2025年11月23日

伊坂幸太郎の備忘録:「さよならジャバウォック」は2度読みしたくなる




 伊坂幸太郎の「さよならジャバウォック」。
 寝落ちしてストリー忘れたり、ちょっと複雑な構成に翻弄されながら、最後には「なんという結末!」とびっくりして「いやいや、もう一回読んでみよう」と思って読み返してみたら、いろんな隠しアイテム的な表現をたくさん見つけてしまい「ああ!ここはこういう意味だったのか!」とか驚きながら、最後は滂沱してしまう作品でした。

 ええ。裏切らない作品です。

> なぜかしら、頭がいろんな気持ちでいっぱい。何が何だかはっきりわか>らない。
> ルイス・キャロルの「鏡の国のアリス」の中でアリスが言う。「ジャバ>ウォックの詩」を読んだあとに、そう感想をもらすのだ。
(さよならジャバウォックより)

 量子はモラハラ体質の夫が暴れるのを抑えられず、はずみで殺してしまう。幼稚園に送った息子も夕刻には帰ってくるのに、どうしいいかわからない。
 そんなタイミングで大学時代のサークル仲間桂凍朗(カツラコゴロウ)が訪問し、夫の死体を手早く始末してくれる。
 なにがなんだか、わからない。
 人に憑依して性格や動作までも邪悪に変えてしまうジャバウォックに夫は取り憑かれていたらしい。

 その後も、ジャバウォックに取り憑かれた人が、さまざまな場所で登場し、絵馬や破魔矢とともに量子もさまざまな体験をしてゆく。
 
 そしてラストに行くほどに「これはネタバレしちゃいけない」と思うことばかりで、このあたりで口をつぐみます。

 日本の童話の中にも、おそろしい鬼が出てきたり、その鬼をやっつけたりと、極端で怖いものがたくさんあるのだが、これはまさにそういう世界。
 ラストもまさにそういう世界。
 
 わたしたちのいる現実世界もまた、ジャバウォックや寓話のような禍々しいものがたくさん存在しているのかもしれない。
 なのに、この禍々しい物語の中に、たまらなくあたたかな気持ちを感じられるのはなぜか。
 
 ああ、ここでは言えないので。
 とにかく読んでほしいなと思う作品であります!



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2025年07月13日

伊坂幸太郎の備忘録「パズルと天気」




「他人のことはパズルだと思うよりも天気だと思った方がいい」
 という伊坂幸太郎らしい「帯の名文」に惹かれて読んでみました。
 とは言うものの、電子書籍は「パズル」「天気」「イブゲンゾーゴ」の3冊の分冊。「竹やぶバーニング」と「透明ポーラーベア」はなかったけれど、これは読んだ覚えがあったのであきらめました。
 
「パズル」・・・書き下ろし作品。マッチングアプリが舞台。
 マッチングアプリで知り合った朝田寧々さんに会えない日が続く僕は「マッチングアプリでしか出会えない探偵・財音杏(ザイオンアン)」にそのことについて相談する。
 なかなか鋭い観察眼で財音杏が謎を解く、という物語。
 最初財音杏が謎解きしたときのわたしの感想は「伊坂幸太郎らしくない結末だな」でした。
 ところがそれは真実ではなく、結末は違ったところで転がっていった!
 「助けるつもりが大迷惑」だったり、「まったく悪気がないのに、とんでもないミスをして」しまったり。「いい人であろうとしても完璧にいい人ではいられない」僕たちに、僕たちらしい結末が訪れる。
 そこに伊坂幸太郎らしい「幸福感」というものがあると思いました。
 それを十分に堪能できる作品でした。



 「Weather」・・・2012 年の作品。天気の話ばかりしている大友さんは、親友の清水さんの過去の女関係が婚約者にバレたらいけないと思っている。
 清水さんは、婚約者に内緒でレストランに出かけたり、怪しい行動が多い。大友さんは、旧知の婚約者に頼まれ、清水さんが浮気していないか調べることとなる。
 ・・・浮気ではなかった。
 そしてここにも、伊坂幸太郎らしい「幸福な結末」がありました。
 嬉しくなって泣きました。

 「イヌゲンゾーゴ」・・・どういう意味のタイトルか最初わからなかったのだけど、大言壮語の「大」が犬に変わっているらしいw
 しかも作者は。「伊坂幸太郎」ではなく「伊坂幸犬郎」とのこと。
 すごいですね。よく考えられたものです。
 犬たちの会話の中を聞くと。「ハチ公」や「桃太郎」「ブレーメンの音楽隊」?いろんな物語に登場していたことがわかる。
 なんだか不思議でいて楽しい物語でした。

 文章の精度や物語としての完成度。
 そういうこともさることながら。わたしが伊坂幸太郎の作品を読むのは「伊坂幸太郎的的多幸感」を味わうため。
 改めてそう思えた作品でした。
 うん、幸せになれた。



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2025年01月26日

伊坂幸太郎の「楽園の楽園」を読んだ


  伊坂幸太郎の新作「楽園の楽園」を読んだ。

 伊坂幸太郎の作品の中で「もっとも美しい本」という。
 その美しさに心奪われ、3人の主人公の言葉、やりとりに軽快さと心地よさを感じ、そしてラストの展開に「え〜〜〜〜っ!」となる! という本。

 主人公の3人(五十九彦、三瑚嬢、蝶八隗:ごじゅうくひこ、さんごじょう、ちょうはっかいと呼びます)が、先生の住む「楽園」の場所を探す旅に出かける。
 3人はあらゆる感染症の免疫を持つ、最強のチームだ。
 五十九彦はスポーツ万能な少年。
 三瑚嬢は、おしゃべりで頭の回転も相当いい感じの少女。
 蝶八隗は、お腹が空く、食べ物関係の情報豊富な大柄な少年。
 実際に3人の姿は、挿絵にとても魅力的に描かれている

 物語の話や外来種のセイタカアワダチソウなどの雑談をしながら、3人は地図にもない、驚くほど美しい光景に出会う。
 楽園というべき圧倒的な存在に、そして、その場所で「先生の声」を見つける。

 そして先生の語るこの先のことは….?

 楽園の描写も先生の語ることも、抽象的でうまく説明できないが、魅力的で納得できる言葉にどんどん引き込まれていく。
 地球のことも自然のことも、筆力で魅せる大きな語りに夢中になってしまう。

 そしてラストは……?

 いや、ここは読んでいただかないとどうしようもないでしょう。

 ほんとに、とても魅力的な挿絵で、引き込まれる不思議な物語でした!
 

 


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2023年12月29日

伊坂幸太郎「Have a nice day!」オール読み物1月号

 実は忙しすぎて活字が読めなかった。
 「物理的に活字を読む時間がない」わけではなく、読んでも活字が頭に入らないのだ。
 「紛争でしたら八田まで」の14巻さえも途中までしか読んでない。やばい、やばすぎる。こんなに活字大好きな人間でさえも、活字が入らなくなってしまうんだ。
 どんなに考えても仕事のしすぎはよくない。
 年末にいくつか懸案が片付いたのでよかったけれど、本当、活字が生活からなくなっていくのは、からだがからっぽになっていくようだった。duolingoくらいしか友達がいなかった。

 そんな状況で「今年のベスト本」など思いつくわけもなく、「そうだよね、好きだった本はそのつど感想を書いているし、リストアップなんてとても無理」と思ってたけれど、活字リハビリのために読んだ伊坂幸太郎の短編が想像以上の勇気と元気を与えてくれたので、これを紹介したいと思います。

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 中学生のエンドウさんとフジサキさん、そして田中先生の物語。
 高校入試に不安があったフジサキさんは「誰にも見られずに三越のライオンに跨がることができると願いが叶う」と、ネットでの情報を入手し、エンドウさんとともに仙台三越のライオン像でチャレンジしてみる。
 そこで見えた幻影。そこから起こる未来の事件。
 過去と未来がライオン像を通じて繋がっていて、もちろん、3人の人生も絶妙に絡み合っていく。

 Have a nice day! って、命令形なのかな? でも「良い日にしろ!」って言われたらちょっとプレッシャーだよね。
 ネズミ講はいやだけど、ネコ講があるならそっちの方がいいなあ、ネコはほら、気ままでのんびりしてるから。

 なんていうエンドウさんとフジサキさんの会話を読むのはとても幸せだったし、意外な事件も起こってくるけれど、あいかわらずの軽やかさで、解決するための心の動きが、わたしにとても気持ちのいいものを送り込んでくれた。
 
 そして、わたしは「ああ、新年になったら三越に行ってなにか買いたいなあ。忙しかったんだもの、いい日になるように素敵な買い物をしたいなあ」と思ったのでした。
 それは梶井基次郎の「檸檬」の読後感とはちょっと違うけれど、少し似ているかも。

 いろいろの対応で「仕事おさめ」というゴールポストが思ったよりも後ろに下がってしまったけれど、なんとか、それでも今年が終わります。
 
 「野生時代」で佐藤正午せんせいの「熟柿」も読んだけれど、これは、連載ものなので、感想はのちほど。

 それでは。
  Have a nice day!



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2023年10月07日

伊坂幸太郎「777(トリプルセブン)」後半に少しネタバレあり

777 トリプルセブン (角川書店単行本) - 伊坂 幸太郎
777 トリプルセブン (角川書店単行本) - 伊坂 幸太郎

先週の土曜日に新聞広告を見つけ、そのままkindleにダウンロードした。それからちょうど1週間。
「読むのがもったいない、もったいない」と、前のエピソードを遡りながら読んでいたのだが、結局は2回読んでしまった。
感想はひとことで言うと「おもしろい!」でした。

2010年発刊のマリアビートル(2022年 Bullet Train としてブラッドピットの主演で映画化)の続編という位置づけでいいのかもしれない。

「マリアビートルの生き残り(E2の生き残りとここでは言われる)である「運の悪い殺し屋」七尾が、「ホテルの顧客に誕生日の絵を届ける」という簡単な依頼を受けたことから物語は始まる。
些細なボタンの掛け違えが起こり七尾(天道虫)はまたも事件に巻き込まれる。
一方「神野結花」は記憶力の良さゆえに利用されていたが、身の危険を感じて「乾」のもとを離れる。
そこに、逃すための「業者」、捕まえるための「業者」、関わりがないはずなのに事件に巻き込まれる「マクラ」「モウフ」「七尾」までが入り乱れて、もう、わけがわからないほどの死体が、ホテル「ウィントンパレス」に転がってゆく。

憎めない「業者」もいるし、本当に「残忍な血の通ってない業者」もいる。
殺し屋周辺業界もいろいろで大変だなあと思うが、作者ならではの「血の通った描写」におもわずリアリティを感じてしまったり。

ラストは大どんでん返しで、もうびっくり!
もう、ここは、ネタバレできないので、ほんと、読んでみて、楽しんで驚いてくすりとしてほしいです。

大事なことなので繰り返します。「めっちゃおもしろいよ!」




ネタバレ的おまけ(登場人物と登場したホテルの部屋の号数)
* 登場人物が多いので一部メモしていますが、特徴や人物像は書き残していません。ご参照ください。

2016号 真莉亜の友人の男の部屋
2010号 高良の部屋
1914号 神野結花の部屋 ココもここにいる
1720号 蓬実篤と佐藤の部屋
1121号 爽田の部屋(のちに神野結花と七尾が合流)
525号 神野結花の2番目の部屋
405号 金髪の男(正直この人が誰なのかわかりません、誰か教えて!)
3階  宴会場
2階  レストラン
1階  ロビー






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2021年11月21日

「ペッパーズゴースト」伊坂幸太郎は、ゴーストだらけ?




公式サイトはこちらです。
伊坂幸太郎「ペッパーズゴースト」公式サイト

* ペッパーズ・ゴースト(英語:Pepper's ghost)は、劇場などで使用される視覚トリックである。板ガラスと特殊な照明技術により、実像と板ガラスに写った「幽霊」を重ねて見せることで、効果を発揮する(ウィキペディアより)。

伊坂幸太郎の作家生活20周年記念作品とのこと。
おもしろくないわけがありません。
キャラの濃いネコジゴハンターの二人組や成美彪子(なるみひょうこ)に引っ張られながら、ぐいぐいと物語を楽しんでいきました。

それでもわたしには、このストリー全体が「実像でないペッパーズゴースト」で、本当のストリーが見えないところで動いているように思えてしかたありませんでした。

それで3回読んで、自分で想像して組み立てた部分もあったけれど、最後まで疑問に思っていることもあって。

裏で動いている物語は、案外読者ひとりひとりの頭の中だけのお楽しみ!なのかもしれません。



あらすじ

中学校の先生をしている檀千郷(だんちさと)には「他人の飛沫で」未来のハイライトシーンを見る能力があります。

その能力で、生徒の里美大地と祖母が「事故にあう可能性」を伝え、事なきを得る。

それに疑問を持ったのは、大地の父親である里美八賢(さとみはっけん)でした。

内閣府に勤める里美八賢は、檀千里をテロ犯人と疑う反面、その能力にも頼ります。

彼が関わっている「サロン」(カフェダイヤモンド事件の被害者の会)は、テロリストに犠牲になった家族を持つ会で、お互いを慰め合う反面「復讐の方向」へ向かう者もいるちょっと複雑な団体。
そうしてここから事件があらたなテロ事件がはじまります。

同時進行で登場するネコジゴハンターの「アメショー」と「ロシアンブルー」の二人のコンビがまた、素敵なキャラクターです。

この二人はyoutubeでネコを虐待した者やそれを煽った者を成敗するコンビ。

いきなり小説の中から飛び出した二人組!ですが、この伏線にも唸りました。
そしてもちろん、この二人組も物語りに深く絡んできます。

こうして書いてみると、登場人物も多いですね!
本当にいろんなことが起こるのですが、そこは伊坂幸太郎の筆致で軽やかなテンポで、楽しく読める作品であります。



ネタバレだけど書きたいこと

ネタバレだけど、書きたいことを書きます。

そもそも里美八賢がカフェ・ダイヤモンド事件の遺族の会にいたのは、偶然ではないと思います。

八賢は「恩師をこの事件でなくし」「たまたまかかりつけ医が事件の遺族夫婦であったこと」から、この会に関わることになります。
いや、偶然じゃないですよね? その後、美術館で一般人を巻き込んだテロ事件が起こり、警察関係の「ピラミッドのとっぺんあたりにいた人」がいきなり家族を失ってしまう。
彼はけしてこのことを公表せずに、テロの撲滅に尽力している。

この「名前の出てこない、とっぺんあたりの人」。
かなり裏で動いてますよね?

そしてネコジゴハンターの二人組は?

やはりこの「名前の出てこない、とっぺんあたりの人」と関わっているのかな?
どうなんでしょう?

この二人組を雇ったのは「偶然にも大金を手に入れた愛猫家」とのこと。
ここにはまったく繋がりはないんでしょうか?

ラストの見せ場「クリニック立てこもり事件」。
ここで本当に自爆テロが起きたのか? 本当は起きてないのか? これもまた謎といえば謎だと思います。
八賢と「名前の出てこない、とっぺんあたりの人」はここに関わっていいないのでしょうか?

いやはや。
頭の中の妄想物語が多すぎます。
いつか文庫化のおりには、少し書き足していただけると助かります。


そして、こんなところにあの人が!




成美彪子(なるみひょうこ)がサークルのメンバーの紹介をしているくだりで、意外な人物の名前をみつけました。
(以下引用)

*四人とは、そうです、野口さん、哲夫さん、沙央莉さん、それから将五さん、あの時飛び出していった四人です。野口さん意外はみんな苗字が同じで ー全国でもかなり多い苗字でしたから、驚くほどの偶然ではありませんがー だからわたしたちは下の名前で呼んでいました。

3人が同じ苗字なんですね。多い苗字といえば、鈴木さん、田中さん、佐藤さん。
佐藤さん? え! 佐藤将五さん!!!
佐藤正午ファンのわたしがこんな隠れキャラを見逃すわけがありません!!!
ああ、幸せでした。

わかりやすく楽しめる小説ももちろん好きですが、こんな謎だらけ小説も大好きです。
いつか、どなたかわたしと「いや、自分はこういうふうに思っているよ!」的なネタバレ戦を挑んでいただければ、幸せだろうなと思っています。


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2020年07月12日

伊坂幸太郎の備忘録 「逆ソクラテス」




少年たちよ少女たちよ。くさるな、絶望するな。未来は、ここではないどこかに繋がっている。魔法の呪文を教えるから、その呪文を唱えて、ここより先まで生き延びろ。

こんな気持ちになって、読む前よりも無敵になれた! この本はそんな短編集です。

逆ソクラテス:先入観でしか人を見ない教師久留米の中で、「ダメ」の落胤を押されている草壁くんの話。「ぼくはそうは思わない」。

スロウではない:転校生高城かれんといじめられっ子の村田花の話。語ってくれるのは病床の磯憲先生。

非オプティマス:久保先生に嫌がらせする騎士人くん。そして福生くん。暗い久保先生、再生してゆく。

アンスポーツマンライク:磯憲のコーチするバスケットチームの面々。怒鳴らないコーチと自由に育ったメンバー。そして刃物を持った不審人物。

逆ワシントン:正直に告白したばかりにひどい目にあってしまうドローン少年と、その仲間たち。そして、ラストに登場する店員は、あのときのあの人。

子供時代が苦しかったのは、もしかしたら「子供だったから、より強い人に押さえつけられてたから」かもしれない。
けれど大人になって、もう一度自分より弱い人に同じことをするなら意味がないよね。
わたしが大人になったみたいに、みんな大人になれている。
生き延びるための呪文をつぶやきながら、その先にある別の世界でちゃんと生きている。

読みながらそれを確かめられて本当に幸せな本でした。
ネタバレしないように用心して語りましたが、ようするに傑作です!


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2019年08月25日

伊坂幸太郎の備忘録「クジラアタマの王様」とエトセトラ

「クジラアタマの王様」




第一印象は「マンガみたいでとてもおもしろかった」です。
意味とか考えずに楽しめる。マンガ的な挿絵もあるし。たぶん、コミックで読んでも違和感ないと思う。

お菓子メーカーの宣伝部に勤務する岸くん。政治家の池野内議員。タレントの小沢ヒジリ。この3人は現実世界では繋がりがないのに「夢の中」では繋がっている。偶然は重なり現実世界でも3人は知り合い、共通の敵を乗り越えてゆく。火事だったりクレーム問題だったり理不尽な会社組織だったりキャンプ場のクマだったり、パンデミック寸前の新型インフルエンザだったり、そういうヤツ。

登場人物はアクが強かったり憎めないキャラだったり。ときには痛快に敵をやっつけ、ときには窮地に追い込まれる。ほんとマンガみたいです。

夢を「ネットやゲーム」みたいなものに置き換えるとわかりやすいのかも。(おかしの異物混入)や(新型インフルエンザ)や(謝罪を求める群衆)とか。やっかいな問題が次々に襲ってくる。

そういったものに立ち向かうわけだけど、(正義)とはちょっとちがう。
なんていうかもっと「個人的な正しい気持ち」という感じのもの。
その「個人的な正しい気持ち」が、やっぱりいいなあとずっと思っていて、それが伊坂幸太郎をいくらでも読み続けられる理由なのかもしれません。
いや。
あまり読み解きすぎるのもよくない。純粋にマンガみたいに楽しみたい作品です。

追記「きらら9月号」の伊坂幸太郎氏のインタビュー

小学館きららのサイトはこちら

ご本人が作品について語ってくださるのは嬉しいですね。「クジラアタマの王様」の解説で「モンスターハンター」という言葉が出てきて笑いました。読後に読んでほしいインタビューですが、見出しの一行だけ紹介させてください。「根底では、真面目な人に報われてほしいと思っています」。伊坂文学の(正義的なもの)って、この言葉につきると思います。

おまけ、アイネクライネナハトムジークの後編が発売になりました。



こんな複雑な話をコミカライズなんて不可能じゃないかと思ったけれどもすごいことになってます。
「絶対無理でしょうけれど、いくえみ綾さんが漫画にしてくれるんでしたら、幸せですよね」という伊坂幸太郎自身の言葉から動き出したプロジェクト(作者あとがきより)だそうです。
上巻の感想に「原作も読んでみたくなりました」というものが多く嬉しくなっちゃいました。
伊坂幸太郎の中でもとくに好きな一冊の本として大事にしていたものが、コミックになり映画になり、いろんな媒体に広がっていくのはとても嬉しいこと。どんな映画になるのか今から楽しみです。

映画『アイネクライネナハトムジーク』公式サイト主演:三浦春馬/原作:伊坂幸太郎/監督:今泉力哉、映画『アイネクライネナハトムジーク』9月20日(金)全国ロードショー


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2019年06月23日

伊坂幸太郎の備忘録 「シーソーモンスター」







伊坂幸太郎の作品を読むたびに「伊坂幸太郎の備忘録」なるものをブログに書いてきた。
理由はシンプル。作品数が多いので「どんな内容だったのか」「どんな印象だったのか」自分であやふやになった時に確認するだ。

そういうわけで今回は「シーソーモンスター」の備忘録。

伊坂幸太郎の備忘録


「シーソーモンスター」:

本書には「シーソーモンスター」と「スピンモンスター」の2編が収録。
最初はまったく「繋がりのない作品」と思って読んでたけれど「え!こんなところで繋がってたの? え〜! そうだったんだ」とびっくり! 伊坂幸太郎ならではの「リンクの妙」を味わえる作品でした。

「シーソーモンスター」は昭和〜平成の嫁姑問題の話。
綿貫さんの妻、宮子さんは、未亡人の姑と同居するものの、暮らしていくうちに「姑は徹底的に合わない人間」だと感じる。ちなみに綿貫宮子さんは(元)女性情報員。
製薬会社に勤める綿貫(夫)さんが、取引先の病院の深刻かつ危ないトラブルに巻き込まれたり、不思議な保険外交員が来たりと、短い中に事件はてんこもり、そして意外な結末が用意されている。

嫁姑という立場以前に絶対に合わない2人。その2人がかなりハードな事件に巻き込まれるうちに「合わないものの、なんとなくの距離感」を持って居続ける感覚が、ふふふと微笑ましい作品でした。

「スピンモンスター」:

そして「スピンモンスター」。こちらは未来の設定。主人公水戸直正の職業は「配達人」。デジタルではないものを直接配達する職業。

人工知能「ウェレカセリ」の暴走と、それに関わる人々の話。もう、次から次に事件が起こって何がなんだかわからなくなってしまって、え? ここでこうなの!的なものにびっくり!
なんて言ってもわかりませんよね。すみません。中途半端にネタバレするよりか、この疾走感と回転とストリー性を感じて楽しんでみてください、という他ありません。

ええ、個人的にはかなり素敵なラストでした。好きです。

螺旋プロジェクト「海族」「山族」:

ふたつの作品には「徹底的に合わない2人の人間」が登場します。「海族」「山族」です。

作品の中に登場する保険外交員「石黒市夫」がこう言います。
「どうしても対立せずにはいられない相性があるんです。海の血を引く人間は、山の血を引く人間と出会ってはいけません。否応なく、ぶつかりあうことになるんですから。けっしてわかりあえません」

このセリフを聞いて誰かを思い浮かべる。それは私だけではないはず。

しかしそれでも、せまい国のせまい社会の中で「けっして関わらない」で生きることはできません。
その「距離感」や「答え」はそれぞれだけど、物語を通して出し合う叡智が、この螺旋プロジェクトなのかもしれません。

螺旋プロジェクト。様々な時代設定で、いろんな作家さんが描いています。
こちらをご参照ください。

螺旋プロジェクト






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2018年11月23日

「フーガはユーガ」伊坂幸太郎 実業之日本社



フーガはユーガ
フーガはユーガ


「伊坂・新刊・サイクル」みたいなものが身についている。
「そろそろだ」「そろそろ出るはず」とソワソワしだすと大体ころあいよく発売だ。
今回は、少々いつものサイクルよりも長かった。だから(すごい長編が出るのかも)と思っていた。
だが1年ぶりの新作は(すごい長編)ではなかった。そのかわり(ものすごい作品)だった!

風我(フーガ)と優我(ユーガ)は双子の兄弟。あまり幸せではない。父親がしょっちゅう暴力をふるうからだ。母親もかばうこともできず、二人は父親にひどい目に合わせられないように気をつけながら生活する。
ふたりは瞬間移動ができる。お互いを入れ替わることができるのだ。誕生日の日限定だけど。
そんなふたりの中学時代やもっと大きくなってからの出来事が描かれているのだけど、そんなに爽快な人生でもなく、不愉快なこともそれなりに起こる人生だ。
もちろん神様のように「幸せと不幸せの総量」を俯瞰して描くことなんてできないけれど、「こんなもんかな」「そう、こんな感じで確かな不幸ってあるよね」くらいの割合で不幸な出来事も起こって、そして、風我も優我も「重たくなったり軽やかになったりしながら」それを乗り越えてゆく。
変わらないことは「くさらないこと」だ。「なんとかしたい」って思うことだ。「伊坂幸太郎の見えざる手」は、自然自然とそういう方向に向いていく。「見えざる手」としか言いようのないものが連れていってくれる場所。その場所の感じがわたしはたまらなく好きなのだと思う。

結末は喋りたくない。

だけどもすごく泣いた。号泣した。もう、なにかわからずに声をあげて泣いて、自分でもびっくりだった。
悲しかったからではない。なんというか、こんなことが!というか、すごいものを見せられてしまったというか、呆然というか。
あれは何だったんだろう?
自分の予想を超えるものを見せると、あんなふうになってしまうんだろうか?


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2017年10月11日

「AX」伊坂幸太郎 KADOKAWA (恐妻家小説)







「AX 」かなりおもしろかった!
とぎれとぎれに読んでしまって、じっくり「仕掛け」をチェックしていないけれど、けっこうな伏線の絡みもあり、殺し屋シリーズの中でもハードボイルドと「とほほな感じ」の絡み具合がとてもよかった。

*  *  *

ひとことで言うと「恐妻家小説」である。
介護小説も不倫小説もあるくらいだから「恐妻家小説」があったってまったくもって異論はない。そもそも「枠にはまりきれない多種多様の者たち」の数だけ小説はあるのだから。

殺し屋である「兜」はひとり息子「克己」と妻の3人暮らしだ。
表向きは「文具メーカーの営業」をしている兜は、妻になにひとつ口答えしない恐妻家。夜中に妻を起こさないためにも「音を出さずに食べられるもの」を追求するくらいの恐妻家である(笑)。
兜は依頼者である「医師」に殺人の仕事を請け負ったり、身近なところで事件に巻き込まれたりするのだが、それを通じて「兜」という人物が少しずつ透けてみえてくる。
「何も感じないでやれたこと」が、ひとつひとつの感情を獲得することによってほころんでいくまでの道筋。友情や愛情、共感、そんなものを獲得していくまでのユーモラスであたたかみのある道筋。
そして、そこにある「妻」の存在。
恐妻家小説の金字塔と言ってもいいと思う。

というような感想を述べる事自体が不毛なのではないかと思うくらいに、後半の展開の「ダイブ感」がすごい。

え? ええ? の連続である。

それは、自分の目でたしかめてほしい。言ったら「ネタバレ」ですごく恨まれると思うから、口をつぐむ。

いい小説でした。さいご、泣きました。


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2016年06月22日

伊坂幸太郎の備忘録「サブマリン」講談社

母が骨折して入院した。
救急車で運ばれたものだから、荷物もなにもない状態で病院のベッドでの生活がはじまった。
夜にわたしが家に帰ろうとすると、母が言う。
「のゆき、なんでもいいからベッドで読める本を持ってきて」
持っていたバックパックを開くと、文庫を含め三冊の本が出てきた。
ちょうど読み終えていたのは伊坂幸太郎の「サブマリン」。
「これでいい?」と聞くと、「それがいい」という。

その後、手術の痛みに耐えたり、リハビリにいそしんだりしているが、遅々として本のページは進まない。
わたしは「伊坂幸太郎の備忘録」を書くまでは誰にも貸さないというスタンスなのだが、今回それが破られてしまった。

というわけで、今回はじめて、本が手元にないままで「伊坂幸太郎の備忘録」を書いているわけですが、これ以上あいだをあけると、もっと忘れてしまいそうなのでご容赦ください。

サブマリン -
サブマリン -




「家裁調査官」陣内さんと、武藤のふたり組が、「チルドレン」から12年ぶりに登場。
12年たって変わったこと。未成年の無免許運転殺人、ひきこもりのハッカー、なんだか事件の殺伐度がレベルアップしたような気がする。
変わってないこと。相変わらずの陣内さん!

大きく分けて、ふたつの事件に関することが描かれているのだけど、思いのほか、登場人物も多くて、ちょっと複雑な人間関係。でもその分、小ネタのステキなエピドードもたくさん用意されている。

個人的に好きなキャラクターは若林青年。
「ひとつの事件に関わる」ことの意味を体現している人。
「人を殺してしまった青年」という事実は、新聞の字面のようにひとり歩きしてゆくけれど、ほんとうの若林青年を見ると、なんだかほっとする。
世の中にはけっこうこういう人も多いんじゃないだろうか?
きっといるにちがいない。

「サブマリン」の中には、こういう「ほっとする部分を持ってる人」がいっぱい登場する。
きっと、現実世界にもこういう人はいっぱいいるはず。
この本は、そう思わせてくれる作品。


*  *  *

そうして、体力的にも回復してきた母は、テーブルに置いてゆっくり本を読む集中力も取り戻していった。
しおりはもう、半分を超えた場所をさしている。

「のゆき、この本は読んでいるとけっこうおもしろいよ!」

わかってるよ、そんなことは。
でも、こうやってファンが増えてゆくのもまた嬉しいものだ。

*  *  *

もうひとつ追記

「あ、この本...」
病院の回診の先生が指差したのだそう。
「読んでみたいな、と思って、でも、まだ買ってないんですよね」

案外一冊の本がいろんな話題を作ってゆくものです。




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posted by noyuki at 15:13| 福岡 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 伊坂幸太郎の備忘録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年11月15日

伊坂幸太郎の備忘録  「陽気なギャングは三つ数えろ」  NON NOVEL




「陽気なギャング」シリーズ9年めの第3作
4人組のギャングが、事件に巻き込まれていく話。

今回はゴシップライターの火尻と、その火尻の追うターゲットのアイドル歌手「宝島沙耶」が登場。
簡略するとそうなのだけど、他にも芋づる式にいろんな関係の人がずるずると登場し、軽やかな文体の中にけっこう複雑な関係が隠されているのが醍醐味。

火尻はわかりやすい悪役。
いかにもどこにもいそうな自分中心の身勝手な男として、わかりやすく軽やかに描かれている。

そして、雪子の子供の慎一はいつのまにか大学生。
あれ? もっと小さくて、響野の喫茶店でギャングたちに遊んでもらってた記憶があるんだけど、と前作を見てみたら、あの頃は中学生でした。

9年もたつと監視カメラが増えたり、機器が進化したり、状況も変わっているけど、4人のギャングたちはあいかわらず軽口ばかりで、好き勝手に生きている。

子供は成長する。悪ははびこる。世の中にはひどいこともある。そして、みんな年をとる。
だからといって、何をすればいいというのだろう?

かわりなく軽口を言い合って、かわりなく銀行強盗して、かわりなくいろんなことに巻き込まれて。
それでもかわらない、自由なギャングたちを見ると、なんだか嬉しくなってしまった。
そうだよね。それで、いいんだよね。


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2015年08月19日

「ジャイロスコープ」 新潮社文庫 伊坂幸太郎





正直「文庫で発売のオリジナル短篇集」って、ああ、あまりおもしろくないのかな?と思ってた。あまり売れる算段がないから文庫なのかな?とも(失礼!)
いえいえ。ほんとに満足! 作品も構成もラストの「十五年を振り返って」インタビューも、作品と作者に対する愛にあふれた丁寧な作りだと思う。

最近の伊坂幸太郎の描く分野は実に幅広く、好みのものも、ちょっと避けたいグロいものも、実験的に見えるものもある。そういうのが全て入った、本当にいろとりどりな一冊。
そして、その「色とりどり」がひとまとめにきれいな瓶に入っている印象。

というと、ピンとくる方もいらっしゃるかも。
そして「ジャイロスコープ」というタイトルの由来も。



以下。ネタバレを含めた簡単な感想です。

* 「浜田青年ホントスカ」 一本目からガツンと楽しい短編。「相談屋さん」の話。いや、浜田岳さんに演じてほしい、浜田青年です。

* 「ギア」 セミンゴという謎の物体の不思議な話。

* 「二月下旬から3月上旬」坂本ジョンの話。意外な仕掛けにびっくり!

* 「if」個人的にはこのお話がいちばん好み。伊坂幸太郎らしい、人間の誠実さがよく出ている。

* 「ひとりでは無理がある」サンタクロースの話。これもまた好み。こうして、どれが好きだったか書いていくと、自分が伊坂幸太郎の「どんなところが好き」なのかよくわかります。

* 「彗星さんたち」新幹線の清掃業務をする方々の話。これもまた、不思議な...

*「うしろの声がうるさい」オールスターズ!(謎)

これにインタビュー形式の作品解説がついてて、ほんとに豪華な一冊でした。



新潮社は、伊坂幸太郎のデビュー15周年で文庫が三ヶ月連続刊行

9月下旬スタート。Amazonプライムビデオで人気の映画、TV番組やアニメが見放題!



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2015年05月04日

伊坂幸太郎の備忘録 「火星に住むつもりかい?」光文社

火星に住むつもりかい? -
火星に住むつもりかい? -


小説好きなくせに、残酷なシーンや騙し騙されのストリーが苦手で、そんなものにはなるべく手を出さないようにしてきた。

だから、正直第一章からげんなり。
日本に平和警察なるものができて、怪しい人物をどんどん拷問して殺しちゃう話ばっかなんだもん。
冤罪も騙し合いもあり。そして、それを邪魔する「不思議な武器を持った男」もでてくる。
ああ、前評判には聞いてたけど、やっぱ手ださなきゃよかったって、うん、後悔もしました。

誰かやってきて、スパッと解決しちゃってよ、と思っても、次々にえげつない人ばかりが出てくるし。

そんなげんなりの中で、正義は小さくて綿密だ。
少しずつ、数人の人の小さな正義は形になって、世の中は変わっていきそうな気持ちにさせてくれる。
そもそも正義ってそんなもんなのかもしれない。
無敵の誰かが、跡形もないほど破壊するものではなくて、小さな良心が少しずつ繋がっていくみたいな。

正義の味方は予想とはかけ離れた人物だったし、大きな組織の中にも改革を望む人はいた。
「武器」は荒唐無稽だと思ったが、最後の最後までいい仕事をしてくれた。
げんなりばかりじゃなく、これから歩くべき方向も確かにあった。

ネタバレかもしれないけれど、気に入ったフレーズをひとつだけ。

「振り子が行ったり来たりするように、いつだって前の時代の反動が起きて、あっちへ行ったりこっちへ来たりを繰り返すだけだよ。
(中略)
どうすることもできないよ。振り子の揺れを真ん中で止めることはできないからね。大事なのは行ったり来たりのバランスだよ。偏ってきたら、別方向に戻さないといけない。正しさなんてものはどこにもない。スピードが出過ぎたらブレーキをかける。少し緩めてやる。その程度だ」

その程度のことを実行するために、これだけたくさんのうんざりが起こるんだよ。
それでもわたしたちは、振り子を逆方向に戻すことを、胸の中に灯すんだよね。

今更ながらに「物語と現実は地続きだ」と実感している。
震災のあと「想像ラジオ」という小説が登場したように。
今の時代に「火星に住むつもりかい」という小説があるように。
そして田中慎弥の「宰相A」という小説もうんざりしながら今読んでる。

ああ、うんざりだ。こんなうんざりなんて、できれば見ないで過ごしたい。
なんて思ってると、「火星にでも住むつもりかい?」って言われてしまいそうだけどね。



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2015年02月22日

「アイネクライネナハトムジーク」伊坂幸太郎 幻冬舎

アイネクライネナハトムジーク -
アイネクライネナハトムジーク -

昨年の10月くらいに読んでたのだけど、「鳩」にかかりっきりで、備忘録もなにも書いてなかった。6つの短編からなる、これはとても幸せな短篇集。

「アイネクライネ 」 ご存知斉藤和義の「ベリーベリーストロング」の原型となる物語。とはいえ、ラストは予想外の微笑ましさにあたたかい気持になる。

「ライトヘビー」 そのベリーベリーストロングのシングル曲の付録として描かれた物語(一生懸命探したけれど、当時は入手できなかった)。アイネクライネで脇役だったボクサー「ウィンストン小野」が主人公。おかしみのある話。

「ドクメンタ」 アイネクライネでパソコンを蹴飛ばしてデータを消した藤間さんの話。

「ルックスライク」 アイネクライネで主人公の友人夫婦だった織田夫妻の子供が登場。

「メイクアップ」 昔のいじめっ子に仕事で再会する話。

「ナハトムジーク」 さて。いろんな短編に少しずつ関係のある人々が出てきて、ジリジリしてたのが、ここにきて、みんなが繋がってくる。時間を行きつ戻りつしながら、ボクサー「ウィンストン小野」の試合を時間軸の横糸に勢ぞろいしてくる。日本人の素朴なボクサーをただ応援するのに、個々の人生の来し方行く末が集結してる感じがすごくおもしろかった。

気がつけばまた、登場人物の関係をメモしながら読んでました。

そういうと、仕掛がおもしろいだけじゃないか、と思われそうですが、伊坂幸太郎の描く人間のシンプルさ正直さおかしさが目一杯に生きていて、しかも短い物語がとても気持ちよく完結をしていて、この気持ちよさが伊坂幸太郎なのだ、と改めて思った作品でした。

追記。 本屋大賞の候補に選ばれたとのこと。おめでとうございます。派手ではない小品揃いで、非常に上質な文章を味わえる点では、こういうのが選ばれてもいいなとも思います。

追記その2。小説での「ウィンストン小野」の試合の結末は、去年のソフトバンクの優勝戦を思い出させました。読んだのと、観たのとほぼ同時期。ちょっとしたシンクロニシティ。


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2014年04月06日

首折り男のための協奏曲   伊坂幸太郎 新潮社(2014/1/31)


7つの作品からなる短編集。

まずは「首折り男」が登場して、「首折り男に似た男」が出てくる。
おなじみの探偵の「黒澤」も登場。「小説家」も登場して、また「首折り男」が登場する。
そういうふうにして7つの短編が協奏曲のように繋がっている。

7つの短編はびみょうに繋がっていたり、「時空のねじれ」がおこっていたり、実験的だったり、描かれてない部分や時系列を頭の中で整理する必要があったり、少々時間を要する短編集ではあるのだが、その構成がさすがな「協奏曲」だった!
最後まで読んでうなりました。

「行間」を読むという言葉がある。
小説には、気持ちも心も行動もすべてを書き込むことなどできない。
だから読者は「行のあいだ」に、描かれていること以上のものを読み取るのだ。
ならば、いっそ読者の想像に任せる度合いをぐっと高めるのも「あり」なのではないか?
幸いにもわたしたちは、そのことについてネットに書いたり議論したりする自由も持ち合わせているし。どれだけでも可能性を広げられるのだ。

実際伊坂幸太郎さんに関しては、検索すればいくつもの素晴らしき読み解きページを見ることができるわけで。
ここでは、短編ゆえにあまり書くとネタバレしてしまうので、最低限の感想だけにとどめておきたいと思います。


◎   個人的には首折り男のキャラクターにはつよく惹かれ、長編の脇役としてでもまた登場してほしいなあと思う。(タイトルでわかるように、この短篇集だけでも、「首折り男」のことはよくわかるのですが)

◎  ラストに収録された「合コンの話」はステキすぎてステキすぎて、読後の多幸感がハンパなかった。

◎「合コンの話」 好きな箇所はティラミスを食べながらの会話のあたり。
 佐藤亘を映画で演じるなら、やっぱりぜったい濱田岳!

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2013年09月11日

伊坂幸太郎の備忘録 「死神の浮力」伊坂幸太郎 文藝春秋社







「死神の精度」の感想はこちら。
http://noyuki.seesaa.net/article/104800363.html


娘を殺された夫婦は復讐を望んでいる。
犯人はサイコパスと呼ばれる類の精神の持ち主であり、娘を殺しただけでなく、夫妻が心底絶望することを望んでいる。
そしてその復讐劇のさなかに死神の千葉がいる。
千葉は正義の味方ではない。だがしかし、敵でもない。ちょっととぼけた不思議な仲間という感じ?

前作をお読みの方は死神「千葉」のスタンスをご存知だと思う。
ストリーの巧妙さを楽しませてくれる前作に比べ、本作「死神の浮力」はボリュームもあり、なによりも内容がヘビー。
まっすぐにまっすぐに「死への恐怖、家族が死ぬことの恐怖」を扱っている。

だがしかし!
とぼけてほのぼのと面白いのである。

例えばこんなエピソードが出てくる。

「ただの扇子と見せかけて、ひょいと抜くと懐剣が出てくるものがあるんだ」と、福沢諭吉が誰かに教えられる。すると福沢諭吉は「そんなものはつまらない」と言う。
「剣と見せかけて、そこから扇子が出てくる方がいい」と福沢諭吉は言う。
「剣が出てくるだなんて、殺伐とした時代にわざわざ殺伐としたことをしてどうする」と。

この本は終始、剣とみせかけて扇子が出てくるようなおかしさを意識して描かれていると思う。

人間自身の存在のわからなさの根源である「死」。
それは、ふっと目をこらせば必ず見えてくる、深くて暗い淵のようである。
だから、文学はそこを避けて通れなくなってしまう。

でも、どうせなら、剣とみせかけた「扇子」のように見せたいものだという作者の心意気が、いろんなものから救ってくれる。
こんなに重たくて、こんなに悲しくて、わたしは読書中に、なくなった末期がんの知人のことを夜中に思い出して号泣してしまったというのに。
それでも、色とりどりの扇子が飛び出してきて、剣だけでは描ききれない、「死者を思い、悲しみの中に生きるということ」がリアルに描かれている作品だと思う。

そして、わたしは。
自分の死期を悟る日がきたら、もう一度、この作品を読んでみたいと思っています。

あ、最後にもうひとつ。「死神の浮力」の「浮力」はどういう意味なのか? と自分なりに考えてみました。
ゾッとしました。
ネタバレになるのでここには書きませんが。


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posted by noyuki at 16:33| 福岡 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 伊坂幸太郎の備忘録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年04月05日

「ガソリン生活」伊坂幸太郎 朝日新聞出版





朝日新聞を読んでいたら、ある日突然、伊坂幸太郎の連載小説が掲載されだして、それも途中からの掲載だったのでとてもびっくりした。
私のいる地方は最近朝日の夕刊が廃止になって、それで夕刊連載中だった「ガソリン生活」が朝刊に引越しになったらしいのである。

これには困った。毎朝目にするのに、イマイチ筋がわからない。
かいつまんで読むと面白いのに、やはりわからない。
そういうイライラを経て、やっと単行本で再会したときは、喜びもひとしおだった。

車(緑のデミオ)が主人公である。
「きかんしゃトーマス」的である。
ていうか、この本を読んではじめて「きかんしゃトーマス」的な面白さに気づいた、と言ったら言い過ぎ?

ユーモアも歯がゆさも車ならではの視線もあって、事件も次々に起こって楽しい。

「マリアビートル」的な事件が起こっても、緑デミの視線、家族の視線で描くと、ちょっとほんわかしたものになってくれる。
その不思議さ、エンタメ性を十分に堪能できた。

けっこう、人も死ぬし、不穏な事件もあるんですけどね。

そして、ラストがすごくステキ。
伊坂作品の元に隠されているハートウォーミングな部分が、こういう構成だとストレートに出るんだなあと嬉しくなりました。

ああ、きちんと読めて本当によかった!


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2013年01月25日

伊坂幸太郎の備忘録「残り全部バケーション」





新しいウィジットを貼ってみました♪







伊坂幸太郎の小説には、とてもチャーミングな性格の人物が登場する。
その人は、自分の信念のままに行動し、その信念はとてもチャーミングで、あまりにチャーミングすぎて時には憎しみや怒りを買うような状況になることもある。
それでも彼の人生は、どんどん私の心に染みこんでいく。
それだけではない。
同じ物語の登場人物にも、少しずつ彼のチャーミングな信念が浸透し、いつのまにか「世界のなにかが少しだけ」変わっていく。

わたしたちは現実世界でも、こんなふうに他人の善意とか悪意を感じながら、多かれ少なかれ影響されていくのだから、「チャーミングな人生」が物語に染み渡っていくのを見ると、とても幸せなきもちになれる。
それが、伊坂幸太郎の小説のよさだと思う。

そして「残り全部バケーション」はまさにこんな小説だ。

なによりもタイトルがいい。「もう、残りの人生はバケーションにする」ってとてもステキな言葉だ。

そしてわたしは第一話から「岡田」のとりこになってしまった。いい人だ。溝口と組んで車の当たり屋をやっていた「岡田」。
彼の時系列バラバラのいろんなエピソードが、各短編にちりばめられている。
荒唐無稽だったり正義だったりするけれど、彼のめちゃくちゃだけど、まっすぐな様子を読んでいるだけで幸せになれる。

「読み解く推理小説」的なちょっとしたしかけもあって。岡田はいい人で。ラストのエピドードなんかがとても幸せで。

ほんとに幸せな物語でした。わたしの中の「伊坂幸太郎ベストスリー」に見事に入りました!

そして、蛇足ですが、この小説の登場人物たちがブログを読むシーンがあるのですが。
そのブログには「オレンジのガーベラの写真」がついてるのです。
わ〜〜〜〜、私のブログとおそろい! まじうれしいです! ただそれだけのことなのに。


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posted by noyuki at 21:36| 福岡 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 伊坂幸太郎の備忘録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする