロから受け渡されたものが、つくるという「透明な容れ物」を通り、灰田が口で受け止める。
灰田はそのようにして、緑川から脈々とつながるものを手に入れて姿を消した。
シロはそれを渡したのち、輝きを失って、死んだように生きていく。

* アカに対する仲間の感情も奇妙だと思った。
アカの仕事が「なんとなく好きになれない」と遠慮がちに言う。
自分の負の部分をビジネスにしてるだけなのに、ちょっと言い方がびみょう。

浜松でシロを殺したのはアカだと思う。
死ぬ前に一度浜松で再会しているし、彼女の負を、自分ならどう処理するかを彼は知っている。
誰もそのことは知らない、なのに「好きになれない」という言葉で処理できる直感を彼らは持っているような気がした。

もちろん、これは勝手なる推理で、けして正解ではないものもあると思います。
この物語の「生と死」が布の縦糸と横糸のようにからみ合って、複雑に美しい模様ができあがっている。
その模様が自分にとってはそういうふうに見えた、ってことです。


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2012年12月31日

読書総括

镸い一年だった。離職、勉強、そして再び仕事。
めまぐるしく環境も変わって、たくさん勉強して、仕事もまだ新米で覚えることがいっぱいだった。
「もう、机を並べて勉強した日々が何年も昔に思えるね」って言われて、ほんと、そうだな〜、って思った。

あまり本を読んだ印象が残っていない。
現実を追いかけるのにいっぱいのときってそういうものなのかもしれない。
そんな中で心に残った本をいくつか。

* 中脇初枝「きみはいい子」

すごく泣きながら読みました。うまく人を愛せない連鎖の中で、タイトルは著者がなげかけた大切なメッセージのように思えて。
物語の中よりもハードな現実ってたくさんあるんだと思う。その現実にたいして「物語」ができることはすごく少ない。
だけど、ただ記録するだけではない、愛のあふれたメッセージがほどよく見え隠れしていて、ほんとに好きな本でした。

* 伊坂幸太郎「残り全部バケーション」

そして、そんな一年の中で、もう好きで好きで続けて二度読みした本。
これも連作短編というカタチだけど、タイトル作の「残り全部バケーション」が大好き。
「岡田」が大好き! そして、岡田くんのまわりの人が、わたしと同じような思いで彼を見つめてくれているのが嬉しくて。
また、年があけたら、ゆっくり感想書きます。
「夜の国のクーパー」もよかったけれど、ああ、とにかくこの空気が好きで。
今年最後にこの本に出会えてよかったです。

* 盛田隆二「二人静」

文庫化を記念して読み返しています。
読み返しながら、やはりハードな現実を物語が追いかけ、追い越し、あらたな何かを心に置いていってくれるような気持ちになるから、既出だけど、もういっかい。

生きているのは何のため?

仕事をしていて最近、ずっとそのことを考えています。
案外答えはすごくシンプルなことじゃないかと思う。まだその答えは出ていないけれど。
目覚めて誰かに「今日は寒いね」って言って、「そうですね」って帰ってくるとか、そんなことじゃないかな。
そんな他愛ないことでさえも、生きてなければ繋がれない。

あなたがあなたのあかりさんに出会えますように。
誰かに会えるのを楽しみにして、誰かのことを心配して、誰かのために何かをしたいって思えて。
自分自身を卑下することなく、そんな繋がりの現実を生きていけますように。

まだまだ答えはでないし、ずっとずっと出ないかもしれないけれど、生きているかぎり、答えは先延ばしにできるし、少しずつ本当のことに近づいていくんじゃないのかな。
そう思いながら、わたしは来年に続きます。

みなさん、よいお年を。


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2012年10月18日

角田光代「紙の月」 角川春樹事務所

(少しネタバレ注意)




「どうしてこの小説は(紙の月)というタイトルなんだろう?」
そう思いながら、本のカバーイラストを見つめていたら、物語の持っている恐ろしさがじわじわと心に広がっていった。

銀行員の女性が、顧客の書類を偽造して、横領する話。
それまでの心の動きがすごく綿密に描かれている。

すごく綿密に描かれているのに、主人公の最初に感じた「夫への違和感」は、すごく小さくて、彼女の見栄はほんとに些細なものだ。
「恋人によく見られ、ゴージャスなひとときをすごしたい」
主人公の動機をひとことで言うなら、それくらいのシンプルなものなんじゃないか?

要するに、切羽詰まったやり場のないものがあるわけではない。
横領をしなければどうにもならないほどのものでもない。
その夫婦生活でさえも、それほどの閉塞感があるものではない。

「ほんのちょっとの見栄とぜいたく」にしか見えないから、やっかいだ。
やっかいだし、すごくおそろしい。
なぜなら、ほんのちょっとの見栄なんて、このわたしにだってもちろんあるし、そこらの女性は多かれ少なかれみんな持っているからだ。

ということは、わたしだって、あなただって、ちょっと気の利いた小細工さえできれば、これくらいやってしまうのだろうか?
だんだん自分がそういうことをやれそうな気がして、読み進むうちに「自分はうっかりそういう人生を送っているんだ、まさに今」って気分になってしまう。

この小説の恐ろしさはそれだ。

わたしたちは、不幸でなくても、切羽詰まってなくても誰だって犯罪者になれる。
振り返って計算するのがおそろしいくらいの金額を横領することだってできる。
キラキラした欲望はいつだって、手を伸ばせば届きそうなところにあるのに。
ただ、たまたまやってないだけなのだ。

ピンク色の空に光る紙のような月の表紙を見ながら、うすっぺらなくせに、いくつもうすっぺらな紙を重ねられるような人生を思い浮かべた。
これは、もしかしたら、わたしの物語なのかもしれないとさえ思ってしまった。

「早く私を見つけて!」



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2012年07月24日

「きみはいい子」中脇初枝





敬愛する瀧井朝世さんが週刊ブックレビューでこの本を紹介した際に涙目になっていたとネットで知った。
涙目になりながら伝えられる本なんてどんな本なんだろう? という好奇心から読み始めたら、やっぱり泣いてしまった。

かわいそうとか悲しいとかとはちがう。
そういうものをすべて包もうとしている物語だったからだとおもう。

小説の中に市井の人たちが生活している。
モンスターパーレントに翻弄される先生、認知症、発達障害、貧困、虐待。
そのキーワードに押しつぶされそうになりながら、押しつぶされないように市井の一個人として生活している。
そして、ほころびる。
小説を書いている作者が、遠くから、そのほころびに静かに言葉をかけてくれる。
そんな小説だ。

だけど、それだけではない。
泣きそうになってしまうのは、わたしたちが、それが現実だって知っているからだ。
あえて、そのことを直視しているわけでもないくせに、この国にはそういうことがたくさんあって、声をあげる手段もなく、手を貸す手段もないままになっていることを知っているからだ。

小説は現実を救えない。
だけども寄り添う。
だけども描く。
そして、神は手をくださないけれど、それでもこの世界を見守るように。
作者がその現実をあたたかい言葉で見つめている。

そんな感じの小説だと思った。
おもしろかったデス。




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2012年06月17日

映画「彼女について知ることのすべて」


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ずっと若い頃から、わたしの心の中に一人の男が住んでいる。
彼は名前を変えたり職業を変えたり住む場所を変えたり年齢を重ねたりもするが、一貫しておなじ男である。
少し痩せ型で背が高い。ひょろりとして猫背ぎみにも見える。朝食にはりんごを好む。賭け事をすることもあるが身を持ち崩すほどではない。むしろ生活はきちんとしている方だと思う。小学校の教諭をしていたこともある。県庁の職員だったこともあり、小説家をしていた時代もあるし、ときには無職、そしてコールガールを送迎するドライバーをしていた時代もある。
生来の破滅的性格ではない。
なのに、彼は大切なところで一歩を踏み外す。
ほんの小さな一歩を踏み外すだけなのに、彼の人生はそのことによって大きく変わってしまうのだ。
ずっと若い頃から、わたしはそんな彼の人生を見てきた。


先日、映画を見ていて、彼が実像で現れたので、とてもびっくりした。
表情も背格好も言葉の選び方も人生の階段の踏み外し方も、まったく、わたしの中に住んでいる彼そのものだったので、本当に本当にびっくりした。

ああ。彼だ。
長年佐藤正午の小説に慣れ親しんできた人で、そう思ったのはわたしだけではないと思う。

映画「彼女について知ることのすべて」で三浦誠己演じる「鵜川先生」。
一挙一投足があまりにも「彼」そのものだった。
遠沢メイのような女を抱いてしまう男は、どこかを間違えてしまう。
とんでもない方向に行って、とんでもない決断をしてしまう。
ずるい計算ができる女ではない。
ずるくない男とずるくない女なのに、どんどん間違えた方向に行ってしまう。
たったひとつのキスから転がるように抱き合って、「人生への誠実さ」と「自分の心への誠実さ」のバランスが逆転していく。
そして、びっくりするような結末...

わたしは彼のおかげで別の人生を知っていられる。
愛していても誠実でいても、それが実らない人生を知っている。
ひとつ踏み外すことの危うさと、エロスノワールな世界が実は好きな自分を知っている。

いい映画だった。
そして「彼」は実像をまとって、今もわたしの心の中にいる。
わたしはたぶん、彼のような人生は送らないし、彼のような男とはリアルには関わらないと思う。
それでも、こんな男がずっと心のなかに住み続けているのは、けっこう楽しいと思っている。



小説「彼女について知ることのすべて」はこちら



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